──
ビル・ゲイツの出資した会社だということで話題になっている。
カリフォルニア州サンノゼにあるSavorというスタートアップは、二酸化炭素を主とする炭素源に熱と水素を合わせることで、脂肪を作り出す試みをしています。Savorに投資しているビル・ゲイツ氏が、Savorの作るバターの価値や味見した偽バターの感想などをGatesNotesで語っています。
Savorは、「すべての脂肪は、さまざまな炭素と水素の化合物でできている」という事実からスタートし、動物や植物を介さずに同じ炭素と水素の化合物を作ることを目指しました。最終的に、空気から二酸化炭素を、水から水素を取り出し、加熱して酸化させ、脂肪酸の分離と脂肪の形成を引き起こすプロセスを開発しています。このプロセスでは温室効果ガスは一切排出されず、農地も使用せず、従来の農業に比べて1000分の1以下の水しか使用しません。そして、ゲイツ氏は「最も重要なのは、化学的に本物の脂肪であるため、味が本当においしいことです」と述べています。
( → 二酸化炭素と水だけでバターを作り出すことにビル・ゲイツが投資するスタートアップが成功、牛乳や肉なども製造可 - GIGAZINE )
味がどうのこうのと言っているが、味は問題ではない。問題は、変換効率だ。その変換効率は、著しく低いはずなので、この技術は詐欺だと言っていい。ユーグレナよりも、もっとひどいね。(詐欺の点で。)
──
炭素(C)と水素(H)から有機物を作るのであれば、メタン(CH4)、メタノール、エタノール、酢酸を合成するのが最も現実的だ。これよりもっと分子量の多い脂肪酸を合成するのは困難だし、非効率だ。やるだけ無駄と言える。(どうせやるなら、上記の物質から、化学的・工業的に脂肪酸を大量生産する方がマシだ。)
炭素(C)と水素(H)から、低分子化合物を経ないで、いきなり高分子化合物を作成する、というのは、大きなエネルギージャンプをなすことになる。それは、著しく非効率である。可能か否かと言えば、可能だろうが、効率がすごく悪いのだ。こんなことを狙うのは、科学の基本原理に反する。
これを信じたという点で、ゲイツは詐欺に引っかかった、と言える。
──
変換効率という点では、高分子を作るのは効率が悪く、メタンやメタノールを作る方がいい。蟻酸を作るというのもある。……このような手法は、「人工光合成」と言われる。
人工光合成については、前に詳しく言及した。そちらを参照。
→ ユーグレナもどき: Open ブログ
ここで述べたように、人工光合成では、(太陽光エネルギーからの)エネルギー変換効率で 5〜7% を達成している。この数値はかなり高い。なかなか有望な技術だと言える。特に、生産物が物質であって「保存可能である」という点は、太陽光発電によって生じる電力にはないメリットだ。(電力は保存可能ではない。蓄電池を別に要する。)
人工光合成に似たものとして、「太陽光発電によって作った電力で、水素を生産する」という手法もある。これだと、「太陽光発電でエネルギー変換効率 20〜30% の電力」によって、「水素生産のエネルギー変換効率 70%」を組み合わせて、14〜21% の変換効率を達成する。この数値は、人工光合成の3倍ぐらいの効率だ。それほどにも効率よく、水素を生産できるのだ。その水素を使えば、あとは容易にメタンでもメタノールでも作ることができる。(通常の化学的手法で。)
──
ただし、最も効率が高いのは、太陽光エネルギーを電力エネルギーに変換すること(太陽光発電をすること)である。この場合は、生産されるものは電子だ。水素のような分子を合成よりは、電子を生産することの方が、圧倒的に容易であるし、効率も高い。だから、エネルギー変換効率に着目する限りは、太陽光発電をするのが最も効率なのだ。それこそが、太陽から注がれるエネルギーを最も無駄なく利用できる。
一方、太陽から注がれるエネルギーを、メタンやメタノールの形に変換することは、かなり効率が落ちる。さらには、バターのような高分子の脂肪酸に変換すると、効率は著しく落ちる。
──
そもそも、炭素と水素から脂肪酸を作り出すというのは、既存の技術を使うだけで、すでに容易に実現できている。特に、石油や天然ガスに由来する一酸化炭素と水素を使うことで、メタノールが大量に合成される。ここからさまざまな有機物が次々と合成されていく。
ここで、最初の原料として、石油や天然ガスのかわりに、空気中の二酸化炭素を使う、というのが、冒頭の技術の目新しい点だ。
