全固体電池があれば、充電用に 400V の給電は不要となる。
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前項では、400V の給電の必要性を考察した。結論的には、是とも非とも決められない、曖昧なものとなった。
ただし、そこでは前提がある。現状のようにリチウムイオン電池を使う、という前提だ。
一方で、全個体電池 というものもある。現在開発中のもので、リチウムイオン電池の次世代に来ると目されている。これは、各種の性能が優れているが、特に「充電時間が短い」というメリットがある。時間にして3分の1の時間で済むそうだ。
→ https://x.gd/g5aiO
電力の公式に当てはめると、電力は
E・I = E2/R
で示せるから、全固体電池では内部抵抗が3分の1であると考えられる。その分、(同一電圧に対して)流れる電流量が増えるから、充電時間が短くなるわけだ。
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ともあれ、全固体電池を使えば、充電時間は3分の1で済む。技術開発が進めば、4分の1で済む。とすれば、これは電圧を 400V にしたのと同じ効果があることになる。
つまり、電圧を 400V にしなくとも、リチウムイオン電池を全固体電池に置き換えるだけで、同等の効果をもたらせるわけだ。つまり、日本の太陽光発電の全電力を、EV の充電池に充電することができる。(現状の単相 100V・三相 200V の送電設備のままで。)
こうして、「全固体電池があれば、400V の給電は不要だ」という結論が得られた。
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ところが、である。話はこのあと、一転する。
上の話には、一つだけ問題がある。現状の送電網では、大量の電流を流すには不足しかねない、ということだ。40kWh を4時間で充電するとしたら、1時間で 10kWh になる。この分の電力需要が、現行の需要に上乗せされる。
現行の需要はどうか? 契約電力が 40A〜60A (4kW〜6kW)であることが多いので、夏場の最大電力は平均して 2〜3kW だろう。その4倍ぐらいの電力需要が新規に上乗せされることになる。その分、送電網の負担は大きくなるので、送電網を拡充する必要がある。
ただし、これはもともと不可避なインフラ投資である。太陽光発電の電力を導入する限りは、1日の電力供給のピーク時には、現状の4倍ぐらいの電力供給をする必要が生じるからだ。
さて。このように新たに送電網を新規に拡充するとしたら、その送電網は、100V である必要はない。どうせ送電網を大幅に拡充するのであれば、その送電網は 200V または 230V であってもいいはずだ。三相ならば 400V となる。
というわけで、この場合には、400V の送電網の配備は、コストゼロで実現できるのだ。どっちみち 100V の送電網を新規拡充するのであれば、その新規拡充する送電網の規格を、100V から 200V に変更するのは、コストゼロで実現できるからだ。(細かく言えば、若干の違いはあるだろうが、無視できるぐらいの少額の差だ。)
結局、全固体電池を使えば、400V は必要ない。400V は、なくても済む。
一方で、400V は、タダ同然で導入できる。莫大な費用がかさむかと思ったが、現実には、(どっちみち莫大な送電網の拡充が必要なので)、100V から 400V への変更(または追加)は、タダ同然で実現できるのだ。
タダ同然! どうせタダなら、もらう方がいい。お得である。ゆえに、400V の導入は、やった方がよさそうだ。
特に、そのことで付加価値が付けられるので、高い料金を徴収できるようになり、送電網の配備が滞りなく進みそうだ。そういうメリットもある。
[ 付記 ]
感想を述べよう。
前項を書いたときは、400V の導入にはいろいろと障害があって、なかなかうまく進みそうにないと思えた。「太陽光発電をすべて EV に充電する」という目標は、実現があまり容易ではなさそうだと思えた。
しかし、全固体電池を使えば、実現は容易だと判明した。
さらには、400V の導入も、実際には障害がまったくないと判明した。
あれやこれやと問題が一挙に解決したので、「太陽光発電をすべて EV に充電する」という目標は、実現がとても容易だと判明したことになる。
うまくやったね。困ったときの Openブログ。祝杯でも挙げるか。
※ 以下は読まなくてもいい。
[ 補足 ]
文中では「夏場の最大電力は平均して 2〜3kW だろう」と述べたが、その理由は、以下の通り。
まず、契約電力については、次の情報がある。
一般に、一人暮らしや夫婦世帯であれば30〜40A、子供や同居人が複数の家庭では40〜60Aが目処とされます。
