日本政府が何をしたかを明かそう。
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短期と長期
前項で述べたように、政府はあえて日本全体の生産性を下げようとする。つまり、高技能・高賃金(高い生産性)の社会をめざさず、低技能・低賃金(低い生産性)の社会をめざす。なぜなら、そうすることで、賃下げによる短期利益の向上が可能となるからだ。
長期的には、高い生産性をめざす方が企業を高収益化させる。しかし目先の短期的利益を追う限りは、とりあえずは賃下げすることの方が会社収益を向上させるのだ。10年後の企業成長をめざすのではなく、3カ月後の会社収益をめざすのであれば、とりあえずは「賃金カットで収益増加」という方向をめざすのだ。
かくて日本企業はどんどん、低技能・低賃金(低い生産性)をめざすようになった。
非正規の法制化
企業がそうしただけではない。企業が誤った方向に進んだとき、政府はそれを是正するどころか、それを助長する方針を取った。それが「非正規の優遇」という政策である。
その骨子は、二つある。
・ 非正規雇用を法的に整備する。
・ 非正規雇用を経済的に優遇する。
まず、法的整備については、Perplexity がこう答える。
1999年に労働者派遣法が改正され、対象業務が原則自由化されました。これにより派遣労働の利用が拡大しました。(出典は Wikipedia )
これは「ネガティブリスト方式」というやつだ。詳しくは下記に示してある。
→ 【最新版】 労働者派遣法とは?詳しい内容や歴史、違反例を分かりやすく解説
Wikipedia には、こうある。
長い間、職業安定法の下、きわめて限定的な雇用形態として位置づけられてきており、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)の制定により正式に法律で規定されたのは1986年。
当初は13業種と制限されていたが、1996年には26業種へと拡張され、さらに1999年、2004年、2015年の改正で対象業界と業種が大幅に拡大した。
リーマンショック後の2008年末から2009年にかけて、これら改正で拡大された業種などで、派遣業者による労働者の大量解雇および雇い止めが発生し、一般的に派遣切りと称されて社会問題化した。
※ ちなみに、小泉内閣は 2001年4月26日 〜 2006年9月26日。小泉内閣だけが全責任を負うわけではない。歴代の自民党政権全体が責任を負う。その件は下記からもわかる。
非正規の優遇
法制化があっただけではない。もう一つの柱があった。それは「非正規雇用の優遇」という政府方針だ。これこそが、物事の本質だと言える。
企業は非正規社員を増やす。なぜか? 「雇用の流動化ができて便利だからだ」というのが、当時の建前だった。
しかし、本当は違う。「非正規社員にすると、賃下げできて、労働コストを下げられるから」だ。
実際、欧米では、非正規のような期間社員と、正社員のような(準)終身社員とでは、賃金の差はほとんどないか、前者の方が賃金が高いくらいだ。
※ 日本でも医者の当直医では、そういうふうになっている。1日限定で、すごく高給をもらえる。ただし、もらえるのは、週末などの1日だけだ。毎日、高給をもらえるのではない。
欧米では非常勤は賃下げにならないのに、日本では非常勤は賃下げになる。だから、日本企業はどんどん賃下げをするために、どんどん非常勤を増やした。
ただし、こんなことをすれば、労働者は低賃金を嫌がって、非正規労働には応募しないものだ。非正規労働が有名無実化する。
そこで、自民党政府は、うまい手を導入した。「社会保険料の負担をなくすことで、目先の手取額を増やす」という方針だ。
つまり、労働時間や所得が一定の水準に達しない労働者については、「社会保険への加入を免除することで、社会保険料の負担を免除する」という方針を取った。
この方針だと、将来の(厚生年金のような)年金受取額が減って、かえって労働者は損するのだが、少なくとも目先の手取額は増える。
また、健康保険料の負担も免れることができる。(扶養家族になるという形で、納付を免れる。)
失業保険も、「加入しないから雇用保険料の免除」という手を使う。
