2024年09月10日

◆ 焼き畑農業の復活?

 焼き畑農業を復活させよう、という試みがある。これをどう評価する?

 ──

 焼き畑農業は森林を破壊するので、環境破壊となる。だから、焼き畑農業を止めよう……という論調があった。
 しかしその後、反対論が出た。伝統的な焼き畑農業は、場所を次々と変転させる。いったん焼いた土地で畑作をしたあと、その土地をふたたび森林に戻す。こうして 50年ぐらいのサイクルで、森林と焼き畑を繰り返すから、環境破壊にはならない……という主張だ。

 そこで、この主張に従って、日本でも焼き畑農業をやろう、という動きがある。ただし、そのための土地は自前では提供できないので、県有林を使って、焼き畑農業をしたい。そのために、県有林を使わせてほしい……という動きだ。
  → 焼き畑復活へ、県有林で一歩 安定耕作めざし、林業家「まずは挑戦」 熊本・五木村:朝日新聞

 他人のフンドシで相撲を取ろうというのだから、虫のいい話だ。しかも、土地の使用料を払うのかと思ったら、1円も払うつもりはないらしい。乞食みたいな発想だと思ったが、むしろ、泥棒に近い。公共物の私物化とも言える。
 この方針を、朝日は、「素敵な発想」と称賛している。
 世界の焼き畑文化を研究する国立民族学博物館の池谷和信名誉教授は「焼き畑への県有林提供は画期的」と評価した上で、「作物を購入するサイクルがあって焼き畑が続く面もある。伝統継承と産業振興は別々ではない。話し合いを続けてほしい」と期待する。

 途上国の焼き畑農業を研究する人ならば、(その途上国で)焼き畑を「文化の伝承」として歓迎するのはわかる。
 しかし、日本は途上国ではない。日本で途上国の文化を導入するのは、(古来の)文化の伝承ではないし、海外の文化を導入するようなものだ。マングースやティラピアを野に放つようなものだ。ほとんど外来生物による環境破壊である。

 ──

 もっと問題となることがある。こうだ。
 「山地の傾斜した斜面における農業は、大規模化や機械化ができない。ゆえに、生産性が低くなり、所得は低くなる。たとえ死ぬほど働いても、年収 200万円ぐらいになるだけだ。ゆえに、(焼き畑であろうとなかろうと)山地の傾斜した斜面における農業は、根元的に無理である」

 たとえば、最も利益の出る酪農も、そうだ。酪農家は、北海道の大規模な酪農家ならば年収 5000万円ぐらい、本州の中規模な酪農家でも年収 1500万円ぐらいが見込まれる。だが、山地の酪農家は、年収 300万以下となる。山地の農業は、これほどにも厳しいのだ。(非効率なので。)
  → 山地放牧は可能か?: Open ブログ

 日本の山の斜面は急であるし、左右にも狭い距離で波打っている。こんな場所で農業をやろうとしても、あまりにも非効率なのだ。
 焼き畑であろうとなかろうと、森林を伐採して農地にするという発想そのものが、根源的に狂っているのである。なぜなら、昔と違って今では、機械の導入で生産性を上げるのが主流だからだ。


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出典:朝日新聞


 この棚田は今でも維持されていて、「美しい」と称賛されることもある。だが、その実体は、どうか? 
 鎌を手にするのは、主に首都圏から集まった「オーナー」たちだ。1区画100平方メートル当たり年間3万円で借りて、田植えや草刈り、脱穀など、年7回ほど通って作業する。
 数百年続く田園風景だが、「高齢化と過疎で、維持が難しい」。そこで地元有志が1997年に保存会を立ち上げ、2000年に39組でオーナー制度が始まった。今年は323組が契約する。
( → 表情豊かな曲線美の棚田、オーナー制度で次世代へ 千葉・大山千枚田 :朝日新聞

 こんな狭い棚田を、323組で分有する。家庭菜園と同類であろう。(1坪でなく100平方メートルだが。)……これでは、産業ではなく、ただの「趣味の農業」である。「男の、おままごと」とも言える。
 なお、100平方メートルあたりの米の平均収量は 53kg である。米 60kg の取引価格は、昨年産で 1.56万円程度。53kg ならば、1.4万円程度。それだけの米を生産するために、土地代の3万を払って、さらに、さまざまな農業経費を払って、その上に、農作業の多大な労務を投入する。1.4万円分の米を得るために、現金 3万円と、経費3万円と、労務 10万円分以上を投入する。……それが、棚田の農業なのだ。狂気の沙汰だと言える。そして、その理由は、「山地農業の非効率さ」である。

 ノスタルジックな郷愁で、棚田や焼き畑を維持しようと思うと、独りよがりの無謀さのために、莫大な金と労力が無駄に費やされることとなる。

 おのれの愚行を理解できないという点では、「裸の王様」に似ているね。


( ※ 何事であれ、数値的に考察することが大切だ、ということだ。このことは、理系の人間では当然理解しているが、文系の人は数値的な考察ができずに、気分だけで決める。「エコだ、素敵だ」と思うだけで、「そのためにどれだけの経費がかかるか」を考察しない。だから、朝日の環境記事はいつも、コスト無視の非現実的な夢物語[妄想アイデア]ばかりとなる。……その愚行の一例が、棚田であるが、焼き畑が追加された。)

posted by 管理人 at 22:55 | Comment(1) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
棚田は確かに機械化には不利でした。でも今はAIの時代。誰かがその気になれば意外に簡単に機械化できるような気もします。まあそれでも平地よりはコストがかかるでしょうね。 
 焼き畑はお勧めできないと思います。それくらいなら大量の化学肥料や除草剤をつかった今の農業の方が、環境破壊は少ないかもしれません。環境破壊の尺度がないのであいまいですが、穀物1トン当たりで比較するのが大事です。環境論者にはこの観点がない人が多いように思います。
Posted by ひまなので at 2024年09月11日 14:01
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