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日本企業は各分野で敗北した。家電、半導体、コンピュータ。最近では、お家芸の自動車でも EV で敗北しつつある。
自動車の輸出台数で今年、中国が日本を抜いて世界一になることがほぼ確実となった。他国が撤退したロシア向けの特需や、電気自動車(EV)の輸出の急増が要因だ。一方、追い抜かれる日本は、後れをとっているEVへの対応が急務だ。
昨年まで輸出世界一だった日本のメーカーはガソリン車が中心で、世界的にEVシフトが進む中、今後は厳しい競争を強いられそうだ。
すでに日本勢は、EVの普及が進む中国市場では地元勢に押され、販売減や収益の悪化にさらされている。
( → 中国の自動車輸出、日本を抜いて世界一へ EVの増加とロシア特需で:朝日新聞 )
家電、半導体、コンピュータの各産業は、すっかり落ちぶれてしまったが、自動車産業だけは安泰だ……と思っていたら、その座もすでに風前の灯火である。
そもそも、自動車産業が優勢なのも、日本企業は低賃金で有利なだけだ。一方、ビッグ3は年収 1200万円も労働者に払う。
→ 米自動車労組の大勝利:ビッグスリー一斉スト46日間 賃上げ勝ち取り年収1200万円超に
こんなに高給を払ってもシェアを得られるのだから、ビッグ3はきわめて優秀だと言える。逆に言えば、低賃金しか払わないのに利益が小幅の日本企業は、全然ダメだということになる。(特に日産とホンダがひどい。)
トヨタも、今はハイブリッド車で儲けているが、 EV 戦略では先の見通しは暗い。
というわけで、虎の子の自動車産業でさえ、将来はとうてい楽観できない。
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自動車産業はさておき、家電、半導体、コンピュータの各産業は、ほとんど壊滅的である。惨憺たるありさまだ。
そこで政府は、半導体産業の構築を狙って、3.4兆円もの国費をこの分野に投入しようとしている。前項で述べたとおり。出典は下記だ。
→ 半導体基金に3.4兆円要求 経産省、ラピダスやTSMCの補助金で:朝日新聞
では、このような巨額の金(3.4兆円)を投入すれば、日本の半導体産業は復興するのだろうか?
あるいはまた、家電やコンピュータの分野でも、政府が巨額の金を投入すれば、いったん衰退した産業は復興するのだろうか?
それはいわば、「いったん死んだ死体に電気ショックを与えると生き返る」というような方針だが。ほとんど「フランケンシュタイン化」のような方針だ。……そんなことは可能だろうか? 金の力を注げば、いったん死んだ産業が生き返るのだろうか?
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私の考えを言おう。
「もちろん、そんなことは不可能だ。金の力を注げば、いったん死んだ産業が生き返る、ということはありえない。なぜか? これらの産業が死んだのは、金が不足したからではないからだ。金が足りなくて産業が衰退したのではない。産業が衰退したのには、別の理由がある。そこを直視するべきだ」
そこで、問題だ。産業が衰退したのには、別の理由がある。では、別の理由とは何か?
その答えを言おう。こうだ。
「日本の産業が衰退した理由は、資本が不足したからではなく、経営に失敗したからだ。金が足りなかったからではなく、(経営者に)知恵が足りなかったからだ」
日本企業の経営能力の駄目さ加減は、かねて何度も指摘されているとおりだ。「兵は一流、将は三流」という軍の評価が、そのまま会社経営にも当てはまる。
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特に駄目なのが、「意思決定の遅さ」という点だ。商売で相手会社と取引をしようとしても、日本企業は稟議書などを出したり、会議を開いたりで、意思決定がものすごく遅い。その間に、他の企業に商談を奪われてしまう、ということが続出した。
このせいで、顧客との密接な関係も取れなかった。「自社製品を一方的に売りつける」という殿様商売をするばかりで、「顧客の注文に応じてカスタマイズをする」というような商法は苦手だった。だから、かつては世界最強だったステッパーの分野でも、ニコンやキヤノンは衰退して、オランダの ASML に負けてしまった。
→ ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した (野口 悠紀雄)
→ 半導体露光機で日系メーカーはなぜASMLに敗れたのか:モノづくり最前線レポート
