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政府は当初、高校生への児童手当を支給すると同時に、扶養控除を全面廃止する方針を示した。しかしそれだと、高所得者ではかえって損することになるというので、扶養控除については、全面廃止から部分廃止に転じる……という方針を新たに示した。
児童手当の高校生までの延長に伴い、焦点になっていた「扶養控除」について、政府は廃止はせず、縮小にとどめる方向で検討していることが分かった。
扶養控除は養っている親族の人数に応じて税金の負担を軽くする仕組み。所得税の場合は、16〜18歳の子ども1人につき38万円を控除できる。高所得者の方が恩恵が大きくなりやすい。
児童手当は来年12月から、高校生の年代も原則月1万円、年間で12万円支給される予定だ。仮に扶養控除を廃止すれば、元々12万円以上の減税の恩恵を受けていた一部の高所得者は逆に負担が増えるため、今臨時国会で懸念が出ていた。
( → 扶養控除、廃止せず縮小へ 高校生まで延長の児童手当 政府検討 負担増避ける狙いか:朝日新聞 )
試算によると、境界は年収 1200万円程度。
これ以下ならば、扶養所得の控除が 12万円以下なので、児童手当の額が上回る。
これ以上ならば、扶養所得の控除が 12万円以上なので、児童手当の額が下回る。
そこで、全面控除から部分控除に転じれば、1200万円以上の高所得者でも、児童手当の方が上回る……という算段だ。これにて一挙解決、と目論んだ。
しかしこれは事実誤認である。
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この件については、先に言及したとおりだ。
→ 高校生の児童手当 .1: Open ブログ
この項目では、「扶養控除を半分にする」という提案をしている。その意味では、今回の政府提案と同様だ。
しかし 【 追記 】 では一転して、その方針を修正している。というのは、次のことがあるからだ。
「高校生の時期には、高所得者の世帯では損をする。しかしそれ以前の 15年間では、無給付から給付に転じるので、15年間分の給付を新たに得られるようになる。差し引きすれば、大幅に得をする」
つまり、こうだ。
「高校生の時期(3年間)だけを見れば損をするが、中学生までの時期(15年間)を見れば大幅に得をする。差し引きして、18年間で大幅に得をする」
こういうふうになるのだ。このことは、次の文献で裏付けられる。
いずれの年収の場合にも制度改正によって高校生にも年額 12 万円(月額 1 万円)が給付される一方、扶養控除の廃止によって負担が増え相殺される形になる。所得税は累進税率となっているため、限界税率の高い高所得者の場合には所得・住民税の負担増が大きくなり、児童手当の増加分を上回るケースも生じる。
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年収 1300 万円の高所得世帯では子どもが高校生の時(16〜18 歳)には現行制度より負担が増え、ネットの負担増減はマイナスになる。一方、それ以前は従来敷かれていた所得制限が撤廃されるため、制度改正前後の比較では給付が増加する形になる。
( → 児童手当拡充と扶養控除廃止の家計影響試算 〜改正による出生から高校卒業までの通算影響〜 | 星野 卓也 | 第一生命経済研究所 )
今回の制度改正では、「高校生の給付と扶養控除の廃止」だけがあるのではない。同時に、「それ以前は従来敷かれていた所得制限が撤廃される」ということがある。このことが高所得者に大幅な給付(児童手当の新規給付)をもたらす。
これを見失ってはならないのだ。これを見失ったまま議論するのは、大幅な事実誤認であると言える。自民党も、朝日新聞も。