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進次郎の解雇規制緩和
総裁選の公約という形で、進次郎がこの問題を取り上げた。「解雇規制を緩和することで、経済効率を上げる」という狙いだ。
すると、世間の人々が騒ぎ出した。「解雇の自由化? そんなことをすると、あっさり解雇されるようになるので、困る」というわけだ。
そこで進次郎は「自由に解雇できるというわけじゃない。解雇の際にはリスキリングなどを義務づけるので、誤解しないでほしい」と注釈した。
→ 小泉進次郎元環境大臣 解雇規制見直しは「解雇促進に全くあたらない」「丁寧に説明」 | TBS NEWS DIG
しかし世間はそうは受け取らず、「解雇の自由化なんてけしからん」と反発した。要するに、「タイトルしか読まないで、誤読して、反発する」というやつだ。
特に、誤読する人の多いので有名な、はてなブックマークでは、この手の批判が多い。
→ はてなブックマーク
政界からも
立憲の党首選でも、この問題を聞いて、解雇規制の緩和への批判が生じた。
→ 解雇規制緩和に一斉反論 4候補、自民の河野氏・小泉氏案に 立憲民主党代表選:朝日新聞
※ この記事は、かなり詳しい解説となっている。朝日はうまく要点を捉えている。
自民の他候補からも、反発が多いようだ。
→ 小泉氏の解雇規制緩和案「すさまじいハレーション」 他候補は慎重論 [自民]:朝日新聞
問題の核心
この問題の核心はどこにあるか? それは世間における問題の誤認である。言葉の伝達ゲームのミスみたいなものだ。
世間が反発したのは、「解雇規制の緩和」という7文字だけを認知して、「会社の横暴で、労働者の虐待」と受け止めたからだ。はてなブックマークの誤読者もそうだ。立憲の候補者も、自民の候補者も、同様だ。
しかし、進次郎は、その立場からして、「会社優遇・労働者虐待」なんか、主張するわけがない。進次郎は基本的にはリベラルであり、安倍みたいなこと(右派・保守派・タカ派)を主張するわけがない。人々は進次郎の主張を誤読しているのである。
実際、進次郎は、「あれこれと労働者優遇措置を執る」旨を示しており、単なる「会社優遇・労働者虐待」何かを主張していない。人々はあくまで誤読しているのである。
では、進次郎の意図は何か?
それは、父の純一郎の思想の継承である。つまり、「自由主義経済の貫徹」による、市場原理経済の発展である。実際、父の純一郎は、郵政改革や規制緩和を通じて、市場原理の貫徹をめざした。それにはさまざまな弊害がともなったが、美点もなくはなかった。長所も短所もあって、総合的にはプラスかマイナスかは評価しがたいのだが、少なくとも、長所はあった。
この路線を継承しようとしたのが、進次郎だ。彼は「自由主義による市場原理で経済の改善」という方針を取ろうとした。このような方針は、経済学的には、「新古典派」とか「新ケインズ派」とか呼ばれるが、一定の支持のある流派であって、あながち間違いではないのだ。
だから、この点では、進次郎の方針を「誤り」と否定することはできない。せいぜい「立場の差がある」「政治的主張の差がある」ぐらいの違いでしかない。
この意味で、「自由主義経済と市場原理の貫徹で、経済改善を」という進次郎の立場そのものは、特に批判されるべきものではない、と言える。
解雇規制との関係
問題は、その「自由主義」の方針を、解雇規制に持ち込んだことだ。ここを緩和することで雇用の流動化が進むので、労働市場が改善する……というのが、進次郎の狙いだ。
一方、それに危惧を感じて、懸念するのが、進次郎以外の大多数だ。
そこで進次郎は、「それは懸念のしすぎ。勘違いだ」と是正しようとしているのだが、いったん不安に駆られた人々は、ただの枯れ尾花を見ても、「幽霊だ、巨大なゴジラだ」と錯覚してしまう。そこで「巨大なゴジラが来た」と大騒ぎしてしまうのだ。(ありもしないものを見る。)
とはいえ、世間が誤解するのが悪いとは言っても、進次郎が正しいということにはならない。なぜか? そもそも、雇用の問題を改善するには、解雇規制を緩和すればいいわけではないからだ。
雇用の問題を改善するには、解雇規制とは別のところの問題を解決する必要がある。それは何か……という話は、次項に続く。
[ 付記 ]
進次郎の発想は「新古典派」とか「新ケインズ派」とか呼ばれるものだ。
私は進次郎の主張を批判しないが、「その主張が正しいから」という意味ではない。私はまったく支持しない。ただし、自分と反対の立場の学説については、頭ごなしに否定することはない。「異なる主義も認める」という立場だ。
学説の主張者でなく、学説の信奉者である進次郎については、そもそも批判の対象にすらならない。批判するなら、根っこにある学説の主唱者の方だろう。
世界はこの30年くらいで大きくグローバル化しました。もはや国内だけで工業や経済、さらに社会構造を考えることはできません。液晶テレビや半導体で我々は嫌というほど仕打ちを受けました。もはや世界一でなければ生き残れないのです。グローバル化で日本は大きく立ち遅れました。中国の方がはるかに進んでいる感じです。
乗り遅れた企業を保護するのは、結局日本全体を弱体化させます。企業が思い切った方針をとれるように誘導するのは今の政治家に求められていることだと思います。
でも格差は広がるでしょうね。米国、韓国、中国どこでも格差は広がっています。