2024年08月05日

◆ 再エネ賦課金をマイナスにせよ

 消費者は「再エネ賦課金」を毎月取られているが、この額をマイナスにするべきだ。(取られるかわりに、もらえる。)

 ──

 消費者は「再エネ賦課金」を毎月取られている。「太陽光発電は火力発電よりも高コストだから、その高コストの分を消費者が負担するべきだ」という趣旨。

 しかし、これはおかしい。「太陽光発電は火力発電よりも高コストだ」という前提は、もはや成立しなくなっている。前々項で示したグラフを再掲しよう。


pow-g3.jpg


 おおむね、kWh あたり 11円〜20円という価格になっている。これが火力発電の発電コストだ。一方、太陽光発電の買い取り価格は、この時期に(メガソーラーだと) 10円前後だった。つまり、太陽光発電の発電の電力コストの方が、火力発電の電力コストよりも、低い。ならば、再エネ賦課金はマイナスになるはずだ。
 理屈ではそうなるはずなのに、消費者から高額の金を巻き上げるのは、不当である。これでは東電ばかりが金を盗み取ることになり、消費者は大損だ。
( ※ 太陽光発電の事業者にとっても、買い取り価格が低いので、彼らも損をすることになる。この観点は、前項・前々項で述べた。一方、本項では、消費者の観点から、再エネ賦課金に着目した。)

 ──

 再エネ賦課金は、どうしてこういう歪んだ価格設定になっているのだろう? 疑問に思って、制度を調べると、次の文書が見つかった。
 → 24年5月以降「電気代が跳ね上がる」深刻な理由、裏にある政府の“愚策” 連載:「エネルギーの疑問にお答えします。」|Seizo Trend

 再エネ賦課金の価格決定の仕組みは、おかしなことになっているとわかる。比較対象は、火力発電の発電コストでもなく、電力の市場価格(販売価格)でもない。では何かというと、電力卸売市場の価格である。
 少し専門的だが、再エネ賦課金は下の方法で決められている。
  (図:省略)
 (1)買取費用等およそ4兆8,000億円は、FIT制度でより高い値段で再エネ電気を買うための全体の費用で、それを(3)販売電力量(買い取ってもらう発電量およそ7700億kWh)で割れば、賦課金の額が出るように思うかもしれない。しかし、実際には(2)回避可能費用等という電力卸売市場(FIT電力は全量市場で売られる)での売り上げで回収される分がある。そのため、(2)を引いたものを(3)で割ることで賦課金単価が求められる。

 電力卸売市場というのが曲者だ。ここでの取引価格で、再エネ賦課金の額が決まる。

 以下、三つの問題がある。(A)(B)(C) で示そう。

 ──

(A)電力卸売市場

 電力卸売市場(JEPX)というものがある。そこにおける取引価格は、下記でわかる。
  → スポット市場 | 市場情報 | 電力取引 | JEPX

 これで「月平均」の推移を見ると、12円〜16円のことが多いとわかる。しかし、その数字には意味がない。
 もう少し詳しく知るには、一日の価格変動を見る必要がある。その具体例は、下記の二つだ。


8月02日
jepx0802.jpg


7月30日
jepx0730.jpg


 いずれも、夜間(夕方〜23時)の電力価格が高い、とわかる。
 つまり、価格が高いのは、太陽光発電がなくなったあとの、火力発電の取引価格だ。夏の夜には、電力需要が多大にあるのに、太陽光発電の供給がない。だから、需給が逼迫して、取引価格が上がる。(20円〜30円。)

 一方、昼間には、太陽光発電の供給が多大にある。だから、価格は下がる。(12円ぐらい。)

 なお、最近ではこのような高価格だが、他の時期には違う。
  ・ 数年前では、価格はもっと低かった。(高騰前)
  ・ 春秋では、価格はもっと低い。(オフシーズン)

