2023年10月28日

◆ AIで密集事故の予防?

 梨泰院の群衆雪崩事故から1年たった。事故の予防のために、監視カメラとAIを使う、というハイテク技術が開発されたが……

 ──

 梨泰院の群衆雪崩事故から1年たった。1周年ということで、あれこれと記事が出ている。
  → 梨泰院の事故現場「記憶と安全の道」に 遺族らの求めで刻まれた文字:朝日新聞

 対策としては、「事故の予防のために、監視カメラとAIを使う」というハイテク技術が開発されたそうだ。
 関連死を含めて159人が犠牲になったソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)の雑踏事故から29日で1年を迎えるのを前に、ソウル市が25日、安全対策のための訓練を実施した。監視カメラの映像を人工知能(AI)が解析し、人が密集した危険な状況を察知するシステムを導入。人出が増えるハロウィーンに備えて、再発防止に全力を尽くす構えだ。
 カメラに設置されたスピーカーを通して「狭い路地には入らず、移動をお願いします」と呼びかけた。
 ソウル市は年内に、監視カメラ約900台を混雑が予想される約70カ所に取り付ける。AIが危険を察知すれば、市や警察、消防などと情報を速やかに共有するシステムも構築した。
 韓悳洙(ハンドクス)首相は……「同じ過ちを繰り返さない」と語った。
( → 「狭い路地に入らないで」 梨泰院事故1年、AIが密集を察知・警告:朝日新聞

 「事故の予防のために、監視カメラとAIを使う」というハイテク技術は、いかにも進歩的に見える。だが、これは全然ダメだ。なぜなら、事故の原因を無視しているからだ。
 事故の原因とは? それは、1年前に本サイトで分析した。
  → 梨泰院とスペイン坂: Open ブログ

 つまり、道の狭さが根本原因だ。また、それをもたらしたのは違法建築だ、とも判明した。(コメント欄の追記)
 この件は、上記記事にも記してある。
 事故現場の路地はホテルの違法建築によって、道幅が狭まっていたことが判明している。ソウル市は5月までに2611件の違法建築を把握。うち約3分の2は改善されたが、残る約3分の1については「履行強制金」を科すなどの行政措置をとるという。

 違法建築が原因だとわかっていて、3分の2は改善したという。
 では、肝心の現場はどうか? 写真はこうだ。


itewon.jpg
出典:朝日新聞


 道幅の狭さはまったく改善されていないとわかる。ちなみに、1年前の同じ場所の画像はこちら。
  → https://x.gd/v6pye

 3分の2は改善したというが、肝心の現場(特に細い道)は、まったく改善されていないわけだ。改善度は0%である。この道を2倍ぐらいに拡幅するか、あるいは、他にも並行する道をいくつか追加するべきだ。なのに、この狭い道ひとつしかない。そこに何万人もの群衆が押しよせる。……そういう問題は、何ひとつ解決していないわけだ。改善度は0%のまま。
 それでいて、「事故の予防のために、監視カメラとAIを使う」というハイテク技術を導入しました、と言い張る。あげく、「同じ過ちを繰り返さない」と うそぶく。
 呆れるしかない。

 ※ 違法建築の放置については、下記記事もある。
    → 道幅狭める違法建築、9年で罰金5千万でも撤去せず ソウル雑踏事故:朝日新聞

 ──

 教訓。AIを使えば問題を解決できる、というのは安易な発想だ。そんなことで、物事の本質への対処をなおざりにすると、結果は悲惨となる。
 ただし、人のことを笑えない。日本も似たようなものだ。「定額減税4万円」なんていう馬鹿げた制度を導入して、1億人の無駄手間を駆けようとする。「事故の予防のために、監視カメラとAIを使う」というハイテク技術よりも、もっとひどい愚行だ。呆れるしかない。
  → 定額減税4万円の愚: Open ブログ

 この無駄については、さすがに他の人々も気づいて指摘しているようだ。
 国が国民全ての所得を把握しているわけではなく、所得情報を持つ市区町村が一人ずつ計算するのも現実的ではない。
( → 減税の詳細まで指示、首相躍起 与党の調整、難航の可能性 「何のための税調か」不満の声も:朝日新聞

 こうわかっているのだから、馬鹿げたことはやめればいいのだが、財務省もまともに口出しできないらしい。菅義偉首相以来、「ものいえば唇寒し」「たてつくと左遷される」という無気力ムードが官庁を覆っている。かくて日本政府全体が脳死に近くなる。ひどいものだ。

 ──

 ともあれ、韓国の事故を見たら、他人事扱いしない方がいい。むしろ、人のフリ見てわがフリ直せ、というふうにした方がいい。



 [ 付記 ]
 現地の現状は、惨憺たるありさまであるそうだ。人が来なくて、ほとんどゴーストタウンであるという。(特に昼間は。)
 昨年10月に起きた雑踏事故の後、韓国ソウルの繁華街梨泰院は活気が消え「ゴーストタウン」になっている──

 かつてクラブやバーだったと思われる大きな建物がいくつも閉鎖され、「賃貸」の紙が窓に貼り付けられていたり、内部に段ボールが無造作に置かれたままになっていたりする。
 「客の入りは最盛期の2割くらい」とため息をつく。
( → 梨泰院

 昼間はガラガラだが、夜になると人が来るそうだ。とはいえ、昼間がガラガラなら、繁華街というのは程遠いことになる。そもそも店の数が激減している。

 抜本改革ができないせいで、街の全体が萎縮したままだ。……これ、どうも、日本によく似ていますね。笑い事じゃない。
 
posted by 管理人 at 22:41 | Comment(2) | 安全・事故 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
昨日自由が丘に用事があって出かけました。自由が丘、とくに北西側は狭い道で歩道がなくそこに車や大型バスが走っていて危険極まりないです。それにも関わらず大勢の人が楽しそうに歩いています。それほど危険を感じていない様子です。「アジア的混沌」の見本のようなところです。韓国人も日本人も根は同じで、他人の注意力に我が身の安全を任せて平気でいられるのでしょうね。まあ良い側面もあるのですが、私には耐えられません。もう絶対に自由が丘には行きません。
Posted by ひまなので at 2023年10月29日 09:42
 自由が丘は(知名度と違って)小さな町なんだから、狭い裏通りを散策すれば十分。何も大型バスの通る車道を、わざわざ選ばなくても……
Posted by 管理人 at 2023年10月29日 11:19
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