2024年08月31日

◆ ダムが満杯で治水できない

 前々項で述べたように、ダムはもともと満杯に近いので、ダムは治水機能を失っている。流入した水をそのまま放出するだけだ。

 ──
 
 ダムの水量のデータは、公開されている。
  → 利根川ダム統合管理事務所 河川情報
 これを見るとわかるが、流入した水をそのまま放出するだけだ。そういうダムがほとんどだ。

 すべてのダムがそうだというわけではない。例外もある。貯水率が低めであるダムだ。たとえば、矢木沢ダムや下久保ダムだ。
  → 利根川水系 | 河川 | 国土交通省 関東地方整備局

 これらのダムで、冒頭の数値データを見ると、「流入した水量のうちの大半を貯水している(放出量は少ない)」とわかる。これらのダムでは、元の貯水率が低いので、余裕があるから、貯水することで、治水機能を発揮している。たとえば、矢木沢ダムがそうだ。
  → リアルタイムダム諸量一覧表(矢木沢ダム)

 一方、他のダムでは、冒頭の数値データを見ると、「流入した水量のうちの大半を貯水していない(放出量は多い)」とわかる。これらのダムでは、元の貯水率が高いので、余裕がないから、貯水できないせいで、治水機能を発揮できないでいる。

 具体的な例を挙げると、八ッ場ダムがそうだ。
  → 利根川ダム統合管理事務所 河川情報(八ッ場ダム)


yamba24-08.gif


 流入量の9割を放出しており、1割を貯水している。
 治水ダムとしての機能は、1割だけしか果たしていない。
 巨額の金を投入して、「治水のために役立てます」といいながら、実際には、その効果は1割しか発揮されていないのだ。大いなる無駄。

 なぜこうなった? ダム機能に欠陥があるからではない。運営に欠陥があるからだ。それは「事前放流をしない」ということだ。
 この件は、前々項で詳しく述べたとおり。
  → ダムの事前放流は微小: Open ブログ
 


 [ 付記 ]
 八ツ場ダムは、特に状況がひどい。
 ダムは通常、「夏季には貯水率を下げて、台風の到来に備える」という運用をする。そのことは、下記のグラフからも明らかだろう。


tone9dam24.gif


 この図でも、「夏季制限容量」というのがあって、7、8、9月には、水量を満杯にはしない(最大貯水量の3割減を貯水量の上限とする)という運用がなされている。それが原則だ。
 ところが、八ツ場ダムはこの原則に当てはまらない。夏季においても、満水位の近辺まで、ほぼ満杯状態を維持する。(現状で 96.8% だ。)そういう運用がなされている。
  → 利根川ダム統合管理事務所 河川情報(八ツ場ダム)
 八ッ場ダムにおいては、「治水能力は、もともとほとんど存在しない」と言える運用がなされているのだ。
  ※ なぜそんな馬鹿なことを? と疑問に思うだろうが、その回答は前項で示されている。つまり、「発電で金儲けして、巨額の建設コストを回収するため」だ。無駄なダムを建設するから、そのせいで下流住民は水害被害の危険にさらされてしまうのだ。
  (普通に遊水池を作っておけば、こんなことにはならなかったのに。)
 


 [ 余談 ]
 晩夏のころの台風というと、「干天の慈雨」をもたらすのが普通だ。ところが今年は、もともと貯水率が 100% に近いダムが多い。(利根川水系。)
 つまり、「猛暑だ猛暑だ」と言われる割には、「照りつける日射で晴れ続き」というわけではなく、けっこう雨が降っていたことになる。
 ただし天気を見ると、東京では雨の日数が多かったわけでもない。8月は「一時雨」の日が6日間あっただけだ。まともな雨の日はなかった。
  → 東京都心(大手町)(東京都)の過去の天気(実況天気・2023年08月) - 日本気象協会 tenki.jp

 これはどういうことか? たぶん、貯水池のある山間部だけで降水量が多かったのだろう。南風が山にぶつかると、そこで積乱雲が発生して、降雨が起こる。それで説明が付く。

 ただし、今回の台風 10号では、これまでのところ、別の理由だ。雨雲の通過する地点が、たまたま八王子のあたりが多かった。もうちょっと東にずれていたら、都市部でも大量の降水があっただろう。その場合には、多摩川や鶴見川や江戸川で、氾濫の危険があったかもしれない。
 今回は、そうではなかった。ライブカメラを見たが、どの川も氾濫までにはだいぶ余裕があった。下流部でなく上流部で降雨があったせいだろう。
 上流部で降雨があると、氾濫は起こりにくい。なぜか? たぶん、山が降水を吸収するからだ。枯れ葉を経由して、山の地下に水が吸い込まれて、地下水となる。その地下水が少しずつ湧き水となって流れ出す。それまでには長い時間がかかる。一方、下流部で雨が降ると、ただちに河川に流入するので、氾濫しやすい。

