──
まず、日本側がどうするかは、簡単に結論を下せる。こうだ。
「金額しだいである。妥当な価格よりも、高ければ売る。安ければ売らない」
妥当な価格というのは、市場価格のことではなくて、セブンの側が「売ってもいい」と思う価格である。通常、市場価格よりも3割ぐらい高い価格だ。
ともあれ、「売っても良い」と思う価格よりも高い価格になれば、売るに決まっている。これは論理的な必然だ。(ほとんどトートロジーに近い。)
価格はどのくらいか?
事前の株価は 1750円で、時価総額は 4.5兆円。現在の株価は 1950円で、時価総額は 5.0兆円。この2割高( 4.5兆円の3割高)が、6.0兆円。このくらいの価格が、TOB の相場だ。となると、次のように結論できそうだ。
・ 買収価格が6兆円なら、売るかどうか迷う。
・ 買収価格が7兆円なら、売る。
こうなりそうだ。
カナダの会社としては、どうするか? 7兆円を払えるだろうか?
・ 今は円安なので、お買い得である。
・ セブン成長力を考えると、高くてもいい。
・ 自社の成長効果を考えると、高くてもいい。
資金力さえあれば、7兆円を払っても惜しくないだろう。資金力としては、買収したセブンの株式を担保にすれば、金を借りることはできる。特に、低金利の日本で、利息ゼロに近い金利で金を借りることができる。ここで金を借りたあとで、物価上昇が起こったあとの金で返済すれば、実質的にはマイナスの金利で借りたことになり、大儲けできる。
- ※ 7兆円を借りたあとで、実質金利がマイナス1%で返済していけば、毎年、金利だけで 700億円の黒字が発生する。(物価上昇時に金を借りると得をするのだ。)
※ 米国の企業を買収すると、高金利のドルが必要だが、日本の企業を買収すると、低金利の円を借りるだけだから、すごく得なのだ。
以上のことから、こう結論できる。
「カナダの会社は、7兆円の金を投入できるし、そうした方がずっとお得である。ゆえに、7兆円で買収しようとするだろう」
そこから、日本の方針も決まる。
「 4.5兆円のものを7兆円で売れれば、ボロ儲けだ。ゆえに、日本側は買収に同意する」
これが日本側の方針だ、と推測できる。
──
では、それは実現するか? いきなり結論を言うと、こうなる。
「買収は成立しない。なぜなら、米国当局が独禁法違反で阻止するからだ」
このことは、各記事で報道されている。
→ セブン&アイ、米コンビニ大手の買収完了 FTCは独禁法違反指摘 | 毎日新聞
→ セブン&アイの米コンビニ買収「違法の恐れ」、規制当局者ら懸念
→ 米当局:クシュタールの7&iHD買収計画に異議の可能性−FT紙 - Bloomberg
→ 7&iHDへの買収提案、成否にかかわらず一石を投じる可能性 - Bloomberg
日本のセブンの側は「そんなことはない」と反発しているが、それを判定するのは、セブンではなく、米当局だ。いくらセブンが反発しても無駄だ。
そもそも、前項で示したデータから、独禁法違反は明らかだ。
・ 店舗数では業界1位と2位。合計数は圧倒的だ。
(前項の図表で示した通り。)
・ 売上げシェアはセブンだけで 36%。カナダ社との合計では 50%近くになる。
・ 両者に次ぐ第3位は、はるかに後塵を拝している。話にならない。
こういう状況では、買収が認められるはずがない。ゆえに「買収は成立しない」と言える。
──
これに対して、反論があるだろう。
「だったら、有能なセブンだけを残して、無能なサークルK だけを他社に売却してしまえばいい。そうすれば、独禁法違反の問題を免れる」
なるほど、それはそうだ。しかし、それには重大な問題が発生する。
「そんなことをすれば、カナダ社の店舗の効率を大幅に改善する、という当初の目的が達成されなくなる。最大のメリットを得られなくなる。何のために買収するのかわけがわからない。買収しても、意味がない」
そもそも、前項の最後で示したように、カナダ社がセブンを買収する目的は、セブンの高効率の経営を、低効率な自社のコンビニに波及させることだった。
ところが、低効率な自社のコンビニ(サークルK)がなくなってしまったら、もはやセブンを買収する意味がなくなる。何の改善もできないからだ。これでは元も子もない。単に高値づかみをしただけで終わる。あわててセブンを売却しようとしても、7兆円で買ったものを7兆円で売ることもできない。7兆円で買ったものを 4.5兆円で売るしかない。となると、2.5兆円の丸損だ。踏んだり蹴ったりだ。最悪だ。
というわけで、「独禁法違反」を免れようとすると、もはや買収のメリットはなくなる。単に損するだけだ。2.5兆円の大損。
ゆえに、「買収は成立しない」と言える。
以上が、私の結論だ。
[ 付記1 ]
ただし、この話には続きがある。こうだ。
「単に買収ができないままだと、カナダの会社は、米国でセブンに押されて、シェアをどんどん失うばかりだ。これでは、セブンに押されて、倒産しかねない。困った。どうする?
