2023年12月15日

◆ 権限委譲を実現するには?

 (経営を改善するための)権限委譲を実現するには、いったいどうすればいいのか? 実は、コツがある。

 ──

 先に次の項目を書いた。
  → 日本企業はなぜ敗北したか: Open ブログ
 ここでは、次のように述べた。
  ・ 日本企業は衰退しつつある。(家電など)
  ・ その理由は、経営に速度がないからだ。
  ・ そのまた理由は、権限委譲がなされていないからだ。
  ・ だから、権限委譲を進めることが対策となる。


 日本企業がなすべきことは、権限委譲だ。これが正解だ。
 とはいえ、権限委譲を実行するのは、容易ではない。単に権限を下位に下ろすだけでは、馬鹿が権限を振り回すようになって、会社が崩壊してしまう。それではまずい。ではいったい、どうすればいいのか? 
 そこで、権限委譲のコツを教えよう。
 

 共同責任をやめる


 何よりも大切なことは「共同責任をやめる」ということだ。なぜなら「共同責任は無責任」だからだ。たとえば、会議で全員で決議をして決めたならば、会議に出た全員が責任を取ることになるが、そんなことでは責任が分散されてしまう。結局、誰も責任を取らなくなる。
 こうして衰退していったのが、日本企業だ。雁首そろえて長時間にわたって会議をして、リスクを冒さない無難な決断ばかりをして、市場の競争からはいつも遅れてしまって、どんどん敗北するばかり……ということの連続だった。
 共同責任は無責任なのだから、責任を取る人が誰もいない。そんな無責任体制では、会社は衰退するばかりだ。だから「共同責任をやめる」ということが、何よりも大切になる。

 ※ 「会議を開いて決める」という方式を否定している。日本ではやたらと会議で決めるが、それこそが衰退の元凶だ。

 責任の局在


 共同責任をやめるとしたら、責任を局在させることが必要だ。通常、ただ一人の責任者が全責任を負う。
 たとえば、トヨタで言えば、「水素自動車を推進する」という方針と、「 EV に集中する」という方針があった。ここで、責任者たる社長が前者を選んだとする。その場合、それで失敗したなら、さっさと辞任するべきだ。「こっちの方針が正しい」などとごねるのを辞めて、株主総会で「時代遅れの水素自動車戦略は駄目だ」と批判されて、さっさと退任するべきだ。
 ※ それで退任しないなら、無責任な独裁者であるだけだ。社の内外で批判されるべきだ。最後には石もて追われるべきだ。

 責任の委譲


 本来、トヨタのような大きな会社では、社長は技術的な方針には口出しするべきではない。社長は技術者ではないのだから、技術的な細かなことに口出しするべきではないのだ。「 EV と水素自動車のどちらに注力するべきか」というような話題は、あまりにも専門的なのだから、技術のことをろくに知らない文系の社長が決めるべきではないのだ。素人が口を挟んで技術的な方針を決めるというのは、ただの独裁者の気まぐれであるにすぎない。
 では、どうすればいいか? 自分では決められないことは、部下に丸投げすればいい。「 EV と水素自動車のどちらに注力するべきか」というような話題があれば、社長が勝手に独断で決めるのではなく、それを決める専門的な部下に決断を委ねればいい。これが「権限委譲」だ。
 この場合、決断を委ねられた人(重役)は、自分でその決断を下してもいい。しかし、自分では専門知識が不足していると思うのであれば、自分では決断しないで、その部下(部長や局長のような人物)に決断を委ねればいい。…… だいたい、このくらいのクラスになれば、専門技術の知識も高いので、(課長級の部下の意見を聞きながら)自分で最終決定を下すことができる。
 「水素自動車よりも EV に注力するべきです。それが時代の流れです」
 というふうに、自分の責任で最終判断ができる。

 そのとき、上司からはこう問われるだろう。
 「本当にそれでいいのか? あとになって EV よりも水素自動車の方がいいと判明するかもしれないぞ。もしそう判明したら、きみの判断は間違っていたことになる。その場合、きみは全責任を負うことになる。たぶん降格や左遷や減給になる。下手をすれば解雇だ。そうなってもいいのか?」
 それに対しては、自信を持ってこう答えるだろう。 
 「大丈夫です。あとになって EV よりも水素自動車の方がいいと判明することなど、ありえません。私は自信を持って断言します。豊田章男のようなアホな素人の言うことを信じるべきではありません。私の専門知識のすべてを賭けて、時代は EV であると断言します。ゆえに、トヨタは経営資源を EV に集中投資するべきです」
 こういうふうに断言する人物が現れるだろう。そして、そのときには、この人物に全責任を負わせればいい。彼には全責任を負わせるが、同時に、彼には多大な権限を与える。EV 開発のために多額の投資をする権限も与えられるし、EV 開発のために多大な人員を回す権限も与えられる。責任と同時に権限も与えられる。

 結局、自分では責任を取れない上司が、自分できちんと責任を取れる部下に、責任を委譲する。同時に、権限も委譲する。……こういう形で、権限委譲が進む。

 ※ 豊田章男のような独裁者が、自分で勝手に決めたがった場合には、どうするか? 重役会議のような公の場で、議論すればいい。そこで、ろくに知識もない社長は、議論で簡単に論破される。「知識もないくせに感覚で物を言うな」と批判される。「専門技術のことは専門家に任せろ」と重役陣に批判される。こうして無知な素人は、偉そうな顔をすると、批判されて、馬鹿にされる。下手をすれば、解任だ。独裁者は自動的に解任されるわけだ。(権限委譲すれば、解任されない。失敗して解任されるのは、社長でなく、部下の方だ。)