 ※ 上流部で広葉樹を増やすのが、対策としてはよさそうだ。都心部でも、アスファルトでなく土壌のある場所を増やすのがよさそうだ。高層ビルのある場所では、アスファルトの広場でなく、土壌のある植栽地を優遇するべきだ。(現状では広場にして、キッチンカーを置いたりするのが、主流だが。これでは雨水を吸収する機能が皆無だ。公共性がない。なのに税などで優遇されるのは不当だね。)
 


 【 追記 】
 本文中でも示したように、「最大貯水量」と「夏季制限容量」とは異なる。後者は前者の3割減ぐらいだ。
 八ツ場ダムについても同様のはずなので、具体的な数値を求めたのだが、あちこち探しても、貯水量(万m3)については 9000 と 2500 という二種類の異なる数値が得られるだけで、それぞれがどちらに該当するのか判明しなかった。前者の3割減は 6300 なので、どうにもうまく当てはまらなかった。
 ところが後刻、コメント欄で、該当の数字を教えてもらった。下記に情報がある。
  →八ッ場ダム | 利根川ダム統合管理事務所 | 国土交通省 関東地方整備局
 これによると、9000 は最大貯水量(利水容量)であり、2500 は夏季制限容量(夏季の利水容量)であるそうだ。
 比率を見ると、後者は前者の3割減でなく7割減ぐらいだが、このダム特有の事情であるようだ。

 ── 

 以上は用語の問題だが、上のことから、重大なことがわかる。
 台風の直前に、流入した水の9割を放流しているのが現状だ。これをもって「治水機能を失っている」と評価した。
 その理由は、「ダムの貯水容量の上限に達しているからだろう」というふうに推定したが、実は、そうではなかった。
 現実には、ダムの貯水容量の上限に達していない。上限は 9000 ぐらいだが、現状は 2400 ぐらいでしかない。ただし、夏季制限容量が 2500 なので、この値に達しないように、しきりに放流しているのだ。
 つまり、ダムそのものが治水機能を喪失しているのではなく、人の運営が治水機能を放棄しているのだ。つまり、ダムの治水機能が最も必要なとき(8月30〜31日)に、治水機能を止めてしまったのだ。
 その結果、どうなる? 八ツ場ダムだ放流した水は、1〜2日かけて、下流域に達する。ちょうどそのとき、下流域では台風の降水量が最大化する。つまり、下流域で台風の降水量が最大になる時期を狙って、その1〜2日前に、大量の水を放流したわけだ。これでは下流域は、泣き面にハチだ。ひどい目に遭う下流域は、八ツ場ダムの運営者による放流テロに遭ったようなものだ。ひどい運営だ。
 
 結論。

 八ツ場ダムでは、事前放流をしなくても、治水のために、かなり多くの空き容量がある。しかし、その空き容量を、肝心のときには、治水のために使わない。治水をするべきときに、治水のために役立てない。
 なぜか? 運営者が愚かだからだ。「夏季制限容量」というのは、台風が来ないときに守るべき上限なのに、台風が来たときにもその上限を守ろうとする。
 比喩的に言うと、「お金がなくなったら困るので、貯金しましょう」という原則を立てたあとで、突発事になって、お金が足りなくなって、貯金を取り崩す必要が生じた。なのに、「貯金をする」という原則を守ることを優先して、ひもじいさなかで、貯金をした。そのせいで、栄養不足で、餓死してしまった。「自分の命を守るよりも、貯金をするという原則を守る」というわけだ。
 これと同様なのが、ダムの運営者だ。「台風が来ないときには、上限を守る」という方針を立てた。そのあと、台風が来たあとでも、「上限を守る」ということにこだわった。そのせいで、治水機能を失ってしまった。かくて、下流域で多大な命が奪われる危険をもたらした。
 「万一のために備える原則」を立てたあとで、原則を守ることを最優先としてしまったので、「万一のときに身を守る」という最終目的を果たせなくなってしまったのだ。
 目的と手段を取り違えてしまったわけだ。これを「本末転倒」という。……それが、八ツ場ダムの運営だ。(具の骨頂。)
 
 ──

 それでもまだ反論を言う人もいるだろう。
 「台風はまだ関東地方には来ていない。台風が関東地方に来る前に、今のうちならば、放流しても大丈夫だ。事前放流の形で、将来の空き容量を増やしておくわけだ。これなら賢明だろ?」
 
 残念でした。それは、台風が上陸する前の 29日になら、成立したかもしれない。しかし 30日にはもはや関東では洪水寸前になっていた。たとえば、新横浜の遊水地は、堤防からあふれた水が遊水地に流れ込んだので、公園の広い領域が水没した。