そこで名案。セブンのかわりに、ファミマを買収する。ファミマを買収して、その経営技術を導入して、米国で自社をファミマみたいにする」
意外も意外。これぞ、新たな解決策だ。これならば、十分に実現する。
ただし、そこに至るには、新たな発想が必要だ。「セブンが駄目なら、ファミマを買えばいい」という発想だ。それを思いつくのは、Openブログぐらいしかあるまい。
困ったときには、Openブログに頼めばいい。なのに、そうしないので、カナダの会社は何もできないまま、「諦めた」と言って、撤退するだろう。
Openブログに教われば良かったのにね。困ったときには。
※ ファミマの時価総額は 1.2兆円弱だ。セブンの4分の1だ。買収するなら、2兆円もかかるまい。はるかにお買い得だ。(ただし海外店舗数は、セブンに比べて、圧倒的に少ない。知名度が全然ない。)
[ 付記2 ]
カナダ社がファミマを買収した場合には、カナダ社が経営の主導権を取ることになりそうだ。会社の規模からして、当然だろう。
カナダ社がセブンを買収した場合には、逆に、セブンが経営の主導権を取ることになりそうだ。少なくともコンビニ部門では、すべてが日本のセブンの言うとおりになるはずだ。なぜか? そういうふうに「日本化」することこそが、カナダ社の狙いだからだ。そもそも、事業規模からして、日本のセブンの方が(店舗数でも売上高でも)圧倒的に上回っているのだから、セブンが主導権を取るのは当然だ。
仮に、カナダ社が主導権を取って、カナダ流の経営をセブンに適用したら、セブンは経営効率が悪化して、あっという間に倒産してしまうだろう。これは「金の卵を産むダチョウを殺す」というのに等しい。そんな馬鹿げたことをするはずがない。
ゆえに、カナダ社がセブンを買収した場合には、日本のセブンが経営の主導権を取ることになる。少なくとも、コンビニ部門では。
※ カナダ社がファミマを買収した場合には、そうなりにくい。カナダ社は技術だけを学ぼうとするかもしれない。……しかし、それはそれで、別に悪いことではない。ちなみに、中国の家電会社(ハイアールなど)が、日本の家電会社を買収したが、いずれも成功している。東芝レグザや、サンヨー AQUA など。日本の技術を買収して、日本の技術を生かす。そういう成功例はあるのだ。( win-win 関係だ。負けて倒産するより、ずっとマシだ。)
【 関連サイト 】
イトーヨーカドーの閉店の話。
→ まるで“解散ライブ”…地域で愛されたイトーヨーカドー閉店で市民殺到 セブン&アイに買収提案で閉店加速か
※ 仮にセブンをカナダ社に売却するなら、イトーヨーカドーは全面閉鎖になる可能性もある。上記の記事みたいに。……そんなことになるなら、次のようにするといい。
※ 仮にセブンをカナダ社に売却するなら、イトーヨーカドーは売らないで、残しておいた方がいいだろう。カナダの会社には買収するメリットがないので、その分の金を払うつもりはあるまい。だったら、コンビニ部門だけを売却して、イトーヨーカドーの部門は国内の別会社に売却した方がいい。(たとえば、ユニーに売る。)
※ ただし、全体をいったんカナダ社に売却してから、カナダ社がイトーヨーカドーの部門を他社に分離・売却しても、結果は同じことになる。だから、そうしても構わない。