2023年10月10日

◆ 環境詐欺広告

 環境分野で過剰に良く見せかける、という詐欺広告がある。グリーンウォッシュというそうだ。

 ──

 グリーンウォッシュ(英訳: greenwashing )というのは、ホワイトウォッシュをもじった命名だろう。まあ、それはそれとして、日本がでは「環境詐欺広告」とでも訳せる。一種の誇大宣伝だ。
 その一例が朝日新聞で紹介された。「 CO2が出ない火」と銘打った広告だ。


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 国内最大の火力発電会社JERA(東京都中央区)の企業広告が、根拠に基づかずに環境に配慮した事業であることをうたっているとして、環境NGOや弁護士らが5日、日本広告審査機構(JARO)に広告を中止するよう申し立てた。欧州では見せかけの環境配慮「グリーンウォッシュ」対策は広告規制にも及んでおり、国内の議論にも一石を投じそうだ。
 JERAは東京電力フュエル&パワーと中部電力が出資する国内最大の火力発電会社。同社によると、国内の発電電力量の3割を占める一方、発電事業による二酸化炭素(CO2)排出量は年間約1億トン以上で国内全体の排出量の1割を超える。
 50年に排出の実質ゼロを達成するため、化石燃料とアンモニアを混焼し、CO2排出量を抑える実証実験に取り組み、将来的にアンモニアのみでの発電も目指している。こうした姿勢をテレビCMや自社サイトのブランドムービーで、「CO2が出ない火をつくる」などの文言で示している。
( → 「CO2ゼロ」火力発電広告はグリーンウォッシュ? 欧州では規制も [気候変動を考える]:朝日新聞

 では、どこが詐欺(誇大宣伝)なのか? 記事ではこう示す。
 環境NGO気候ネットワークなどは、アンモニアと石炭との混焼では、混焼率によってCO2が出ること▽アンモニアの製造や輸送時にCO2が出る可能性があること――などから、「具体的根拠を述べず、CO2削減効果を過度に強調」し、「誤った印象を消費者に与える」と指摘した。

 東京新聞の記事もある。そこではこう解説する。
実態は「石炭火力を延命、CO2削減もわずか」
 気候ネットは「石炭火力発電を延命させ、CO2排出削減効果もわずかしかない」とみる。さらに、アンモニアの輸入元の国で製造時にCO2が出ることの説明もないと指摘。「あいまいな表現や環境主張をしない」と定める環境省のガイドラインや、商品やサービスが実際より著しく優れているとする「優良誤認表示」を禁じる景品表示法に違反していると主張する。
( → 「CO2が出ない火、はミスリード」 発電会社JERAの広告はグリーンウオッシュ? 環境団体がJARO申し立て:東京新聞 TOKYO Web

 以上が、報道されたことだ。

 ──

 これに対する私の評価はどうか? こうだ。
 「今回の指摘は妥当ではない。見当違いのピンボケだと言える。ただし、指摘していることが間違っているからではない。指摘があまりにも大甘すぎるからだ。それは、無実の人を有罪にするような間違いではなくて、大泥棒をコソ泥扱いするような間違いである。罪の大部分を見逃すような間抜けぶりである」

 いわば、白を黒にするような間違いではなく、真っ黒なものを白に近い灰色に見なすような間違いだ。犯罪の大部分を見逃すような間違いだ。間抜けぶりがひどい。「この愚か者」と叱ってやりたいところだ。

 では、どこがどう間違っているのか? その件は、先に詳しく説明した。
  → 石炭混焼の論理ペテン: Open ブログ

 これを解説する記事も書いた。
  → 味噌汁を薄めると減塩になる?: Open ブログ

 別途、短文でも説明した。再掲しよう。
 石炭をそれだけで燃やすのでなく、アンモニアといっしょに燃やす(混焼させる)ことで、水素を燃やすことになる。だから、炭酸ガスの発生量を抑止できる……という理屈だ。
 しかしこれはまったくの論理ペテンである。そこで炭酸ガスの発生が抑止できる分、他の箇所で水素を消費してしまう。その水素を作るためには、電力を消費する。結局、最初から最後まで見ると、次の二段階があるだけだ。
   100の電力を消費する → 30の電力を発生する

 この二段階があるだけにすぎない。両者の差に当たる 70の電力は無駄にロスとなるだけだ。ただしその途中で、水素を発生させてから、水素を消費する。すると、次のようになる。
  100の電力を消費する(水素を発生する) → 30の電力を発生する(水素を消費する)

 この二段階で、前半を隠蔽すると、こうなる。
   30の電力を発生する(水素を消費する)