「空気中の二酸化炭素を消費することで、温暖化ガスの吸収に役立つ」
という触れ込みなのだろう。
しかし、これは、変換効率が著しく低い。そのせいで、大量のエネルギーを消費する。現実的に考えれば、こうなるはずだ。
「二酸化炭素を1グラム吸収するために、二酸化炭素を 100グラム発生させるのに等しいエネルギーを消費する。やればやるほど、二酸化炭素の発生量が 100倍も増えてしまう」(★)
たとえば、こうだ。
「二酸化炭素を1グラム吸収して、バターを2グラム作成した。そのために、水素 100グラムを作成するのに等しいエネルギーがかかった。そこでエネルギーを消費したせいで、太陽光発電の発電量が食われてしまったので、その分、化石燃料の発電量が増えた。かくて(発電のせいで) 水素 100グラムを作成するのに相当する二酸化炭素が排出された。つまり、二酸化炭素を1グラム吸収するために、水素 100グラムを作成するのに相当する二酸化炭素が排出されるようになった」
この例では、水素と二酸化炭素の関係が、上の(★)とは違っている。ただ、細かい点を除けば、だいたいの話はわかるだろう。
どっちみち、「少量の二酸化炭素を削減するために、その 100倍ぐらいの二酸化炭素を排出する」という結果になる。やればやるほど、無駄になる。
ただの詐欺だ。エコ詐欺。それに引っかかったのが、ゲイツだ。
ビルさんもとうとうヤキが回ったようですね。
> Savorは、「すべての脂肪は、さまざまな炭素と水素の化合物でできている」という事実からスタートし、動物や植物を介さずに同じ炭素と水素の化合物を作ることを目指しました。最終的に、空気から二酸化炭素を、水から水素を取り出し、加熱して酸化させ、脂肪酸の分離と脂肪の形成を引き起こすプロセスを開発しています。このプロセスでは温室効果ガスは一切排出されず、農地も使用せず、従来の農業に比べて1000分の1以下の水しか使用しません。
というところですよね。つまり、筆者の指摘する「エネルギー変換効率や温室効果ガス削減」という要素も意識しているのかもしれませんが、それらは二の次、いわばオマケで、この技術というかビジネスの狙い(の優先順位)は、@動物や植物を利用しない、A農地を使用しない、B水をあまり使用しない、ということではないでしょうか? 最大の狙いは、生物の力を介さずに、生物由来のものと遜色ない脂肪を量産する、ということです。
そこを外さずに、それ(@〜B)が技術的に本当に成立するのかどうか、さらには社会的に意義があるものかどうかを、考察していただきたい(批判するなら批判していただきたい)ところですね。
「変換効率こそを重視するべきである。@〜Bばかりに目を奪われるのは、主客転倒だ」という趣旨。
なぜなら、「このプロセスでは温室効果ガスは一切排出されず」というが、このプロセスの外側で、大量の温室効果ガスを排出することを見失っているからだ、ということ。
トヨタの燃料電池車に似ている。「このプロセス(FCV)では、水素を燃焼するだけであり、温暖化ガスを一切排出しません。究極のエコです」と主張する。だが、このプロセスの外では、水素生産のために莫大なエネルギーを消費するので、FCV は EV に比べて大幅に効率が悪い。
エネルギー効率という観点で見ないと、物事の本質は見えないぞ、という指摘。
> エネルギー効率という観点で見ないと、物事の本質は見えないぞ、という指摘。
⇒ そこのご指摘の部分については、まずは正しいと私も認めています。私が申し上げたのは、今回のビジネスは、「生物の力を介さずに、生物由来のものと遜色ない脂肪を量産する」ということですから、欧米人の宗教や文化に根ざした思想的なものが推進力となっているのではないか、その観点を外さないでください、ということです。
それがまったく馬鹿げたことだ、と文中で説明済み。
(1) 化学的・工業的方法で、すでに大量生産が実現済みだ。最初はメタノールやエタノールやアセチレンを作って、逐次的に分子を高分子化していけばいい。特殊なプロセスを経由する必要はない。一挙にやろうとすれば、高分子化の過程が複雑化して、変換効率が大幅に落ちる。
(2) 生物由来を否定する必要はない。植物のバイオマスを分解・合成して脂肪酸を作る手法がすでに成立している。マーガリンがそうだ。1箱 200円でマーガリンが製造されているときに、今回のプロセスで1箱 20万円のバターを作っても、何の意味もない。製造効率を考えないのは、ただのペテンだ。
──
