基本以外の周辺的な話を述べる。真珠湾攻撃など。
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基本と周辺
前項では、こう述べた。
・ 力が拮抗するとき …… ブルジョワ戦略でいい。(平和)
・ 力に格差があるとき …… 強者が弱者を蹂躙する。(戦争)
近年では後者が多い。かつての湾岸戦争では、イラクによるクウェート侵攻があった。現在でも、ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルによるパレスチナ侵攻がある。
後者(強者が弱者を蹂躙する)タイプでは、「第三者たる世界全体が協力して、状況を変えよ」というのが、本サイトの提案だ。そのためには、「人々が自国政府に声を上げよ」とも提案した。
ここまでは、基本方針だ。ただし、それで話が済むわけでもない。
以上の基本方針では話が済まない場合について、さらに考察しよう。いわば、基本を越えた「応用編」だ。
強者だと錯覚する
イスラエルの場合は、パレスチナに対して、たしかに強者だった。この現実に基づいて、昔からずっと入植という侵略を続けてきたし、今もガザで侵略と虐殺を続けている。まさしく強者としてふるまっている。
ロシアの場合は、ウクライナに対して、たしかに強者だとは言えない。現状では、一定程度までは侵略したが、その後は、ほぼ拮抗している。はっきりと強者だと言えるほどではない。ではなぜ、ロシアは開戦したか?
それは、ロシアが圧倒的な強者であるからではなく、「自分は圧倒的な強者である」と錯覚したからだ。……こういう錯覚こそが、現実に反する形で、開戦をもたらした。
ロシアは当初、「48時間でキエフを陥落させることができる」と思い込んでいた。
→ ウクライナ戦争 16(補遺2): Open ブログ
実際、そのつもりで、戦車隊をキエフに向かって進軍させた。「これでうまく行く」と思い込んでいた。しかしその目論見は外れた。戦車隊はキエフに向かう途中で大損害を受けて、撤退するハメになった。なぜか? このことあるを予想して、米軍がひそかにウクライナ軍を強化していたからだ。特に、対戦車ミサイル(ジャベリン)を大量に供与して、戦車隊を打破する能力を与えていた。……かくして、ロシアの予定は狂った。というより、もともとの予定はただの妄想だったと判明した。その予定は古い情報に基づいたまま更新されなかったので、ただの虚構となったのである。
こうしてロシアは錯覚した。その錯覚に基づいて、戦争は起こった。錯覚があれば、戦争は起こるものなのだ。
第二次大戦時の錯覚
第二次大戦もまた、錯覚ゆえの開戦があった。
(1) ドイツ
ドイツによる初期の戦争は、「強者が弱者を蹂躙する」というタイプの戦争だった。前項でも記したとおり。(再掲)
ドイツは弱小の各国を次々と侵略していった。まずはチェコ侵略。さらに、ポーランドも。デンマークも。ノルウェーも。ルクセンブルグ、オランダ、ベルギーも。……いずれも簡単に侵略していった。そしてついには、フランスも征服した。(これは簡単ではなかったが。)
その後、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアがドイツの同盟国になったので、これらも傘下に収めた。(イタリアはもともと同盟国だ。)
こうしてドイツは欧州の全体を支配した。
これはこれとして、その後が問題だ。その後、ドイツはイギリスとも開戦した。また、ロシアとも開戦した。そのいずれも、「強者が弱者を蹂躙する」というタイプではなかった。イギリスとの戦いは膠着したし、ロシアとの戦いは大きく侵攻したあとで(大損害を受けて)退却する結果となった。……結果的に、この2方面での膠着が、戦力の損耗をもたらして、敗北の要因となった。
そういう結果になるにもかかわらず、ドイツはイギリスやロシアとの開戦に踏み切った。なぜか? 「勝てる」と思い込んだからだ。つまり、錯覚したからだ。
このような錯覚ゆえに、戦争は起こる。現実には強者ではないのに、「自分は強者だ」と錯覚する。そういうふうにして、戦争は起こるのだ。
現実に強者であれば戦争は起こりやすい。のみならず、強者ではなくとも、「強者である」と錯覚すれば、戦争は起こりがちなのだ。
(2) 日本
日本が米国と開戦したのも、同様の錯覚があったからだ。
ただし、注意。ここでは、日本が「自国は米国よりも圧倒的に強い」と錯覚したわけではない。そんな妄想はもたなかった。むしろ「自国は米国よりも弱い」とわきまえていた。(開戦前の報告でもそういう調査結果が出ていた。)
では、誰が錯覚したか? 米国だ。米国は「自国は日本よりもずっと強い」と錯覚した。というのは、開戦前の GDP は、米国が日本の 10倍もあったからだ。