 両方が重なった時期として、2021年の4月のデータを見ると、昼間でも5円程度の低価格であるとわかる。この時期には、市場価格の方が、FIT の買い取り価格よりも、大幅に低い。だから、再エネ賦課金の意義はある。
 一方、現時点では、JEPX の価格は、FIT の買い取り価格よりも、かなり高い。こうなると、再エネ賦課金はマイナスにするべきだ、という結論になる。

 ※ ただし、夏だけなので、秋冬は事情が異なる。

(B)ペテン
 
 再エネ賦課金の制度を見ると、根本的におかしい、とわかる。
 この制度の趣旨は、こうだ。
 「発電コストは高いのに、電力の販売価格が低いと、発電事業者はコスト割れになる。だから、コスト割れになる分、その赤字の分を、消費者が負担する」

 これは、もっともらしいが、巧妙なペテンだ。なぜなら、正しくは、次のようになるからだ。
 「発電コストは高いのに、電力の販売価格が低いと、発電事業者はコスト割れになる。だから、コスト割れになる分、その赤字の分を、消費者が負担する。と同時に、卸売市場の価格が低下した分、電力の導入コストが低下するから、消費者の払う額は値引きされる。差し引きして、消費者の払う金ともらう金は相殺するので、消費者は1円も払わなくていい」

 これはどういうことか? 
 上の (A)のグラフで見たとおり、昼間の JEPX の価格は下がる。しかしこれは、太陽光発電の供給があったから、下がった価格だ。この低い価格を基準にして、太陽光発電の市場価格を決めるのは、不当だ。むしろ、「太陽光発電がなかった場合」にあたる、「夜間の価格」こそが、本来の市場価格であるべきだ。
 この「本来の市場価格」に対して、太陽光発電の供給があると、JEPX の取引価格は下がる。
 それでも、その価格(12円)が、発電コスト(9円)を上回るようであれば、再エネ賦課金は必要ないはずだ。(赤字でなく3円の黒字になるからだ。)……これは、上の (A)で述べた通り。
 一方、その価格(5円?)が、発電コスト(9円)を下回るようであれば、再エネ賦課金は必要となる。しかしその分、市場からの買い上げコストは下がるから、再エネ賦課金で補填する分(4円)と、買い上げコストの下がる分(4円)とは、相殺する。だから、消費者は本来、再エネ賦課金を1円も払わなくていいはずなのだ。(電力価格の低下と相殺するからだ。)
 ではなぜ、そうならないのか? その理由は、こうだ。
 「JEPX の取引価格の低下で得た、電力コストの低下の利益を、消費者が得るかわりに、大手電力会社(東電など)が得ているから」

 つまり、本来は消費者が得るべき利益(太陽光発電の発電コスト低下で得る利益)を、消費者が得るかわりに、東電が盗み取っているのだ。
 ※ 前項では、「太陽光発電の事業者が得るはずの利益を、東電が盗み取っている」と示した。本項では、「太陽光発電から消費者が得るはずの利益を、東電が盗み取っている」と示す。

 ともあれ、(A)で示したように、昼間の電力価格は下がっている。その価格低下は、太陽光発電による価格低下だ。とすれば、その価格低下の利益は、太陽光発電の事業者と消費者が得るべきだ。なのに、ここでまったく無関係の東電が介入して、太陽光発電の事業者と消費者が得るべき利益を、勝手に盗み取ってしまうのだ。自分は化石発電と原子力発電をしているだけなのだから、太陽光発電による利益を得る資格はないのだが、横から手を差し出して、その利益をすべて盗み取ってしまうのだ。
 そのための仕組みが「 JEPX を通じた価格決定による再エネ賦課金」という制度だ。この制度によって、太陽光発電の事業者と消費者は、大幅に金を奪われる。その分、東電が不当利益を得る。

