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貧富の格差がひどい、という問題がある。特に、税率を見ると、低所得者の負担が意外に高く、中所得者は普通に高いが、超高所得者への課税はとても低い。金持ち優遇となっている。
出典:Twitter
この問題を解決するために、金融所得に課税する、という案がある。
今は一律 20%の分離課税(ただし一時的に復興特別所得税 2.1% を上乗せ)であるが、これを次のように変えようとする。(どちらか)
・ 分離課税の税率を大幅にアップする
・ 分離課税をやめて、総合課税にする
これに対して、多額の投資をしている中産階級が大反対している。
「そんなことをしたら、株価が大幅に下がるので、金融投資をする人が大損する。株価が下がって日本経済が崩壊する」
というような理屈だ。換言すれば、
「税率で優遇して、政府が市場に介入する形で、株価を高めに維持しろ。そうすれば日本は景気が良くなる」
ということだ。この理屈は、バブル崩壊後、30年以上も唱えられてきた。おかげで、ずっと税率は低く抑えられて、株価は経済実態以上に上昇した。
その一方で、肝心の日本経済は低迷するばかりだ。国際ランキングは奈落の底に落ちるように低下する。若者の所得も低下して、非婚率が上昇し、少子化が進んで、亡国の危機だ。
「国破れて山河あり」ならぬ「国衰えて株価あり」というふうだ。株価の維持ばかりにとらわれながら、国が衰退していく。
ひどいありさまだ。これが、アベノミクスの実態である。(虚構による見かけ上の繁栄。裸の王様みたいで、何も着ていないのに、豪華な服を着ていると思い込む。)
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このような「富裕層優遇」の状況を変えて、国民を豊かにするように、富の再配分をする……という方針が取られるべきだ。
そこで、自民党総裁選を前にして、朝日新聞が記事を書いた。
金融所得が多い富裕層の税負担を拡大して「再分配」につなげるのか、これまでの投資促進路線を継続するのか。
株式の配当や売却益といった金融所得への税率は一律 20%。このため、金融所得が多くを占める富裕層ほど税の負担が相対的に軽くなり、不公平との指摘が根強い。
総裁選立候補予定者のうち、金融所得課税に最初に言及したのは石破茂元幹事長(67)だ。……他の予定者からは「中間層が金融所得による所得増の恩恵を得られる取り組みに逆行する」(小林鷹之前経済安全保障相、49)といった慎重論が相次いだ。
( → 金融所得課税、戻ってきた議論 再分配か投資促進か、経済界も促す 自民党総裁選:朝日新聞 )
石破茂以外は、課税強化に反対する人ばかりらしい。進次郎もそうだ。
→ 小泉進次郎氏、金融所得の課税強化に反対 「議論するタイミングではない」 - 産経
実は、岸田首相も当初は「金融課税強化」の方針を取ったのだが、すぐに撤回に追い込まれたことがある。(同じ朝日記事)
もともと、金融所得課税の見直しは、前回の 2021年総裁選で岸田文雄首相が打ち出した。総所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がる「1億円の壁」の打破や、経済成長の恩恵の分配による格差是正につなげる方策と位置づけた。
しかし、株価は大幅に下落。岸田氏は「当面は金融所得課税に触ることは考えていない」と軌道修正に追い込まれた。
このあと、どうなるかについて、記事はこう書く。
格差是正と投資促進。この二つをめぐる政策は、新総裁にとって課題になりそうだ。
……
貯蓄から投資への流れに水を差すような大幅な増税には否定的
……
「25%ぐらいあってもいいんじゃないか」
あれこれと記しているが、どうにも話がまとまらない。最後には「25%という、折衷案みたいな数字も出ているが、こんな小幅なのは、焼け石に水も同様であって、世の中は何も変わるまい。富裕層だって、「足にちょっと水が引っかかったな」ぐらいにしか感じるまい。そもそも、ユニクロの社長などは、国外に住居を移して、日本人としての課税を免れているので、痛くも痒くもない。25% に上げることなど、ほとんど意味はないのである。
かくて、解決策がわからないままだ。困った。どうすればいい?