 つまり、水素を消費することで、30の電力を発生することができるのだ。こうして、炭素の発生なしに、電力の発生に成功する。「素晴らしい成果だ!」と威張るわけだ。
 しかしこの論理では、その前に「100の電力を消費する(水素を発生する)」という過程があったことを見失っている。というか、あえて目をふさいでいる。というか、そのことを国民に隠している。
( → 製鉄の脱炭素化: Open ブログ

 ──

 参考で示すと、JERA の説明は下記にある。
  → 【日本発】世界が注目する「CO2を出さない」火力発電 | DISCOVER JERA | JERA

 一部抜粋しよう。
 「CO2の出ない火」をつくる
 では、具体的にどうゼロエミッション火力を実現するのか?
 カギを握るのは「アンモニア(NH3)」と「水素(H2)」だ。化学式からもわかるように、この2つには「炭素(C)」が含まれていない。
 つまり、燃やして酸素と結びついても、CO2が出ないのだ。

 この説明は、二重の意味で間違っている。

 第1に、「石炭混焼」と言いながら、混焼する石炭から排出されるCO2 の分を算入していない。ひどい話だ。「アンモニアを燃やしても、アンモニアからは炭酸ガスが出ません」という話をして、そのことで、「石炭から炭酸ガスが出る」という話を隠してしまっている。「アンモニアからは炭酸ガスが出ません」ということで、「アンモニアと石炭を一緒にしても炭酸ガスが出ません」というふうに言いくるめる。……ペテンも甚だしい。よくもまあ、こういう真っ赤な嘘をつけるものだ。

 第2に、アンモニアを生産するために電力を消費する、という点を見失っている。
  ・ アンモニアを生産するために 100の電力を消費する
  ・ アンモニアで火力発電をして 30の電力を発電する

 この両者を合わせれば、単に「アンモニアを生産して、アンモニアを燃やす」というサイクルを一周することで、電力を 70だけ無駄に消してしまっていることになる。
    −100 + 30 = −70

 とすれば、無駄に消えた電力の 70の分だけ、どこかで発電しなくてはならない。そのとき、火力発電が必要となる分だけ、炭酸ガスの発生量は増えてしまう。
  ※ この件は、先に何度か詳しく説明した話と同じ趣旨。
  ※ さらには、石炭発電による分、炭酸ガスの発生量は増える。

 ──

 以上のことから、JARA の間違いがどこにあるか判明するだろう。
 環境保護団体は「実は CO2削減はわずかだ」と批判する。その批判は間違いだ。「 CO2削減はわずかだ」ということはない。「 CO2は、削減されるどころか、増加してしまう」というのが正しい。アンモニアと石炭の混焼をやればやるほど、CO2 の発生はどんどん増えてしまうのだ。

 では、かわりにどうすればいいのか? 簡単だ。何もしなければいい。何もしなければ、CO2 発生量はゼロである。それだけではない。電力の発電量もゼロにすることができる。電力の発電量をゼロにできるのだ。何とすばらしいことか! 圧倒的なすばらしさだ。それこそが、「何もしないこと」の効果だ。
 ひるがえって、アンモニアと石炭の混焼をやれば、どうなるか? アンモニア燃焼で 30の電力を得ることができるが、アンモニアの生産に 100の電力を消費するので、差し引きして、70 の電力が失われてしまう。
 たとえば、30万kW の発電をなす発電所があれば、そこで 30万kW の発電をするたびに、(アンモニア生産のために)100万kW の電力消費が必要となるので、70万kW の電力が消えてしまう。差し引きして、発電量はマイナス 70万kW となる。このマイナス 70万kW の発電量を、ゼロにできるとしたら、実質的には 70万kW の発電をしたのと同じことになる。
 つまり、アンモニアと石炭の混焼(発電量がマイナス 70万kW)に比べて、何もしないこと(発電量がゼロ)は、70万kWも多くの発電量を持つのだ。
 何もしないことは、かくも多大な発電量を持つのだ。これこそ素晴らしい夢の発電方式だと言えるだろう。

 ( ※ 詐欺師にだまされるのに比べれば、という話だが。)

