※ 小さな話題なので、読まなくてもいい。
──
原作者の代理人
「原作料を上げろ」という交渉を、原作者は会社側とやるが、なかなかまとまらない。これを延々とやるのは、原作者にとって大変だ。そこで、この交渉を他人に委ねる……という案がある。
これは、プロ野球の選手の代理人と同様だ。選手と球団が年俸の交渉をするが、その際、少しでも高い年俸を得ようとして、代理人が交渉を代行する。通常、手数料は年俸の3〜5%が相場であるそうだ。(ググるとわかる。)
大谷選手の場合には、FA契約 1000億円に対して 50億円程度の手数料を得たと推定されている。口で交渉するだけで 50億円も入手できるのだから、ボロい商売だ。
※ 法的知識のある弁護士がやることが多い。
ともあれ、このような代理人という制度を導入すれば、トラブルが減って、問題は解決するだろう……という見方がある。ネットやマスコミでも、あちこちで提案されている。
→ 「原作者の方の権利を守る役割が必要では」芦原妃名子さん訃報受け「ひるおび」で弁護士が指摘 : 日刊スポーツ
なるほど、この制度があれば、代理人がせっせと原作料の額を上げようとする。だから、原作者がぼったくられて、安値の原作料を強いられる……という問題は解決しそうだ。かくて、少なくとも金銭的な面では、問題は解決しそうだ。
では、それで本当に話はうまく済むのだろうか?
この件について考えるため、他の同様の制度と比較してみよう。
出版社の編集部
出版社の編集部が原作者のために働く……という案もある。代理人のかわりに、編集部の人員が、せっせと仕事をする、というわけだ。
実際、今回も編集部が「私たちはこんなに努力してきました」と自己宣伝(自己弁解)をしている。
→ 作家の皆様 読者の皆様 関係者の皆様へ | プチコミック 公式サイト|小学館
ここでは、「出版社は原作者の権利を守ります」という方針を述べている。なるほど、編集部の人員は、心情的には、原作者に寄り添おうとするだろう。それが仕事なのだから、そういう心情になるのはわかる。
しかし問題は、心情ではなく、能力だ。編集者は、心情的には、原作者に寄り添おうとするが、現実には、法的知識も能力もない。心情はあっても、実務能力がない。そもそも、権限を(原作者から)委託されているわけでもないので、何の権限もない。だから、結局、何もできない。せいぜい、連絡係をやるくらいだ。
つまり、編集者は無能なのである。無能だから、いざとなったら、何もできずに逃げ出してしまう。あとでは原作者は一人で取り残されることになる。
このことは、次の記事でも示されている。
日本には、作家にエージェントが存在しない。
作家と編集者(出版社)の間にエージェントが居れば、また話は違うのかもしれないんですが、多くの場合はエージェントの役割を編集者が兼ねているんですよね。
何かあると二人三脚していた相手だと思っていた編集者が組織の中に引っ込んでしまうので、作家はひとりぼっちになってしまう。取り残されてしまうんです。
( → 芦原妃名子さん 2024年1月29日 - 一色登希彦/ブログ )
こういうふうに、編集者は無能である。そもそも、何の権限もない。
その意味では、編集者は代理人の仕事を代替することはできない。編集者にはできない仕事が、代理人にはある。そう言えるだろう。
出版社のライツ部
編集部でなく、出版社の本体が、今回は声明を出した。
→ 芦原妃名子先生のご逝去に際して | 小学館(プレスリリース)
ここでも、「出版社は原作者の権利を守ります」という方針を述べている。これを読んで、素直に信じて、「なるほど。出版社は良心的だな」と思う読者も多いようだ。しかし、そういうふうにあっさり信じる人は、詐欺師にだまされるタイプである。つまり、詐欺師の口車から出た嘘をあっさり信じるタイプである。注意した方がいい。
「出版社は原作者の権利を守ります」というのは、真っ赤な嘘である。出版社は「原作者の権利を守ろう」という意識など、ほとんど持っていない。出版社にある方針はただ一つ。「出版社が金儲けをすること」だけだ。他のあらゆる方針は、この基本方針に踏みにじられる。
そもそも、出版社のうち、原作者の権利を扱う部門は、「ライツ(部)」という部局だ。
田中さんの原作改変の原作クラッシャーの件、推しの子読んだからなんとなくわかる
— 舞台挨拶のジャンプ (@SVUQQA5WLHstrlX) January 27, 2024
原作者と脚本家はほぼほぼ伝言ゲーム pic.twitter.com/41EXdi1lUP
※ 「ライツ」については、下記で説明した。
→ ドラマの原作改変の騒動: Open ブログ
ライツ(部)は、著作権や著作隣接権や出版権などを扱う。ここは法的な仕事をするので、代理人(≒ 弁護士)のような法的知識をもつことも多い。
だが、ライツ(部)は、しょせんは出版社の側に立つ人間なのである。彼らは原作者の側に立つわけではない。
なるほど、映画化のために出版社が協力してくれることはある。その点では、原作者と出版社は利害が一致するとも言える。だから協力関係が成立するとも言える。
一方で、原作者と出版社は利害が対立することもある。
・ 原作者にとって最優先は、ドラマが上質であることだ。
・ 出版社にとって最優先は、本の発行部数が伸びることだ。
