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一般にペテン師というのは、甘い言葉を告げて、人をたぶらかす。「あとでこんな夢が実現しますよ」と。そして、いざそのときが来て、夢が実現しないと判明すると、言い逃れをする。
「その夢というのは、これこれという意味なんですよ。なのにそれを、勝手に勘違いしたなら、勘違いしたあなたが悪いんですよ。私は正直に告げたのに、あなたが勝手に勘違いした。それだけのことなんです」
自分で人をだましておきながら、だまされた人のせいにする。「だまされた方が悪い」と。
これが、石川県(知事)のやっていることだ。
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石川県(知事)は、「水道が3〜4月に仮復旧する」と発表した。
仮復旧で一応水道が使える時期のめどに関する情報が発表されたが、輪島市や穴水町などでは2月末から3月末に仮復旧の見込み。七尾市は一部地域の仮復旧が4月以降になるという見通しを示している。
( → 被災者を苦しめる「断水」 水道仮復旧は2月末以降 災害に強い水道管の普及が防災のカギ【能登半島地震】|FNN )
NHK の記事もある。
→ 石川県 馳知事 県内6市町の水道の復旧時期 見通し明らかに | NHK | 令和6年能登半島地震
以上では「仮復旧」という言葉を使っているが、話の趣旨は「復旧」である。NHK のタイトルでも「復旧」と記してある。記事にもこうある。
石川県の馳知事は、ほぼ全域で断水が続いている県内6つの市と町の水道の復旧時期について、輪島市や珠洲市などでは早くても2月末から、七尾市の中心部などでは4月以降になるという見通しを明らかにしました。
では「仮復旧」とは何か? その肝心の言葉の意味を記していない。「仮復旧」と「復旧」とはどう違うのか? どこが「仮」なのか? そこを示していないのだ。……これはまさしく詐欺師の手口である。
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一方で、現実には、「復旧が進んでいる」という報道もある。下記のように「断水が解消している」という報道があるのだ。
復旧作業が進んだ一部の地区では、徐々に解消され始めている。
21日、山中の自宅で過ごす輪島市縄又町の松末俊桜(としお)さん(80)が蛇口をひねると、元日以来の水が出て喜んだ。
( → 20日ぶり入浴「何よりうれしい」 断水、一部地区で解消進む 能登半島地震:朝日新聞 )
これは輪島市縄又町の話だ。
能登半島地震の影響で大規模な断水が発生していた氷見市で21日、市全域の水道が飲用可能となり、完全復旧した。通水したものの、飲み水には使えなかった6地区470世帯で水質の安全性が確認できた。1日の発災時に一時約1万4千世帯で起きた同市の断水は20日ぶりに全面解消。
( → 〈1.1大震災〉氷見の断水が完全復旧 市全域で飲用可能に|社会|富山のニュース|富山新聞 )
これは富山県氷見市での話だ。
以上のように、次々と断水が解消して、水道の完全復旧が進んでいる。とすれば、「復旧」の早期実現を唱える県知事の方針は、あながち間違いではないようにも思えそうだ。
では、本当のところは、どうなのか?
