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その顛末を朝日新聞が特集シリーズでまとめていたので、紹介しよう。固定価格買い取り制度(FIT)についての話。
FITは、太陽光や風力など再エネで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度で、12年7月に始まった。前年の東京電力福島第一原発事故を受けて国内の原発が相次いで運転を停止しており、太陽光を中心に再エネへの期待が膨らんでいた。初年度は破格の売電価格「1キロワット時あたり40円」が適用された。
FITの買い取り価格は年々引き下げられ、いまは1キロワット時あたり10円ほど。だが、認定を取った時の価格が適用されるため、宇久島はその約4倍もの高値が約束されている。
FIT法は、再エネの集中的な普及のため、制度開始から最初の3年間を「(事業者の)利潤に配慮する」と定めていた。出力10キロワット以上の事業用太陽光の12〜14年度の買い取り価格(1キロワット時あたり40〜32円)は国際的にもかなり高く、認定の申請が殺到する「太陽光バブル」が発生。
おかげで太陽光は爆発的に増え、安いパネルや資材が普及しコストが急速に低下した。一方で、売電価格は認定時の高値のまま。当初は、認定後の運転開始期限を定めていなかったこともあり、稼働が遅れるほどコストダウンが進み、利益が膨らむ状況が生まれた。
高値の未稼働案件は高利回りの投資物件のようになり、権利の転売が横行。送電網の受け入れ容量や建設用地も、大量の未稼働案件に「空押さえ」されたままとなり、国が再エネの買い取り価格を毎年引き下げたこともあって、新規の事業参入と認定は伸び悩んだ。再エネの普及とコスト低減を相乗的に進めるFIT本来の狙いは大きくゆがめられていた。
16年以降は、期限を示したうえで、稼働に向けた手続きを次々と事業者に求めた。……期限内に実現できなければ認定の失効や買い取り価格の大幅減額などの不利益を事業者に課すものだった。
( → 離島に日本最大メガソーラー計画 進まぬ工事、約束された破格の収入:朝日新聞 )
FITが始まって約10年。日本の年間発電電力量に占める再エネの割合は、10.4%(11年度)から19.8%(20年度)へ大幅に伸びた。特に太陽光は、年間発電電力量で7.9%と有力な電源の一つになった。設備容量では世界第3位だ。
しかし、その増加分は、初期に認定され高値での売電が保証されたメガソーラーに著しく偏っている。経産省によると、22年度にFITで買い取った太陽光や風力、地熱、バイオマスなどの再エネ電気の総額は約4.2兆円。この約6割が、「プレミアム価格」が適用された12〜14年度認定の事業用太陽光からの買い取りに費やされている。未稼働案件に対する一連の規制強化で、当初認定された量から3〜4割ほど減らしたが、それでもまだ全体を圧迫している。
買い取り期間はふつう発電開始から20年間なので、この「かたまり」はあと10年ほどは続く。
買い取り費用から再エネ電気の販売収入を差し引いた額は国民負担となり、「再エネ賦課金」として電気代に上乗せされる。22年度の総額は約2.7兆円。標準世帯で月1380円だった。23年度はエネルギー価格高騰で電気の販売収入が増えたために、賦課金は月560円に減るが、総額はなお約1.1兆円にのぼる。
宇久島メガソーラーの運転開始は順調にいっても25年度。日本の太陽光発電を48万キロワット増やす効果はあるものの、現行の4倍もの価格で買い取る優遇は、今となっては、コストを下げながら再エネの普及拡大を図るFIT本来の狙いに逆行してしまっている。
( → 言い値で決まったメガソーラー規模 「プレミアム価格」国民の重荷に:朝日新聞 )
再エネ政策に詳しい環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長は、FITは必要な政策だったとしつつ、制度設計や運用に問題があったと指摘する。なかでも「最大の過ち」だったとみているのが、買い取り価格の決定を認定時にしたことだ。
これでは待てば待つほどコストが下がり、利益がふくらむ。FITは約90カ国で導入された実績があるが、価格決定を認定時にした国はまずないという。しかも、日本のFIT導入は世界でほぼ最後発だった。飯田さんは「グローバルに蓄積された経験に学ばず、事実上、一部の官僚だけで政策をつくってしまった。ガラパゴス化した日本の政策決定のシステム全体の問題だと言える」という。
( → 再エネ電気買い取り、6割が「プレミア価格」 制度設計や運用に問題:朝日新聞 )
最後のグラフからわかるように、太陽光発電のために払う金(淡いオレンジと濃いオレンジ)の全体のうち、後者の金が大半を占めている。ただし、これはコストが4倍なので、実際の発電量は4分の1である。4倍もの金を払っているせいで、実際の発電量は4分の1になってしまうのだ。これでは太陽光発電の推進には逆行する。単に悪徳業者を設けさせているだけだ。愚の骨頂。
では、どうしてこうなったのか? 最後の記事ではこう記す。
「事実上、一部の官僚だけで政策をつくってしまった。ガラパゴス化した日本の政策決定のシステム全体の問題だと言える」
では、本当にそうか? 官僚に責任があるのか?
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いや。違う。このような馬鹿高値で太陽光発電を推進する制度を導入したのは、菅直人だった。彼が「自分の退陣と引き替えに、FIT 制度を導入させる」という方針を示して、自民党がそれを呑んだからだ。
( ※ 国民に人気のある菅直人を退陣させれば、あとは国民に不人気な野田首相となる。そうなれば自民選挙に勝てる……という構想だ。これは、大阪城の外堀を埋めた家康の作戦と同様だ。交渉で相手の戦力をズタズタにしてから、あとはあっさり戦いで勝つ、という方法。)
ともあれ、かくて菅直人と自民党の取引で、FIT は導入された。だが、これは、この両者が愚かにも無知のまま企んだからではない。この当時、朝日新聞が「 FIT を導入せよ」と大々的にキャンペーンを張っていたからだ。そのキャンペーンに正解は洗脳された、と言ってよい。この時期、「太陽光発電を推進せよ」という環境保護派の意見はものすごく大きかった。これに反対して、「太陽光発電を導入してはダメだ」と批判するような変人は、ほんの少ししかいなかった。
では、その変人とは、誰か? 私だ。
「今すぐ太陽光発電を導入すれば、馬鹿高値になって、コスパが悪い。数年間待って、太陽光発電が大幅に値下がりしてから、導入すればいい。そうすれば、コスパが大幅によくなるはずだ」
と。つまり、本項で紹介した朝日新聞の記事のような結果になることは、FIT の導入する直前の時期に、私がすべて予測していたのである。結果のすべては、私の予測通りだったのだ。
→ 太陽光発電と補助金1: Open ブログ ★
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朝日の記事で紹介している話は、2008〜2012年の時点で、すでに私が指摘していた、と判明する。特に ★ 印の項目がそうだ。
朝日新聞は、「政府や官僚の失敗を指摘する」という形で検証記事を書いている。その趣旨はいい。だが、その惨状をもたらした真の犯人は、朝日新聞自身なのである。探偵が「犯人はおまえだ」と指差したとき、指の先にあるのは自分自身の姿なのだ。

そういうニセ探偵である真犯人の正体を暴露するのが、名探偵というものだ。
[ 付記 ]
朝日新聞には、もうちょっと詳しい記事もある。そちらも参照。
→ 太陽光発電、日本だけが行き詰まり 温暖化対策に「V字回復」必要:朝日新聞