2024年09月02日

◆ 洪水で地下鉄は水没する

 東京の下町などで洪水が起これば、その水が地下鉄に流れ込み、都心の地下鉄は一挙に水没する危険がある。

 ──

 前項では、「地下神殿のせいで東京の下町が水没する」という危険を指摘した。
 これを聞いても、「下町のことなんか、どうだっていいさ。おれたちは山の手に住んでいるから、関係ない」と鼻であしらう人も多いだろう。
 だが、危険は他人事ではない。東京の下町などで洪水が起これば、その水が地下鉄に流れ込み、都心の地下鉄は一挙に水没する危険がある。

 ──

 この危険性については、前に指摘したことがある。詳しい説明が記してあるので、ぜひ読んでほしい。(本項では説明を はしょっているので、下記項目で説明を補ってほしい。)
  → 地下鉄の水害(2009年)
  → 東京に津波が来たら?(2011年)

 説明以外に、軽く言及したこともある。
  → 危険学 の 例4(2006年)
  → 東横線・渋谷駅は欠陥駅 2: Open ブログ(2013年)
  → 東京の下町を水没させよ: Open ブログ(2019年)

 最後の項目では、まさしく下町についても言及した。
 「下町が水没したときに、その水は、地下鉄のトンネルを通って都心部まで到達する」
 というふうになっているのであれば、下町が水没すると、まもなく、都心部も水没することになる。

 このあと、対策についても言及した。
 「現状では、地下鉄の水没対策は十分ではない。下町の水没と同時に、都心部でもある程度の水没被害が発生しそうだ」

 これを解決するには、地下鉄の浸水対策が重要になる。トンネル内部の防水扉と、(地上部とつながる)駅の出入口の防水扉だ。この両者で、十分な対策を取る必要がある。(現状では不足している。)

 とすると、下町については、江戸川と荒川の氾濫の対策をするだけでは駄目だ。それに加えて、地下鉄の全般について、上記のような浸水対策をする必要があるわけだ。

 これは、2019年の項目だ。
 では、その後、対策はなされただろうか? 

 ──

 改めて近年情報を調べてみた。すると、次の文書が見つかった。
  → 首都圏で河川氾濫が発生…その時「地下鉄」はどうなる?駅の水害対策を東京メトロに聞いた|FNN(2021年10月6日)
 ここには、こうある。
――駅周辺に備えている設備とその役割を教えて。

駅の出入口には「止水板」「防水扉」を設置しています。止水板は水の流れをせき止めるもの、防水扉は出入口をふさいで浸水を防ぐものです。海抜ゼロメートル地帯などでは、出入口を歩道よりも高い場所に設置しています。

bousui2.jpg

 本人は「ちゃんと対策している」というつもりなのだろうが、まったく甘い。これでは水害防止として用をなしていない。

 地下鉄の水害対策には、重要な基本原則がある。こうだ。
 「たとえ1箇所でも穴があいたら、そこが蟻の一穴となって、東京の地下鉄全体が水没する」
 
 東京の地下鉄は全部つながっている。1箇所でも水没したら、その水は次々と伝わっていって、全部が水没する。たった1箇所が破られたら、全体が麻痺するのだ。そういう構造になっている。

 その観点で見ると、上の画像の左側の止水板は、あまりにも華奢である。こんなものは、あっさり破られかねない。洪水では水流は遅いが、津波では高速の水が流れ込む。プカプカと浮いた自動車がこの扉にぶつかって、この扉を破壊することは、十分に考えられる。津波でなくて洪水であっても、何らかの事故によって、この止水板が水漏れすることは十分に考えられる。のみならず、止水板の上限を超えて、大量の洪水や津波が流れ込むこともあり得るだろう。……そして、そういうことが1箇所で起こっただけで、東京の地下鉄の全体が水没するのだ。

 当然ながら、相互乗り入れする私鉄も影響を受ける。東横線や相鉄線も影響を受ける。下手をすれば、東横線や相鉄線は全面麻痺になりかねない。
 ※ 東横線は渋谷の地下にもぐりこんでいる。昔に比べて、水害には非常に弱くなった。(昔は渋谷の地上に出ていたし、地下鉄との相互乗り入れは限定的であって、いつでも遮断できた。今は渋谷側で遮断できない。)

 ──

 では、どうすればいいか? そのことは、前に何度も記してきた。地下トンネルのあちこちに防水壁を設置することだ。たとえ浸水しても、その浸水を部分に留めることだ。
 そのためには、かなりの工事費が必要となるが、別に巨額というほどの金がかかるわけではない。かかる費用はたかが知れている。十分に設置できる範囲内で済む。それでいて、いざというときの「全滅」の危険を回避できる。十分にコスパはいいだろう。

 対策の金はある。しかし、知恵がない。さらに、「安全のための金はできる限りカットしたい」というケチ精神がある。こういうケチ精神こそが、いざというときの被害を超巨額にしてしまうのだ。……そのことは、福島原発の例を見れば、明らかだろう。必要な津波対策費をケチったせいで、東北各地を壊滅させたのである。

