2023年12月21日

◆ ダイハツの不正の根源

 ダイハツの不正が大きく話題を呼んでいる。不正の根源は何か? 

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 最初は小さな不正かと思えた。その前に、ホンダとデンソーの問題があったばかりだからだ。
 自動車部品最大手デンソー製の燃料ポンプに不具合が相次ぎ、国内累計380万台超がリコール(回収・無償修理)されている問題で、デンソー製の燃料ポンプを搭載した車が今年7月、鳥取市の高速道路のトンネル内でエンストを起こして停車後、追突され、同乗者が死亡していたことが、ホンダなどへの取材でわかった。この車はリコール対象になっておらず、ホンダは追加のリコールを10月に国土交通省に届け出た。
( → デンソー製ポンプ搭載車、高速でエンストし停車 衝突され同乗者死亡:朝日新聞

 しかしながら、不正の規模は全然違っていた。ホンダとデンソーは、死亡事故こそ起こったものの、ただのリコールの遅れにすぎなかった。一方、ダイハツの方は組織的なもので、非常に悪質な不正だった。前に VW のな不正があったが、それに匹敵する(あるいはそれ以上の)悪質な組織的不正だと判明した。
 ダイハツ工業が車両の安全性を確認する衝突試験で不正をしていた問題で、現在生産しているほぼすべての車種で不正が行われていたことが20日、わかった。不正拡大を受けて、同社は国内外のすべての車種の出荷を停止する方針だ。
 関係者らによると、不正は過去に生産していた車両でも確認された。衝突試験だけでなく、排ガスの認証手続きなどにも不正は及んでいた。ほかにも幅広い試験項目で横行し、不正は100個以上に及ぶ模様だ。
 ダイハツは国内外のすべての車種の出荷をとめる、異例の事態に陥る。
( → ダイハツ、現行車のほぼすべてで不正 国内外の全車種を出荷停止へ:朝日新聞

 これで思い出すのは、日野自動車の不正だ。2022年8月の事件だ。このときは、「性能は大幅に未達だったが、役員が強く求めた」という事実があった。つまり、経営者が過度な目標達成を無理強いして、それが無理なのでつじつま合わせのために捏造した、というわけだ。
  → トヨタ子会社の不正: Open ブログ
 今回もまた同様だが、「トヨタ子会社の不正」というタイトルで、二つの会社に同種の事件が起こるとは、このときは予想もしていなかった。
 
 ──

 上の記事のあとで、さらに詳細が報じられたが、やはり状況は日野自動車と同様であったらしい。ただ、今回は特に、開発分野のコスト削減が目的だったらしい。
 《 ダイハツ不正、背景に「短期開発」 》
 第三者委は、ダイハツを変容させた一つが、「1ミリ1グラム1円1秒」にこだわって低コストかつ迅速に新車を生み出す「短期開発」だと指摘した。
 その転機となったのが、2011年に発売し、10年間で約90万台を販売した売れ筋の軽乗用車「ミライース」だったという。その開発は、以前よりも大幅に短い期間で実現できたという。
 これが「成功体験」となり、以降の車両開発はさらに短期化が求められるようになった。
 車両の開発では、デザインや設計変更などに時間がかかりやすい。開発工程の最後となる認証試験に時間をかけるのは難しい状態だった。しわ寄せを受ける認証の担当者は「不合格は許されない」という強い重圧にさらされていたという。
 また、ダイハツの開発部門には、「できて当たり前」の発想が強く、失敗すれば厳しく叱責(しっせき)される風土があったともいう。問題が起きても現場で抱え込んでしまう状況が生じていた。
( → (時時刻刻)安全への背信、30年以上 :朝日新聞

 同趣旨の話は、読売新聞にもある。(元ネタは同じで、第三者委員会。)
 第三者委員会の報告書は不正の背景として、過度に短い開発日程が設定され、変更もきかず担当者にプレッシャーがかかっていたことを挙げた。
 一連の不正が始まったのは1989年だが、2014年以降に急増した。背景にあるとされたのが、11年に販売した軽乗用車「ミライース」の開発期間を大幅に短縮できた成功体験だ。短期開発が最優先されるようになり、日程は「線表」と呼ばれて経営トップの「英断」がなければ変更困難なほど社内で絶対視されていたという。
 販売計画も各工程が問題なく進むことを前提に立てられ、最後の工程の認証試験は「合格して当たり前」という考えが定着した。コスト削減の中で利用できる試験車両の数に制限もあり、試験の担当者は「不合格は許されない」との重圧にさらされ、不正に手を染めることになったという。
( → ダイハツ不正、11年の短期開発の成功体験が背景…「線表」と呼ばれる日程を絶対視 : 読売新聞