このような「意思決定の遅さ」は、日本企業に共通する。例外は、キーエンスぐらいだ。逆に言えば、キーエンスだけは、日本企業らしくないので、高給と高利益を達成している。
そして、キーエンスの経営の特徴は、権限委譲による即断即決だ。この点でも、日本企業らしくない。だからこそキーエンスは高成長ができる。
ラピダスのような新企業も同様だ。権限委譲による即断即決を可能にして、高給を払えば、ラピダスは半導体企業として成功できるだろう。一方、権限委譲による即断即決をしないで、世間並みの給料を払うだけにしているようでは、失敗確実だろう。
実際、かつての エルピーダメモリが失敗した例がある。また、JDI(ジャパンディスプレイ)という失敗例もある。
ラピダスはどうかと言えば、権限委譲と給料の点では(キーエンスと違って)全然ダメだ。さらには、別の難点もある。下記だ。
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日本企業には、より大きな難点もある。次のことだ。
「年を食った老害経営者が経営を牛耳っているので、即断即決の若々しい経営ができない」
この点は致命的だろう。特に、老人が集団で経営しているようだと、前述の「意思決定の遅さ」をもたらすことになる。
この「意思決定の遅さ」は、大統領制と議会民主主義制に似ている。大統領制ならば、一人が即断即決できる。議会民主主義制だと、(首相がリードすることはできても)即断即決は難しい。
政治ならば、即断即決の必要はないだろうが、企業経営だと、即断即決ができないことは、致命的な難点となりがちだ。
このことは、歴史的にも、事例を見ればわかる。成功した大企業は、いずれも優秀なトップが会社の方向性をリードした。事例は下記。
アップル(ジョブズ)、マイクロソフト(ゲイツ)、Google(二人の創業者)、テスラ(E・マスク)、TSMC(創業者1人)、ソフトバンク(孫正義)。
これらの例ではいずれも、優秀なトップ1人が経営をリードしてきた。だから企業は急成長できた。
※ なお、いずれも若い経営者(20代〜40代)が経営をリードした。
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最後に、老害の典型例を紹介しておこう。次の二つだ。
・ 晩年の日産ゴーン。
・ 晩年の豊田章男。
晩年のゴーンが駄目だったことについては、ゴーン解任(2018年)の2年ほど前(2016年)に、本サイトで指摘した。
→ ゴーン経営とトヨタ経営: Open ブログ
晩年のトヨタ章男が駄目だったことについては、「 EV よりも水素自動車にこだわる点が駄目だ」という趣旨で、2020年ごろから本サイトで何度か批判した。
さらには、2023年になってから、次の批判も書いた。
→ 豊田章男は晩節を汚す: Open ブログ
だが、ネットで調べると、もっと前からひどかったようだ。2017年の記事に、こうある。
→ トヨタ社長、好き嫌い&粛清人事で優秀な人材を次々放逐…幹部「働くのが馬鹿らしい」 | ビジネスジャーナル
トヨタ自動車は1日、役員人事と組織改正を発表した。その全容は一言でいえば、厚化粧をしてごまかした人事であり、お化粧の下はまるで「化け物」だ。
実態は何かといえば、豊田章男社長の傍若無人と側近の重用ぶりが常軌を逸脱し、好き嫌い人事や懲罰人事がオンパレードの目も当てられない人事なのである。
独裁社長の言うことを聞くイエスマンばかりを重用して、耳に痛いことを言う優秀な部下を左遷する……という方針。まるで菅義偉みたいな独裁者気質だ。
どこまで本当かは知らないが、こういう記事が出るところからして、当たらずと言えども遠からず、というところなのだろう。
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なお、ここではトヨタや日産の悪口を言いたいわけではない。これらを典型とするような、日本の経営の駄目さ加減を指摘している。
こういう経営の問題を是正しないで、巨額の金ばかりを投入しても、その結果はろくなことにならない。……それが、本項の趣旨だ。
ちなみに、エルピーダメモリは、国から 300億円の出資を受けたあとで、負債総額4480億円で破綻した。JDI(ジャパンディスプレイ)は、こうだ。
設立時に2000億円の出資を受け、16年から17年にかけても750億円の投資が追加でなされた。赤字の民間企業に国の金を投入し続けることに対して批判があったが、17年には1070億円の、18年にも200億円の支援がなされた。しかし、18年12月10日、産業革新投資機構の民間出身の取締役全員が辞職。革新機構は機能を停止した。
ジャパンディスプレイの財務状況は厳しいままだった。一時は債務超過に陥った。会計不正事件もあった。
