2024年08月06日

◆ 風力発電の逆襲

 風力発電は日本には適さないと思えたのだが、いつのまにか低コストで大規模配置が可能になってきた。大転換が起こりつつある。

 ──

 風力発電は日本には適さないと思えた。地形的に遠浅の海辺がないこと(特に日本海側は険峻な地形であること)がある。また、西岸海洋性気候の穏やかな風とちがって、モンスーン気候の強い季節風や台風が吹くことだ。
 こういう理由で、「日本には風力発電が適さない。だから風力発電は少ないのだ」
 と思われてきた。本サイトでも、そういう趣旨で何度か述べた。

 ところが、時代が変わって、近年になると、風力発電がきわめて低コストで設置されるようになった。
  → 洋上風力を推進すべきか? 3: Open ブログ (2021年12月27日)

 ここで示した価格は 12円/kWh だ。もはや太陽光発電並みである。こうして状況が一変したことが示された。

 ──

 さて。それは 2021年12月27日 の時点のことだった。それから2年たった 2023年12月26日 の情報では、新たに入札があり、そこでは 3円/kWh 以下という驚くべき低価格が実現している。
  → 早くも体力勝負に突入した洋上風力、ラウンド2公募結果を読み解く|日経エネルギーNext
   ※ 価格は入札価格。発電開始時期は 2028年または 2029年。

 2024年3月の入札でも、3円の落札となっている。
  → 一般海域・洋上風力、初めてベンチャー系が落札、JREが秋田県沖で - ニュース - メガソーラービジネス : 日経BP

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 さて。以上のように風力の競争力が急激に高まると、太陽光発電よりも競争力が高いと見込まれる。そうなると、今後は風力発電の比率が急増するだろう。

 そこで、一例を調べる。
  → 【第2ラウンド最新動向】新潟県村上市・胎内市沖 8事業体が参入し競争激化へ|ウインドジャーナル

 ここで、新潟の沖合の地図がある。
 「9188.1ヘクタールで、最大出力は70万kW」
 とのことだ。この面積で、この出力が得られるなら、日本の沖合にずらりと風車を並べることで、かなり多くの発電量が得られそうだ。日本全体の発電量の半分ぐらいを作り出すことも夢ではなさそうだ。

 ──

 そこで専門家の見方を知るために、ネットを調べると、次の予想図を得た。( 出典: 日本の電力の脱炭素は2035年にも9割実現、日米研究機関が試算 | 日経クロステック(xTECH)


pow-port.jpg


 図の左側が電源構成。(%)
 上から2番目と3番目と4番目が風力発電だ。2035年の数値では
  ・ 陸上風力     8%
  ・ 洋上発電 着床式 10%
  ・ 洋上発電 浮体式 8%

 という見通しになっている。

 このうち、洋上発電 浮体式は、急増している。2030年にはほぼゼロなのに、2035年には一挙に8%にまで達する。この分だと、2040年や 2045年には非常に多くの量を占めそうだ。

 一方で、太陽光発電の伸びは、なだらかだと見込まれている。2023年から 2035年にかけて、倍増にも達しないようだ。

 その一方で、原子力発電がかなりの高い比率を保つと見込まれている。2025年にかけて急増して、その後も同じ比率を保つ、と。これはちょっと怪しい。

 他方、石炭発電は急減することになっている。これもかなり怪しい。別のデータによると、石炭発電の発電量の過去実績は、この5年間であまり変化していない。
  → 2022年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報) | ISEP 環境エネルギー政策研究所 の (表1)
 実績値を見ると、先のグラフの見通しは「はずれ」ということになる。そううまく石炭発電は減ってくれないのだ。

 ──

 まあ、いろいろと見通しはあるし、それなりに評価もできる。十分に信頼していいかどうかは別として、参考データとなりそうだ。これを基本の土台として、この上で(修正して)議論を構築するとよさそうだ。



