※ 最後に 【 追記・訂正 】 を加筆した。本項の記述は事実認識が不十分だったようなので、追記して訂正する。
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大谷の巨額契約については、驚きの声が多いが、批判的な意見も散見される。代表的なものは下記だ。
世界最大のスポーツ誌、米スポーツイラストレーテッドは11日(日本時間12日)、今回の一報への印象を4点にまとめて報じた。
(1)これは常軌を逸している。大リーグは年俸200万ドル以上をもらっている控え捕手だっている。球界で最高の才能の持ち主がこれほど『薄給』なのは、この世のものとは思えない。
(2)(略)
(3)これは球界にとって朗報なのか? それを判断するのは尚早だ。理論的には、多くの球団が大スターとの契約に今回のメソッドを用いることができる。また、これは大きな市場を持つチームが大スターとの契約をさらなる寡占状態にしてしまうツールになり下がるかもしれない。そうなれば、球界にとってはいいことではない。
(4)今回の契約でドジャースはぜいたく税が発生する年俸総額上限まで2500万ドル(約36億3000万円)の余裕を手にした。これを補強費に回せば、大リーグは『ドジャースと他球団たち』という構図になりかねないが、そんなものは誰も見たくない。
( → 大谷翔平の「97%後払い契約」、世界最大のスポーツ誌が懸念「大リーグは『ドジャースと他球団たち』という構図に」:中日スポーツ・東京中日スポーツ )
この件については、私は昨日のうちに思いついていたのだが、書く時間が取れないでいるうちに、上記の記事が出てしまった。話の内容は重複しているので、先に書かれた上記記事を引用して紹介した。
それでも、上記記事だけでは話は不十分だと思えるので、私の見解を示そう。
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今回の「後払い」(契約の97%は、10年間の契約が終了したあとに支払われる)という方式は、「ぜいたく税の支払いを回避して、チームを強化する」とということが目的であり、そのために大谷は自己犠牲をした……というふうに解釈されているようだ。
だが、これは妥当ではない。損得で言うなら、これは大谷にとって最も得になる方式である。なぜなら、大幅に節税できるからだ。(詳しくは後述。)
とはいえ、節税は完全に「合法的」であるから、不正ではない。批判されるいわれはない。
一方、「不正である」という解釈ができる点もある。それは「ぜいたく税の支払いを免れる」ということだ。これは一種の「脱税」に近い「脱法的」な手法である。「ズル」(cheat)と言ってもいい。明白な「ルール違反」とは言えないまでも、「フェアプレー」の理念に反するので、不正な行為だと見なせる。
そのわけを説明しよう。

そもそも、「ぜいたく税」とは何か? 「金の力で戦力差をもたらす」という近年の風潮を是正するために、「金をたくさんかけるチームには罰金を科する」という形で、ハンディをかけることだ。このことによって、貧しいチームも報われるようにすることで、戦力の均等化をめざす。こうして「各チームがなるべく公平な戦力で戦える」というふうにする。……それが狙いだ。
ところが、大谷はこの理念に真っ向から逆らう。「金の力でチームに戦力差をもたらして、金持ち球団が金の力によって勝利する」ということをめざす。例で言えば、昔の巨人が金の力にものを言わせて、やたらと選手を買い集めて、優勝を金で買おうとした……という例がある。このときの巨人は野球ファンから毛嫌いされた。「金の力で優勝を買おう」というのは、「正々堂々と戦う」というフェアプレーの精神に反するからだ。
なのに、大谷はそれを狙う。「最も金のあるチームであるドジャースが、さらに金の力で高額の選手を買いあさって、金の力で優勝を買おう」という方針を徹底させようとする。このままだと、たしかにドジャースは金の力で優勝を変えるようになるかもしれない。「大谷が今後も MVP を独占し続けるように、ドジャースが優勝を独占し続ける」というふうになるかもしれない。そうすれば、毎年優勝できて、大谷はハッピーだろう。だが、そんなふうに「ドジャースばかりが毎年優勝する」というようなスポーツを、もはや誰も見たくはないのである。
