2024年02月24日

◆ ダイハツの社長の無知

 ダイハツの不正の根源は、社長が技術面であまりにも無知であったことだ。

 ──

 前項では、ダイハツの新社長の就任時の記事を紹介した。(2013年)
  → ダイハツの新車開発、“期間半減”目指す 21年ぶりの生え抜きトップ、三井新社長が所信表明

 これを読むと、新社長がいかに無知であるかわかる。技術面で何もわかっていない。文系の発想そのものだ。
 トヨタ自動車傘下のダイハツ工業の新経営体制が、本格的に始動した。伊奈功一前社長(現会長)の後を継ぎ、新社長に就任したのは三井正則氏。1975年にダイハツに入社、主に生産技術畑を歩み、九州工場(ダイハツ九州)の立ち上げに携わってきた。

 この経歴だけでは、技術開発に詳しいかどうかはわからない。大学は工学部卒なので、理系の素養はある。だが、生産技術畑しか経験していないので、開発経験がない。技術音痴であるという懸念がある。そこで、さらに記事を読む。
 志向の多様化に対応するために、開発のリードタイムの短縮を進めたい。発売の1〜2年も前にデザインが決まり、半年前には細かな仕様も確定する現在の自動車開発のやり方では、利用者のニーズに対応しきれない。発売する頃にはこのようなクルマが求められるだろうと想定して開発しているが、将来のことなので外れることもある。極論すれば今日企画して明日売れればヒットする。開発期間を半分に短縮すれば、ヒットの確率は2倍になると言え、それに挑戦したい。
 これまではよい技術、市場ニーズに合わせたアイデアができても実際のクルマに搭載するのは次のマイナーチェンジでやろう、といった感覚だったが、これからはすぐに適用したい。

 これは文系の発想そのものだ。「マーケティングリサーチで経営を改善したい」という発想。飲食品や衣料品のようなものなら、簡単に商品開発できるので、マーケティングリサーチの方法を適用していい。だいたい数カ月で新商品を開発できて、時流に合わせることができる。
 しかし、そんな発想を自動車開発に持ち込めば、とんでもないことになる。なぜなら、自動車開発には、4年ぐらいの時間がかかるからだ。これはどうしても必要な時間である。部品の微調整と、実車のテスト走行とで、何度も情報の往復をして、少しずつ調整する。

 実を言うと、4年でもまだ足りない。たとえば GTR は、発売当時はやたらとサスペンションが固くて、街乗りできないようなレベルにあった。それを微調整して、まともなレベルにするには、発売から何年もかかった。
 日産アリアもそうだ。発売直後の時点では、やたらとサスペンションが固くて、不評である。これがまともなレベルになるには、数年の時間がかかるだろう。
 また、自動車の衝突試験や、安全試験にも、かなりのテスト時間が必要だ。
 ともあれ、自動車開発には、時間がかかる。なのに、飲食品や衣料品と同様に、「企画したら数カ月で新商品を出す」というような発想では、欠陥品ができるのは自明だ。
 そんなことは、実際に開発した経験があれば、すぐにわかるこだ。しかし、この新社長は、新車開発の経験がない。だから「期間を半減する」という方針がいかに滅茶苦茶な素人考えであるか理解できない。馬鹿丸出しである。

 こんな社長が「期間を半減する」という方針を出せば、現場としては、次のいずれかにするしかない。
  ・ 開発人員を3倍増にする。(2倍では不足)
  ・ 開発車種数を3分の1にする。(半減では不足。)
  ・ できもしないのに、できたことにする。(不正をする)

 この三通りしかない。そして、最初の二通りは、経営者によって否定された。とすれば、残るは最後の一通り。つまり「不正」だ。

 つまり、今回の不正は、会社の方針によって無理強いされたものだ。「期間を半減する」という方針は、現場にとっては「不正をしろ」というのも同然だったのだ。
 「期間は半減して、同じ仕事をしろ」
 というのは、
 「労働者は仕事量を倍増しろ」
 ということであり、
 「打ち出の小槌を使え」
 というのと同然である。
 しかし、そんなことは不可能だ。不可能を可能にしろと命じられれば、不正をするしかない。かくて、不正は必然となった。

 ──

 ここまでは、「技術開発とは何か」を理解すれば、当たり前のことだ。なのに新社長は、それを理解できなかった。「技術開発とは何か」を理解できないからだ。
 ならば、こんな愚かな素人は、社長に就任するべきではなかった。仮に社長に就任したなら、就任の会見をした時点で、首を切られるべきだった。

 だが、任命権者である豊田章男は、そうしなかった。なぜなら、豊田章男もまた「新車開発とは何か?」を理解できないからだ。技術面ではまったくの音痴だからだ。
 豊田章男は、自動車ドライバーとしては経験が豊富らしいが、技術開発についてはまったくの素人だ。だから、新社長が素人であることを見抜けなかったのだ。二人そろって、技術音痴。同病 相憐れむ。
 かくてダイハツは社長の掛け声のあとで、不正をめざして、集団でまっしぐらに進んだ。レミングの群れのように。


lemming.jpg
レミングの集団自殺(想像図)




 [ 付記 ]
 豊田章男は「東日本大震災などのせいで、そっちに気を取られていたから」と弁解している。
 ダイハツについて、自らの経営責任を問われると「(リコール問題や東日本大震災などの)危機の連続で正直、ゆとりがなかった。トヨタを何とか立ち上がらせるだけで精いっぱいで、見ていなかったというより、見られなかった」と弁明した。
( → 豊田章男会長「会社作り直すぐらいの覚悟」トヨタグループの不正陳謝:朝日新聞

 トヨタの社長がダイハツの経営状況をいちいち見る必要はない。そんなことはダイハツの社長に権限委譲していい。
 トヨタの社長がやるべきことは、まともな人物を社長に据えることだけだ。技術面でとんでもないことを言う(打ち出の小槌を使えと言う)ような無知蒙昧の人物を社長にしてはいけない。そんな人物が社長になったら、すぐに解任しなくてはいけない。
 そして、そのためには、就任会見を聞いたあとで、1秒で即決できる。本項の記事を読んで理解した読者なら、やはり、1秒で即決できるだろう。

 豊田章男がダイハツの不正を止められなかったのは、彼が忙しかったからではない。彼が技術面で無知だったからだ。つまり、無能だったからだ。だから、詫びるならば、「忙しかったら」と詫びるのではなく、「私が無知だったから、新社長の無知を見抜けなかった。二人そろって、馬鹿ぞろいだった」と詫びるべきだった。それができないところに、無責任さがある。というより、いまだに自分の無知を理解できていないのだろう。「無知の知」がないわけだ。

posted by 管理人 at 23:00 | Comment(0) | 自動車・交通 | 更新情報をチェックする
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