2024年09月14日

◆ 解雇規制緩和の議論 .2

 (前項 の続き)
 前項に引きつづき、問題の核心を探る。

 ──

 雇用の流動性


 そもそも進次郎の狙いは何だったか? それは、解雇しやすくすることで、雇用の流動性を改善することだ。労働力が無駄に固着しているのは非効率だから、労働力の流動性を高めて、労働者を最適配分すればいい。そうすれば、最適配分により、全体の経済力も向上する。
 そういう理屈だ。右派系の経済学者がそういうふうに主張して、進次郎もそれを信じる。それは父親譲りの発想でもある。(市場原理による改善、という発想だ。)

 しかしながら、その理屈は現実的には成功しがたい。特に、一般商品でなく、雇用については、その理屈は成立しがたい。「市場原理と自由競争を勧めれば、状況は改善する」ということは成立しがたいのだ。
 なぜか? それは、次のことによる。
 「雇用は、1回限りの売買ではなく、長期的な雇用保障をともなう」
 商品ならば、1回ごとに売買するので。市場原理で話は片付きやすい。しかし雇用は違う。1回の契約で方が済むわけではない。なぜなら、日本では特にそうだが、終身雇用という契約が成立しがちだからだ。

 のみならず、「年功給」という制度もある。
 「年功給」というと、「若者が冷遇されて、年寄りが厚遇される」というふうに見なされがちだが、それは他人と比較するからだ。自分自身と比較すれば、こうなる。
 「若いときには薄給だが、年を取ると高給になる」
 これはつまり、「賃金の後払い」という制度に等しい。
 「今は給料は安いけれど、年を取ったら給料を高くして上げる。だから、若いときには、安い給料で我慢してね。あとで賃上げすることを約束するから」
 というわけだ。これが年功給である。
 なのに、その精度を、途中で辞めたら、どうなるか? 「あとで賃金を上げる」という約束を反故にしたことになる。約束違反だ。詐欺も同然だ。ひどいね。

 終身雇用と年功給。この二つがあるがゆえに、雇用は「1回限りの売買」ではない。ゆえに、「市場原理の貫徹で状況は改善する」という、市場原理主義の発想は成立しないのだ。なぜなら、そこでは、市場原理以外のものが働いているからだ。
 「市場原理と自由競争の貫徹で状況は改善する」という進次郎の発想が、いかに単純で現実離れしているか、以上のことからも明らかだろう。

 ※ ちなみに、市場原理を貫徹すると、職場では労働者間の妨害行為が進んで、会社全体の能率は低下していく……という話もある。
  → 解雇規制の緩和が進んだ社会 「下手をすると『新人に間違ったことを教える』まである」 - Togetter

 生産性の向上


 では、「解雇規制の緩和」ではなく、何が正解なのか? その点については、昔から何度も言われている。「生産性の向上」だ。最近でも、ユニクロ社長が述べている。
  → 「このままでは日本は滅びる」ユニクロ柳井氏の警鐘に賛否

 「生産性の向上」を重視するのは、妥当だ。
 だが、それならば、生産性の高い正社員を増やすべきなのに、逆に生産性の低い非正規社員を増やすのが、日本企業だ。
 その点では、ユニクロも例外ではない。自社の社員には非正規を大量に導入しており、その比率は4割を越える。
 17年8月期におけるファーストリテイリングの従業員構成を確認したい。当時の決算資料によれば、同社の従業員数は「社員」が4万4424人で、準社員・アルバイトが3万1719人であった。全体に占める社員以外の比率は41.6%である。
( → ITmedia ビジネスオンライン

 「生産性の向上」を唱えるのはいいが、自社では「生産性を下げてまで、賃下げをめざす」という方針だ。言っていることとやっていることが正反対だ。口では立派なことを言っているクセに、やっていることは正反対だ。

 ※ そもそもユニクロ社長は、資産をオランダの会社に移して、税逃れをしている。まともに税も払わない奴が、日本について語るなんて、まったく、どの口が言うてんねん。
  → 所得税と住民税を年約7億円「税逃れ」している

 生産性の逆行


 事情やユニクロだけではない。他社も同様だ。
 生産性を上げるためには、正社員の技能を上げるべきだ。なのに、非正規社員を増やして、あえて技能を低いままに留めようとする。それどころか、正社員を減らして、非正規社員を増やそうとする。つまり、生産性の低下をめざしている。……こういう逆行が、日本企業では蔓延している。
 このことは、前にも述べたとおり。
 正社員の賃金を切り下げる代わりに、正規雇用から非正規雇用へと転じることを狙った。そのために、社員構成を変化させて、「正社員を減らして、派遣社員や臨時社員を増やす」という方針を取った。

 そして、その結果は? 確かに、賃金を下げることには成功した。しかしながら、同時に、労働者の技能は低下したので、労働者の生産性は悪化した。
 ここでは、「賃金の切り下げ」と同時に、「生産性の低下」が起こっているのである。
 かくて、「賃金の切り下げ」を狙うことによって、「生産性の向上」とは逆の「生産性の低下」が起こることになった。つまり、世界中の各国が「生産性の向上」をめざしているときに、ひとり日本だけは「生産性の低下」をめざしていたのである。
( → 日本はなぜ没落したか?: Open ブログ

 日本の経営者のやったことは、「高い生産性と高い賃金」というのとは、逆の方針だった。
 ところが、それと逆のことをやったのが、日本の経営者だった。「高い賃金を払って、高い生産性を実現する」という方針とは、真逆の方針を取った。彼らは「低い賃金を払って、低い生産性を実現する」という方針を取った。
 つまり、世界中の各国が「生産性の向上」をめざしていったときに、日本だけは「生産性の低下」をめざしていったのである。
 その結果が、今の日本である。

 この話は、上の項目で詳しく論じているので、再読してほしい。


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高賃金      低賃金
高技能      低技能






 ※ 次項に続きます。
 
posted by 管理人 at 22:56 | Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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