2024年09月19日

◆ 解雇規制緩和の議論 .6

 ( 前項 の続き )
 いよいよ議論に結論を下そう。

 ──

 ここまでの話


  解雇規制緩和の議論について、これまで真実を探ろうとしてきた。もともとは「雇用の流動化」による日本経済の活性化だ。同様のことは、最近でも三木谷・楽天社長が言っている。
  → 楽天・三木谷浩史社長が語った“小泉進次郎氏支持の理由”「雇用の流動化こそ、日本社会の活力となる」
 だが、その根源をたどると、小泉純一郎の時代の改革に行き着く。そこでは、(三木谷と同様に)「雇用の流動化」による日本経済の活性化が唱えられた。そして竹中の主導で、非正規雇用や派遣社員が大々的に導入された。しかしその結果は、「企業利益の拡大と、労働者の貧困化」だった。
 なるほど、企業は大儲けするようになったし、株価も空前の高さに達した。その意味では、まさしく「狙い通りの大成功」と言えるだろう。経営者はホクホクだ。
 しかし彼らの利益は、日本経済の成長によって得られたのではない。労働者の富を奪うことによって得られたのだ。「企業利益率の向上」=「労働分配率の低下」という形で。
 ここでは、パイが大きくなったわけではなく、パイの切り分け方を変えただけだ。

 スパイラル的な縮小


 しかも、それだけではない。マクロ経済学の原理に従えば、
   所得 → 消費 → 生産量 → 所得 → ……

 という循環があるので、最初に「所得の縮小」があると、それが波及して、次々と縮小していく。そして一周したときには、所得は前の所得よりも小さくなっている。
 これが無限循環することで、スパイラル的にすべてが縮小する。
 こうして日本経済はどんどん縮小していくわけだ。
  ※ 合成の誤謬状態

 こうして、経済のパイは経年的にどんどん小さくなっていく。
 しかも、マクロ経済学的な効果のほかに、人口的な効果もある。所得の低下にともなって、非婚化が進み、少子化がひどくなる。かくて経済もまた縮小する。パイそのものが縮小することで。……こういう形で、亡国の道をたどるわけだ。(前項で述べたとおり。)

 対策としての正解


 以上で、真相を解明した。
 そして、真相を解明すれば、問題の解決の仕方もわかる。つまり、対策としての正解もわかる。
 その基本は、こうだ。
 「労働者の所得を上げる」
 この目的のためには、経済学的にマクロ経済学の手法で、GDP を拡大するという方針もある。これは「パイを大きくする手法」だ。
 一方、「パイの切り分け方を変える」という手法もある。今回は、それが話題となっている。その具体的な方針は、こうだ。
 「労働分配率を引き上げる」
 そのために最も効果的なのは、こうだ。
 「非正規雇用の賃金を上げる」
 なぜなら、現状はこうだからだ。
 「政府が非正規雇用をやたらと優遇する。そのせいで、会社は非正規雇用を増やそうとするし、労働者は非正規雇用が有利だと錯覚する」
 
 こういう現状を改める方針が、新たな方針となるべきだ。つまり、こうだ。
 「政府が非正規雇用を冷遇する。そのせいで、会社は非正規雇用を減らそう(正社員を増やそう)とするし、労働者は非正規雇用が不利だという真実に気づく」
 これが新たな方針となるべきだ。つまり、小泉純一郎や、進次郎や、三木谷や、ユニクロ柳井が唱える「雇用の流動化」とは逆のことをするべきだ。
 それは何か? 「労働者の技能を高めて、生産性を向上させて、高技能・高賃金という形にする」ということだ。こういうことは「正社員」という形でのみ可能となる。

 結語


 思えば、昔の経営者は、「いかにして生産性を上げるか」「いかにして高品質・高価格の超一流製品を作れるか」ということをめざした。そこから次々と優秀な企業が羽ばたいていった。
 ところが、今の経営者は、「いかにしてコストを下げるか」「いかにして低賃金・低技能の労働者によって労働コストを下げるか」ということしか考えていない。その結果、先端技術の点では、韓国や台湾の企業に次々と敗北することになった。近年では、太陽光パネルや、リチウムイオン電池や、EVなどの技術開発で、中国企業にも大きく後れを取って負けることになった。なぜか? 日本企業が「低コスト」をめざしている間に、彼らは「高性能」をめざしたからだ。
 要するに、日本企業が「どんどん低賃金・低価格の途上国メーカーになろう」と努力していたときに、韓国・台湾企業は「どんどん高性能・高価格の先進国メーカーになろう」と努力していたのである。日本はあえて亡国の道を目指していたと言える。

