2024年09月15日

◆ 解雇規制緩和の議論 .3

 (前項 の続き)
 前項に引きつづき、真相を明かそう。

 ──

 生産性の低下をめざすわけ 


 すでに述べたように、進次郎は解雇規制を緩和しようとするが、それは「雇用の流動化」を通じて、日本経済を改善するためだ。しかしその狙いは現実的でない。雇用には市場原理は適用しがたいのだ。なぜなら、雇用は商品ではないからだ。(1回だけの売買では完結せず、長期の契約をともなう。)
 日本経済を改善したければ、「雇用の流動化」ではなく、「生産性の向上」をめざすべきだ。ところが現実には、日本企業は「生産性の向上」とは逆の「生産性の低下」をめざしている。これが現状だ。(前項までに述べたとおり。)

 さて。そこで問題が出る。こうだ。
 日本企業があえて「生産性の低下」をめざすのは、なぜか?

 この問題には、簡単に答えられる。こうだ。 
 なぜなら日本企業は、「賃下げ」(コストカット)を第一目標とするからだ。換言すれば、「低賃金・低技能」をめざすからだ。
 世界の先進国は、「高賃金・高技能」をめざすのに、日本企業だけは、「低賃金・低技能」をめざす。日本企業だけは、自ら途上国の企業になろうとする。かくて、どんどん生産性を低下させていくのだ。

 思えば、昔はそうではなかった。昔は「世界一の企業」であることをめざして、「高品質・高収益」をめざした。ところが、バブル破裂で企業が赤字になったあとで、ゴーン流の賃下げやコストカットが横行した。日産自動車だけでなく、日本中の企業が賃下げやコストカットを目指した。
 このひどい経営方針を真似したのが、他社の経営者だった。ゴーンのコストカットを見て、「ではわが社も」とばかり、コストカットに励んだ。そのせいで、技能の低い非正規雇用の社員ばかりとなって、生産性も低下した。かつての「高賃金・高生産性」から、「低賃金・低生産性」へと変化した。それにともなって、品質も低下したので、販売価格も低下して、収益性が悪化した。のみならず、韓国や中国との競争にも負けて、撤退する会社が続出した。
 それも当然である。日本がいくら「賃下げ」しても、韓国や中国に勝てるわけがないからだ。勝つためには、「高品質・高賃金・高生産性」をめざすべきだったのに、日本の経営者はそれとは逆の方針を取ったからだ。
( → ゴーン社長と日本経済: Open ブログ

 非正規の増加


 「低賃金・低技能」をめざす経営の典型が、「非正規社員の増加」だ。非正規社員は、給料が上がらない。当然、技能も上がらない。
 本来ならば、正社員となって、技能をどんどん向上させて、給料もどんどん上げるべきだった。日本の年功序列と同様のことが、欧米でも成立しており、ベテランの社員ほど給料が高い。実際、ベテランほど有能だ。それというのも、経験とともに技能が増すからだ。
 日本ではそうしない。「経験とともに、高技能で高賃金」というふうには進まず、「経験を積んでも、低技能で低賃金」というふうに進もうとする。あえて生産性の低さをめざす。

 これはいわば、自殺と同様である。レミングの集団自殺のように。


lemming.jpg
レミングの集団自殺(想像図)


 政府の自殺幇助


 企業が自殺をしようとしているのであれば、企業の自殺を止めるように、政府が是正するべきだろう。つまり、こうだ。
 「低技能・低賃金をめざすな。高技能・高賃金をめざせ。そのことによって国全体の生産性を高めよ。そのためには、非正規社員を減らして、正社員を増やせ」
 これが政府のなすべきことだった。

 では、現実にはどうしたか? 政府はそういう政策をとったか? いや、まさしく正反対の政策をとった。上で述べたこととは逆の方針を取った。つまり、こうだ。
 「高技能・高賃金をめざすな。低技能・低賃金をめざせ。そのことによって国全体の生産性を低めよ。そのためには、非正規社員を増やして、正社員を減らせ」

 あまりにも馬鹿げたことである。だが、政府はこの方針を取った。なぜか? 経団連がその方針を望んだからだ。経団連はこう望んだ。
 「企業の体質を改善して、企業の収益性を増すべきだ、というのは、経営の本道である。そうするべきだということは、わかっている。しかし、昔は若かったが、おれたちはもう老いた。そんなことをするバイタリティーはない。だから、手っ取り早く収益性を改善するために、賃下げをしたい。賃下げをすれば、コストカットで、企業収益は増えるのだ。労働分配率を下げて、労働者の取り分を減らして、会社の取り分を増やす。こうすれば、企業は収益性が改善するので、株主への顔が立つ。おれたちも社長の座に安住できる」
 呆れた話だ。まるで漫才みたいだ。だが、これが事実である。実際に、日本経済はそのように進んだ。
 「賃下げをすれば、コストカットで、企業収益は増えるのだ。労働分配率を下げて、労働者の取り分を減らして、会社の取り分を増やす。こうすれば、企業は収益性が改善する」
 というふうに。まさしくそうなったのだ。

