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家賃のほかに、別途、家賃保証料を取られる。それが少額ならまだしも、2年間で 10万円ぐらい取られることが多いようだ。事例は下記。
→ 賃貸物件の保証料とは?仕組みや費用を抑えるコツなどを紹介!
だったら家賃保証料を請求されない物件を選べばいい、と思いそうだが、現実には難しい。家賃保証料が義務づけられている物件が 85% になるそうだ。
→ 部屋を借りるときの「家賃保証会社(賃貸保証会社)の利用」って必須?入りたくない場合、拒否できる?
家賃保証会社を使うのは、そもそも連帯保証人がいないときが原則だった。だから、連帯保証人を立てれば、家賃保証会社は不要になるはずだ、と思う人も多いだろう。ところが現実には、連帯保証人がいても家賃保証会社を義務づけられる事例が多いそうだ。
これはどういうことか? 「連帯保証人がいても家賃保証会社を義務づけられる」と思うから、話がおかしいと思える。しかし現実には、「もともと家賃保証会社を義務づけられるという状況で、さらに上乗せで、連帯保証人も求められる」というふうになりつつある。大家の側がリスク削減をしているわけだ。
とはいえ、これはおかしい。「もともと家賃保証会社を義務づけられる」という状況があるならば、家賃保証会社が保証してくれるはずなのだから、「さらに上乗せで連帯保証人も」というふうにする必要はないはずだ。これはいったいどういうことか?
実は、これにはからくりがある。こうだ。
「家賃保証会社から大家へのキックバックがある。借主の払った家賃保証料は、家賃保証会社にはろくに入らずに、大半が大家に環流してしまう」
このことは、家賃保証会社の社員が内輪をバラしている。
不動産会社は家賃保証会社から当然のようにバックを取る。もちろん家賃保証会社と不動産会社の関係次第でもあるが、80%をバックする会社もある。
初回の保証料からだけではない。毎月の保証料、あるいは2年目以降に発生する年間保証料からもだ。
( → 現役社員が生々しく語る、「家賃保証会社」の現場では日々こんなことが起きている |楽待不動産投資新聞 )
こうして、家賃保証料が「第2の家賃」みたいになって、大家の懐に入るわけだ。
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家賃保証料というのは、こういう馬鹿げた状況にある。とすれば、借主の方は、何とかして自己防衛をしたがるはずだ。たとえば、こう望む。
「家賃保証会社に金を払うのは馬鹿馬鹿しいから、自分自身が家賃保証をする。つまり、あらかじめ1年分か2年分の家賃を先払いする。事前に先払いすれば、家賃の取りっぱぐれはないのだから、大家は安心できるはずだ。かくて家賃保証料を廃止できるはずだ」
これが実現すれば、借主は家賃保証料を払わなくて済むし、大家は家賃の取りっぱぐれなしで済む。win-win だ。かくて問題は解決する……と思う人が多い。下記でも提案されている。
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ところが、そうはうまく行かない。1年分か2年分の家賃を先払いするとしても、その期間が過ぎたあとでは、先払いしてもらえる保証がないからだ。「そのときはまた先払いしますよ」と口約束しても、その口約束が守られる保証はない。2年が過ぎたら、「もう払うのやーめた」と言って、タダで居座るようになるかもしれない。そうなったら、大家は家賃を取りっぱぐれる。しかも、追い出すこともできない。
だから、大家としては、家賃保証会社を使うしかないのだ。
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では、どうしてこういう馬鹿げたことが起こるか? それは、次のことによる。
「日本では契約を守ることが必要とされるが、ただ一つ、賃貸住宅に関してだけは、契約を反故にすることが法的に認められている。それが借地借家法だ。飯を食って金を払わなければ、無銭飲食で逮捕されるが、家を借りて金を払わなくても、ちっとも逮捕されないのだ。強引に追い出せば、大家の方が逮捕されてしまう。泥棒の被害者(合法)が逮捕されて、泥棒(違法)の方が見逃される」
こういう滅茶苦茶な状況があるのだ。事例としては、次の例が興味深い。
築80年超の木造長屋を賃貸している所有者が、「古くなったので解体したい」として、唯一の住人女性(86)に立ち退きを求める裁判を起こした。
しかし、女性は「死ぬまでここに住みたい」と応じず、翌年、所有者は大阪地裁に提訴した。
近隣に所有するアパートの一室を新居として紹介できる……(略)
アパートの家賃は本来6万3千円だが、長屋と同じ3万6千円にするとも説明。裁判所に対し、「女性の生活状況に最大限配慮して交渉してきたことが考慮されるべきだ」と主張した。
( → 大家「危険だから解体を」 86歳「死ぬまで住みたい」 立ち退き訴訟、裁判所は――:朝日新聞 )
ここまで「至れり尽くせり」なら、裁判所の判決は大家の勝訴(建て替えOK )で当然だろう……と思う人が多そうだ。しかし現実には、大家の敗訴(建て替え不可)だった。判決はこうだ。
高齢者が住み慣れた場所で暮らし続けることについて、「精神的な安定や危険防止の観点から、高度の必要性が認められる」と指摘した。
借地借家法の原理からして、借主の権利が神のように優先されるのだ。大家の権利などは、虫ケラのように踏みにじられるのだ。
なお、こんなボロ屋に住んでいると、建物崩壊の危険がある。建材が壊れて借主がケガをすることもあるだろうし、地震で倒れた建物に借主が埋もれてしまうこともあるだろう。そうなったら、どうするのか? 「自業自得」で諦めるのか?