 ともあれ、これからは、日本企業もまた、韓国・台湾企業の真似をするべきだ。つまり、「どんどん高性能・高価格の先進国メーカーになろう」と努力するべきだ。なぜなら、それは、昔の(高度成長期の)日本が取っていた道だからである。一世代か二世代前の先人を真似て、現代の人々もまた、「生産性の向上」をめざすべきなのだ。
 今の経営者は「生産性の向上」を重視しない。それには厳しい努力が必要だからだ。そこで代わりに、「労働コストを下げること」をめざそうとする。安直に。……それがつまり、「雇用の流動化」だ。こんなことをめざすという点で、いかに経営者の質が劣化したかもわかる。(そのせいで日本は亡国の道をたどる。)
     《 加筆 》
    ※ ゴーン流(コストカット主義)を真似たせいだ、とも言える。
      → ゴーン社長と日本経済: Open ブログ

    (ゴーンは、理系の知識がないので、会社の技術力を上げようとはしなかった。かわりに「賃下げ」や「下請けの値引き」ばかりを狙った。それで利益を上げて、「名経営者」の声望を得た。……しかしその彼も、就任当初は、工場の現場を巡って、生産性の向上を目指したこともあったのだ。ゴーンは年を取って、ものぐさとなり、コストカットばかりを目指した。今の日本の経営者は、最初から「老いたゴーン」となっている。)





 ※ 次項では、目的を達成するための具体的な政策を示す。
   日本企業に正しい道を進ませるには、どういうすればいいか? 



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posted by 管理人 at 22:20 | Comment(3) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
低コストをめざしたのが原因か、あるいは高性能で負けたから低コストに向かわざるを得なかったかがよくわかりません。両方が同時に進んだように思っています。
 今日も三菱重工さんが主導する核デブリ取り出しが止まりました。民間人が宇宙旅行を楽しむ時代に何をやっているのか。私はやはり東大を頂点とする大学教育がダメになっているような気がします。世界の一流大学の教育はとても厳しいです。
Posted by ひまなので at 2024年09月20日 16:42
 低コストと言っても、製造コストの削減じゃなくて、ただの賃金カット。
 それで得た金は、商品価格を下げるのではなく、株主のポケットに入るだけ。それが「労働分配率の低下」だ。これは、やればやるほど、状況悪化。

 製造原価を下げるのは、技能アップ(生産性向上)の方に属する。これは常に推進するべき。
 話を間違えないように。

> 三菱重工さんが主導する

 三菱重工は何をやっても駄目。大学の問題じゃない。三菱重工は社内体制が硬直化している。MRJ でも何でも、社会の組織が根本的にイカレている。
 この会社は、軍需生産で政府を相手にするしか、生きることのできない会社かもね。民生分野では生き残れそうにない。典型的な駄目会社。

 私が改革するなら、トップダウン(上意下達)の組織体制を根本的に破壊して、稲盛ふうのアメーバ経営に抜本改革するね。自動車会社の「製品ごとの主任制」(全権委譲)でもいい。
 MRJ では、飛行機技術のことを何も知らない人物たち(経営陣)がトップになっていた。アマの主導なのだから、失敗は確実。
 他の事業も同様。デブリ取り出しも同様だろう。そもそもロボット事業をまとめる能力が必要だが、それができていない。


 p.s.
 あとで調べたら、
 「デブリ取り出しは根本的に不可能」
 という説が見つかった。
  → https://dot.asahi.com/articles/-/41837?page=1

 こんなに冴えたことを言う頭のいい人は、どこの誰かと思ったら、小出裕章 だった。

 やっぱり、どの分野でも、傑出して頭のいい人に任せないと、迷走するね。
 それができないのが、日本の悲しさ。利口にやらせないで、馬鹿が自力でやって失敗する。毎度毎度、その積み重ねだ。


Posted by 管理人 at 2024年09月20日 17:16
今、めぞん一刻をwo光テレビで見てる最中🎵1986年当時は、SONYのウオークマンが最先端の時代、今見ると管理人さんも新鮮なので一通り見てみようと思う!

https://www.b-ch.com/titles/3892/001
Posted by hidari_uma at 2024年09月20日 20:02
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