2024年05月07日

◆ 武力と平和主義 .40

 ( 前項 の続き )
 ガザの停戦案を、ハマスが受諾した。さて、どうなる?

 ── 

 停戦案


 ガザの停戦案を、ハマスが受諾したが、イスラエルは受諾しそうにない……という報道が出た。
 イスラム組織ハマスは6日、カタールとエジプトの仲介役に対し停戦案を受け入れると伝えたことを明らかにした。
 パレスチナ側の高官は、条件が満たされれば「敵対的な活動を永久に」終わらせることにハマスが同意したと、BBCに語った。
 これは、ハマスが武装闘争の終結を熟考している可能性をうかがわせるものだが、それ以上の詳細は明らかにされなかった。

 しかし、イスラエル政府関係者の1人はロイター通信に対し、ハマスが受け入れるとした提案は、エジプトが提案した内容が「弱められた」もので、イスラエルが受け入れることのできない「広範囲におよぶ」決定が含まれていると述べた。
( → ハマス、ガザ停戦案の受け入れ表明 イスラエルは「要求からかけ離れた内容」 - BBCニュース

 詳細は不明だが、おおよそは上記のような内容らしい。
 この停戦案を、ハマスは受け入れた。では、イスラエルは受け入れるか? アメリカは受け入れを期待しているそうだが、イスラエルが受け入れることはありえないだろう。実際、その数時間後には、イスラエルはラファ攻撃に踏み出した。
 イスラエルは交渉のための代表団を派遣する一方で、7日にはガザ最南部ラファで地上部隊が限定的な作戦を始めた。
( → ハマスが停戦案受け入れ イスラエルは交渉継続も、ラファで攻撃激化:朝日新聞

 イスラエル軍が6日、パレスチナ自治区ガザ南部ラファで空爆を実施したもよう。ハマス系のテレビ局、アルアクサ・テレビは、イスラエル軍はラファ東部の避難指示が出された地区の付近を攻撃したと報じた。
( → イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時間後に | ロイター

 私の判断を言おう。イスラエルはこの停戦案を受け入れるはずがない。
 そもそも、イスラエルの目的は、パレスチナ民族の抹消だ。最初からずっとそうだ。なのに、ここで急に、方向を転換するはずがない。
 もしそんなことができるなら、ずっと昔からやっているだろう。オスロ合意のころに。しかし、そのとき以後、イスラエルがやったのはラビン暗殺とパレスチナ大量虐殺だけだ。そうして何十年も、同じ方針が続いていた。「和平を望まず、侵略を望む」というふうに。……なのに、ここでいきなり急転換するわけがないのだ。

 さらに重要なことがある。このようなイスラエルの方針(侵略と虐殺)を、欧米や日本が容認していることだ。欧米や日本は、イスラエルの侵略と虐殺を見ても、決して止めようとはしない。無言のまま放置するだけだ。つまり、黙認する。
 そういう仲間がいるのだから、イスラエルが停戦を受け入れるわけがないのだ。かくて、欧米や日本の黙認を受けて、イスラエルは目的に向かって邁進する。
 では、目的とは? それは、下記だ。
 

 民族抹消計画


 イスラエルの目的は何か? それは民族抹消だ。
 その証拠はあるか? ある。イスラエルの首相(ネタニヤフ)の方針だ。
 彼は今回、ガザの住民を、北から南へ移動させた。「北は攻撃で危険になるので、北の住民は南へ移動してください」と。
 では、何のために? 南で居住させるためか? ガザの領土を半分にして、その半分の領土で生かすためか? 
 違う。単に土地を支配するのなら、パレスチナ人をそこに残したまま、土地を支配すればいい。しかし、そうはしない。パレスチナ人をあえて移動させた。あえて南の一箇所に集めた。大勢のパレスチナ人をラファに集めた。その狭い区域に。
 その上で、ラファを攻撃する。ラファで一網打尽にする。一箇所にまとめた上で、一挙に大量殺害する。こうして、民族を抹消するのだ。
 つまり、民族抹消計画だ。最初からそれが狙いだったのだ。

 その先例はある。アウシュビッツだ。ここでもやはり、人々を移動させて、一箇所にまとめた上で、一挙に大量殺害した。こうして、民族を抹消した。……この方針を用いて、ナチスドイツはユダヤ人を 600万人も殺害した。
 これは非常に効率的な大量殺害だった。天才的に有能なマクナマラでさえ、戦闘で 300万人を殺すには手間取ったのに、ナチスドイツは戦闘でなく虐殺という方法で、効率的に大量殺害をなした。その方法が、「一箇所にまとめて、一挙に民族抹消する」という方法だ。
 ネタニヤフはその方針を踏襲することにした。彼はアウシュビッツ方式を再現することで、ラファで民族抹消計画を実行しようとしているのだ。

 勝利と奪取


 パレスチナ人抹消計画を実行しようとしてるのは、ネタニヤフだけではない。おおまかには、イスラエル人全体がその方針を取っている。
 その傍証がある。NHK の番組で報道されていた。
 ユダヤ人の心に刻まれた迫害の記憶は、いま人々をどれほど突き動かしているのか。
 ホロコーストの犠牲者たちを追悼する国立の記念館には、戦地へと向かう多くの兵士が訪れていました。
 予備役の兵士「当時のユダヤ人が味わった屈辱を知り、『生き延びるために勝ちたい』という思いだ」
( → 衝突の根源に何が?記者が見たイスラエルとパレスチナ? - NHKスペシャル - NHK