 
 詐欺師にだまされるくらいなら、何もしないで遊んで寝ている小原庄助さんの方が、はるかにマシというものだ。


小原庄助さん

BingAI による生成画像




 [ 付記 ]
 ではなぜ、電力会社は、この方式を推進するのか? やればやるほど、莫大な赤字が発生するだけで、電力の発電量は減るばかりなのに、なぜそんな馬鹿げたことをやるのか? これではただの自殺行為ではないのか?
 実は、そこにポイントがある。このとき、電力会社は莫大な補助金をもらえるのだ。何と 20兆円もの金を頂戴できる。「GX経済移行債」というのを利用して。
  → 製鉄の脱炭素化: Open ブログ
 こうすれば、赤字のつけを国民(政府)に回して、自分は赤字の負担を免れる。また、誰も使わないせいでコストが激安の石炭を使って発電することで、事業の黒字も見込める。(高価なアンモニアで発電します、と言いながら、その裏ではこっそり激安の石炭で発電する。そのことで差益をかすめ取る。莫大な炭酸ガスを吐き出しながら。)
 かくて電力会社はボロ儲けできる……という算段だ。これが詐欺師の商法というものだ。そのために、「炭酸ガスの排出量はかえって大幅に増えてしまう」という真実を隠蔽する。環境保護団体もそれにあっさりだまされてしまう。「すごいプラス効果があると言っているが、本当はもっと小さなプラス効果しかあるまい」と思っている。「実際にはすごいマイナス効果があるだけだ」という真実を見抜けない。そしてまた、「その裏では莫大な金を国からもらう予定だ」という裏金の話にも気づかない。……間抜けぶりがひどいね。
 人々がこういうふうに間抜けだから、電力会社は国民をだまそうとして、「 CO2を出さない火」という嘘広告を出すわけだ。「大赤字を出す火」という真実を隠して。



 [ 補足1 ]
 「石炭・アンモニアの混焼発電」というのは、本質的には、「石炭発電」だけのことである。ただし、いっしょにアンモニアを燃やすことで、石炭発電の部分を「水で薄める」ような見せかけをすることができる。本当は少しも減っていないのだが、「水で薄めることで量が減った」と見せかける。この点については、前に別項で説明した。
  → 味噌汁を薄めると減塩になる?: Open ブログ
 味噌汁を水で薄めても、薄味になるだけで、塩分の量は変わらない。なのに、「水で薄めると減塩になります」と嘘をついて、人をだますことができる。それと同じ論法をつかっているのが、「アンモニアで薄めると石炭消費量の削減になります」という嘘論法だ。
 こうやって電力会社は人をだまそうとする。政府もそれを信じる。そして政府は 20兆円を給付する。その金を払うのは国民だ。あなたも 20万円を奪われる。

 [ 補足2 ]
 「海外の太陽光発電で水素を生産してから、その水素を日本に運んで、アンモニアにして利用する、という効果もあるぞ」
 という反論もありそうだ。だが、それは成立しない。なぜなら、その目的のためには、
 「海外の太陽光発電で水素を生産してから、その水素を日本に運んで、水素のまま、水素火力発電で利用する」
 という方式を取ればいいからだ。この方式ならば、水素のまま利用するので、
   水素 → アンモニア

 に転化する過程が不要となり、エネルギー利用効率が向上する。(つまり無駄がなくなる。)
 なのに、「石炭・アンモニア混焼」では、上の無駄な過程が追加されるので、エネルギー利用効率が低下する。
 ではなぜ、そんな馬鹿げたことをするのか? その目的は、こうだ。
 「アンモニアを表にかぶせることで、本体である石炭発電を裏に隠す」
 こういうふうに隠蔽する効果を狙っている。隠蔽というゴマ化しだ。詐欺だ。……それが「石炭・アンモニア混焼」の本質である。

 
posted by 管理人 at 23:15 | Comment(5) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に [ 付記 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2023年10月11日 09:14
 最後に [ 補足1 ] [ 補足2 ] を加筆しました。
 
Posted by 管理人 at 2023年10月11日 19:08
作るというだけの宣言は誇大でも何でもないですよ
スタップ細胞を作ると宣言して何か問題があるのでしょうか?
無理だなと分かるだけです。できてもいないのに誰かが騙されるなんてことはあり得ません。

ところで

その昔緊急事態宣言ってあったでしょ?意味わかんないと思いませんか?
あれこそまさしく誇大広告ですね。何も起きていません。地方自治体による越権行為です。将軍様ここにあれり。日本って地方自治体にかかれば民主主義じゃないってはっきり認識しました。知事の言うことには従わなきゃいけないって言われました。そしたら議会はいらないし、我々選挙を行う必要もありません。こんな封建がまかり通っています。
Posted by まいくろふと at 2023年10月16日 09:21
> できてもいないのに誰かが騙されるなんてことはあり得ません。

 日本政府はだまされて、詐欺師に 20兆円を払う予定です。
  http://openblog.seesaa.net/article/500663317.html

 詐欺師にだまされるだけなら仕方ないが、だまされていながら「だまされていない」と頑強に言い張るのは、滑稽すぎる。そう言っている間にも、どんどん金を奪われるのだが。

Posted by 管理人 at 2023年10月16日 09:52
ポリアミンで排CO2をトラップするってのも同様の詐欺だと思いませんか?
Posted by あみん at 2024年05月28日 16:41
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