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実は、上で「復旧」したのは、能登半島でもかなり震源から離れた土地である。それらの地域では、比較的早期に復旧が実現したようだ。
一方、震源に近い地域では、状況はより厳しくなる。
(1) 七尾市
七尾市では、復旧は容易ではないようだ。
七尾市は、市内の6割を超える世帯で水道復旧が4月以降になるとの見通しを明らかにした。
( → 断水続く石川県七尾市 6割の世帯で復旧は4月以降 地域経済に懸念 [能登半島地震] [石川県]:朝日新聞 )
まともに水道が使えるようになるという「復旧」の意味では、震源から遠い七尾市でさえ、4月以降になる。これが正直なところだろう。
1月1日に地震が起こったあとで、3週間後の1月21日になって、ようやく氷見市で水道が復旧した。七尾市では4月以降に復旧する。これだけの時間がかかるのだ。
(2) もっと北側
七尾市でこうだとすれば、もっと震源に近いところでは、さらに長大な時間がかかることが推定される。ところが県知事はこう言う。
▽輪島市、穴水町、能登町では、いずれも2月末から3月末に仮復旧の見込みです。
▽珠洲市では2月末から順次、仮復旧する予定で、遅い地域では4月以降となる見込みです。
( → 石川県 馳知事 県内6市町の水道の復旧時期 見通し明らかに | NHK )
こんな楽観的な口調は、ただの「大本営発表」にすぎない。実際には負けている戦いを「勝っている」と虚偽の発表をするわけだ。呆れてものが言えない。
ちなみに、現場からの報告では、こうなっている。
奥能登地域は、県の水道用水供給事業の対象外。独自の水道網を整備し、各戸に給水してきた各市町は、水道設備の修繕を急ぐが、被害の全容すらつかめないのが現状。道路寸断も復旧工事を妨げる。
能登町は町内の水道管全420キロの大半が地中埋設で、漏水場所が判明せず、復旧の見通しが立っていない。
輪島市上下水道局の登岸浩局長は「道路が1本しかなく、修繕の部材が届かないと作業も進まない。全面復旧は見通せていない」と話す。
珠洲市では全体の8〜9割の供給を担う宝立浄水場が損壊。全面復旧には「年単位」(市担当者)の時間が必要とみられ、市は応急措置として持ち運び型の浄水装置を設置する方針だ。
( → 奥能登の断水が解消されるのは何年後に…阪神大震災や熊本地震のようなスピード復旧が望めない背景とは:東京新聞 TOKYO Web )
穴水町でもあちこちの道路が陥没していて、地下に埋められた多くの水道管が破損。避難所だけでも水が出るようにと、神戸市などの水道局から派遣された職員が、水道管の修繕を進めている。しかし復旧作業は簡単ではない。
神戸市水道局技術企画課 有馬栄一係長:ここで直しました。もう少しどこか行くとまた水が出ます。直しました。また水が出ますの繰り返しをやっています。
調査は地上から水道管の水が漏れていないか探知機を使って調べ、漏水した場所は、アスファルトをはがして修繕。地道な作業の上に、修繕が必要な箇所は膨大だという。
( → 被災者を苦しめる「断水」 水道仮復旧は2月末以降 災害に強い水道管の普及が防災のカギ【能登半島地震】 | 関西テレビ )
これらの地域では、復旧が容易ではないことがわかる。
(3) 珠洲市と輪島市
だが、以上の地域は、まだマシな方である。なぜなら、修繕が部分的に始まっているからだ。一方、被害の規模さえいまだに判明していない、という地域がある。珠洲市や輪島市がそうだ。これらの地域では、道路に巨大な地割れができていて、調査の車両さえ入ることができない。まして、地下の水道管の状況など、知ることもできない。(ズタズタになっているだろう、と見当はつく。)
前に紹介した記事にも、地割れの写真がある。

出典:文春オンライン
こういうふうに、ひどい地割れがあちこちにある。とすれば、地下ではかなりの惨状になっていると推定される。
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実を言うと、もっと客観的なデータがある。今回の地震の震度の地図だ。

出典:NHK
今回の地震では、珠洲市の北部の内陸部に震源があると発表された。そこで、その震源から同心円状に遠ざかるに連れて、被害規模は弱まる、と推定された。
しかしそうではないのだ。今回の震源は一点ではない。珠洲市北部の一点から、その西南西の輪島市にかけて、ほぼ東西に長く伸びる帯がある。この帯の上に震源があるのだ。(断層があったと推定される。)
この断層の上にあるすべての場所は、いずれも震源であり、いずれも最大規模の被害が生じたのだ。
