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朝日新聞の特集で2回連載。「水素社会は来るか?」というテーマで語る。風力発電で大量の電力が余るので、それを水素に転じてから、各領域で水素社会が進展する、という趣旨。
第1回の記事。
デンマークでは風力や太陽光などの再生可能エネルギーだけで国内の電力需要の約8割をまかなっているという。
再エネは国内需要を超えて増えていくと見込まれ、外国に配電するだけではなく、水素に変えて、供給する計画が現実味を増してきている。
担当者は「今後数年間、洋上風力発電の大規模な増強が計画されており、余剰の風力発電が水素製造に利用されると予想されている」と説明。水素は直接電化が不可能な航空や重工業の分野で、使用されるべきだとする
( → (水素社会:上)未来のエネルギー、活用進む欧州:朝日新聞 )
ここまでの話は納得できる。特に「直接電化が不可能な航空や重工業の分野で」という指摘は重要だ。
第2回の記事。
2014年に世界で初めて量産されたトヨタのFCV「ミライ」の世界販売台数は23年9月時点で累計約2万5千台にとどまる。
トヨタが目を付けたのが商用車だ。水素STの安定的な利用と大量消費によるコスト低減が見込めるためだ。
( → (水素社会:下)脱炭素の力に、走り始めた国内:朝日新聞 )
水素社会の推進のため、燃料電池車を普及させたいが、現実にはトヨタ・ミライがまったく売れない。水素ステーションは増えるどころか減るばかりだ。そこで対策として、商用車に目を付けた。
まあ、その趣旨はわからなくもない。燃料電池車が生き延びるとしたら、トラックやバスなどの大型商用車しかあるまい。……しかし、これでは本末転倒である。
そもそも、1回目の記事を思い出そう。そこでは「直接電化が不可能な航空や重工業の分野で」という指摘があった。なのに、水素電車(第1回)や、大型商用車(第2回)のように、「直接電化が可能なもの」を主対象とするのでは、話が逆転している。水素電車や大型商用車は、電化が可能なのだ。これらの分野を水素化するというのは、ただの無駄だ。
細かく言おう。
鉄道を電車にするなら、ディーゼル車を燃料電池車にするよりは、ディーゼル区間を電化に転換する方がいい。
大型商用車を電化するなら、燃料電池車を使うより、道路からワイヤレス給電を使う方がいい。
→ 電池レス EV: Open ブログ
というわけで、上記記事における「燃料電池車による電車大型商用車」という方針は、まるきりの見当違いなのである。記事はただの与太記事だと言える。
[ 付記 ]
では、どうすればいいか? 風力発電で余った電力を、水素に転じたあとは、どうすればいいか?
その件は、すでに論じている。「水素発電」に使えばいいのだ。それには特に何の工夫も必要ない。LNG のかわりに水素を燃やすだけだ。それで済む。おしまい。
参考:
→ 水素社会を推進するべきか? .2: Open ブログ
水素をいったんメタンに転じてもいい。これを「メタネーションという。
→ メタネーションの意義は .1: Open ブログ
《 加筆 》
メタネーションでは、空気中の二酸化炭素を取り込むより、火力発電所(など)の二酸化炭素を取り込む方が、効率的であるようだ。濃度が高いからだ。
この方法が使えるなら、火力発電所は二酸化炭素を排出しないことになるので、延命できるかもしれない。
ただしメタンが二酸化炭素を排出する。その点が難だが、その分、都市ガスを減らせると思えば、悪くはない。
なお、都市ガスに水素を混入するという方法も考慮されたが、これは(カロリーが低すぎて)実用性がない、と判明している。
→ 2050年のエネルギーを考える上での視点と水素を活用したCO2ネット・ゼロへの挑戦 東京ガス
1-1=0
という話。