2024年03月25日

◆ 武力と平和主義 .20

 (前項 の続き)。
 ウクライナに平和をもたらすには、どうすればいいか? 

 ── 

 ロシアの逆襲


 前項のテーマは「パレスチナにおける方法」だった。一方、「ウクライナにおける方法」も考えたい。こちらは、どうするべきか?

 現状を見ると、悲観的な状況にある。1年ぐらい前には、ウクライナが反転攻勢をして、領土を奪い返しつつあるように見えた。だが、その後、戦線は膠着している。
 のみならず、最近では、ロシアの優勢が伝えられている。その理由は二つある。
  ・ 欧米がウクライナに武器を供与しなくなった。
   (ガザ侵略をするイスラエルに武器を送るせいで。) 
  ・ ロシアの経済力が成長しつつある。
   (欧米の経済制裁が無効化する。)


 後者については、次の記事がある。
  → プーチン大統領に制裁効かず ロシア経済なぜへたらない? | NHK

 特に重要なのは、石油だ。ロシアの輸出の大半は資源輸出だが、なかでも石油輸出が主力だ。この石油輸出については、欧米が禁輸措置を科したが、それが無効化している。なぜなら、「迂回輸出」があるからだ。ロシアの石油を、インドが輸入して、精製してから、イギリスへ送り出す。こうして実質的には、ロシアの石油がイギリスに輸出される。かくてロシアは多額の石油輸出代金を入手する。

 こうして経済制裁は無効化した。では、これに網をかぶせて、経済制裁を有効化するべきか? いや、そうも言えない。なぜなら、もしそんなことをすれば、全体的な石油供給量が減るせいで、石油価格が高騰してしまうからだ。(LNGを禁輸すると、LNG価格が数倍になるように。)……これだと、かえってまずいことになる。ロシアも困るが、欧州はもっと困る。
 実際、ウクライナ戦争の勃発したころには、欧州では暖房費が数倍にもなって、人々の生活は惨憺たるありさまになった。

 結局、ロシアに経済制裁をしたいのだが、経済制裁をすると、欧州はロシア以上にひどい損害を受けてしまうのだ。これではまずい。
 困った。どうする? 

 包括的合意の援用


 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。それは、前項の方式を援用することだ。

 前項では、「包括的合意」という提案をした。これは、(イスラエルの味方である)欧米と、(パレスチナの味方である)アラブ諸国が、平和を目的として総合的な合意を結ぶ、ということだ。当事者であるイスラエルとパレスチナだけでなく、その味方である欧米とアラブ諸国もまた合意を結ぶわけだ。
 
 このとき、欧米とアラブ諸国は協調する。これまでの相互対立とは逆に、相互協調する。すると、この相互協調を援用することで、新たに別の相互協調を結ぶことができる。それは、次のことだ。
 「欧米はロシアの石油を禁輸するが、ちょうど同じ分量だけ、OPEC は石油の生産量を増やす。そのことで、石油の価格を維持しながら、石油の生産国を、ロシアからアラブに移す」

 すると、どうなるか? 
  ・ ロシア …… 販売量と生産量が激減する。
  ・ アラブ …… ロシアが減らした分だけ、増える。
  ・ 欧米  …… 量は変わらず、輸入元が変わる。
          (ロシアでなくアラブから輸入する。)


 この結果は、こうだ。
  ・ ロシア …… 売却代金が激減する。
  ・ アラブ …… 売却代金が激増する。
  ・ 欧米  …… 金銭面では変わらない。
          (対露の経済制裁は有効になる。)


 これは、アラブと欧米が win-win になる方法だ。損をするのは、ロシアだけである。ロシアが一人負けして、アラブと欧米が win-win になる。
 こうなると、ロシアの経済は大幅に悪化して、GDP も急減する。兵器を作る能力も低下して、戦争でも敗退していくだろう。
 