(C)発送電の分離

 このような問題が起こることの根源は何か? それは、次のことだ。
 「電力の販売会社である送電会社と、電力の製造会社である発電会社とが、分離されていない。送電会社は東電だが、同時に、火力発電や原子力発電の発電会社も東電である。そのせいで、電力の売り手と買い手が同一であることから、電力市場における価格を自由に操作できる。卸売電力の価格を勝手に上げたり下げたりすることができる。こうして、勝手な市場操作を通じて、電力の買い取り価格を不当に引き下げて、差益を奪うことができる」
    ※ 発電会社が供給を操作して、価格を上げ下げしたあとで、送電会社が、市場価格の変動による利益を得る。両者が一体化していることで、市場操作を通じた不当利益を得ることができる。

 これに対する解決策は、こうだ。
 「発送電の分離。発電会社と送電会社を分離する。市場における売り手と買い手を分離する。そのことで、市場における価格の操作を阻止する」
 このようにすれば、市場価格の操作はできなくなるので、東電が金を盗むことはできなくなる。

 具体的に言えば、最も自然な形で、次のようになる。
 「1日の価格変動はきわめて小さくなる。火力発電の ON・OFF や、EV の蓄電池による充電・放電や、スマートメーターによる電力価格の変動制導入によって、需給の調整を最適化するので、1日の価格変動はきわめて小さくなる。昼間は太陽光発電があるので、14円ぐらい。夜間は、現状では 20〜30円ぐらいだが、これが 17円ぐらいまで下がる。つまり、一日の変動が 14〜17円に収まる」
 こういうふうに、1日の価格変動がきわめて小さくなる。現状では、(A)のように、きわめて大きな価格変動があるのだが、発送電の分離が実現すれば、このような大きな価格変動はなくなるはずなのだ。つまり、需給の調整はきわめてうまくなし遂げられるはずなのだ。
 ※ 「需給調整契約」によって需要を減らすこともできる。

 ──── 

 (*)結論

 現状の再エネ賦課金はおかしい。消費者は金を取られるばかりだが、本来ならば、この金額をマイナスにして、消費者は金をもらえるようにするべきだ。
 なのに、そうならないのは、消費者が得るべき金を、東電(などの大手電力会社)が、盗み取っているからだ。
 その盗み取るための制度が、電力卸売市場(JEPX)を利用した再エネ賦課金だ。この制度は、太陽光発電の事業者と消費者が得るはずの利益を、東電が勝手に盗み取るためのシステムとなってしまっている。
 この問題を回避するには、「発送電の分離」をすればいい。



 [ 付記1 ]
 「発送電の分離」をすればいい。ただし、東電から金をもらっている自民党が、気乗り薄なので、実現の見込みはない……という話は、別項で示した。
  → 発送電の分離が進まないわけ: Open ブログ

 ここでは記さなかったが、一方、本項では重要なことを示した。こうだ。
 「発送電の分離をしなければ、市場における売り手と買い手が同じになるので、市場価格操作できる。市場を操作できる」
 これは明白な独禁法違反とも言えるのだが、政府が公認してしまえば、市場価格を操作することも許されてしまうのだ。

 なお、市場価格を操作すると、莫大な利益を得ることができる……というのは、ロックフェラーが示した。世界の石油生産の大部分を、ロックフェラーの系列会社が独占して、石油価格をつり上げて、巨万の富を形成した。……という話は、下記で。
  → 武力と平和主義 .余話: Open ブログ

 [ 付記2 ]
 現状ではどうか? 「市場操作をする」ということになるが、これがわかりにくいかもしれないので、解説しておこう。
 昼間は太陽光発電が増える。このとき、火力発電の発電量を絞れば、需給は均衡するので、価格はとくに上がりも下がりもしない。火力発電の発電コストと同等の価格で決まるはずだ。
 しかし、ここで電力会社(発電会社)が、過剰に火力発電を増やす。すると、卸売市場では価格が暴落する。その暴落した価格で、電力会社(送電会社)が太陽光発電の電力を購入する。不当に安い価格で購入することができるわけだ。
 このとき、発電会社は火力発電の売上代金が減るので、かなり損を出すことになる。しかし、それ以上に、太陽光発電の電力の購入量が激減するので、送電会社は大幅に儲けることができる。
 モデル的に言えば、こうなる。
  ・ 発電会社 …… 売上減少で 1000億円の損
  ・ 送電会社 …… コスト減で 5000億円の得