 (上記記事でなく)番組の動画では、この記念館に来た、出征前の兵士がいた。彼らは展示物を見て、過去の迫害された歴史を見ながら、自らを鼓舞しているそうだ。
 「ユダヤ人はこれほどにも迫害されてきた。だから何としても、生存のために、戦わなくてはならない」
 と自らを鼓舞して、銃を持ちつつ、ガザの戦地に向かうそうだ。

 これはいかにももっともらしいが、日本との対比を考えると、あまりにも大きな違いに驚く。
 戦争の記念館といえば、日本では広島の記念館が有名だ。
  → 広島平和記念資料館
 そこでは平和の記念品があると同時に、平和が祈念される。この建物は、平和を望むためにあり、戦争を繰り返すまいとする思いがある。





 イスラエルは逆だ。記念館では、記念品を見て、戦意を鼓舞する。「これほどにも殺されたんだ。ならば、自分たちは殺されまい。今度は殺されるかわりに、相手を大量に殺してやる!」
 こう思い込んで、自らを鼓舞して、ガザで大量虐殺をしようとする。
 
 平和と戦争。日本とイスラエルとは、同じ記念館を作っても、そのめざす方向は正反対なのだ。日本は世界の平和を望んだが、イスラエルは隣の人々について民族抹消を望んだのだ。なぜなら、それは、戦争の勝利に必要だからだ。つまり、領土を奪うために必要だからだ。

 日本は、惨憺たる戦争のあとで、「戦争放棄」と「平和」を求めた。そこから「世界との協調」に向かった。
 イスラエルは、惨憺たる戦争のあとで、「戦力拡充」と「勝利」を求めた。そこから「他民族の抹消」に向かった。……そして今や、ついにその目的が実現しかかっているのだ。
 結局、ヒトラーでさえ途中で挫折した「民族抹消」を、ネタニヤフはまさしく完全に実現しかけているのだ。なんと有能なことだろう。イスラエル国民が支持するのもむべなるかな。ドイツ国民がヒトラーに熱狂したように、イスラエル国民はネタニヤフに熱狂しそうだ。





 現実には、ネタニヤフの支持率は、あまり高くない。しかし、イスラエル軍がパレスチナ人を民族抹消して、パレスチナ人が消滅して、その土地がすべてイスラエルのものになったなら、イスラエル人は熱狂して、ネタニヤフを支持するだろう。そして、パレスチナ人を殺したことなど、すっかり忘れてしまうだろう。
 ちょうど、ベトナム人を 300万人も殺した米国人のように。広島・長崎の原爆や、東京大空襲で数十万人を殺した米国人のように。そういう虐殺の罪のことをすっかり忘れて、「ネタニヤフ万歳!」と叫んで、パレスチナのすべての土地を奪うだろう。
 その足元の土地の下には、200万人分もの人骨が眠っていることを忘れて。(下図)

 それがイスラエルの方針なのだ。
 そしてまた、それを黙認するのが、欧米や日本の方針なのだ。 


many-bones.jpg



 ※ 本項の話を読んでも、まだ「まさかね……」と思う人が大半だろう。日本の外務省も、「150万人虐殺なんて、まさか……」と思っているのだろう。しかしネタニヤフはまさしく「ラファ攻撃」を宣言している。本人がその口でまさしく大量虐殺を宣言しているのだ。それを聞いても、まだ信じられないのだとしたら、頭が狂っているとしか思えない。日本人も欧米人も、現実の虐殺の進行を見て、現実を理解できないのだ。このように現実を理解できないという点で、世界の人々はもはや狂人と化している。精神病者も同然だ。自分で見たものを理解できないのだから。


 ※ これまでイスラエルの攻撃を見て、「ハマスが先に 1200人を攻撃したから、ハマスの攻撃を阻止するために、イスラエルが攻撃するのは妥当だ」と評価した人も多い。しかしそれが詭弁であることは、今回の出来事から明らかになったと言えるだろう。ハマスが「永久に攻撃を停止する」と言っても、それはイスラエルにとって意味がないのだ。もともとハマスの小規模の攻撃など、虫に刺された程度の痛みであるにすぎないからだ。イスラエルが望むのは、ハマスの攻撃停止ではない。パレスチナの土地をすべて奪うことだ。そのためにはパレスチナ人の民族抹消が是非とも必要なのだ。ハマスはそのための口実に利用されただけだ。……そのことが、今回のことで明らかになったと言えるだろう。(イスラエルが攻撃するのはハマスのせいだ、と思っていた人は、イスラエルの口車に、まんまとだまされたわけだ。詐欺師の口車に だまされやすい人たち。)




 ※ 新たな事態が起こったので、本項の話は新たに執筆されました。
   このあと、2〜3回ぐらい、続きそうです。

posted by 管理人 at 22:39 | Comment(2) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
欧米や日本が手を差し伸べないのは、やはり遠い地域のことだからだと思います。たとえばガザの150万人をエジプトやヨルダン経由で欧米に避難させるように仕向けると、初めて本気になるでしょう。
 アメリカは原爆やベトナムで、ドイツは強制収容所で、日本も中国で大量虐殺を行いました。それぞれ過去を引きずっているのでジェノサイドという言葉は聞きたくないはずと思います。
 アメリカがイスラエルへの武器供与をやめるとの未確認報道がありましたが、どうやら誤報だったようですね。
Posted by ひまなので at 2024年05月08日 10:45
 手を差し伸べる必要はないんです。攻撃反対の声明を出すだけでいい。イスラエル批判の声明を出すだけでいい。
 物質的に援助しろとは言っていません。黙認するなと言っています。
Posted by 管理人 at 2024年05月08日 11:09
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