2023年12月25日

◆ 冬の月はなぜ高い?

 冬には満月の位置が高くなる。それはなぜか? 

 ──

fullmoon.jpg


 12月の満月は 27日だ。25、26日は、ほぼ満月と言える。真夜中には、月の位置が非常に高い。ほとんど真上ぐらいの高さになる。
 では、冬の満月が高いのは、どうしてか? 

 ──

 その理由は、ネットで探せば、すぐにわかる。天文の基礎知識で説明される。簡単に言えば、こうだ。
 「地球の自転軸(地軸)は、公転面に対して 90度の位置であるべきだが、実際には 66.5度の位置である。90度に対して、23.5度の傾きがある。そのせいで、夏には太陽が高くなり、冬には太陽が低くなる。それは昼間の場合だが、夜には(位置関係が太陽と逆になるので)、夏には月が低くなり、冬には月が高くなる」

 図による説明は、下記ページで。
  → 南中高度が高く見えるもの=夏の太陽と同じ向きに見えるもの

 ──

 ただし、以上の説明は完璧ではない。
 上の説明で片付くのは、満月を「太陽とは逆の位置にある星」として説明しているからだ。
 なるほど。それはそれで、一応成立する。満月の定義としては、それで一応正しい。しかしながら、厳密には、それは若干のズレがある。なぜなら、月の軌道は、地球の公転軌道の面(公転面)に対して、5度のズレがあるからだ。
 満月を「太陽とは逆の位置にある星」という原理が成立するためには、月が地球の公転軌道上にあることが前提となる。(その前提の上で、満月を太陽とは反対側にあるものと見なす。)
 ところが現実には、月は地球の公転軌道上にない。おおざっぱには「そうだ」と言えるのだが、厳密には5度のズレがある。いくらか違いがあるわけだ。その分、不正確になる。

 ──

 ではなぜ、このように5度のズレが生じたのか? それを考えると、興味深い話にたどり着く。
 そもそも、月は地球の衛星だ。地球の衛星であるからには、本来ならば、地球の赤道上に月の軌道があるはずだ。たとえば、土星ならば、土星の赤道上に、無数の衛星があって、それらがリングをなしている。


dosei.jpg


 これと同じように、地球の衛星である月もまた、地球の赤道上にあるべきだったのだ。
 そして、その場合には、地球の公転面とのズレは、5度でなく、23.5度になっていただろう。月は太陽とは違って、夏や冬に高さが変わることもなかっただろう。(どの季節でも同じ高さとなっていただろう。)
 しかるに現実には、そうではない。月は地球の赤道上にはなく、ほとんど地球の公転面の上にある。地球に従属する衛星というよりは、太陽系に従属する惑星のような扱いになっている。それは、なぜか? 

 ──

 その理由については、識者の意見はほぼ一致している。
 「月が誕生したときには、ジャイアント・インパクトがあったからだ」

 このジャイアント・インパクトについては、前に別項で解説した。動画が二つあるので、そちらを見てほしい。
  → 月の形成のシミュレーション: Open ブログ

 この二つの動画で示されるように、月が誕生したときには、月は地球の衛星として(普通に)誕生したのではない。いったん地球が誕生したあとで、かなり長い時間がたってから、よそにある微惑星(原始惑星・準惑星)が飛来してきて、地球に衝突した。そのとき、微惑星と地球は、ともに破壊されて消滅した。そのあと、砕かれた地球の破片と、砕かれた微惑星の破片が、あらためて集合して、新しい地球と、新しい月とが誕生した。……それが「ジャイアント・インパクト」だ。


g-impact.gif
出典:Wikipedia



 こういうことが起こっただろう、と推定されてきた。そして、そのことの証拠が、「月はほぼ地球の公転面の上にある」ということなのだ。通常ならば、月のような地球の衛星は、地球の赤道上にあるはずだ。なのに、そうならない。それは、ジャイアント・インパクトがあったからなのだ。……そう説明される。

 冬の月は高い。その事実は、月がジャイアント・インパクトによって誕生したことを意味するのだ。(あまりにも重大な事実の証拠だ。)
 そしてまた、月が誕生したときは、現在の地球が誕生したときでもある。初期の地球は、しばらく存在したあとで、ジャイアント・インパクトによって、いったん破壊された。そうして破壊されたあとで、改めて断片が集合する形で作られた惑星が、新しい地球なのだ。
 
 地球の年齢は、46億年弱と言われている。ジャイアント・インパクトが起こったのは、45億年前と言われている。両者の時間の差は、あまり大きくない。地球ができたあとで、かなり短期間のあとで、ジャイアント・インパクトが起こったことになる。
 ただし、地球の年齢といっても、初期の地球はいったん破壊されたのだ。その後にジャイアント・インパクトが起こったときに、地球は新たに作り直されたのだ。とすれば、この時点こそが、現在の地球の誕生の時点だと言えるだろう。



 [ 付記1 ]
 その後、5〜10億年ほどたって、35〜40億年前のころには、原始的な生命が誕生した。
 その後は、生命の進化は遅々としたものだった。最初の多細胞生物が出現するのは、10億年前なので、それまで 25〜30億年も、微生物の時代が続いたことになる。
 その後、6億年前のころには、カンブリア爆発が生じた。以後は急速に進化が起こった。あれよあれよという間に生物は進化していって、ついには人類が誕生した。