 こういうふうに、河川が「氾濫寸前」になっているのだ。あちこちの遊水地に水があふれているのだ。そのさなかで、ダムの水を大量放出するなんて、とても正当化はできない。
 
posted by 管理人 at 05:20 | Comment(8) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 [ 余談 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2024年08月31日 10:32
https://www.ktr.mlit.go.jp/tonedamu/tonedamu_index004-1.html 利水容量(洪水期2,500万m3、非洪水期9,000万m3)
八ッ場ダムの最大貯水量は9,000万m3なので、まだ6,500万m3貯めることができます。


https://www.pref.gunma.jp/page/12075.html 最大使用水量13.60立方メートル/秒
60m3/sぐらい放水していますが、発電に使用できる最大水量は13.6m3/sなので、
75%ぐらいは発電と無関係に流してします(貯めておけば、後で発電に利用できる可能性があるのに)。

洪水に備えて、(発電のことだけを考えると金銭的にマイナスですが)6,500万m3はまだ空けているのでしょう。


Posted by サク at 2024年08月31日 20:01
> 八ッ場ダムの最大貯水量は9,000万m3なので、まだ6,500万m3貯めることができます。

 情報ありがとうございます。
 このような情報があるはずだと思って、しきりに探したのですが、とうとう見つからずじまいだったので、情報不足のまま、本文を書いてしまいました。不正確でしたね。申し訳ありません。

 新たな情報を得て、内容を修正・補足する形で、最後に 【 追記 】 を加筆しました。
 
Posted by 管理人 at 2024年08月31日 23:01
確認していただいて、ありがとうございます。

追記を見て色々と考えさせられました。


60m3/sぐらい放水していますが、
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kihonhoushin/051206/pdf/ref3.pdf
をみると利根川下流におけるピーク流量は7500なので、個人的には60は誤差だと思うのですが、
もし溢水してしまったら、どこかで60ぐらいのダメージがでてしましますね。
もしその60で、堤防が崩壊したら、600とか6000の被害が出る可能性もあります。

管理人様の考察に全面的に同意するわけではないのですが、
色々と考えさせられます。
Posted by サク at 2024年08月31日 23:53
 今は 60だとしても、もっと大幅に降水が起こって、大幅に流入したら、放流量も大幅に増えそうです。
 肝心なのは、現実に流れている放流の量ではなく、「貯めずに9割を放流する」という原則です。この原則ゆえに、「いざとなったら大量の放流が起こって、下流では大洪水が起こる」という結果になりがちです。

 どういう方針(原則)をとっているか、という問題。

Posted by 管理人 at 2024年09月01日 00:11
逆に、何を基準に貯め始めるのでしょうか?
何らかの基準はあるはずだと思っています。

それは国に聞いてくれよという話でしょうが。
ダムに関する知識はある程度ありますが、そこまでは私も知りません。


あと新横浜は鶴見川なので、利根川とは別です。
天気予報が完全に正確なら、利根川水系と鶴見川を区別することができます。
実際は完全に正確でないので、確率論的に考える必要があります。
確率論で考える場合もでも、確率のどこに線を引くべきか、そもそも線を引けるのか、
また線でなくグラデーションで基準を設けるべきではないか、など考えています。
Posted by サク at 2024年09月01日 01:05
> 逆に、何を基準に貯め始めるのでしょうか?

 そりゃ、簡単です。台風や線状降水帯などで、下流域で大量の降雨が予想されたとき(氾濫の危険性が生じたとき)です。
 簡単すぎるでしょう。そのへんの賢い小学生に任せるのでもいい。「台風が来たから、放流をやめます」というぐらい、子供でもできる。

 ──

> 天気予報が完全に正確なら、

 現実にはひどく不正確なので(今回もブレブレのうえに、はずれてばかりなので)、無意味な仮定です。

 地域別の細かな調整は必要ありません。下流域は広大なので、まとめて同様の対策で十分です。

 利根川系も鶴見川系も、降水確率は、数日前の時点ではほとんど同じです。区別しがたい。

 結局、関東地方をまとめて、「台風で大雨になりそうだから、関東地方のダムは一律で放流停止」でOK。子供でもできる。
Posted by 管理人 at 2024年09月01日 07:40
 (つづき)

 細かな基準は設定しなくともいい。雨の日には一律で放流中止と決めればいい。河川の水位はなるべく一定であるべきなので、雨の日には自然に水位が高くなる分、ダムの放流はゼロにした方がいい。放流がゼロでも河川の水位は上がるからだ。
 その分、晴れの日の放流を増やせばいい。その放流の決め方は? 実際に、いつもやっているとおりなので、何も迷うことはない。「いつも通り」でOKだ。
Posted by 管理人 at 2024年09月01日 11:37
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