2024年03月07日

◆ 武力と平和主義 .5

 (前項 の続き)
 自衛隊は憲法違反だろうか? (憲法の話。法律論議。)

 ──

 自衛隊と憲法9条


 ここまでは平和主義の話をしてきたが、ここでついでに、憲法9条の話をしておこう。ちょっと話は横に逸れるが。

 憲法9条は、次の通り。
第九条
 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 (2) 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 前半(第1項)では、戦争の放棄が掲げられている。ここでは、「自衛権」については言及されていないので、「自衛権」については否定も肯定もされていない、という解釈でいいだろう。(前項で述べた,法律以前の「自然権」で与えられる。)これはこれで、別に問題はない。
 ※ 「国権の発動たる戦争」や、「武力による威嚇又は武力の行使」は、自衛権とは関係がない。「国際紛争を解決する手段」も、自衛権とは関係がない。これらをいくら否定しても、自衛権を否定することはできない。

 後半(第2項)では、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」となっている。これが論議となっている。
 通常の公式見解は次の通り。
 「自衛のための戦力は、陸海空軍その他の戦力には該当しない。ゆえに、違憲ではない」
 しかしこれは苦しい解釈だ。「自衛のための戦力は、戦力ではない」というのは、「白馬は馬にあらず」という理屈である。詭弁も甚だしい。論理的に成立しない。というか、「自衛のための戦力」は、まさしく「その他の戦力」に該当するだろう。ゆえに、いわゆる公式見解は、法的には詭弁である。とても採用できない。
 また、「自衛のための戦力」というような目的論で戦力を区別するのは、道理が通らない。(前項で述べたハサミの話を参照。
 かくて、「自衛のための戦力」という説明で自衛隊を合憲にすることはできない。
 しかし、そうなると、自衛隊を保有できなくなる。そいつはまずい。困った。どうする?

 ──

 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
 「戦力と武力を区別する。自衛隊は、武力ではあるが、戦力ではない。だから、憲法9条に抵触しない」

 ここで、戦力とは、戦争に使う武力だ。武力は、より広範なものだ。自衛力は、武力の一部だ。
 包含関係で示すと、こうだ。

    戦力 ⊂ 武力
   自衛力 ⊂ 武力


 憲法9条は、「戦力の保有」を禁止する。よろしい。しかしそれは「すべての武力の保有」を禁止しない。特に、「自衛力の保有」を禁止しない。
 だから、「自衛隊は、(自衛のための)武力ではあるが、戦力ではない」という理屈によって、憲法9条の問題を回避できるのだ。これで問題は解決する。 Q.E.D.
 困ったときの Openブログ。

( ※ 戦力とは何かというと、「戦争をする武力」だから、「自衛をする武力」は「戦争をする武力」とは必ずしも一致しない。部分的には重なるが、同等ではない。特に、「侵略をする武力」は、「自衛をする武力」とは異なる。かくて、「戦力」と「武力」を区別することで、憲法違反の問題を回避できる。自衛隊を、憲法の範囲外に追い出すわけだ。明白に合憲とするのではないが。)

 ──

 なお、上の説明は、言葉の上では現行解釈と異なるが、本質的には、現行解釈とたいして違いはない。「自衛のための戦力は、戦力ではない」という発想と、たいして違いはない。
 ただし、現行解釈の発想だと、言葉の上では矛盾が発生する。そこで、その矛盾を回避するために、言葉の使い方を改めるのだ。(地獄の沙汰も法律の使い方しだい、みたいな話だ。)

 ※ これはまあ、有能な弁護士が、法律をうまく操作することで、裁判でうまく勝利するようなものだ。法律操作のテクニック。これが上手だと、弁護士は年収数億円を稼ぐこともできる。

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 ついでだが、別案もある。こうだ。
 「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とあるが、その主語を「国民」と見なす。つまり、「国民は戦力を保有しない」ということだ。かわりに,「政府(国)は戦力を保有できる」というふうに解釈すればいい。
 
 そもそも、9条の第2項では、文章の主語は「国民は」であろう。なぜなら、第1項の主語は「国民は」だからだ。それを引き継いでいるので、第2項の主語もまた「国民だ」と解釈できる。主語が明示されていなければ、その直前の主語を引き継ぐからだ。
 というわけで、字義通りに解釈すれば、「戦力を保有しない」の主語は「国民」である。ゆえに、国民は戦力を保有しない。かわりに、政府(国)が戦力を保有する。
 これで、政府(国)が戦力を保有することが容認される。

 ※ これはかなりアクロバティックな解釈だ。とはいえ、字義通りに読めばそうなるのだから、文句を言われる筋合いもないだろう。詭弁っぽいけれどね。

 ※ 「何を言っているのかわからん」という人には、さらに説明しよう。これは要するに、銃刀法による武器保有禁止の拡大版だ。国民は銃刀を保有することを禁止されている。それと同様に、(戦車や戦闘機などの)重火器を保有することを禁止される。そういうふうに、国民レベルで戦力の保有を禁止するわけだ。(政府レベルの保有については言及しない。)

 憲法改正


 自衛隊が合憲かどうかは、憲法改正の問題と結びつく。
 自民党の保守派は「憲法改正」にこだわる。特に、9条第2項について、条文は削除しないまま、「自衛隊を保有してもいい」というふうに加筆したいらしい。
   → 4つの「変えたい」こと自民党の提案

 しかしながら、本項に従えば、自衛隊はもともと「合憲」なので、憲法改正は必要ない。

 ──

 なお、自民党が憲法改正にこだわるのは、自衛隊を合憲にするためではあるまい。その問題は現状でも解決可能だからだ。それよりむしろ、本音は別にある。「自衛隊を合憲にすることで、憲法改正に慣れさせる。こうして免疫を付けた上で、二度目の憲法改正をする。そこでは集団的自衛権を合憲にする。そして海外派兵を合憲にする」