 [ 付記 ]
 風力発電の設置方式では、陸上式・着床式・浮体式がある。
 陸上式の設置場所は、限定される。バードストライクの問題もあり、鳥と風の奪い合いをする関係にある。だから伸び率は低い。
 着床式は、技術的に容易なので、近年は増えてきた。しかし場所は、遠浅の地域に限られる。九十九里浜の近くなどだ。このあと数年間は急増する見込みだが、その先は頭打ちになりそうだ。
 浮体式は、技術的には難しかったが、場所の制約がない。地形の険峻な日本海側でも設置しやすい。陸地から離れた沖合にも設置しやすい。条件的には有利なので、将来的にはこれが風力発電の大部分を占めそうだ。日本のまわりをぐるりと風力発電の風車が囲んで林立することになりそうだ。


youjo.jpg


youjo.jpg


 ※ あとで気づいたが、次の参考資料もある。
   → 洋上風力発電に関する国内外の動向等について 資源エネルギー庁



 【 関連動画 】








 
posted by 管理人 at 22:20 | Comment(11) |  太陽光発電・風力 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 [ 付記 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2024年08月07日 08:43
風力発電が今後伸びそうだということで安心しました。秋田なら台風の心配は少ないですね。最後の動画を見て気づきましたが設備が国産ではないのですね。これが政府が本気にならない理由なのでしょう。あるいは政府が本気でないから国産ができないのでしょうか。そんなハイテクとも思えないのに不思議です。風力は農業とも競合しないし、夜中でも発電できるのでぜひ進めてほしいと思います。
 風車が細くてゆっくり回っているのはバードストライクを少なくするためでしょうか。中のシャフトはもっと早く回っているのでしょうね。
Posted by ひまなので at 2024年08月07日 09:41
いつも通りデータなしで申し訳ありませんが、次のことが気になっています。デンマークやカリフォルニアでみた風車はもう少し早く回っていた感じです。日本のは非常にゆっくりです。これは台風などを考慮してわざと風車を小さくしているからでしょうか。それとも私の思い違いでしょうか。
 風力エネルギーを有効に使うのならもう少し早く回るように設計したほうが良いと思います。
Posted by ひまなので at 2024年08月07日 20:27
 私が推定したことが、そのままネットで記述されていたので、以下で転載する。

 ──
Q 風力発電の回転数ってどうして遅いんですか?

A 確かに高回転の方が電力は多く作れますが、回転物にはベアリングとかオイルシールとかの摩耗部品が付いています。
 高回転だと寿命が短くなるので低回転で風車は回ります。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1072531860

 ──

 寿命およびコスト。1機あたりの効率を考えるよりも、コストあたりの発電力を考えると、安価な部品を使って、長寿命にするのが、最もコスト安になる。
 効率を上げようとすると、高価な部品を使って、短寿命になるので、すごくコストが上がる。
Posted by 管理人 at 2024年08月07日 20:42
自然エネルギーっていくら利用しても問題ないものなんでしょうか?

太陽光発電が増えても地球温暖化にブレーキがかかるくらいであまりネガティブな印象はないのですが、日本海海上に風力発電が増えすぎると、冬に日本海から吹き付ける風が弱くなり、山脈にぶつかることによる降雪量が減るように思えます。
地熱発電が増えすぎればマグマの温度が下がることによってバランスが崩れるような気がします。

それに、雲の動きによって発電量の変動が予想できる太陽光と比べても、それこそ「風任せ」の風力は短期的な変動が大きく、需給バランスを取るのが大変なのではないでしょうか?
Posted by のび at 2024年08月07日 22:00
> 自然エネルギーっていくら利用しても問題ないものなんでしょうか?

 私もそれを考えました。
 その結論は:

 人間の作る風車の量など、あまりにも微々たる量なので、九牛の一毛ぐらいの影響しかない。地上の荒地が森林になる方が、よほど風への抵抗となる。
 そもそも、地上の空気抵抗など、たかが知れている。大部分の抵抗は、地球の厚い大気団のなかで生じており、空気と地面との間の摩擦などはほとんど影響しない。

 地球の空気の流れを もたらすのは、熱帯と寒帯との温度差から生じる対流だ。ここから生じるエネルギーはあまりにも巨大であり、人類が消費するエネルギーなどまるで無視できるぐらいの巨大さだ。ゴジラよりも、さらに圧倒的な巨大さだ。だから、偉大な大自然の前では、人類の影響などは、考えなくてもいい。

> 「風任せ」の風力は短期的な変動が大きく、需給バランスを取るのが大変なのではないでしょうか?