今年は阪神が優勝して、世間では大騒ぎしたが、それというのも、阪神は長らく優勝から遠ざかっていたからだ。この 15年間に、巨人もヤクルトも広島も中日、何度も優勝してきた。なのに阪神は 2005年以来、優勝から遠ざかってきた。
→ 年度別優勝球団(セ・リーグ) - プロ野球
もっと優勝から遠ざかっているのがベイスターズだが、それに次いで優勝から遠ざかっていたのが阪神だ。昨年までの 10年間に、巨人は4回、ヤクルトは3回も優勝してきた。これらのチームにとっては優勝などは珍しくもなかった。しかし阪神の優勝は 18年ぶりだった。今年の阪神の優勝は久々のものであった。だからこそ、阪神ファンの狂喜乱舞は大きかった。
ともあれ、優勝というものが交替するからこそ、野球というものは面白くなる。なのに、シーズンが始まる前から「ドジャースが優勝する」とわかっていたら、ドジャースのファンはともかく、他チームのファンはしらけるばかりだろう。そういうことを狙っているのが、大谷なのだ。「自チームさえ優勝できればいい。他チームのファンのことなどは考えない。他にチムが優勝できる可能性の芽を摘んでしまえ」と。
これはもはや、野球に対する破壊行為だ。ぜいたく税の理念を正面から否定するものだと言える。
大谷は、後払いをすることで、自己犠牲の形で、チーム愛を貫こうとしたのだろう。そのこと自体は、勝利への執念を意味するので、気持ちはわからなくもない。
だが、勝利というのは、「何が何でも勝利をすればいい」というものではない。特に、「金の力で優勝を買えばいい」というものではない。スポーツというものは、前提として、各チームが公平であることが必要だ。その後に、選手が正々堂々と戦えばいい。それこそが大谷の望んでいる「フェアプレー」であり「スポーツマンシップ」であるはずだ。
今回のように「金の力で優勝を買おう」というのは、大谷のような好青年の本来の望んでいることではあるまい。どこかから変に入れ知恵をされて、それに巻き込まれてしまったのだろう。
「ぜいたく税とは何か?」── その理念を正しく理解すれば、「ぜいたく税を回避しよう」というような、脱法的なルール逃れのズルをしようとは思わなかったはずだ。
大谷は「ぜいたく税とは何か?」という理念を正しく理解できていなかった。その理念を理解した上で、今回の契約を破棄するべきだ。そして、「後払い」の方式をやめて、「 10年間で均等に払う」という普通の方式に戻すべきだ。それこそが「正々堂々」としたフェアプレーの精神にかなうからだ。
(ぜいたく税の支払いを免れないので。)
[ 付記1 ]
大谷のような「ズル」をしようとした例は、過去にもあった。ヤンキースがジャッジとの契約を14年契約にすることで、ぜいたく税の支払いを遅らせようとしたのだ。その意味では今回の大谷と同趣旨である。(規模は小さくて部分的だが。)
しかし、このときは、「そんなズルは認められない」と認定されて、その契約は無効とされた。
→ 大谷翔平の後払い契約に賛否“本当の理由”「思いやりの提案が…」「ジャッジの14年契約は認められず」代理人バレロが米メディアに語った“内幕”
このときの事例に従えば、今回の大谷の契約も、無効とするべきだろう。
[ 付記2 ]
冒頭の引用記事では、スポーツ・イラストレイテッドの記事というのが紹介されていた。その記事は、どれのことかと思って、ネットで英文情報を探したが、次の類似記事しか見つからなかった。(ピッタリの記事は不明。)
→ How Shohei Ohtani’s One-of-a-Kind Contract Came Together - Sports Illustrated
なお、ここには興味深い話がある。大谷はこの巨額契約以外にも、広告所得が毎年数十億円規模で発生している。ドジャースからもらうのは、年間 200万ドルだけだとしても、その数十倍の広告所得が、別に入手できるのだ。
とすれば、税金対策も考えれば、ドジャースからの巨額所得は後払いにした方がお得になる、という計算が立つ。特に、所得税の高いカリフォルニアを脱して、引退後はフロリダに移住すれば、所得税は激減する。
今回の「後払い」(契約の97%は、10年間の契約が終了したあとに支払われる)という方式は、大幅な節税策となるわけだ。
[ 付記3 ]