この双方は、一致することもあるが、矛盾することもある。特に、出版社は、次の方針を取りがちだ。
「原作者が駄々をこねて、ドラマ化がオジャンになってしまうのが、一番怖い。海猿みたいに、原作者が駄々をこねて、映画化が中止になると、出版物の売上げもなくなってしまう。それは困る。だから、原作者とテレビ局の双方をうまくおだてて、何とかドラマかを成立させたい。そうしてこそ、本が売れて、出版社が儲かるからだ」
ここでは、何より避けたいのは、次のことだ。
・ 原作者が原作にこだわるせいで、改変を認めずに、ドラマ化が中止になる。
・ 原作者が原作にこだわるせいで、テレビ局が頭にきて、ドラマ化を中止する。
この二点を最も恐れる。
かくて、出版社は、原作者をなだめすかしながら、テレビ局のプロデューサーにへいこらへいこらと頭を下げる。さもなにと、上の二点のようになりかねないからだ。それこそ出版社の利益を損ねるからだ。
出版社の体質
結局、出版社は、いかにも「原作者のために働いています」というフリをするが、現実には、「自分の利益を優先するために、テレビ局にへいこらへいこらしています」というのが現実だ。そのせいで、原作者の要望をテレビ局に伝える、という仕事も、ろくにやっていない。
出版社は先に、「ちゃんとやっていました」という証明みたいな事例を掲げている。だが、出版社がやったのは事後調整であり、事前統制ではない。これでは原作者に貢献していない。むしろ、原作者に多大な手間をしつけている。題しπだったと言える。(前項で述べた通り。)
→ 原作改変・総括 .3(組織): Open ブログ
なのに、「出版社は原作者に寄り添っています」というような(事実に反する)声明を出す。これでは(嘘つきなので)実に不誠実な態度だと言えるだろう。
あるいは、自分が不誠実だということに気づかないほど、愚かで無能であるのかもしれない。
いずれにせよ、出版社は、不誠実であるか、無能であるか、いずれかである。こういう状況があるからには、出版社に変わって代理人が役割を果たす価値は十分にある、と言えそうだ。
──
※ ついでだが、出版社と原作者の利害が対立する事例として、次の事例がある。
「原作者が作品を書き上げたあとで、出版社は、作品を出版する際に、映画化権をごく小額で買収することがある」
たとえば、50万円ぐらいを支払うかわりに、出版社が映画化権(著作隣接権)を取得する。その後、作品が映画化されたら、原作料として 500万円ぐらいを取る。50万円で買って、500万円で売るわけだ。ボッタクリである。原作者の権利を強奪するにも等しい。
こういう悪徳なことをやっている出版社は、かなりある。出版社というのは、しょせんは金儲けを狙うだけの、利益目的の集団であるにすぎないのだ。そこには良心など、最初からない。原作者のために寄り添うのではなく、原作者のために寄り添うフリをして、金儲けを狙うだけだ。
その意味では、出版社はテレビ局と「グルだ」とも言えるだろう。
──
だいたい、代理人ならば1割ぐらいの手数料を取れそうなのに、その分の仕事をタダ働きしてくれるほど、出版社がお人好しであるわけがない。
出版社が(原作者のためでなく)自分自身の利益のために働くのは、悪でも何でもなくて、ただの経済原理であるにすぎない。普通に商売をしているだけなのだ。
とすれば、原作者が原作者のために働く仕事を委ねたければ、そのための手数料(1割ぐらい)をきちんと払って、代理人に委ねるのがベストであろう。
それは、特別にうまい方法であるというより、経済原理に従った、最も標準的な方法(当たり前の方法)であるからだ。
※ 原作者は、自分のために働いてくれる誰かを求めるのであれば、出版社などにタダ働きをしてもらおうとはせずに、きちんと正当な対価を払って、プロに任せればいい、ということだ。
【 追記・訂正 】
《 「原作者の代理人」という専門的職業は、日本には存在していない。》
といったん記したが、これは不正確だった。日本にも「著作者の代理人」という専門的職業は存在する。それを利用した作家もいる。詳細は下記を参照。
→ 著作権エージェント - Wikipedia
ただし、ここで言う「著作権エージェント」は、小説家の養成会社であるようだ。主導権は小説家よりも会社側にあるので、客の依頼を受けて仕事をするというより、会社が客を選別している。主従関係が逆だ。
原作者の依頼を受けて働くという意味の「原作者の代理人」という専門的職業は、日本には存在していないようだ。
詳細は不明だが、「原作者の代理人」という専門的職業が、日本には存在していないのであれば、現状では、弁護士に頼むことになりそうだ。
[ 付記 ]
そこで提案しよう。「原作者の代理人」という専門的職業を名乗り上げる弁護士が出現すればいい。特に、開業したてのような、若手弁護士がやればいい。
あまり高収入は得られないだろが、どうせ仕事も多くは来ないのだ。そこで、「日本で唯一の原作者代理人」を標榜すれば、そこそこの利益を得られるだろう。
※ ネットで宣伝しても、ろくに仕事は来ないだろうから、ドラマ化をする作品を持つ出版社に営業活動をかけて、足で仕事を獲得する必要がありそうだ。法律知識よりも、営業力が大事。
代理人は日本にも存在する、という話。