これに対する雇用者負担(半額負担)もなくなるから、その分、雇用者は見かけ上の賃金を上げることもできる。
こうして、あれやこれやと手を使って、雇用者は見かけ上の賃金を上げることができて、労働者は手取額を増やすことができる。
かくて、労働者は実質的には損するとしても、少なくとも目先の手取りが増えるので、「自分は得した」と錯覚しながら、非正規労働者に応募するようになる。
それだけではない。社会保険料の免除は、非正規雇用以外の人々(正規雇用者)の負担額を増やす。こうして一般労働者の金を奪うことで、非正規労働者を雇用する企業に利益を与える。「賃下げの利益」という形で。
かくて、日本政府は「非正規雇用をする企業を優遇する」という形で、大々的に非正規雇用を推進した。「非正規労働者にかかる会社負担分をなくす」という形で。
そして、その分(非正規労働者の会社負担分が消えることに相当する分)の費用は、正規雇用をする会社や労働者から余分に徴収することにした。
※ 左手で 100を失ったなら、右手で 100を余分にもぎとる、という方針だ。それが政府方針だ。
その典型的な結果が、「低所得者の社会保険料負担の大幅増加」である。先の図で示したとおり。

出典:Twitter
こういうふうに、低所得者層では、社会保険料の負担(オレンジ色部分)がとても高い。
それというのも、企業が「非正規社員に対する雇用者負担分」の支払いを免除されているからだ。企業が支払いを免除される分、労働者が多くの支払いを強いられるのだ。特に、正社員はそうだ。
※ 非正規労働者の会社負担分がなくなったかわりに、正規労働者の労働者負担分が増えるわけだ。
まとめ
こうして、非正規労働者を雇う企業は、二重の形で、政府から援助を受ける。
・ 労働者に目先の富を与えて、手取額を増やすことで、労働者をたぶらかして、「得をした」と錯覚させる。
・ 社会保険料の制度を使って、正規労働者の富を奪って移すことで、非正規労働の雇用企業に金を与える。(特に、非正規労働者の企業負担分を免除することで。)
政府はあれやこれやと、非正規労働を制度的に推進する。こうして日本全体を、低技能・低賃金の低生産性の社会にしようとしているのだ。
それは決して、日本企業が愚かだったから、そうなっただけではない。政府が積極的に、そういう道に進むように、誘導しているのだ。
レミングがそろって自殺する道に進むのは、レミングが愚かだからというだけではない。レミングがそういうふうに進むように、日本政府が誘導しているからなのだ。
「地獄への道は善意で舗装されている」
と欧州のことわざで言われる。このことは、今回も成立する。つまり、
「日本社会が地獄へ落ちる道は、政府の方針で舗装されている」
と言えるのだ。政府がそういう方針を取るから、素直な日本企業はそろって非正規雇用を増やしていった。「非正規雇用をすると、政府からこんなに援助してもらえて、こんなに得をするんだ。ならば、非正規雇用を増やそう」というふうに行動した。
そのとき推進者は、「雇用の流動化で経済は改善する」という嘘八百を唱えた。いつもは「生産性の向上こそ経済を発達させる」と唱えていたくせに、非正規雇用のときに限っては、「(生産性を低下させる)雇用の流動化を狙うべきだ」というふうに主張した。
つまり、「雇用の流動化」(非正規労働の拡大)は、生産性を低下させるばかりで、生産性を向上させるという本来の方針とは正反対だ、という真実を隠した。そしてかわりに、虚偽の旗を掲げた。「雇用の流動化で経済は改善する」と。
そして、このような嘘を信じた人々が、やたらと非正規労働を拡大した。
そして、それから 25年ぐらいたったあとで、1世代後の進次郎が、ふたたび同じ旗を掲げる。「雇用の流動化で経済は改善する」と。
父・純一郎が、世間をだますために掲げた嘘を、子供もまた信じるようになったのだ。
いや、違うかもしれない。父・純一郎が、世間をだますために掲げた嘘を、子供もまた掲げるようになったのだ。親子二代の詐欺師として。詐欺や嘘も相続・世襲するのだ。(遺伝するのかもしれないが。)
これが、今回の進次郎の方針の理由だろう。
※ ただし、進次郎もまた純一郎にだまされたクチかもしれない。人をだますつもりもなく、根っから(だまされて)信じているのかもしれない。父の影響は偉大なり。