 そういう 46億年の歴史について、冬の月を見ながら考察するのも、一興だろう。

 [ 付記2 ]
 地球で高度な生物が出現したのは、月があったおかげである。
 もし月がなかったなら、自転軸が安定しないので、地球の自転軸の傾きは、23.5度で固定されずに、大幅に変化しただろう。そのせいで、極寒の寒帯と酷暑の熱帯が何度も交替しただろう。永続的な温帯という一定の領域は存在せず、一つの地域が寒帯から熱帯まで、何度も交替しただろう。……こうなると、一定の環境がないので、「環境に適した生物」というものは存在しがたくなる。
 存在できるとしたら、藍藻類やコケ類ぐらいだろう。シダ類や裸子植物は、存在できなかっただろう。(寒帯と熱帯との変動のなかで枯れてしまうからだ。北極・南極や砂漠の植生を見ればわかる。)
 こうして地球は「ほぼ荒地だらけの惑星」となり、高度な生物は出現しないままで終わっただろう。

 われわれが、今ここに人間として存在できるのは、あの頭上高く輝いている月のおかげなのだ。


fullmoon.jpg




 【 関連サイト 】

 → 45億年前に誕生した月 地球から飛び出した破片が集合/24

 → 45億年にもなる地球の歴史をひとまとめにして振り返る科学ビデオ - GIGAZINE


 → 月を生んだ天体衝突の衝撃で、地球は真横近くにまで傾いた 〜月の“異様”な軌道を説明する新理論 - PC Watch

 → ※地軸の傾きが存在するのはなぜ?その原因に驚愕…! | とれぴく

 → 天王星、傾いた自転軸の謎が明らかに | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト


 → 地球以外の惑星は自転軸は安定してないんですか? - Yahoo!知恵袋




 【 関連項目 】
 → 春分の日は、月が高い: Open ブログ
 
posted by 管理人 at 23:22 | Comment(5) | 物理・天文 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 本稿で述べておられることの冒頭部分、太陽や月の南中高度に影響を与える因子には、観測点の緯度もありますよね。本稿でも提示されている「中学受験 プロ講師ブログ」の別項を参考にすると、

(太陽の南中高度)

 夏至 90度−その土地の緯度+23.4度

 冬至 90度−その土地の緯度−23・4度

 ですから、冬至のときに満月の南中高度が最も高くなるのは、緯度(北緯)が23・4度の場所になりそうです(筆者が次で言及されている5度のズレは考えない場合)。

 つまり、一般に冬の満月が真夜中に高く見えるのは地球の自転軸の傾きのためですが、筆者が(冬至前後に)ほとんど真上ぐらいの高さになる。≠ニ感じるのは、観測しているのが北緯35度(東京)付近で23・4度に近い場所だからです。
 ちなみに、日本での北緯23・4度(北回帰線付近)、例えば南硫黄島と沖ノ鳥島の間の海上に行けば、東京付近よりもさらに真上(天頂)近くに見えますよね。

 https://www.chugakujuken.com/koushi_blog/horii/post_152.html
Posted by かわっこだっこ at 2023年12月26日 08:35
 緯度の話は、書こうかとも思ったのですが、話が長くなりそうなので、省略したのでした。

 補足してくださり、ありがとうございました。
Posted by 管理人 at 2023年12月26日 09:02
 もうひとつだけ、すみません。本稿にも前稿にも書いていなかったと思いますが、月の南中高度は、年によってプラマイ5・1度の間で変動しているのですね。これは、本稿で言及されている、黄道面と月の軌道面との5・1度の傾き(約5度のズレ)のためです。なお、この変動周期は約18・6年とのことです。

 詳しくは下のリンク先のグラフを見れば一目瞭然なのですが、今年(2023年)は、(たぶん東京での)冬至付近の満月(あるいは春分付近の上弦の月)の南中高度は、80度をちょっと超えるくらいです。来年(2024年)になると、83〜84度くらいになり、これがピークの高さぐらいです。

 ですから、本稿(2023年の冬至付近の投稿)や前稿(2021年の春分付近の投稿)は、どちらも、18・6年のうち南中高度が年々増加する期間中にあたり、それもあって筆者は、月を観察した際に南中高度が高いという印象を持たれたのかもしれませんね。

 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/B7EEA4CEBDD0C6FEA4EAA4C8C6EEC3E62FC6EEC3E6B9E2C5D9.html

 
Posted by かわっこだっこ at 2023年12月27日 01:05
> もうひとつだけ

 その点は私も気になっていて、調べようとしたのですが、調べ方がわからない(検索語がわからない)ので、調べられないまま、諦めていたのでした。
 きちんと調べてくださって、ありがとうございます。疑問点が氷解しました。
Posted by 管理人 at 2023年12月27日 08:18
 「春分の日に満月になるのは何年か?」と Copilot に質問したら、「約 19年おきなので、2025年から約 19年ごとになります」という返答だった。

 「へえ。そうか」と思って、ググってみたら、全然違った。前回は 2019年で、それから約 19年おきだった。
  Copilot は嘘ばっかり。
Posted by 管理人 at 2023年12月27日 08:38
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