40〜60A というが、60A を契約したからといって、60A を常にフルに使うわけではない。すべての部屋でエアコンを使った上で、IH調理器 で調理用に 12A の電力を使い、掃除機でも 12A の電力を使い、ヘアドライヤーでも 12A の電力を使う……というようなことも考えられる。そのピーク時が 60A であるから、ならせば最大でも 40A ぐらいであることになる。契約電力の枠全体を常に使うわけではないのだ。
これは 60A の家庭の場合だが、他の家庭は 30A〜40A のことも多いだろうから、数値はもっと小さくなる。かくて、「夏場の最大電力は平均して 2〜3kW だろう」と推定する。(おおざっぱに。)
【 追記 】
数字を訂正する。
文中では電力需要について「4倍ぐらい」と試算したが、これは、家庭用電力の分だけであって、産業用電力の分を勘案していなかった。産業用電力の分も含めて計算すると、4倍でなく、2.5倍になる。理由は下記。
0.5×4 + 0.5 = 2.5
というわけで、文中の「4倍ぐらい」という数値は、正しくは「2.5倍ぐらい」と訂正するべきだ。
ただし、話の全体の趣旨は間違ってはいないので、ここで修正の話を追記するだけに留めておく。(話が間違っているというより、他にも考慮する点がある、というだけのことだ。)
https://www.tepco.co.jp/pg/consignment/system/pdf_new/akiyouryou_kikan.pdf
送電電圧は高いほど電流が少ない(=抵抗が少ない=送電ロスが少ない)ので、超高圧から、需要地に近づくにつれて電圧を下げていきます。そして変電所から各需要家への配電網も、東電であれば6600Vです。
家庭での使用電圧はかつては100Vでしたが、現在は電磁調理器やエアコンなどの普及により200Vのものも増えました。工場などでは400Vで使用しているところも少なくないので、今でもやればできます。
課題は、数多の柱上変圧器を全部交換していかなくてはならないということですね。都市ガスのガス種切替と同様、数年かけて徐々に切替していくことになるでしょう(しかも、従来通りの100V-200Vも一定期間は生かしておく必要があるでしょうし)。
高圧線の電圧は今のままでもいいが、都市部の昼間電力のピークが4倍ぐらいになりそうなので、それにともなって、送電網の電流も4倍ぐらいに増えます。都市間では2〜3倍で済むかもしれないが、都市内部では需要の4倍増に合わせて、送電網も4倍増の電流増加に対応する必要がある。そのためには電線も変圧器も4倍増にする必要がある。(本数でなく容量で。)
このとき、変圧器も4倍増にする必要があるが、そこで増設するときに、100V 向けでなく 400V 向けの変圧器を増設することにするなら、増設する分の電圧の変更分はほぼタダで済む、というのが、本稿の趣旨。どっちみち 100V 向けに大量増設するはずなのだから、それを 100V から 400V に変更しても、変更分の価格は少しで済む。
> 数多の柱上変圧器を全部交換していかなくてはならないということですね。
違います。現行分はそのまま残します。それとは別に、追加で大幅に増設する必要が生じます。
> 数年かけて徐々に切替していく
切り替えではなく、増設です。
必要な時間は 20年あるので、ゆっくりと少しずつやれば足りる。また、田舎の僻地では、やらなくてもいい。都市部だけでやれば十分。
10kWhということですね。
現在の普通充電器が3.2kWh、倍速が6.0kWhですから3倍速といったところでしょうか?最初は4倍と言っていた気もしますが…まあいいでしょう。
10kWの電力を100Vで受けるなら100A、400Vで受けても25Aとなります(交流だから力率が…という話があると思いますが置いておきます)
現在60Aの契約をしている人は、ピークが50Aでは足りないと思って契約しているわけです。
そこに最大で25Aを4時間も受けるEVが加わったら、契約を上げる余地がないですね。
太陽光が主力になり、夜間電力がバカ高くなり、かつ昼間の出先で十分な充電ができない未来においては
1.昼間EVで出かけなかったため充電できるはずが、エアコン等で電気を使っているので十分な充電ができない
2.昼間EVで出かけて出先に充電器がなかったので充電できなかったのに、家の電力を賄うためにEVに充電ではなく、V2HでEVから家に放電しなければならない
3.翌日EVで出かける予定があるので、EVへの充電を優先し、前夜はバカ高い電力を買わなければならない
といったことが生じそうです。
職場、出先などで昼間に十分な充電ができる未来が来れば、2.や3.は気にする必要がなくなります。
その場合、職場のような長時間滞在が前提なら普通充電器で十分、移動中なら急速充電器が必須です。
かたくなに4時間充電にこだわっていますが、どうして「南向きに加え、西向きの太陽光パネルも大幅に増え、昼間8時間くらいは電力が余る未来」は考えないのですか?「普通充電器と急速充電器の中間が有用」という自身の意見が覆ってしまうからですか?