効率というのは、コストに相当する。これを無視すれば、超高額の商品しかできないので、意味がない。
ゲイツはちゃんと説明するべきだった。「今回の方法が成功すれば、将来は二酸化炭素化から大量のバターを生産できます。ただし 100グラム1万円で」と。「なお、今回の試作品は、1グラム10億円ぐらいかかりました」と。
その価格を言わないのでは、ただの詐欺師だね。
> それがまったく馬鹿げたことだ、と文中で説明済み。
⇒ それが一つの価値観に頑固にとらわれている説明だと言っているんですがね。ただし、私は、それらの価値観のどちらが正しいかには言及していません。
マーガリンの主原料の植物油脂で脂肪酸を作るのがイヤだ、という思想なんでしょうね、たぶん。筆者(管理人さん)のいわれるとおり、将来的に100グラム1万円にしかならない、のかもしれませんが、それで十分だという見識なんでしょうね、たぶん。
これがぺてん、詐欺師という可能性もありますが、現時点では1グラム10億円とも、100グラム1万円とも当事者が言っていないなら、厳密にはぺてんや詐欺ということにはならないのでは? 逆に、相手が言ってもいないことを言っているかのように、勝手な数字をあてはめて弁じることこそ、歪曲、ねつ造、でっち上げですよね?
仮に、1グラム10億円とか、100グラム1万円と言われた上でビル・ゲイツ氏が資金提供したとしても、それは彼の自由・勝手ですよね。効率という概念がわかっていないのでもない。変な思想、宗教的なものにとらわれているとは評価されるかもしれませんが、論考・批判するならそこで、ぺてん・詐欺とは(今得られている情報では)関係ありません。
その点、トヨタの FCV は、自分で自分をだましている。これは、詐欺ではなくて、ただの愚かさです。自業自得。
※ ゲイツのバターの話は、詐欺師というよりは、ホラ吹きという方が正確ですね。
> ゲイツが詐欺師なんじゃなくて、ゲイツは詐欺師に引っかかって大金を支払っている立場です。
⇒ ですから、ゲイツ氏について、「1グラム10億円とか、100グラム1万円などと言われた。それで大金を提供させられた」という具体的な根拠がない以上、それは、勝手な数字をあてはめて弁じた、歪曲、ねつ造、でっち上げのたぐいです。
Posted by 管理人 at 2024年07月20日 22:17
> ゲイツが詐欺師なんじゃなくて、ゲイツは詐欺師に引っかかって大金を支払っている立場です。
⇒ ですから、ゲイツ氏について、「100グラム1万円になるかもしれないが、できることはできる。あるいは、その逆に、将来的には100グラム数百円にはなるかもしれない、といわれた。それで大金を提供させられた」等々という具体的な根拠がない以上、それは、勝手な数字をあてはめて弁じた、歪曲、ねつ造、でっち上げのたぐいです。
製品の試作品を作るとき、何らかのダミー部品を仮に置くことがある。「最終的な完成品はまだできていないので、とりあえずダミー部品を置いておきますね」と。
それがダミーであることは誰もが合意している。
なのに、かわっこだっこさんは、文句を言う。
「このダミー部品が最終的な製品でも使われる保証を出せ。そうでないのにダミー部品を置くのは、けしからん。偽物をとりあえず仮の形で置くのは、歪曲、ねつ造、でっち上げのたぐいです」
> その数字はただのサンプル例であって、何の根拠もないのは、読めばすぐにわかるでしょ。(中略)
> なのに、かわっこだっこさんは、文句を言う。
「このダミー部品が最終的な製品でも使われる保証を出せ。そうでないのにダミー部品を置くのは、けしからん。偽物をとりあえず仮の形で置くのは、歪曲、ねつ造、でっち上げのたぐいです」
⇒ おやおや、本文中の GIGAZINE の記事に対してだけでなく、今度は私のコメントに対しても、歪曲、ねつ造、でっち上げですか。別に私は、「ダミー部品を置くのはけしからん」などと言ってません。どこをどう読めばそうなるのでしょうね。
私が申し上げたのは、
(1) Savor というスタートアップ企業も、ゲイツ氏のほうも、今回は「ダミー」というか試作品を置いて示しただけで、その性能や予定販売価格について何も言及していない段階なのに、筆者(管理人さん)が先走って論考・批判をされましたが、その観点がいつもの代わり映えのしない「効率・収支」についてのものだけで、しかもご自分につごうのいいキリのいい数字を(コメントだけでなく本文にも)上げて説明しきったような気になっておられるので、その行為にはいったい何の意味があるのですか?