 ここで、発電会社と送電会社が別々ならば、発電会社が(損するので)イヤがるから、そのようなことは起こらない。
 しかし、発電会社と送電会社が同じならば、損と得を合体することで、「差し引きして、4000億円の得となる」という帳尻になる。だから、発送電の分離がなされていないと、電力会社は大儲けすることができるのだ。「市場の操作」を通じて。(一方、その分、太陽光発電の事業者と消費者は損をする。市場を通じて、利益を盗まれる。)
 
 ※ これは本来ならば独禁法違反だが、政府公認ならば合法だ。
 
 [ 付記3 ]
 「東電が金を盗んでも、利益が増えた分、電力価格の上昇が抑止されるから、消費者はあまり損しない」
 という解釈も成立する。なるほど。そうかもしれない。消費者の分は、電力の価格の認可の時点で、調整できそうだ。
 しかしながら、太陽光発電の事業者の損失の分は、補填されない。太陽光発電の事業者は、利益を奪われる。その分、太陽光発電の促進が損なわれる。かくて再エネの推進が進まなくなり、日本は亡国政策を取ることになる。
 
 [ 付記4 ]
 発送電の分離がなされないことによる市場操作は、夜間電力についても行われる。夜間電力がやたらと高額になることがあるのは、東電があえて市場を操作して、価格をつり上げているからだ。
 つまり、発電会社が供給を絞って、供給不足にして、市場価格をつり上げる。そうすると、(弱小の)新電力は、市場から馬鹿高値で買うしかなくなる。東電は市場操作で莫大な不当利益を獲得できる。
 これが、以前の電力危機のときに起こったことだ。前に説明したことがある。
  → 電力の不足への対策: Open ブログ の (4)

 ※ どうしてこうなるのか、という原理的な説明と、対策を示している。いずれも、本項で述べたことと共通する。



 【 関連項目 】
 再エネ賦課金についての過去記事がある。

 → 再エネ賦課金の謎: Open ブログ
  ※ 「家庭用の太陽光の買い取り価格は、とても高い。ここに多額の補助金がつぎこまれる。だから、再エネ賦課金をいっぱい取られるハメになるのだ」という話。

 → 再エネを抑制する政策: Open ブログ
  ※ 再エネ賦課金は「太陽光発電の事業者からは金を奪い、火力や原子力発電の事業者には金を与える」という制度となっている……という趣旨。

posted by 管理人 at 23:38 | Comment(5) |  太陽光発電・風力 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  [ 付記3 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2024年08月06日 11:38
発送電分離は法的には実施されたのですが、グループ会社として実質的に一体である状態はあまり変わっていない感じです。
https://www.fepc.or.jp/enelog/common/pdf/vol_42.pdf

地域独占が緩和されたため、各地域の大手電力会社が他地域で営業かけるようなことは進みつつあります。でも「賦課金」のような美味しい話は、そう簡単には手放さないんでしょうね。
Posted by けろ at 2024年08月06日 20:49
> 実質的に一体である状態

 その件は前に説明しました。
 引用:

 「親会社と子会社という形で、形式的には分離しているが、実質的には同じ会社だ。いわばトヨタとダイハツの関係だ。」
  http://openblog.seesaa.net/article/499799292.html
Posted by 管理人 at 2024年08月06日 21:15
  [ 付記4 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2024年08月06日 21:27
 「実質的には同じ会社だ」
 という点からして、何のためにこんなことをやっているのか、わからなくなる。何のためか? 

 それは、「発送電をやっています」と、見せかけるためだ。つまり、国民を欺くためだ。やっていないのに、やっていると見せかける。国民をだます。詐欺の一種だ。
 政府による詐欺が、この方針の目的だ。やったフリ詐欺。自民党がよくやるやつ。「実質骨抜き」という手法。
Posted by 管理人 at 2024年08月07日 10:58
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