つまり、「輪島市は珠洲市の震源から離れているから、被害規模は小さいだろう」というような推定は成立しない。むしろ、「輪島市(特に海岸部)は、震源の直上と同程度に、最大規模の被害が生じているのだ」と見なせる。
その一方で、輪島市の中でも、内陸部のあたり(輪島市の南部のあたり)は、震源の帯からハズレるので、被害規模は小さめだと見なせる。(だからすでに水道が復旧した場所もある。)
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とにかく、この地図が重要だ。今回の地震は、断層または震源が東西に帯状に走っている。その東西の帯の上にある地域で、被害が甚大なのだ。その具体的な場所は、珠洲市と、輪島市北部である。
これらの地域では、地割れや土砂崩れも最大規模となっている。そこには調査の手もまだ及んでいない。
一方、その帯から少しはずれた場所である、能登町や七尾市では被害規模がおおむね判明している。
・ 七尾市 …… 復旧は十分に可能であり、4月にもかなり復旧する。
・ 能登町 …… 復旧にはかなり長期間の時間が必要だ。復旧は容易ではない。
では、珠洲市と輪島市ではどうか? 状況はいまだに判明していないというしかない。
私の当初の見通しでは、こうだった。
「かろうじて復旧は可能だろうから、まずは町の中心部で再建して、コンパクトシティを作ればいい。一方で、町の中心部から離れたところは、放棄せざるを得ない」
だが、今にして思えば、上の判断は楽観的すぎたかもしれない。現状は上の予想をはるかに上回っている可能性がある。その場合には、珠洲市と輪島市の復旧は非常に困難になりそうだ。仮に復旧するとしても、当初は市の中心部のごく狭い領域のみとならざるを得ないだろう。
もともとの輪島市は、1km 四方ぐらいの大きさがあった。しかしこの全域で水道管を新たに敷設することは、1年間ではとうてい無理だろう。そもそも、これだけの領域で、住居や店舗を1年間で再建することも無理だろう。どう考えても、数年間はかかる。
輪島市や珠洲市を放棄するべきだとまでは言わないが、「短期的に復旧が可能だ」というのは、あまりにも見通しが甘すぎるというしかない。
石川県知事の唱える復旧の見通しは、嘘であり、ペテンである。それは大本営発表の虚構である。
このように甘い見通しを告げることで、人々を避難所に執着させて、二次避難所に移ることを阻害する。石川県知事の唱える嘘のせいで、多くの病人や死者が出ることになりかねない。その罪は非常に大きい。
[ 付記1 ]
県知事のいう「仮復旧」というのは、たぶん、「一部地域に限って、水道が出るようになる」という意味だろう。それは次の二点を意味する。
・ 浄水場が稼働する。
・ 浄水場と水道管がつながっている地域では、水が出る。
一方、次の領域は、対象外だ。
・ 水道管が寸断していて、水道管がつながらない地域。
このような地域は、「仮復旧」から取り残されて、水はまったく出ないことになる。
しかも、そのような地域が大部分となるはずだ。なのに、ごく一部の領域では水が出るということで、「仮復旧が実現しました」と宣伝して、水道が復旧したかのように見せかける。
それが県知事のやっていることだ。(嘘・ペテン・大本営発表。)……まさしく詐欺師の手口だね。
「年利 20% を確約します。すごくお得ですよ」
と言って、金を集めるが、利息を払うのは、最初の1カ月だけ。ほんの一部だけで「約束通り」と言うが、あとのすべてでは約束を破る。あげく、金をもって、トンズラする。
これが詐欺師の手口だ。
石川県知事とそっくりだ。(ごく一部だけの約束遵守を見せながら、残りの 99%で約束を破棄する。そういう形で嘘をつく。)
[ 付記2 ]
「仮復旧」ないし「復旧」というのは、輪島市や珠洲市ではほぼ不可能だろうと思える。なぜなら、水道管はほとんどすべてが使い物にならなくなっているはずだからだ。(おまけに老朽化している。)
従来の水道管を修理して使う、というような方策は、取れないだろうし、取らないだろう。「新たに別の水道管を新規敷設する」ということになるだろう。
また、街並みについても、「復旧」ではなく、「都市計画に基づいて全面的に再構築する」というふうにするべきだ。今まで通りの密集した住宅を再建するのは最悪だ。
その意味でも、「復旧」はするべきではない。「復旧」してはならないのだ。都市の未来のために。
→ 復興には都市計画を: Open ブログ
水が出るようになっても、排水を流せない。
水道はひとまず配管がつながれば供給できるようになりますが、下水道は勾配が確保されないと流れていきません。その勾配は地震による変位でぐちゃぐちゃ。
「コンパクト」な範囲でも、上下水道が満足に使えるようになるのがいつになるのか、現時点では全く見通しが立たないのでは。