 中位・下位の権限


 社長クラスの決断となるような「上位の権限」については、以上のような形で権限委譲を進めればいいだろう。
 一方、もっと細かな「中位・下位の権限」については、どうか? この場合も、基本的には、以上に述べたような方式で済む。ただし、その際、次のことが大切だ。
 「権限を委譲するときには、その問題について最も詳しく理解している人が、権限を持つ」
 たとえば、取引先の A社に Pという部品を売り込むとしよう。このとき、A社のことも Pという部品のことも、一番よく知っていうのが紀伊遠州という部下であれば、この紀伊遠州という部下に全権限を委ねる。上司がいちいち決断に介入することはない。紀伊遠州という部下が即断即決で全権限をもって決断する。……こういうふうに「権限委譲」が進めば、経営は速度が上がることになる。
 この方式で成功したのが、キーエンスという会社だ。徹底的に権限委譲を進めたことで、大幅なスピードアップをなし遂げた。

 人材の選抜


 下位の社員が権限委譲を受けて正しい判断ができるとしたら、下位の社員は(その分野では上司以上に)優秀である必要がある。そのためには、下位の社員に、優秀な人材を採用しておくことが必要だ。そのためには、世間並以上の高給を払うことが必要だ。できれば、東大生がいっぱい来て、社員は東大生だらけ、となるぐらいがいい。この方式を取っているのが、超一流企業だ。アメリカの GAFA もそうだが、日本ではキーエンスもそうだ。

 人材の育成


 あまり高給を払えないので、たいして優秀な人材もいない……という会社もある。そういう会社では、人材も平均レベルだ。その場合には、どうするか? 
 うまい方法がある。「既存の社員の能力を大幅に上げる」というふうにすればいい。社員が優秀でなければ、優秀でない社員を優秀に転化してしまえばいいのだ。
 では、そのためには、どうすればいいか? まるで魔術のような、そんなうまい方法があるか? ある。それは、育休制度だ。
 育休制度を採用すると、育休中の社員は現場から遠ざかってしまうので、その分、仕事のスキルが低下してしまって、社員の生産性が下がる……というふうに思われてきた。だから、企業は育休制度の採用に消極的だった。
 ところが、意外な事実が判明した。次のことだ。
 「育休中の社員の代わりに、若手社員が仕事を代行すると、それまでは任されていなかった仕事を代行することで、若手社員のスキルが大幅にアップする。政府がリスキリングなんていう掛け声を挙げるまでもなく、若手社員が責任ある業務を任せられることで、スキルが大幅にアップする。その後、育休社員が復帰しても、若手社員はスキルがアップしたままだから、全体としての生産性は大幅に向上する」


 これをまとめて言えば、こうなる。
 「育休制度の下で、若手社員に仕事を任せれば(委ねれば)、生産性が大幅に向上する」

 育休をやればやるほど、生産性が向上するのだ。

 こうして、人材の育成が進むので、あとは権限委譲もスムーズに進むようになる。
 意外な方法で、権限委譲が進むのだ。

 ──

 なお、上の話は、下記の体験談に従っている。
 《 入社して1年半の間に先輩が5人育休に入った話 》
気がついたら入社2年目にして私は開発の半分を担っていたのです。特に、運用作業の多くを担当されていたDさんが抜けたので、やったことがなかった多くの運用タスクにも挑戦しました。また、開発活動において必然的に任される量も期待される質も大きくなりました。入社以来、最も成長できた期間でした。

育休によって一番未熟な私がレベルアップできたことで、育休の2人が戻られた現在のチームは以前と比較して大きな進化を遂げています。
( → Sansan Tech Blog




 【 関連サイト 】
 権限委譲をしないトヨタ社長(豊田章男)が、いかに独裁的にふるまっていたか……という話は、先の項目で示した。
  → 日本企業はなぜ敗北したか: Open ブログ

 ここでは、次のページを紹介した。独裁者ぶりが、よくわかる。権限委譲の対極だ。
  → トヨタ社長、好き嫌い&粛清人事で優秀な人材を次々放逐…幹部「働くのが馬鹿らしい」 | ビジネスジャーナル





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posted by 管理人 at 23:22 | Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
仰せの通りですね。昔から日本では権限委譲ができていなかったのですが、高度成長の時は次々と新規事業や大学学科ができ、結果的に若い人への権限委譲ができていました。経済成長が止まったため問題が顕在化したと思います。実際、どれかの事業や学科を廃止するなんて会議は、すんなり結論が出るわけはありません。
 米国の大学に一時期いましたが、大体のことは学部長あるいはその下の専門委員会で決めていたようです。失敗したらすぐ辞職するのですが、そのために高給をもらっているのですね。
Posted by ひまなので at 2023年12月16日 10:09
究極の極意です。
権限移譲をした上で、チャレンジや失敗を許すような風土が拡がれば、日本企業には再生の余地があるような?
ただし、既にこの国民とメディアは右へ倣え、忖度が美意識として植え付けられているので、教育から見直さないと何も変わらないかな?
Posted by Hidari_uma at 2023年12月17日 09:17
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