 だが、こんなことをすれば、企業の収益は改善しても、国民の総所得は低下する。日本人全体が貧しくなるばかりだ。個々の企業は「自社は黒字が増えた」とホクホクになるが、国全体は貧しくなるばかりなのだ。なぜなら、「低技能・低賃金をめざす」という形で、国全体が貧困化することを目指したからだ。
  ※ いわゆる「合成の誤謬」である。

 要するに、経団連が愚かにも自己利益に目がくらんで、全体が沈没する方向をめざしたときに、政府はそれを止めるどころか、それを促進したのである。
 これはつまり「自殺幇助」にも相当する。

 非正規の推進


 経団連の愚かな方針(自社の利益拡大をめざすせいで国全体を沈没させる方針)を、政府は止めるどころか推進した。その具体策が、「非正規社員の促進」という方針だ。
 これは、「雇用の流動化」という名目で、進次郎の父・小泉純一郎が首相だった時代に、竹中平蔵によって推進された。彼によって日本には派遣社員が大々的に導入された。
 テレビ朝日の朝まで生テレビ!に出演した際に、竹中平蔵は「(日本から)正社員をなくせばいい」と発言した。
 また企業で派遣雇用が増加している原因を竹中は「日本の正規労働ってのが、世界の中で見て異常に保護されているからだ」と説明し、「整理解雇の4要件が正社員の解雇を難しくし、(日本の)雇用の流動性を歪めている」と主張した。
( → 竹中平蔵 - Wikipedia

 こうして小泉純一郎と竹中平蔵の方針の下で、日本は「高技能・高所得である、正社員の社会」から、「低技能・低賃金である、非正規社員」の社会へと、転換していったのである。
 何のために? 国民を幸せにするためか? 違う。国民を不幸せにするためだ。なぜなら、国民が不幸せになればなるほど、企業(資本家)は大儲けできるからだ。大多数の国民が貧しくなればなるほど、一握りの富裕層(資本家)は大儲けできるからだ。
 それが、小泉純一郎と竹中平蔵のめざしたことだった。そして、それはまさしく狙い通りに、実現したのである。
 今の日本(非正規社員だらけで貧困化した日本)は、たまたまそうなったのではなく、もともと政府がめざしたことだったのである。

 簡単に言おう。
 日本は地獄に落ちた。しかしそれはたまたま不運にもそうなったのではない。あえて日本全体が地獄に落ちるように、推進した人がいるからだ。
 なぜ彼らはそうしたか? そのことによって自分たちは大儲けできるからだ。他人を不幸にすることで、自分たちだけは大儲けする。それが彼らの狙いだったのだ。
 悪魔というものは、そういうものなのである。


akuma-kage.jpg
真相は 竹の中


posted by 管理人 at 23:27 | Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
仰せのことは全体としてはd正しいと思います。ただもう一つの因子として、この30年で急速に進んだロボットやITがあると思います。それらの導入によって熟練労働は不必要になりつつあります。日本はその面でも後れを取りました。今はロボットやITを設計して使いこなせるごく少数の高級技術者と非正規でものが生産でき経済が回る時代です。日本の衰退はこの高級技術者がいないこと、あるいはそれらの先端技術を導入しようとしない経営陣にあるのではないでしょうか。
 柳井さんの素晴らしいところはIT技術をいち早く小売業に導入されたことです。(各フロアの店員が少なくて目の悪い私は困ることがある)
 ロボットやITの導入で非正規しかいらなくなるのは本当はこれからだと思います。でも日本は幸運にも労働人口の減少と重なっています。これからは少ないGDPでも豊かな生活ができるように考える時だと思います。多くの自民党総裁候補はいまだに経済を拡大すると言っていますが、時代を読み違えています。今やるべくは住宅、車、衣服、社会資本の長寿命化によってゆったり食らせる社会を作ることです。
Posted by ひまなので at 2024年09月16日 09:08
異議な〜し!
小泉進次郎は父親の領域を超えていないし、反面教師という意識もなく盆暗丸見えでバカ丸出し(笑)
自民党をぶっ壊すという触れ込みは、結果として日本をぶっ壊した?
Posted by hidari_uma at 2024年09月16日 09:57
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