いや、その場合には、借主は改めて、大家に高額の賠償金を請求するはずだ。借主の権利として。
ここで大家が反論して、
「危険なボロ屋に住みたいと、あんた自身が言ったじゃないか。なのに、あんたが自分で招いた危険の結果を、大家になすりつけるのか?」
と文句を言っても、法的には通らない。いくら理不尽であっても、法律が借主優先になっているのだ。借主があくまで神のように扱われ、大家は何の権利もない虫ケラのごとく権利を踏みにじられるのだ。
それが日本の法制度である。理屈がまったく通らない。
とすれば、そういう状況において、大家が過剰に自己防衛に走るのは当然のことだ。
「どんなことがあっても家賃の取りっぱぐれが起こらないように、二重・三重に防護態勢を確立したい」
と大家は思うものだ。
そして、それが、本人の支払いのほかに、「連帯保証人」や「家賃保証会社」を上乗せする理由だ。屋上屋を架するようなもので、明らかに馬鹿げたことなのだが、大家としては、自己防衛のためには、そうするしかないのだ。借地借家法の下では。
結局、「借主は契約を守らなくてもいい」という滅茶苦茶な法制度がある。近代的な契約社会や法治国家を否定するような、滅茶苦茶な法制度がある。だから大家の側も、異常なほどにガチガチの防護態勢を取ろうとする。
ここでは原理的に、合理的な契約関係は成立しないのだ。キチガイ同士の争いのような馬鹿げた契約関係だけが成立するのだ。
要するに、借主の権利を守ろうとして、過度に借主を優遇したら、かえってそのせいで、借主を苦しめる結果となる。……そういう皮肉な状況になっているわけだ。
「自分ばかりが得をしようとするエゴイストは、かえって損をする」
というわけだ。昔話にもありそうな教訓と言える。
これが本項の結論となる。
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ついでだが、その逆が、
「情けは人のためならず」
だ。つまり、他人のためにいろいろと親切にすると、人徳が高まるので、人々から信頼されて、自分自身も得する結果になる……というふうになるものだ。(他人に優しくて自分に厳しい大谷が、かえって世界一の金持ち選手になる、というようなものだ。)
※ ちなみに、「トランプ元大統領に迎合して、弁護で大儲けしよう」と狙ったジュリアーニ元NY市長は、金儲けを狙ったあげく、大損して破産してしまった。
→ ジュリアーニ元NY市長、破産申請 210億円の賠償を命じられ - BBCニュース
[ 付記 ]
解決策としては、借地借家法を、まともな法律に是正するしかない。これが根本策だ。
一方、家賃保証料については、別案を示すこともできる。こうだ。
「社員の勤める会社が、自社の社員について家賃保証をする。借主の連帯保証人がいなくても、借主の勤務先の会社が家賃を保証してくれる。これなら、大家は取りっぱぐれの心配がなくなる。万一取りっぱぐれそうになったら、会社の財産を差し押さえることができる。また、会社は手形不渡りと同様の扱いで倒産してしまうから、会社としては家賃の金を払わざるを得ない。かくて問題は解決する」
この制度は、正社員だけが対象となる。非正規社員は対象とならない。
この制度を使うには、「家賃の前払い金」に相当する額を、社員が会社側に預金する必要がある。その預金は、将来的には全額が返金される。(利子付きで。)
※ 預金のかわりに、従業員持ち株会を使ってもいい。(これなら利子のかわりに配当が付く。)
※ 正社員の場合には、退職金の分もあるから、この分を使っても、会社が家賃保証をすることができる。
