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2023年07月12日の項目で、次のように記した。
大雨の前にあらかじめダムの水を放流しておく「事前放流」が、普及しつつあるそうだ。
( → ダムの事前放流の普及: Open ブログ )
そこでは朝日の記事を紹介した。
ダムの柔軟運用が可能になったのは、精密な降雨予測が可能になったからだ。京都大学の角哲也教授(河川工学)によると「従来のダム運用は、先行き1〜3日ほどの短期の降雨予測に基づいていたが、複数の降雨予測とAI(人工知能)による解析を交え、向こう半月ほどの長期予測が出来るようになった」という。
それにより、雨が見込まれない時期は水位を高く保って発電し、大雨が近づいたら早めに放流して水位を下げておく、といった柔軟な対応がしやすくなった。
続いて、こう解説した。
本サイトでは「事前放流」という用語で、「大雨の前にダムの水を放流すること」を提唱してきた。上記の項目一覧を見ればわかるように、一番早いのは 2013年の項目だ。
そして今では、事前放流はごく普通のこととしてなされるようになったようだ。
「本サイトでは 2013年ごろから、事前放流を実施せよと主張してきたが、2023年になって、ようやく事前放流がちゃんと実現するようになった」というわけだ。
ともあれ、朝日新聞が事前放流の実施を報道していたので、その記事を信じて、「事前放流の技術が開発されたので、事前放流がなされるようになった」と信じたわけだ。かくて、「これにて問題は解決した」というふうに評価した。
これが、2023年07月12日の項目の評価だった。
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さて。昨年は台風が来なかったが、今年は超大型の雨台風が来た。中心気圧は 980ヘクトパスカルで、たいした規模ではないのだが、巨大な雨雲を引き連れており、大規模な降雨が予想されている。
では、これに対して、事前放流はどうなったか?
そう思ったので、下記サイトで調べてみた。
→ 利根川水系 | 河川 | 国土交通省 関東地方整備局
貯水率の項目を見ると、8月28日の段階で、1ダムを除いて、残りの8ダムでは「97〜100%」だった。つまり、ほぼ満杯である。
このあと、すでに大雨が降っている8月29日深夜の段階では、こうなっている。
ダ ム 名 | 貯水率(%) |
矢木沢ダム | 82 |
奈良俣ダム | 93 |
藤原ダム | 100 |
相俣ダム | 100 |
薗原ダム | 93 |
八ッ場ダム | 99 |
下久保ダム | 61 |
草木ダム | 96 |
渡良瀬貯水池 | 100 |
9ダム合計 | 84 |
前日に比べると、貯水率はいくらか低下している。大雨が降っている最中に貯水率が低下しているので、事前放流はいくらかなされたようだ。しかるに、その規模はごく小さい。1割にも満たないようだ。たとえば、八ツ場ダムでは、「 102 → 99 」というふうに、3ポイントしか低下していない。(本来ならば 50 ポイントぐらい引き下げるべきだった。)
要するに、事前放流は、やるにはやったらしいが、ごく小規模であって、「やってもやらなくてもほとんど変わらない」というぐらいの規模でしか やっていない。
仏作って魂入れず、とは、このことだ。
口先だけでは立派なことを言っても、現実には何もなさない。学者は立派な方針を立てたとしても、現実の運用では何一つまともなことをやらない。「やる」と言ってもやらない、有言不実行。……それが日本のダムの運営の現実だ。
要するに、こうだ。
「台風の大雨で、下流に大規模な水害が起こるとしても、そんなことは知ったこっちゃない。おれたちの発電の利益の方が大切だ。発電の利益はおれたちの利益。水害による損害は他人の損失。他人の巨額の損失を回避するのと、おれたち自身の少額の発電利益を天秤にかける。当然、他人の金より、自分の金。他人に巨額の損をかけるとしても、自分の利益を大事にしたい」
これが、ダム運営者の方針なのだ。
事前放流というシステムを、学者がいくら提供しても、ダムの運営者は、それを実行するつもりはさらさらない。ごく小規模に事前放流を実施して、「ちゃんと事前放流をしました」と言いくるめて、お茶を濁す。
それが、今回のデータで判明したことだ。
※ 以下は読まなくてもいい。(気象庁の悪口です。)
[ 付記 ]
今回の台風では、おかしなところがある。気象庁の予報が変だったのだ。
「非常に強力な台風です」
という予報の割には、
「本日以後三日間、中心気圧が 980〜985ヘクトパスカルのまま推移する」
という予報なので、気圧の点で疑わしかった。
さらに、次の予報も疑わしかった。
「東京付近で大雨になるのは、金曜日だけ。土曜日以後は、大雨は降らずに、雨と曇りだけ」
これは非常に疑わしい。大型台風が列島を直撃するのに、雨がろくに降らないというのは、わけがわからん。
風は気圧の点からして、もともと弱いとわかっていた。だが、風だけでなく雨もろくに降らないのに、超大型台風だというのでは、矛盾である。
こう思って、疑問に感じていたが、29日の深夜になって、予報が一転した。「土曜日は大雨」に転じた。
そりゃ、そうだよね。台風が直撃するんだから、土曜日は大雨になるに決まっている。その時点の台風の中心地は、まだ関西地方に留まっている。東京までに届いていない。となると、東京にも台風の影響が及ぶのは、当然だ。それが当り前の判断だ。
なのに、本日午前中までは、「土曜日以後のの天気は、大雨でなく、雨と曇り」、つまり「土曜日以後は、台風の影響はなし」と判断した。それが気象庁の予報だ。
気象庁はイカレている、としか思えないね。
※ なお、今回の台風では、地域差が極端に大きかった。八王子を中心とした、南北に細長い地域で、線状降水帯のような、豪雨の領域が発生した。テレビでは、九州と四国の豪雨ばかりを報道していたが、八王子周辺でも、すごい豪雨があったんだよ。「雨雲レーダー」をずっと観測していればわかる。
※ そのデータを知りたい人は、 Twitter で検索すれば、見つかるだろう。
→ https://x.gd/Zwd5w
→ https://x.gd/sc8Eb
治水のためには発電には適さない水位差が小さいところに専用のダムを造っておき、大雨の時だけ水をためることが必要なのでしょう。発電で建設費を回収できないので無理かもしれません。市街地にバイパス水路を作る方が良いかもしれません。
日本は地震、洪水、津波が多い国です。日本人は自然災害に対して大した防御をせず、基本的にはあきらめてきました。大雨が降れば洪水は仕方ない、地震がくれば家は倒れて火が出る、津波は逃げるだけでした。根本的な意識改革が必要だと思います。
それをやるのが、事前放流です。両立させます。
すでに説明済みなので、ちゃんと読んで。
※ 大雨の直前に大量放流すれば、治水は完璧だし、発電も最大量を保てます。