 やはり、日野自動車とそっくりであるようだ。




 こうなった根源は何か? 不正の根源は何か? 経営者が「コスト削減」を最優先したことだろう。
 まともな経営者ならば、何らかの経営改善のために、経営状況を改善しようとするはずだ。しかし愚かな経営者は、自分では何かをしないで、部下に何かをさせようとする。経営者自身は、無理な目標を設定するだけで、その目標を達成するための工夫はすべて部下に任せる。……無能な経営者というのは、そういうものだ。
 「おれがやるのは目標の設定だけ。そのための工夫はすべて部下任せ」
 これぞ典型的な無能経営だ。日野やダイハツがやって来たのは、そういうことだ。

 ──

 とすれば、こんな会社など、存在意義はない。さっさとつぶしてしまってもいい。といっても、つぶすのも何だから、他社に売却してしまえばいい。
 一案として、次のような話もある。
 万が一出荷停止が長引いた場合、排出ガス不正で大打撃を被った日野が三菱ふそうトラック・バスと経営統合する形でトヨタ傘下から実質ダイムラーグループ傘下となったように、ダイハツ救済のための軽自動車業界再編が起こる可能性もなきにしもあらずだ。 
( → ダイハツの大規模不正問題、全車種生産停止の影響と軽自動車業界再編の可能性 親会社のトヨタ自動車が何らかの形で再編を仕掛けても不思議ではないが…(1/4) | JBpress (ジェイビープレス)

 なるほど。こういうふうにするべきかもしれない。ただしこの記事では、その実現性が低いと評価している。かわりに、別のシナリオを考えている。
 認証不正は国交省にとっては許されざる不埒行為ではあるが、ハードウェアに問題がないとなれば、再発防止策を徹底的に履行するための具体的な行動指針を示すことを条件に、認証取り消しまでには至らない可能性が高い。早期の生産再開が実現すれば、ダイハツとトヨタの業績への影響はおのずと軽微なものになろう。

 これもありえそうだが、そんな処分は甘すぎるだろう。これほどの巨大な不正に対して、ほとんど「お咎めなし」というのは、とうてい許せない。どうしても、厳しいおしおきをする必要がある。
 たとえば、これまでに販売した車種を全部、無料で新車に取り替えるべきだ。あるいは、新車価格のまま、購入代金を全額返金するべきだ。このくらいのことは、やるべきだろう。さもないと、詐欺のやり得になる。
 そもそも、下手をしたら、事故で死んでいたかもしれないのだ。いや、実際に、事故で死んだ例もありそうだ。ただし、事故の原因がわからないまま、隠蔽されていただけだ。
 冒頭のホンダとデンソーの事故だって、リコールがあったから、不具合が原意だと判明した。それが隠されていたら、真相は判明しなかったのだ。やはり、隠されていた事故はあるはずだ。その補償もしないままで、お咎めなしというのは、絶対に許せない。

 ま、これまでの販売分を全額補償するというのは、現実的には無理だろう。そんなことをすれば、ダイハツは倒産しそうだし、補償金を払えないまま、単に消滅するだけとなる。それでは意味がない。
 とすれば、現実的には、許せる方法はただ一つ。可能な限りの補償をしたあとで、債務過剰にして、倒産させることだ。倒産させてから、残った事業を他社に転売する。つまり、実質敵には廃業だ。その場合のみ、責任を取らなくていい。

 ただし、それは一般の会社の場合だ。今回は、トヨタの子会社となっている。となると、トヨタの子会社の転売先は、トヨタ以外にはありえない。
 しかし、トヨタが持株を消滅させて、残りをトヨタが買うとなると、トヨタがトヨタに売ることになって、実質的には何も変わらないことになる。それでは意味がなさそうだ。それでいいのか? 
 実は、それでいい。トヨタがトヨタに転売するにしても、変わることが二つある。
  ・ 経営体制が刷新される。ダイハツ主導からトヨタ主導になる。
  ・ ダイハツの時価総額に相当する分、トヨタが損をする。その分、被害者補償に充てることができる。