 太陽光発電に比べると、昼間と夜間との差は小さくて、一日の変動は小さい。大局的には、なだらかで小幅の変動となる。
 短時間では、細かな変動が生じるが、それは変動の幅が小さいので、火力発電で対応できる。
 小規模の範囲だと、変動を吸収するのが大変だが、多数の風力発電を結んで、多数の需要で吸収すれば、風力発電の変動を吸収することはできる。
 前に、欧州の風力発電の「一日の発電量の変動」を見たが、たいした変動にはなっていない。
 複数を合計すると変動が小さくなる、というグラフは、下記にも見られる。
  → https://sgforum.impress.co.jp/article/1386
 たった 12個でも、これほどにも安定する。各地の合計で、数百個の風車の合計を取れば、さらに安定する。いくらか変動があっても、火力発電で十分に吸収できる。

 将来、EV が普及すれば、その蓄電池を使って、リアルタイムに変動を吸収できるだろう。その意味では、EV 蓄電池は、きわめて高品質なので、火力発電よりも高額で買い上げるといいね。


Posted by 管理人 at 2024年08月07日 22:42
台風等の強風時、また落雷で羽根が破損する問題が解決されたのか、気になるところですね。
Posted by 港北 at 2024年08月10日 18:54
 台風対策は、羽根(ブレード)をたたむことで解決しそうです。それが無理でも、動かさずに固定する。
 洋上風力なら、全体を水没させるという手法もある。海面上で塔を倒して、羽根を水面に寝かせる、という手もある。

 落雷は、あくまで確率的な問題だから、破損の確率はかなり低い。避雷針を付けておけば、ほぼ OK。
Posted by 管理人 at 2024年08月10日 19:11
京都の太鼓山風力発電所は落雷の被害が多く、追加で避雷針の鉄塔を建てる必要があったりして不採算になり廃止となった経緯があり、意外と落雷の対策も重要でないかと思ったのでした。

もしかしたら最近の風車は以前よりも落雷の対策が進んでいるのかもしれませんね。
Posted by 港北 at 2024年08月11日 15:32
 太鼓山風力発電所は、2001〜2020年。風力発電の設計寿命は 20年なので、寿命をまっとうしたようです。

> 平成25年3月の風車落下事故により発電を停止し、原因究明後、再発防止策をとった上で、平成26年2月から3基で運転を再開していましたが、令和2年3月をもって運転を終了しました。
https://www.pref.kyoto.jp/koei/denki_50.html

 運転停止期間が 11カ月あったので、その分、短くなった。それだけだ。

 この場所は、ここ。
  → https://x.gd/AN85I
 日本海に近い険峻な山地の山稜部だ。落雷銀座みたいなところ。わざわざ落雷の多いところを選んで設置した感じだ。
 
 落雷対策は、落雷の多い場所を避けるぐらいかな。


 p.s.
 落雷の頻度マップ
  https://www.franklinjapan.jp/network/jldn-map/
 日本海側では、敦賀・丹後で落雷が多めだ。これは冬場の西風のせいだろうと推測したが、やはりそうだった。

> 冬場の雷の多発や乱流によって稼動日数が稼げず、
 http://www.kokuta-keiji.jp/cat1/post_2134.html

> 複雑な日本海の風力や落雷による故障などが相次ぎ計画した発電量が得られず、
  https://x.gd/KNRFx

 場所の選定で大失敗したようだ。  

 最近は陸上風力は設置しにくくなっているから、洋上発電のことだけ考えればいいかも。
 本項記載のグラフでも、陸上風力の伸び率は高くない。
 
Posted by 管理人 at 2024年08月11日 16:34
ご教示感謝です。

落雷の問題は羽根部分に落雷時の対策を持たせることくらいでしょうか。アースは海水だから問題ないでしょうね。

洋上風力が増加した場合、いずれは船舶の通行の妨げになる問題が出てくるのではないでしょうか。船の方から邪魔で困るとの苦情が出たりとか、船舶の運行の多いところでは設置は難しいですよね。
Posted by 港北 at 2024年08月12日 14:53
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