(2) 「それはサンプル例だ。何の根拠もない」ということですが、そもそも筆者(管理人さん)の批判したいことは、いわゆる「エコ詐欺」、一例をあげるなら「FCVや水素社会の愚かさ」であって、それとあまり関係のない今回のビジネスモデルをミソクソ一緒くたにして、同じ切り口で批判しようとするからムリがあるのではないですか?
(3) 仮に、今回のビジネスモデルを批判されるのなら、「科学的な効率・収支」のところではなく「思想や哲学」のところではないですか? 別の観点で批判されるべきではないですか?
ということです。
二酸化炭素を吸収して有機物を作るという発想は、一石二鳥であり、悪くない。だが、その「思想や哲学」はよくとも、「科学的な効率」を無視しているので、効率の低さから、実現性がない。何事も効率が大事。定性的に考えるだけでなく、定量的に考えよ。
⇒ 承知しました。補足いただき、ありがとうございます。
私の話の要点は、こうです。
無料の太陽エネルギーを吸収して効率よく電気を作るという発想は悪くない。だが、その「科学的な効率」はよくとも、「エネルギーの保存」を無視しているので、保存性のなさから、最善とは言えない。エネルギーは需要と供給の一致が大事。その場、その瞬間を考えるだけでなく、長期的に考えよ。
【詳細】
管理人さんが挙げた数字を抜き出すと
> 人工光合成 5〜7%
> 太陽光+水素生産 14〜21%
> 太陽光発電 20〜30%
「だから太陽光発電が一番効率がいい」というのはエネルギー効率という右手だけを見て、エネルギー保存という左手を見ない、管理人さんが嫌うものの見方だと思います。
エネルギー効率だけ見るなら
太陽熱温水器 50〜60%
が最強かと思います。しかもエネルギーの保存もできます。
(ただし、熱エネルギーなので売電も長期保存もできません)
> トヨタの燃料電池車に似ている。「このプロセス(FCV)では、水素を燃焼するだけであり、温暖化ガスを一切排出しません。究極のエコです」と主張する。だが、このプロセスの外では、水素生産のために莫大なエネルギーを消費するので、FCV は EV に比べて大幅に効率が悪い。
別の記事で管理人さんは「太陽光が現状の百倍になるまで…」ともおっしゃっています。
現状ですら真夏の晴天時の2割の電力は太陽光で賄えているので、百倍と言わず、数倍になっただけで電力は時間や季節によっては余り、価格は暴落するでしょう。マイナスになることすらあり得ます。
そんな余剰電力を使って水素なり(バターは眉唾として、管理人さんのおっしゃる)有機物なりをつくれるのであれば、悪い話ではないと思うのですが。
そして、そうやって作った水素で走るFCVも、決して否定されるべきものでないと思いますが。
http://openblog.seesaa.net/article/498947053.html
http://openblog.seesaa.net/article/498958819.html
http://openblog.seesaa.net/article/500788583.html
重油の水素化分解は普通に行われてます。例えば日本ケッチェンあたりに水素化分解触媒がラインナップされてるはず。
安い水素はどこからか、と言われますと普通に合成ガス作るときに水性ガスシフト反応で出ます。エネファームみたいに改質で作ってもいいですが。
ちなみに私としてはイチイチ水素にするより中国がせっかく安くリチウムイオン電池作ってくれてるのでそれに充電するのがもはや一番安いかなと感じてます。
単に重油を燃やすのに比べれば、水素を追加で燃やす分だけ、マシではあるが、将来的には、なるべく全廃されるべき。
一日ごとに充電・放電をするのなら、サイクル数が多いので、十分に経費を回収できる。
季節変動用の場合には、半年にいっぺんしか充電と放電をしない。(春秋に充電して、夏冬に放電する。各1回ずつ。)→ 年に2サイクルしか使わないので、10年でも 20サイクル。とうてい、経費を回収できない。
水素のガスタンクならば、回収できるだろうが。( LNG のガスタンクをそのまま転用すれば、格安で使えるかも。)