( → 経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した )
こういう失敗例があるのに、失敗に懲りずに、(ラピダスなどに)3.4兆円を投入しようとしているのが、日本政府だ。
そこで私が、「そいつは違うだろ」「金を出せばいいというものではない」と批判するわけだ。
※ MRJ でも、500億円を出して失敗した、という事例がある。その二の舞だ。いや、もっとひどいかな。( MRJ は 6000億円の無駄遣いだった。三菱重工の負担を含む。)
【 関連サイト 】
ラピダスの高齢経営者。
最先端半導体の工場を北海道千歳市に建設中のラピダス。官民あわせて約5兆円の資金を投じる見込みの国策プロジェクトを率いるのは、小池淳義社長(71)だ。古希を超えてなお挑戦を続ける。
( → 最先端半導体、スピードにこだわり続ける ラピダスの小池淳義社長:朝日新聞 )
【 追記 】
関連情報となる記事がある。本日( 2023-12-13 )の朝日新聞、2件。
《 「持ち帰り文化」損失招く 》
タイの大手企業はいま、日系企業を「コストにうるさく判断が遅い」という風に見始めています。何でも持ち帰って本社と検討する「持ち帰り文化」から来ているようです。……日本は、完璧な1トライにこだわり過ぎて機会損失しているように見えます。
( → (耕論)日本と東南アジアの50年 大庭三枝さん、マルティ・ナタレガワさん、ガンタトーン・ワンナワスさん:朝日新聞 )
《 タイ首相 EV開発の遅れに懸念 》
タイのセター首相は……タイ政府が力を入れている電気自動車(EV)産業の育成について日本の自動車メーカーと議論を重ねているとし、「迅速に動かないと巨大なサプライチェーンが危険にさらされる」と日本のEV開発が遅れていることへの懸念を示した。
( → 日本ASEAN首脳会議を前に会見:朝日新聞 )
日本企業の駄目さ加減は、タイの指導者にも歴然として見えるようだ。なのに党の日本企業には危機意識がまったくない。政府に至っては「巨額の金を投入すれば済む」と思い込んでいる。「足りないのは金だけだ」と思い込んでいる。途上国の鈍才みたいな無知さ加減だ。タイよりも日本政府や日本企業の方が、よほど途上国だね。呆れる。
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一方、別記事もある。経営者の方針の紹介。
→ ラピダスの最速製造戦略、小池社長が手の内明かす | 日経クロステック(xTECH)
→ 半導体 ラピダスが勝つために必要なこと | 日経BOOKプラス
→ 半導体復活なるか?ラピダス始動 官民連携、会長と千歳市長に聞く:時事ドットコム
いずれも経営方針として、「開発と生産の速さを追求する」と述べている。だが、まったく見当違いだ。
日本企業の遅さは、「経営判断の遅さ」に起因する。ここの遅さを克服することが大切だ。そのためには、権限委譲が必要だ。何よりも権限委譲こそ大事だ。
その一方で、高齢の経営者はすべて退陣するべきだ。70歳以上なんてとんでもない。50歳以上の経営者はすべて退陣するべきだ。( 40代の経営者だって、10年もたてば 60歳に近くなる。)
最も肝心なことができていないことからして、ラピダスの失敗はすでに予定されていると言えそうだ。(断言はしないが。)……エルピーダや JDI の 二の舞かな。
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なお、同じように高齢の経営者でも、見事に成功した例がある。JAL を立て直した稲盛和夫だ。ではなぜ、稲盛和夫は成功したか?
それは、彼が(高齢にもかかわらず)「アメーバ経営」という権限委譲を徹底したからだ。彼は陣頭指揮を執るかわりに、下位に権限を委譲した。だから JAL は見事に再建したのだ。
この件は前にも述べた。
→ 稲盛和夫とビル・ゲイツ: Open ブログ
→ 国策の半導体会社: Open ブログ
※ 後者の項目では、本項と似た趣旨の話を述べている。日付は 2022年11月12日 。ほぼ1年前だ。
金融緩和のせいでしょうね。
ダメ経営陣でも刷りまくった金融緩和マネーが
株価を支えるわけです。
いつまでこの刷りまくりが続けられるのか。
限界はあると思うのです。
2.年功序列による転職妨害
3.役に立たない失業保険
4.職務規定書がない不平等な労働契約
5.相互持合い株による買収防衛
6.過労死が起きても僅かな賠償金
7.機能しない労働基準局
8.役員の収入のみ上がっている事実
経営者を守り社員を大切にしない日本企業は没落して当然。