 海外派兵の例としては、「ホルムズ海峡封鎖のときに自衛艦を派遣する」という例が掲げられた。そのときは「架空の事態」であったが、今はまさしくフーシによって「紅海の海峡封鎖」が実現している。
  → 英石油大手BP、紅海でのタンカー運航を一時停止へ フーシ派の攻撃続く中 - BBCニュース

 こちらはスエズ運河に結びつく航路なので、ホルムズ海峡の封鎖よりもさらに甚大な影響がある。
  → 【 スエズ運河、紅海経由が危険だから商船が希望峰に殺到してる】……ニュースを見ない間にスエズ運河もパナマ運河も使えず、世界の海運が19世紀まで戻っていたらしい - Togetter

 こんな状況では、先の「集団的自衛権」の発動の条件が満たされていることになるので、自衛隊は紅海に派遣されて武力行使していいことになる。自衛を名分とした交戦だ。
 安倍首相が在任していたら、日本は今ごろ自衛隊を派遣して、中東で交戦していたはずなのだ。

 ※ 安倍首相は集団的自衛権を、(憲法改正なしに)合法化してしまった。違憲立法だ。だが、最高裁判所は自民党の違憲立法をすべて許容してしまうので、裁判所は阻止できない。……かくて日本は、誰からも攻められていないのに、自ら戦争を開始することになる。そして、それこそが、自民党保守派の狙いなのだろう。安倍首相は今ごろ明快で地団駄を踏んでいることだろう。「おれが生きていれば、今ごろは日本が戦争を始めることができたのに。ヘリ空母や F-35 を派遣して、ドンパチして、リアルな戦争ゲームができたのに! 悔しい!」 

 ────────

 《 加筆 》
 実は、憲法改正をしたからといって、何かが変わるわけではない。自衛隊を保有するという状況に変化が生じるわけでもない。
 では何が違うかというと、現実的には違いがないが、理論的には違いが生じる。「憲法違反をタテに自衛隊廃止を主張する」という平和主義者の論拠が崩れるからだ。
 このことは、平和主義者が強かった昔には意義のあることだったが、今ではもはや意義がなくなった。「自衛隊廃止」は圧倒的な少数派になったからだ。
 「日米安全保障条約をやめて自衛力を強化し,我が国の力だけで日本の安全を守る」と答えた者の割合が 8.6%,「現状どおり日米の安全保障体制と自衛隊で日本の安全を守る」と答えた者の割合が 76.2%,「日米安全保障条約をやめ,自衛隊も縮小または廃止する」と答えた者の割合が 5.6%となっている。
( → 自衛隊・防衛問題に関する世論調査

 このように「自衛隊肯定」の意見が大多数を占めている。だから、平和主義者らの論拠となる憲法を、今さらいじる必要はなくなったのだ。
 なお、データを求めてネットを検索したが、「自衛隊廃止」をテーマとする世論調査は、マスコミではもはやデータがほとんど見つからない。このテーマは、調査項目とはならなくなったようだ。圧倒的多数が「自衛隊容認」を支持しているので、今さら「自衛隊廃止」を調査するまでもない、ということらしい。
 国民としても、憲法をいじる必要は感じていないようだ。下記の通り。
Q いまの憲法を変える必要があると思いますか。変える必要はないと思いますか。

 変える必要がある 52▽変える必要はない 37
( → 憲法・安保へ、思いは 朝日新聞社世論調査:朝日新聞 2023年5月3日


 ※ こういうふうに「自衛隊容認」が多数派である状況では、平和主義者が「自衛隊は憲法違反だ」と唱えれば唱えるほど、「ならば改憲する」という勢力が強まる。平和主義者のせいで、武装派が勝利してしまうわけだ。ヤブヘビ。……平和主義者は、オウンゴールみたいになってしまうわけだ。敵にアシストする形で。 しかも、そのことを自分で理解できない。だからせっせと、敵にアシストする。ギャグみたいだ。





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posted by 管理人 at 23:26 | Comment(4) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 「憲法改正」という章を、後半に追加しました。
Posted by 管理人 at 2024年03月08日 09:45
こんな難しい議論はもうやめましょう。やはり第9条は改正して自衛権と自衛隊の存在を明記したほうが良いと思います。そのほうがかえって自衛権の範囲が明確になるはずです。
 台湾有事では自衛隊は出動しないことを明らかにするべきです。(昨日台湾観光から帰ってきました)
Posted by ひまなので at 2024年03月08日 11:08
 憲法改正をしたくても、国民投票では否決される可能性が高い。

> 2018年3月の全国世論調査(電話)では自衛隊の存在明記に「賛成」33%、「反対」51%だった。
 https://digital.asahi.com/articles/ASQ7L5W76Q7GUZPS004.html
 
 最近の調査では、賛成が上回ったことがあるが、それはロシアがウクライナに侵攻して、国民の防衛意識が高まったときだ。
 今後、改めて国民投票を決めたときには、そういう状況ではないから、9条改正は否決される見込みが高い。
 最近の一時期を除いて、戦後ずっと、改正には「反対」の国民が多かった。世論調査で。
 特に今後は、岸田内閣が防衛費の倍増を推進していくので、防衛費の増額のために、増税が推進される。
 「防衛費の倍増のために、消費税を 15%にアップさせることが必要です」
 という方針が来る。そのとき、自衛隊のための憲法改正が支持されるか? 非常に困難になりそうだ。

 私が賛否を決めるのではなく、国民が自発的にそれを決める。
Posted by 管理人 at 2024年03月08日 12:20
 最後に  《 加筆 》  を書き足しました。
Posted by 管理人 at 2024年03月08日 14:09
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