ご指摘ありがとうございました。本文中の記述を修正しました。 ( h を付けた。)
> 普通充電器で十分
それは本項でも説明済み。全固体電池で足りる。
> 「南向きに加え、西向きの太陽光パネルも大幅に増え
否定していませんよ。そもそもそれは私が最初に唱えた話だし。
それはそれで、別途、やってもいい。しかしそれをやっても、昼間の大量の余剰電力を充電するには、送電網の拡充が必要だ、という話。
私の問題提起は、
・ EV の充電池だけで足りるか
・ 他にボトルネックはないか
という二点について、問題を調べること。その解答が、前項と本項にある。
※ 以前とは結論が変わっているので注意。以前は「ボトルネックがある」だったが、本項では「ボトルネックがない」に変わっている。
普通の商売と同じです。電気を売って、経費をまかないます。
需要が増えたら、増えた需要の分だけ、設備も増やせばいい。需要が増えれば、増えた需要で経費をまかなえます。
電気の販売量が2倍になれば、電気の設備も2倍にすればいい。当たり前の話。
一方、需要が増えないまま、設備だけをやたらと何倍にも増やせば、赤字になります。経費をまかなえないからです。
こんなことは経営のイロハ。誰でも知っている。
周波数調整の課題も、どのくらい認識されていますでしょうか。太陽光のような変動の大きな発電設備と、小容量で大量分散している電源(EV)をうまく操って、周波数変動を一定以下にしなければなりません。日本って、結構シビアなんですよね。昔と違って、停電も大目に見てもらえませんし。
基本周波数も、未だに西日本60Hz東日本50Hzですが、もうどうしようもない感じです。
そりゃ、簡単には行かないでしょう。規模が 3倍ぐらいに増えるんだから。
しかし、規模が3倍に増える分、売上げも3倍に増えるんです。売上げが増えなければ、費用負担は大変だが、売上げが同じだけ増えるなら、費用負担は難しくありません。単に投資用の資金を得るだけの問題だ。
これは、投資や経営の問題であって、技術の問題ではありません。設備投資をして、事業規模を増やす。それも、二十年がかりで3倍にする。そういう事業計画の問題です。
別に何かを変えるわけじゃない。単に増設するか否か、というだけの問題だ。
そのために必要なのは、肝っ玉だけだ。しかるに、日本の為政者には、肝っ玉がない。だから日本は世界のなかで、再エネ推進に脱落する。一方、欧州人は肝っ玉があるから、再エネ推進を実現した。EV 推進も実現した。トヨタや日産やホンダは、落伍した。
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※ なお、話を誤読しているようですが、簡単に済むのは「100V 用を 200V、400V 用に変更する」という部分のみです。100V 用を大量配備する分は、簡単ではありません。しかしそれはどっちみち、必要なことだ。その話は、すぐ上の説明では書いたが、本項の考察の対象とはなっていません。本項の考察は、400V の導入であって、100V の導入ではありません。
参考記事:
→ ◆ 周波数統一のプラン: Open ブログ
http://openblog.seesaa.net/article/435848947.html