「ぜいたく税の回避」については、次の反論もありそうだ。
「当面はぜいたく税の支払いを免れるが、10年後のあとではぜいたく税の支払いが始まる。したがって、11年目以後のドジャースはぜいたく税の負担で苦しむことになる。ドジャースは、10年間は有利だが、11年目以後は不利だ。同じチーム内で(時期的に)有利と不利が生じるだけだから、他チームには影響しない」
しかし、この説は妥当でない。
(i) 10年間は、他チームは優勝できなくなって、不利である。その意味で、他チームに影響する。
(ii) 11年目以後では、ドジャースはぜいたく税の支払いを過度に必要とするので、ドジャースは優勝しにくくなる。その分、将来のドジャースファンが不利である。将来のドジャースファンが可哀想だ。
いずれにしても、不公正なやり方で「今の自分さえよければいい」という方針は、典型的なエゴイズムであり、ズルであり、チートである。フェアプレーの精神には反する。こんなズルをして勝とうとする大谷は、見たくない。
大谷は、初心を思い出して、フェアプレーの精神を貫徹してもらいたいものだ。その意味で、今回の契約を破棄するべきだ。
【 追記・訂正 】
本項の記述には、誤認があったようだ。「この契約でぜいたく税の支払いを免れる」という認識は、正しくなかったようだ。下記に指摘した文章があるので、転載する。
今回の後払いと贅沢税の回避については誤解がある。
2024年度の贅沢税の対象となる年俸総額の上限は2億3700万ドル(約344億円)。大谷が本来受け取るはずの7000万ドル(約101億円)のうち97%を後払いにすることで年俸が200万ドル(約3億円)となり、6800万ドル(約98億6000万円)を軽減できるとの憶測がファンの間では生まれたが、実は、後払いが発生する場合は、10年後の物価上昇などを考慮して年俸が換算されるため贅沢税の対象となる大谷の年俸は200万ドル‘(3億円)ではなく4600万ドル(約66億7000万円)となるのだ。
「多くのファンが、今回の大谷の後払いを贅沢税を回避するためだと考えているようだが、それは間違いだ。年俸は4600万ドル(約66億7000万円)で、マックス・シャーザーの4333万ドル(約63億円)、アーロン・ジャッジの4000万ドル(約58億円)を上回っている。年俸7000万ドル(約101億円)の数字を人々が最初に目にして、何千ものタイトルの記事を見たため、ファンの間に根付いてしまっているが、実際は違うのだ」
球団の補強資金に余裕は出るが、元々、年俸7000万ドル‘(約101億円)という数字が誤解であり、それほど大きな贅沢税の軽減を受けられるわけではないという説明だ。
( → 「金満球団を有利にするヌケ穴」「パンドラの箱が開けられた」全米を巻き込んだ大谷翔平の契約金97%“後払い”への賛否と誤解 ? 本格スポーツ議論ニュースサイト「RONSPO」 )
この趣旨からすると、「ぜいたく税を免れる」という本項の趣旨は、妥当ではなかったようだ。
お詫びして訂正します。

所得税についてはどうなるのでしょうね? 発生主義ないし権利確定主義によるのだと、後払いでも今課税となる可能性があると思われますが、まあその辺も検討の上での契約だとは思います。所得税の税務計算についての解説ページ、たとえば(米国はまた違いそうですが):
https://shotokuzei.k-solution.info/2006/01/_1_447.html
→ https://anond.hatelabo.jp/20231217063043
「ぜいたく税の回避」という話は、この計算で否定されたことになる。ぜいたく税を免れることはできないからだ。
しかしながら、「支払いが延期されることで、現時点での資金に余裕が生じる」ということはある。つまり、ぜいたく税の支払いを覚悟すれば、巨額の資金を投入することが可能となった。現時点では財布にはたっぷりと金があるからだ。
実際、ドジャースは大谷を買ったことで購入終了と見られていたのに、金が余ったので、山本由伸も購入しようとしている。ここで金が余るようになったのは、大谷の作戦の効果だ。
かくて大谷作戦でドジャースは大幅に有利になる。金満球団ばかりが得をする。
その意味では、本項の前半で述べた批判は、間違っているわけではない。