→ 米国の経済体力は日本の7〜10倍
科学技術の水準でも、米国は日本を大幅に上回っていると信じられた。軍事技術も同様だと信じられた。
これらのことから、「開戦すれば、米軍は日本軍を赤子の手をひねるように打破できる」と思い込んだ。
だからこそ、米国は日本に戦争を仕向けたのだ。自国から宣戦布告をすることはできなかったので、相手に宣戦布告をさせようとした。といっても、本来の相手のドイツは米国に宣戦布告をするはずがない。そこで、格好の代役として、日本に白羽の矢を立てた。こうして日本は、石油禁輸などの措置を取られて、否応なしに宣戦布告を強いられることとなった。
→ ルーズベルト vsリンドバーグ: Open ブログ
→ 正しい戦争と第二次大戦: Open ブログ
※ 日米開戦の真相は、上記2項目に記してある。
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なお、参考となる話がある。開戦のときの暗号解読だ。日本は在米の日本大使館に向けて、宣戦布告をしろという暗号を送っていたが、大使館がその解読に手間取っている間に、米国はさっさと解読を済ませていた。宣戦布告は筒抜けだった。なのに、米国はあえてそれを無視した。そのせいで、真珠湾では、大損害をこうむった。
ではなぜ、米国は暗号を解読していたのに、ハワイの米軍にそれを伝えなかったのか? 伝えておけば、あんなに大損害を受けないで済んだのに。いったい、なぜ? ……それが謎となった。
しかしその謎は、上の説明で解き明かされる。米国政府が沈黙していたのは、真実を隠すためだ。真実とは? 「米国が日本を、わざと戦争に巻き込んだ」ということだ。それを隠したい。米国が無理に開戦に追い込んだという真実を隠したい。日本が一方的に自発的に開戦したのだと思い込ませたい。だから、「米国は一方的な被害者だ」「米国は平和を愛する善人だ」「日本は悪魔的な戦争好きだ」と思い込ませるために、あえて知らんぷりをしていたのだ。無垢な善人を装おうとして。……そう解釈すれば、謎が解ける。
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ともあれ、米国は日本に開戦を促した。なぜなら「米国は圧倒的な強者だ」と自惚れていたからだ。そういうふうに錯覚していたからだ。GDP や軍事技術に基づいて。
しかしそれは錯覚だった。米国は「日本を負かすのは赤子の手をひねるようなものだ」と思っていたが、そうはならなかった。
まずは真珠湾で、米国海軍の太平洋艦隊には壊滅的な損害を受けた。空母も軍艦もほとんどが大破して、太平洋艦隊は一夜にして消滅した。(山本五十六が優秀すぎた。)
その後も、日本のゼロ戦が大活躍して、米国の戦闘機を次々と撃墜していった。(ジブリの「風立ちぬ」の設計者のおかげだ。)
こうして、緒戦は、日本の圧倒的優勢となった。米国は「日本を負かすのは赤子の手をひねるようなものだ」と思っていたが、そうはならなかった。米国の思い込みは、事実ではなかったのだ。
なのに、「事実だ」と米国は錯覚した。だから、第二次世界大戦は起こったのだ。
※ 本当ならば、イギリスと米国は、(日本をほったらかして)ドイツとだけ戦えばよかった。しかるに、日本は(米国の都合のせいで)たまたま巻き込まれる形で、米国との戦争に踏み切らされたのだ。
※ 「日独伊の三国同盟があるから、日本は巻き込まれた」という説もありそうだが、三国同盟は機能していなかった。ドイツとイタリアがイギリスやフランスと戦争をしていても、日本は蚊帳の外で、イギリスやフランスと戦争をしていなかった。
結局、米国の思惑は外れた。「強者が弱者を蹂躙する」というつもりで開戦したが、当初は逆に蹂躙されてしまった。
ドイツの思惑もまた外れた。当初は周辺の弱小国だけを蹂躙するつもりだった。それは成功した。しかしその後、イギリスやロシアを蹂躙しようとして、失敗した。あげく、米国が参戦して、どうにもならなくなった。かくて、蹂躙するつもりが、蹂躙されてしまった。
そのいずれも、「強者が弱者を蹂躙する」というつもりで開戦した。つまり、「錯覚ゆえに開戦した」わけだ。
こういうふうに、錯覚によって戦争が起こることもある。
このような「錯覚による戦争」を防ぐには、今までの話とは異なる対処が必要となるだろう。
※ 長くなったので、中断します。次項に続きます。
米国人の合理主義的考えで、負けることが決まっている戦争は始めないだろうと考えていたと思います。だから油断していたのです。
相手も自分たちと同じ論理で考えると思うのは非常に危険です。
と文中に記しておきました。