 かくて、ウクライナ戦争の状況は、大幅に改善する。
 また、欧米とアラブが協調すれば、米国がイスラエルの攻撃を支援するために、イスラエルに大量の武器を供与することもなくなるので、武器をウクライナに供与できるようになる。この点でも、ウクライナの状況は改善する。

 評価


 結局、中東の問題を解決すれば、めぐりめぐって、ウクライナの状況もまた改善するわけだ。
 逆に言えば、中東の問題を解決できなければ、めぐりめぐって、ウクライナの状況もまた悪化するわけだ。
 世界は絡み合っているのである。そのことを理解できないと、目先のことだけを見て、「イスラエルの虐殺を見逃そう。目をつぶろう」と思ったあげく、ウクライナをロシアに奪われてしまうだろう。
 馬鹿丸出しとは、このことだ。

 エゴイズムにとらわれると、視野が狭くなったあげく、目先の損得だけを気にして、最終的には大損するハメになる。
 それが今の欧米だ。今のままではウクライナをロシアに奪われれてしまうのだが、そのことにすら気づかない。

 悪魔を見逃す愚か者は、結局は、悪魔の餌食となって、食い物にされてしまうのだ。多数の悪魔に襲われて。

  → 空中の悪魔 画像 (AI): Open ブログ


空の悪魔 , devils


 協調の必要性


 上の方法では、うまく行く。ではなぜ、現状ではそうしないのか?
 そもそも OPEC は、増産をいやがる。増産すると、市場価格が下がるからだ。かくて、増産しないと決める。
 OPEC が増産しないと決めると、欧州はロシア産の石油を禁輸できない。禁輸すると、価格が上がるからだ。
 かくて、OPEC も欧州も、自分の利益の最適化を狙うせいで、「双方が協調して、ともに利益を得る」という最善策をとれない。

 このことは、ゲーム理論の「囚人のジレンマ」と同様である。ゲームのプレーヤーである双方が、相手の方針を知らないまま、自分の利益だけを望んで、行動することがある。その場合には、「相手を信じて、協調する」という最適行動を取れないので、最善の利益を得られない。

 要するに、上で述べた方法(win-win)が成立するためには、「双方の相互信頼」が前提となるのだ。その相互信頼が成立しなければ、相手が裏切る可能性があるがゆえに、協調行動を取ることができない。仮に協調行動を取ったあとで、相手が裏切れば、こちらは最悪の状況に陥るからだ。
 ウクライナに平和をもたらす方法が何であるかも、それが現実にはなぜ困難であるかも、ゲーム理論によって原理を理解することができる。
 戦争と平和の問題は、自然科学的な問題ではなく、人間の意思による選択の問題である。このことはゲーム理論で理論的に解明できるのだ。

 そして、こういうふうに物事を理解すると、単純なエゴイズムがいかに愚かな行動であるかも理解されるだろう。

 ※ 現実には、その理解が足りないせいで、愚かしくも戦争を続けることになる。




 ※ ゲーム理論の話題は、次項でさらに詳しく扱います。


posted by 管理人 at 23:21 | Comment(2) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
増産したらさらに迂回輸入が進むんじゃないですか。
欧州は「増産を決めたから禁輸する。」と
表面上言うでしょう。
しかし彼らは悪魔です。
裏では「これで迂回輸入をうまくやれば
石油が下がる。シメシメ」となりませんか。
Posted by カエル at 2024年03月26日 01:16
 迂回輸入の価格は、市場価格とほぼ同じ(わずかに安いだけ)なので、価格差のほとんどはインドが手に入れます。欧州が得する分はわずかだけ。
 したがって「しめしめ」とはなりません。むしろ、ウクライナへの武器援助の必要額が大幅に増えてしまうので、裏切りはかえって損します。

なお、悪魔になるのは、パレスチナ向けだけです。ウクライナ向けには、天使になります。

 ──

 石油の必要量はほぼ一定であり、必要量以上に余分に輸入しても、在庫を貯めておくタンクがありません。
Posted by 管理人 at 2024年03月26日 10:11
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