 つまり、ダイハツの時価総額に相当する分を限度として、被害者補償に金を当てることができる。この金で、既存の購入者に対して、賠償金を払うべきだ。150万円の自動車を買った客には、150万円を返金するべきだ。
 「そんなにいっぱい返金しなくてもいいでしょ。ユーザーだって利用したんだから、20万円ぐらい返金するだけでいいでしょ」
 と思う人もいそうだが、それでは甘すぎる。そんなことでは、詐欺師が跋扈(ばっこ)するばかりだ。購入者は、命を失う危険にさらされたのだし、実際に命を失った人もいるだろう。とすれば、「20万円ぐらい返金するだけでいいでしょ」というような発想は許されない。
 たとえば、冒頭の事故では、部品の不具合のせいで、死者が出ている。「部品の不具合の分は 20万円ぐらいだから、その分を払えばいいでしょ」なんていう主張に対しては、「だったら死んだ家族を生き返らせてくれ。おまえのせいで死んだ家族を、生き返らせてくれ」という反論が出るだろう。
 部品の代金で済ませようというのは、話が甘すぎるのである。自動車の安全対策の重要性というものを、理解するべきだ。それを理解できないのであれば、もはや自動車技術者としての資質がないのである。さっさと自動車会社を辞めるべきだ。

 ──

 なお、トヨタがそれをできないのであれば、国が強大な処分を下すべきだろう。ダイハツに対しては、事業廃止か、長期の営業停止処分にするべきだ。できれば、5年ぐらい。現実的には、2年ぐらい。

 ただ、話の基盤としては、こんなひどい経営者を任命した 豊田章男に責任があると言えるだろう。日野自動車の不正が発覚した当時も、そう述べたが、今回も同様だ。



 [ 付記 ]
 似た事情の会社は、たくさんあるそうだ。人のフリ見てわがフリ直せ、というが、身につまされる人が多すぎるようだ。「弊社かな」と。



 続きはこちら。
  → ダイハツの第三者報告書を読んだが問題の状況がブラック企業あるあるでかつ身に覚えがありすぎて全く笑えない「弊社かな」「テンプレに使えそう」 - Togetter





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posted by 管理人 at 22:15 | Comment(3) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この事件、一体何が悪かったのか私にはさっぱりわかりません。新聞でも報じられていません。
(1)「ハードウェアに問題がなかったのなら」という事ですが、では何が悪いのでしょうか。
(2)国交省の認証試験は国交省がやるべきではないのでしょうか。メーカーにやらせるのが問題のもとでは?
(3)完成車に大きな試験物体をぶつけて試験する動画がニュースで流れていますが、完成車でやる必要があるのでしょうか?シャーシ―の設計をきちんとすれば模擬車で十分ではないのでしょうか。
Posted by ひまなので at 2023年12月22日 09:49
> さっぱりわかりません。

 自動車の話なので、素人にはわからないでしょう。わからなくてもいいです。

 知りたければ、ググればわかります。
 あちこち調べるのが面倒なら、AIに聞けばいい。教えてくれるかどうかは、保証の限りではない。
Posted by 管理人 at 2023年12月22日 11:41
 トヨタの子会社の不正は、日野とダイハツだけではない。フォークリフトでも不正があった。7月のことだ。以下、転載。

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 フォークリフト世界最大手の豊田自動織機(愛知県刈谷市)。
 同社は国内向けのエンジン3機種の劣化耐久試験で、排ガスの有害成分の量に推定値を流用するなどした。このエンジンを積んだ主力のフォークリフト3機種の出荷を止め、…… ディーゼルエンジン2機種については、国土交通省から性能を担保する「型式指定」を取り消された。

 https://digital.asahi.com/articles/ASR6X73V8R6VULFA01N.html

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 このときに、他社のダイハツについてもチェックを入れるべきだったのだが、そうしなかったようだ。
 トヨタのガバナンスはおかしい。企業統治がイカレているね。
Posted by 管理人 at 2023年12月23日 11:15
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