2024年08月09日

◆ 水素社会は来るか?

 水素社会は来るか……という話題の記事があった。

 ──

 朝日新聞の特集で2回連載。「水素社会は来るか?」というテーマで語る。風力発電で大量の電力が余るので、それを水素に転じてから、各領域で水素社会が進展する、という趣旨。

 第1回の記事。

 デンマークでは風力や太陽光などの再生可能エネルギーだけで国内の電力需要の約8割をまかなっているという。
 再エネは国内需要を超えて増えていくと見込まれ、外国に配電するだけではなく、水素に変えて、供給する計画が現実味を増してきている。
 担当者は「今後数年間、洋上風力発電の大規模な増強が計画されており、余剰の風力発電が水素製造に利用されると予想されている」と説明。水素は直接電化が不可能な航空や重工業の分野で、使用されるべきだとする
( → (水素社会:上)未来のエネルギー、活用進む欧州:朝日新聞

 ここまでの話は納得できる。特に「直接電化が不可能な航空や重工業の分野で」という指摘は重要だ。

 第2回の記事。

 2014年に世界で初めて量産されたトヨタのFCV「ミライ」の世界販売台数は23年9月時点で累計約2万5千台にとどまる。
 トヨタが目を付けたのが商用車だ。水素STの安定的な利用と大量消費によるコスト低減が見込めるためだ。
( → (水素社会:下)脱炭素の力に、走り始めた国内:朝日新聞

 水素社会の推進のため、燃料電池車を普及させたいが、現実にはトヨタ・ミライがまったく売れない。水素ステーションは増えるどころか減るばかりだ。そこで対策として、商用車に目を付けた。
 まあ、その趣旨はわからなくもない。燃料電池車が生き延びるとしたら、トラックやバスなどの大型商用車しかあるまい。……しかし、これでは本末転倒である。

 そもそも、1回目の記事を思い出そう。そこでは「直接電化が不可能な航空や重工業の分野で」という指摘があった。なのに、水素電車(第1回)や、大型商用車(第2回)のように、「直接電化が可能なもの」を主対象とするのでは、話が逆転している。水素電車や大型商用車は、電化が可能なのだ。これらの分野を水素化するというのは、ただの無駄だ。

 細かく言おう。
 鉄道を電車にするなら、ディーゼル車を燃料電池車にするよりは、ディーゼル区間を電化に転換する方がいい。
 大型商用車を電化するなら、燃料電池車を使うより、道路からワイヤレス給電を使う方がいい。
  → 電池レス EV: Open ブログ

 というわけで、上記記事における「燃料電池車による電車大型商用車」という方針は、まるきりの見当違いなのである。記事はただの与太記事だと言える。



 [ 付記 ]
 では、どうすればいいか? 風力発電で余った電力を、水素に転じたあとは、どうすればいいか?
 その件は、すでに論じている。「水素発電」に使えばいいのだ。それには特に何の工夫も必要ない。LNG のかわりに水素を燃やすだけだ。それで済む。おしまい。

 参考:
  → 水素社会を推進するべきか? .2: Open ブログ
 水素をいったんメタンに転じてもいい。これを「メタネーションという。
  → メタネーションの意義は .1: Open ブログ

 《 加筆 》
 メタネーションでは、空気中の二酸化炭素を取り込むより、火力発電所(など)の二酸化炭素を取り込む方が、効率的であるようだ。濃度が高いからだ。
 この方法が使えるなら、火力発電所は二酸化炭素を排出しないことになるので、延命できるかもしれない。
 ただしメタンが二酸化炭素を排出する。その点が難だが、その分、都市ガスを減らせると思えば、悪くはない。
 なお、都市ガスに水素を混入するという方法も考慮されたが、これは(カロリーが低すぎて)実用性がない、と判明している。
  → 2050年のエネルギーを考える上での視点と水素を活用したCO2ネット・ゼロへの挑戦 東京ガス



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posted by 管理人 at 22:00 | Comment(3) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に 《 加筆 》 を書き足しました。
Posted by 管理人 at 2024年08月10日 08:54
メタネーションで水素からメタンを作ってもメタンを燃やせば炭酸ガスが再生されます。メタネーションは炭酸ガス削減には無意味です。メタネーションが意味があるのはお説の最後に書かれていることです。つまりメタンにすると1Lあたりのカロリーが多くなるので熱効率が高くなります。水素は燃料としては非常に低効率です。水素を燃やして発電するよりはメタン(=天然ガス)を燃やして発電する方が効率が高いのです。
Posted by ひまなので at 2024年08月10日 09:49
 メタンを作るときに二酸化炭素を減らす、という話をしています。
  1-1=0
という話。
Posted by 管理人 at 2024年08月10日 10:04
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