2023年10月04日

◆ ノーベル賞を取る方法 .2

 天才でもないのに、ノーベル賞を取るには、どうすればいい?

 ──

 天才のような才能があれば、ノーベル賞を取るのは難しくない。では、才能もないのにノーベル賞を取るには、どうすればいいか?
 その方法は、2023年のノーベル医学賞を見ればわかる。mRNA ワクチンの開発で、見事にノーベル医学賞を受賞した。そこに、コツが見出される。
 カタリン・カリコさんは冷戦下、生まれ故郷のハンガリーから研究のために米国に渡った。
 85年、30歳のとき、博士研究員の職を得て米国に渡った。
 米国では、任期付きのポストを転々とし、89年にペンシルベニア大へ。mRNAを使った脳卒中治療などを研究した。しかし、思ったような結果は出ず、95年にはmRNA研究をあきらめるか、降格と減給を受け入れて研究を続けるかの選択を迫られ、後者を選んだ。
 転機は97年。学術誌の写しをとろうと並んだ共用コピー機前でのドリュー・ワイスマンさんとの会話だった。
 感染症のワクチンをつくりたいと持ちかけたワイスマンさんに対し、カリコさんが「できますよ」と応じ、2人は共同研究を開始。
( → コピー機前の出会い、道を切り開いた ノーベル生理学・医学賞の2人会見:朝日新聞

 こうして共同研究を始めたら、ノーベル賞受賞という結果に至った。

 これをカリコ氏の立場から見れば、こうなる。
 「mRNA研究を続けたが、上司が認めてくれなくて、困っていた。(出典) それでも諦めずに邁進していたが、なかなか成功しない。しかし新たに相性のいい相手と共同研究をしたら、うまく能力を発揮できた。いいパートナーを見つけて、ラッキーだった」

 これをワイスマン氏の方から見れば、こうなる。
 「自分は独創性もない凡庸な研究者だとわきまえていたし、ノーベル賞を取るなんて考え見たこともなかった。ろくに成果を上げられないまま一生を終えるのかと思っていたが、大学で仲間はずれみたいになっている女性研究者がいたので、可哀想だと思って、救いの手を差し伸べた。ほんの善意と慈悲の心で救いの手を差し伸べただけだった。ところが彼女は、みにくいアヒルの子のように、あっという間に白鳥に化けた。もともと白鳥みたいな天才だったのだ。それに協力したら、自分も共同研究者として、ノーベル賞を半分もらえることになった。超ラッキー。宝クジに大当たりしたような気分だ」

 ここから教訓を得られる。
 「才能のない研究者は、才能のある天才的な研究者と組んで、共同研究者にしてもらえ。特に相手が、移民や女性だと、こちらの立場が強くなって、無能でも共同研究者に格上げしてもらえる。才能のない研究者がノーベル賞をもらうには、才能のある研究者にくっつけばいいのだ。コバンザメのように」

 こうして、うまい方法が判明した。





 ただし、この話は、笑い話みたいなオチが付くだけでは済まない。もうちょっと、示唆に富むポイントもある。こうだ。

 カリコ氏は天才肌の研究者だったようだが、彼女一人で研究をなし遂げたわけではない。ワイスマン氏の協力(助力)も、大いに寄与したはずだ。(だから共同受賞となった。ワイスマン氏の業績は皆無ではない。)
 これは何を意味するか? こうだ。
 二人の研究者が共同研究をすると、補完的関係になることがある。一人ではできない研究も、二人ではできるようになる。これは特に、学際領域では有益だ。
 カリコ氏の得意な領域 A と、ワイスマン氏の得意な領域 B がある。ここで、両者の重なる領域 A∩B では、どちらが担当しても十分だ。しかし、カリコ氏の不得意な領域があって、そこではワイスマン氏が能力を発揮する。逆に、ワイスマン氏の不得意な領域があって、そこではカリコ氏が能力を発揮する。こうして、二人が補完的な役割を果たすことで、 A∪B という広い領域で、世界最先端の研究をなし遂げることができる。しかも、そういうことができるのは、このカップルだけなのだ。なぜなら、他の専門家は、A だけか B だけか、いずれかを扱うしかないだ。どの専門家も、専門バカであって、自分の狭い領域をタコツボ的に扱うばかりだ。だから、どの専門家も、似たような研究業績しか上げられない。
 しかしこの二人のカップルは違った。 A∪B という広い領域で、世界最先端の研究をなし遂げることができた。だからこそ、2005年の新発見に至ったのだ。

 ひとりでできることはひとりで。
 できないことはふたりで。

    → https://x.gd/uVCjZ



 [ 付記 ]
 記事には続きがある。
 その後、課題だった炎症反応を回避する方法を見つけ、2005年に米免疫学専門誌で発表した。今回の受賞理由になった発見だ。
 しかし、当初は注目されなかった。2人が共同で立ち上げたベンチャー企業も、その後に資金が底をつき事業を閉じた。
 状況が変わったのは10年。iPS細胞の作製にもカリコさんらの技術が使えることが報告され、注目を集めた。同じ時期に独ビオンテック社や米モデルナ社などが設立され、mRNAを使った医薬品の開発を進めていった。

