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普通に考えれば、風雨に削られて、丸みを帯びた形になっていいはずだ。このように鋭く角張った形状というのは、人工物には見られても、自然界には見られないのが普通だ。
ではなぜ、山稜は鋭利なのか?
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これについて AI に質問してみたところ、はっきりとした回答は得られなかった。「自然環境など、さまざまな要因があります」と概念的に説明されているだけであり、合理的・具体的な説明は見出されなかった。Perplexity、Gemini、ChatGPT のいずれでも、同様の結果だった。要するに、「不明」である。
これは、AIが愚かであるせいではない。ネット上には回答が述べられていない、ということだ。人間が誰も書いていないから、AIは正解の文章を発見できなかっただけだ。愚かなのは、AIではなく、真実を発見できない人間の側なのである。
かくて、AIに尋ねても、「解なし」となった。困った。どうする?
※ 「氷河で削られたせい」というのは、唯一、きちんとした説明になる。だが、それに当てはまる例は、大きくない。アイガーや槍ヶ岳のような鋭利な山には当てはまるようだが。
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そこで、困ったときの Openブログ。
とりあえず、ネットであちこちの情報を探したところ、画像検索のあとで、国土地理院のサイトに到達した。
→ 6.氷河・周氷河作用による地形 | 国土地理院
ここでは、「氷河による氷食作用で」というふうに説明されている。
しかしどうも、それだけでは済みそうにない。冒頭のあたりの事例では、「氷河による氷食作用で」という説明で済みそうだが、最後のあたりには次の画像が出てくる。
このような地形は、「氷河による氷食作用で作られた」とは受け止めがたい。困った。どうする?
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そこで、私の考えた正解は、下記の通り。
まず、なぜ鋭利な形が残るかというと、それは、山稜の材質が岩石であって、硬いからだ。仮に、硬くなくて、柔らかい材質であれば(たとえば粘土質や火山灰質であれば)、とがった部分が風雨に削られるので、鋭利な形は残らなかっただろう。その場合には、丸っこい形になっていただろう。
だから、「材質が硬いから」というのは、理由の一つになる。(この点は、AIにも記述されている。)
ただし、以上のことは、「鋭い形が残ること」「丸くはならないこと」の理由である。「なぜ鋭い形が形成されるか」ということの理由にはならない。
では、鋭い形形成される理由は何か? それには、「硬いから」とは別の理由が必要である。そこで、頭をひねって考えたすえ、次のように推定した。
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山稜はもともと、大地の褶曲によって形成される。その場合、山稜は、確率の正規曲線のような形になるはずだ。(釣り鐘形と言ってもいい。サインカーブと言ってもいい。)……いずれにせよ、その頂点は、丸っこい曲線となっている。
だから、山稜は、形成された当初は、鋭い形ではなく、丸っこい形であったはずだ。
ただし、それは、細長くつながっている形である。細長くつながっていること。そのことが重要だ。
細長くつながった地形がある。それは大地の褶曲によって作られた地形だ。
そこに、風雨があたり、地形を削る。すると、どうなるか?
細長くつながった地形が南北に延びているとしよう。この場合、北風や南風は、地形に影響しない。東風と西風は、地形に影響して、地形を削る。
ここで重要なのは、風よりも雨だ。風は岩を削らないが、雨は岩を削る。「雨垂れ石を穿つ」という格言もあるように、雨水は岩石を削る能力があるのだ。
さて。雨が真上から降るならば、山稜の両側に均等に降るので、特別なことは起こらない。どこもかも同じように削られるだろう。
一方、雨が風とともに降るならば、事情は異なる。
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∧
上の図では、東側から風が吹く。すると、斜めに落ちてきた雨は、東側の斜面に多く当たる。西側の斜面には当たりにくい。したがって、東側の斜面にばかり、浸食作用が強く出る。
では、頂点が平らならば、どうか?