 そして、それと似たことが、「地下鉄水没」という形で再現されるだろう。そこでは多くの人々が、水に溺れる蟻のように、大量に溺死するだろう。

 《 加筆 》
 「水没なんかするものか。現状でも大丈夫さ」
 と楽観している人も多いだろうが、違う。前項では、引用部でこう示した。
 地盤沈下のひどい地域(海水面以下1メートル)で、満潮(2メートル)になれば、水深は3メートルになる。こうなると、溺死者も出るだろう。

 水深3メートルだ。ここでは、溺死者の心配をしただけだった。しかし、地下鉄の心配もするといい。水深3メートルならば、高さ 50cm の止水板など、楽々と乗り越える。そうなれば、そこが「蟻の一穴」となって、東京の地下鉄全体が水没する。
 たった1箇所でも破られたら困るのに、そういう脆弱な止水板の駅がたくさんある。そうなると、地下鉄全体の水没は、どうにも止められなくなるのだ。
 


 【 追記・訂正 】
 実は、対策はまったくなされていないのではなく、かなり対策が進んでいると判明した。というのは、先の引用記事の最後のあたりに、次の記述があるからだ。
 トンネルにも、坑口(地上に出る開口部分)に「防水ゲート」「防水壁」を設置しています。防水ゲートは水の侵入を防ぐもの、防水壁は周辺の水を流れ込ませないためのものです。
 防水ゲートはトンネルの内部にもあります。こちらは浸水が発生した場合、トンネルを通じて広がることを防ぐものです。
( → 首都圏で河川氾濫が発生…その時「地下鉄」はどうなる?駅の水害対策を東京メトロに聞いた|FNN

 この防水ゲートは、本項で推奨した「防水扉」に相当する。つまり、本項で推奨した方式(防水扉)は、現実にまさしく実施されつつあるようだ。
 その意味で、「実現していない」と記した、これまでの記述は、不正確であった。お詫びして訂正します。

 ただし、実施の時期は、不明だ。
 2022年度末までに、当社施設における浸水防止対策が必要な出入口および連絡口のうち、約7割の対策が完了予定です。2027年度には全箇所の対策が完了予定です。

 と述べているが、対策完了するのは、「出入口および連絡口」だけだ。トンネルの途中における防水ゲート(防水扉)については、何ら言及されていない。金がかかるので、あちこちで全件実施をする気はないのかもしれない。あるいは、完成予定は 2040年ごろになってしまうのかもしれない。防水ゲート(防水扉)の言及が非常の少ないところからして、かなり怪しい。
 それでも、対策の必要性はいくらかは感じているようだ。
 
 ともあれ、地下鉄の水没対策については、本サイトの前身の「泉の波立ち」で言及したのが 2002年。それから 25年後の 2027年に、一応の対策ができるらしい。何もしないよりはマシだとは言える。(安全だとまでは言えない。)

 ※ ホームへの防水扉ができて、駅構内の水没は免れるとしても、駅の地下街は別である。一般に、駅ビルには止水板さえもないので、駅ビルからの浸水は止めようがない。地下鉄の駅構内の水没は免れるとしても、地下街の水没はとうてい免れないだろう。この点では、まったくお粗末のままだと言える。



 [ 余談 ]
 本物の蟻(昆虫)は、どう対策しているか? 
 蟻の穴に水を注入しても、蟻は死なない。蟻は賢明なので、「水が流れ込んでも、死なずに済むシステム」を整備している。その点、蟻は人間よりも賢いのだ。

 ※ どういうシステムが用意されているかは、ググればわかる。
   → https://x.gd/vsqcn


posted by 管理人 at 23:06 | Comment(4) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後の少し前に 《 加筆 》 を書き足しました。
Posted by 管理人 at 2024年09月03日 09:17
地下鉄出入り口は各駅ごとに10か所以上ありそうで大変なことはよくわかります。それ以外に地下鉄から空気抜きの穴が地表に出ています。昔マリリンモンローさんがスカートを押さえていたところです。これもいっぱいあると思います。水没を避けるのはほぼ不可能ではないでしうか。地下鉄に水が流れ込むおかげで地表の洪水は少しましになるでしょう。浸水を検知したらすぐに乗客を地表に逃すための対策と設備を考えた方が良いように思いますが。
Posted by ひまなので at 2024年09月03日 21:51
 地下街の水没を避けるのは無理でしょう。だから私はその点では批判していません。

 大事なのは、(地下街よりも下の)トンネルの水没を避けること。これだけなら、対策の過少は限定されるので、可能です。

> 地下鉄から空気抜きの穴が地表に出ています。昔マリリンモンローさんがスカートを押さえていたところです。これもいっぱいあると思います。

 その点はさすがに当局も手抜かりはない。すでに対策済み・処理済みです。上記の引用文書に書いてある。
 この部分は、規模も小さいし、数も限られているので、対策は容易であるようです。
Posted by 管理人 at 2024年09月03日 22:54
 地下街の水没を避けるのは無理ではなさそうだ。解決策はある。
  ・ 入口に階段やスロープを設けて、入口の高さを2メートル以上にする。(2メートル以下では、浸水しそうな出入口を設置しない。
  ・ その条件を満たしたビルのみ、地下街への直結を許す。
  ・ その条件を満たさないビルは、地下街への直結は不可。(自社ビルのみの閉じた体系とする。外部の地下街との接続は不可。)

 以上のようにすれば、地下街の水没を防げるでしょう。
Posted by 管理人 at 2024年09月03日 23:58
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