 これは興味深い。
 研究成果が世界で認められてから短期間で mRNA ワクチンが大量生産された……というふうに報道されることもあるが、実は、研究成果が出されたのは 2005年のことだったのだ。かなり昔である。しかも、その時点では、鳴かず飛ばずだった。世界的にもろくに注目されなかった。(上記)
 ところがその後、この技術が実用化されるための新技術が開発されるようになった。
 超えなければならないハードルは2つあった。1つは先述の通り,mRNAが体内ですぐに分解される物質である点。そしてもう1つは,人為的に合成したmRNAを体内に入れると,過剰な免疫応答で炎症が起きてしまう点だ。カリコ氏とワイスマン氏の功績は,後者のハードルを越えたことにある。
 壊れやすいmRNAを細胞までどう運ぶかというもう1つのハードルについては,遺伝子治療の実現を目指して行われてきた薬物送達システム(DDS)の研究が大きな力となった。脂質膜にmRNAを包んで細胞まで届ける仕組みが考案され,2010年代にはmRNAをワクチンに使用する動きが活発になった。
( → 2023年ノーベル生理学・医学賞:COVID-19に対するmRNAワクチンの開発を可能にした2氏に - 日経サイエンス

 mRNAを扱えるようにするという今回の業績は、確かに重要だった。ただし、それだけでは、その技術は実用化されずに、眠っているだけだった。ところが、その後に、DDS の新技術が開発されて、mRNAワクチンの技術を実用化することが可能となった。
 その後の研究の発展は、こうだった。
 2017年には初めてmRNAワクチンの安全性がヒトで確かめられ,2019年の段階でインフルエンザやエイズ,HPV,ジカ熱,チクングニア熱などのワクチンで臨床試験が行われていた。
 こうした状況で2019年に発生したのがCOVID-19だ。

 まったく、ギリギリである。タッチの差である。それで人類はかろうじて、「タッチの差でセーフ」となった。仮に DDS の新技術が開発されなかったら、mRNAワクチンの技術も実用化されないままだっただろうし、人類はコロナワクチンなしで「大量死」という大惨事に見舞われていただろう。

 この意味では、DDS の新技術を開発した人にもノーベル賞がいっしょに与えられてもいいのだが、どうも、そうはならないようだ。たぶん、DDS の新技術は、誰か一人が大きな貢献をなしたのではなく、多くの人々が少しずつ小さな貢献をなしただけだったからなのだろう。

 ──

 なお、DDS の新技術の開発者について調べてみると、次の情報が見つかった。
  → 位啓史 1
  → 位啓史 2

 位啓史という人が大きな業績を上げているらしい。(詳細は知らないが。)
 もしかしたら、この人も、いっしょに受賞していても、おかしくないのかもね。しかし、この人は、日本人だから、受賞できなかったのかも。ちょうど、北里柴三郎が、日本人だから受賞できなかったように。

 ※ この位啓史という人は、上の動画にも登場する。mRNA の技術が開発されたので、それを実用化できるようにと、頑張ったらしい。その意味では、mRNA の方が根源的だった、とも言える。



 [ 補足 ]
 今回の mRNA の業績は、次のように説明されている。
 カリコ氏とワイスマン氏は,細胞が持つこのセキュリティの仕組みを詳細に調べた。自然免疫は細胞内のRNAを手当たり次第に攻撃するのではない。自分自身のmRNAと,外から入ってきた外来RNAを見分けて,外来RNAだけを攻撃していた。手がかりは,RNAを構成する4種類の塩基が類似の他の物質と入れ替わった「修飾塩基」にあった。修飾塩基が自身のRNAの目印になっていた。
 2氏は人為的にmRNAを合成し,RNAを構成する4種類の塩基を様々な「修飾塩基」と入れ替えて細胞の反応を調べていった。その結果,ウラシル(U)を類似の「シュードウリジン」と入れ替えれば外来mRNAへの過剰な炎症応答を抑えられることが2005年にわかった。自身のmRNAを外来RNAから区別する仕組みを突き止めることで,mRNAを医療に応用する道がようやく開けた。
( → 2023年ノーベル生理学・医学賞:COVID-19に対するmRNAワクチンの開発を可能にした2氏に - 日経サイエンス

 この話を読んで、ちょっと思ったが、この手法は、山中さんの iPS 細胞の方法(がん遺伝子から4遺伝子を注入する方法)と、ちょっと似ているね。
 もしかしたら、山中さんの手法が、ヒントになったのかも。



 【 関連項目 】

 → ノーベル賞を取る方法 .1 : Open ブログ

 ※ タイトルだけは似ているが、話の内容はあまり関係ないので、読まなくてもいい。

 
posted by 管理人 at 22:57 | Comment(0) | 科学トピック | 更新情報をチェックする
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