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平らな頂点では、東斜面と西斜面の中間的な浸食を受ける。結果的に、次のようになる。
・ 東斜面 …… 浸食が 大
・ 平ら面 …… 浸食が 中
・ 西斜面 …… 浸食が 小
結果的に、東斜面の浸食が多いので、東斜面ばかりが多く削られていく。
同様にして、西風が吹くと、西斜面ばかりが多く削られていく。
形が ∧ でもなく、台形でもなく、釣り鐘形のような形であったとしても、事情は同様だ。東斜面と西斜面ばかりがどんどん削られていく。
つまり、凸状のふくらみをもつ斜面があれば、そのふくらんだ斜面はどんどん削られていって、平面状の(まったいらな)斜面だけが残る。
さらには、そこに、崩落が加わる。ふくらんだ地形があれば、そのふくらんだ部分は、岩石の崩落によって削られる。
かくて、雨水と崩落岩石の双方によって、ふくらみをもつ丸っこい斜面はどんどん削られて、平らな斜面だけが残る。
要するに、山頂の部分だけは、雨水や岩石の影響をあまり受けないが、山頂よりも下の部分は、雨水や岩石によってどんどん削られる。だから、山頂のとがった部分だけが取り残されて、鋭利な形が形成されるのだ。
以上が私の推定だ。
※ 私の私見であるから、正しいという保証はない。あくまで仮説である。ただし、これに代わるような合理的な説明は、他には見出されないように思える。(「氷河による氷食」という説もあるけどね。不十分っぽい。)
※ 3000メートル以上の高さでは、雨は降らずに雪が降るので、風雨による浸食という本項の説は該当しない。その高さでは氷食説だけが成立する。
[ 付記 ]
鋭利な山稜というのは、現実に見た(体験した)ことのある人は、少ないだろう。私は、体験した。西穂高山頂に登ったときのことだ。
山稜の道はとても狭くて、幅 50cm ぐらいしかない。まるで平均台みたいに狭く感じられる道だ。そこから左右に、急峻な斜面が下っている。角度は 45度ぐらいに感じられる。落ちたら、腹ばいになって止まろうとしても無理で、何もつかめないまま、一挙に谷底まで落ちるしかない。
幅 50cm の道から、わずかに 50cm ぐらい位置をずらしたら、たちまち地獄にまで落ちるのだ。そのときはほぼ無風だったが、強風に吹かれたら、あっというまに地獄行きだ。……このときほど、死を強く意識したことはない。というか、私の生涯で、死にそうになったのは、この一度だけだ。(死との距離が 50cm まで接近した、と言える。)
このとき、あまりにもびびって、怖くて、恐怖で足がすくみそうなくらいだった。だから、このときの恐怖は、人生最大の恐怖として、心に強く刻みつけられた。
( ※ ゴジラに彼女を吹き飛ばされた神木隆之介みたいな決定的な体験だった。)
【 関連サイト 】
西穂高への紹介・体験記がある。
先程から救助ヘリが慌ただしく上空を旋回し、ピラミッドピーク山頂付近から人を引き上げていきます。周囲の人たちは誰もかしこも足を止め、心配そうに見ています。独標ピークに向かいますが、悲しい惨事になった場所です。昭和42年、独標の付近で落雷事故が発生し、11人もの尊い高校生の命が奪われました。
独標は、急な岩場の直登りですので、両手を使い三点支持を忠実に意識してゆっくり登れば大丈夫ですが、ご婦人方と連れは苦戦をしていました。殆どの方は、ここで引き返して行きます。
( → 西穂高岳 日帰り )
これで思い出した。独標までは、何とかなる。独標から先は、アマチュアレベルではない。強力な体力・筋力を必要とする。若いスポーツマンでないと、無理だ。「殆どの方は、ここで引き返して行きます」というのは、当然だ。ここが境界となるのだ。
そして、その先で、地獄と隣り合わせの道が開ける。
そのあげく、最終的に、山頂に到達するが、実に狭い場所である。かろうじて腰掛ける場所がある、という程度だ。
なお、上の記事は、ロープウェイを使って、途中までをはしょっている。楽ちんコースだ。
一方、麓の上高地から一挙に登攀する人もいる。
→ 【北アルプス】上高地〜西穂高岳 日帰り登山 | 今日という日を忘れずに
この人は、登りについて、「上高地の登山口を出発して3時間半ほど」と記すが、それは健脚すぎるでしょ。素人じゃないね。ちゃんとした登山家だね。
私は朝早く出発して、麓に戻ったのは日が暮れてからだった。登山と下山で、往復 10時間ぐらいかけた計算になる。登山に慣れていない素人ならば、健脚でもそのくらいはかかる。スポーツマンでなければ、途中で動けなくなる。
→ https://news.yahoo.co.jp/articles/fc92d6a27deb317250a89ee5680013fcb4c82477
まさしく本項で懸念した通り。
落ちたのは 55歳だそうだ。年なのに無謀。