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そこで、困ったときの Openブログ。解決する案を出そう。以下の通り。
(1) 総合課税
分離課税の税率を上げる、という案が示されている。(たとえば 20% から、25% や 30% に引き上げる。)
だが、こんな案は駄目だ。分離課税だと、高所得者も低所得者も同じ税率になるので、高くしても低くしても問題が生じる。
この問題を解決するには、総合課税にするしかない。税問題の専門家はみんなそう言っている。欧州でも、総合課税の国が多い。
問題の解決を狙うのなら、総合課税にするしかないのだ。(つまり、分離しないで、所得税として正式に課税する。)
※ ただし、そうすると、富裕層が大反対する。それで腰砕けになるのが、これまでの経緯だった。腰砕けにならないだけの肝っ玉を据えることが必要だ。
(2) 控除額の設定
総合課税にすると、低所得者は減税になるが、高所得者は大幅増税になる。……これは、狙い通りだから、何も問題ない。
問題は、中所得者だ。中所得者だと、特に投資額の多い人が、多めの納税をすることになる。すると、たくさん投資している人は、従来よりも増税になるので、大反対する。
「中所得者に増税するなんて、投資を抑制するものだから、株価を下げる効果があり、大問題だ。けしからん」
というふうに。
これに賛同する人も多い。(小林鷹之もそうだ。)
しかしながら、以上のことは勘違いである。この勘違いは、税制度に無知であることから来る勘違いだ。
では、正しくは? こうだ。
「中所得者に対して、投資増税がなされるとは限らない。うまく制度設計すれば、その問題を回避できる」
具体的には、こうだ。
「一定の控除額を設定すれば、中所得者の増税という問題を回避できる」
たとえば、次のようにする。
「投資額が 5000万円で、配当利回りが2%なら、年 100万円の配当金を得る。これに対して分離課税ならば、20% で、20万円の課税となる。そこで、改正後も、この規模の所得にはこの規模の税額となるように、制度設計すればいい。そのためには、金融所得の控除額を、60万円ぐらいに設定すればいい」
仮に、金融所得の控除額を、60万円に設定したとすれば、年額 100万円の配当金に対して、控除額の 60万円を差し引いて、課税対象は 40万円となる。40万円に対して 20万円の課税となるには、総合課税が 50% となる必要がある。所得税 45%と住民税5%の合計が 45%だから、所得税は 45%。その率の所得税になる収入は、年収 4000万円以上だ。
→ 所得税率表
結局、金融所得の控除額を、60万円に設定すれば、年収 4000万円までの人は、かえって減税になる。ほとんどの中所得者は、新たな制度の下で、かえって減税になるのだ。もちろん、制度改革によって、国民の投資意欲が下がるということもない。
で、結局、何が変わるかというと、一人で数十億円や数百億円ももっているような創業家の遺族・子孫が、一人で何億や何十億という巨額の増税になるのだ。
換言すれば、現状では、一人で数十億円や数百億円ももっているような創業家の遺族・子孫が、一人で何億や何十億という巨額の納税を免れているのだ。何という富裕層優遇か!
※ これに気づかない自民党の政治家は、頭が悪すぎる。
(3) 高率の源泉徴収
総合課税の納税漏れを避けるには、高率の源泉徴収をするといい。50%ぐらいの分離課税みたいな感じで、源泉徴収する。
その後、確定申告をした段階で、納税のしすぎをした分を、還付してもらう。
こうすれば、脱税が起こるのを回避できそうだ。
(4) 法人税と配当課税
配当課税を高めるかわりに、法人税を高める、という手法もある。
日本はそもそも法人税が低すぎる。特に、安倍政権で、法人税が大幅に引き下げられた。「消費税を上げて、福祉を増やします」と政府は公約したが、現実には、消費税の上がった分は、そのすべてが法人税減税のために回された。国民は踏んだり蹴ったりである。(中低所得者の金を、富裕層にプレゼントしたことに相当する。)……この件については、前に詳しく論じた。(グラフあり。)
→ 異次元の少子化対策 .2: Open ブログ
というわけで、配当課税をやたらと高めなくても、法人税を高めることで代用することもできる。
だから、その分、金融所得の控除額を上げることもできる。また、金融所得については、総合所得に参入する際に、「所得の9割に換算する」というふうな優遇措置を取ってもいい。(金融所得に対する特別措置。)
ただし、それは、法人税の引き上げとセットとなる。この点、注意。
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以上で、私の案という形で、解決策を示した。要するに、うまく工夫すれば、「富裕層増税」という目的のために、金融資産課税をすることは可能だ。
なのに、小林鷹之などが、金融資産課税に反対しているのは、税について無知であるせいで、制度改革そのものに反対しているからだ。解決策としての「控除」という概念を理解すれば、うまく制度改革することは可能なのだ。
小林鷹之は、元大蔵・財務官僚であり、金融については専門家である。それでいて、税制度の基礎概念をまともに理解できていない。自分の専門領域について無知すぎる。東大卒で、「おれは利口だ」と自惚れているせいで、税制改革の知識が素人同然なのだ。
※ たぶん、法学部卒のせいだろう。「制度を守ること」ばかりを重視して、「経済効率を高めるように制度設計する」という数値概念が抜けている。法律を言葉として理解するだけで、法律を数値設計として理解できない。要するに、頭が文系であって、理系の思考ができない。簡単に言えば、頭が悪すぎるのだ。「自分は利口だ」と自惚れた阿呆がトップに坐ると、兵庫県知事みたいになる。実際、顔も兵庫県知事に似ているね。
《 加筆 》
小林鷹之と正反対なのが、立憲の小川淳也(政調会長)だ。消費税の食料品の軽減税率を廃止して、かわりに控除額を設定する。このことで低所得者の課税額を下げる。……どちらも東大法学部卒だが、主張していることは正反対だ。片方は控除額を理解できず、片方は控除額を理解する。
特に、冒頭近くでは、青緑色の文字の箇所が抜け落ちていたので、復活させました。