2023年10月03日

◆ 日本経済が没落したわけは?

 日本経済は没落した。そのわけは何か?

 ──

 日本経済は没落した。
  ・ 円の価値が大幅に下がり、円安が進む。(150円を突破
  ・ 一人あたり GDPは、世界順位が大幅に下落した。
  ・ 一人あたり実質賃金では、韓国にも負けた。
  ・ 産業は中国に次々と負けている。
  ・ 繁栄していた家電産業は見る影もない。
  ・ 最後のよすがの自動車産業も、EV で遅れる。
  ・ 残るのは莫大な国家赤字と借金だけ。


 ──
 
 では、これほどにも日本経済が没落したのは、どうしてか?
 単純に考えると、こうなりそうだ。
 「日本経済は、かつては優秀さがあったが、今では優秀さをなくした。だから没落したのだ」


 なるほど。これはこれで一応、納得性がある。(実はただのトートロージーかもしれないが。)
 ただ、その説に従うとして、「優秀さ」とは何か? そこが問題だ。

 「日本人はもともと優秀な民族だった」
 という俗説もありそうだ。民族的愛国主義者(ネトウヨなど)などなら、そう思いがちだ。「日本すごい」というのを特集する Webサイトをよく読む人なら、そう思いがちだ。だが、そんなはずはない。日本人の DNA が他の民族と違うわけではないからだ。
 では、日本人には何があったのか? 
 
 ──

 それについては諸説があるが、本サイトでは前にこの問題の回答を与えた。それは、デミングの教えだ。
 デミングが日本企業に「品質改善」を教えた。日本企業はそれに従った。品質改善。QC。カイゼン。……そういう方向に努力した。だから、日本企業は、世界のなかで優秀さを獲得したのだ。(「日本人は」でなく、「日本企業は」だ。)
  → 品質管理とデミング: Open ブログ

 一部抜粋しよう。
「日本企業は優れている」とかつて言われたが、それは日本企業が品質管理(QC)をやっていたからだ。それを教えたのは、デミングである。


deming.jpg


 日本企業が優れていたのは、日本人の独創性があったからではなく、独創的な米国人の教えに従うという素直さがあったからだ。

 デミングの教える知識そのものは、世界のどこでも入手できた。しかしその知識を知って、素直に従ったのは、日本だけだった。日本企業には、(自ら創造する)独創性はなくとも、(他人の知識に従う)素直さがあった。そのおかげで、デミングの教えに従って、高品質の生産技術を獲得した。だから、かつての日本企業は優秀さを誇ったのだ。
( ※ 虎の威を借る狐のように。ライオンの皮をかぶる猫のように。すべてを自分の生来の能力だと錯覚しながら。)

 ──

 では、近年はなぜ、それが成立しなくなったか? それは、以前の方式が通用しなくなったからだ。理由は三つある。

 第1に、デミングの教えは、日本企業を通じて、世界に広まった。日本の工場が、中国や米国に進出して、QC の手法も現地で伝達するようになると、現地の企業も QC の手法を用いるようになった。こうして QC の手法はもはや日本企業だけのものではなくなった。かくて日本企業の優位性は解消した。(賞味期限が切れたとも言える。)

 第2に、産業構造の変化がある。20世紀後半は、工業技術の時代だった。そこでは大量生産の製造技術が重要だった。特に、工場における工員の工夫が、製造技術を大幅に高めた。これが、20世紀後半における、QC の重要性だ。
 ところが 21世紀になると、それは通用しなくなった。製造技術よりも情報技術が重要となった。大切なのは、大量生産をする工場における工員の工夫ではなく、エリート技術者の頭から生まれた独創的な高度な知性だった。こういうふうに、産業構造の変化があった。
 そして、そうなると、粒のそろった工員がたくさんいる日本よりも、独創性のあるエリート技術者を優遇する米国企業が圧倒的に有利になった。
 年収 1000万円ぐらいしかもらえない日本の技術者よりも、年収 2000万円以上となる米国技術者の方がいい。そう思った世界の技術者は、日本でなく米国をめざすようになった。かくて世界中から技術的エリートを吸い取った米国企業は、どんどん自社の技術水準を高めていった。マイクロソフト、アップル、Google、テスラ。……いずれの企業も、高い給料を払うことで、自社の技術水準を高くして、世界のなかで傑出したレベルを保つようになった。
 その間、日本の企業は、せっせと賃下げをして、人材の低下を招いて、自社の技術水準を低めようとするばかりだった。( → 前々項と前項で述べたとおり。)

 第3に、中国が世界の工場になったことだ。これまでの日本企業は、卓越した生産能力で世界をリードしたが、近年では中国が(人件費の安さで)世界の工場となっていった。こうなると、「高品質・高価格」という路線では勝負をしにくくなり、「中品質・低価格」という中国企業に敗れ去っていった。特に家電製品はそうだった。
( ※ そのあとには、替わって独自技術を持つ独自製品を出せればよかったのだが、そうできずに、コスト競争で敗れて、そのまま退場する企業が多かった。もともと米国企業のようにはエリート技術者を育ててこなかったのだから、中国企業が隆盛すると、ひとたまりもなかった。……なお、前々項 を参照。)

 ──

 「日本人の優秀さがなくなった」と見えることには、理由がある。その理由を、上で記した。これで、日本の没落については、説明ができる。
 ただし、日本の没落については、「優秀さがなくなったこと」とは別に、もう一つ、他の理由がある。それは何か? 

 それは「少子化」である。少子化のせいで、人口減が起こった。そのことで、企業は戦力の半減という憂き目に遭った。
 比喩で言おう。プロ野球では阪神が優勝した。その理由は選手層が豊かだったからだ。投手も野手も人材が豊富だった。ところが、である。仮に阪神の選手の人材が半減していたら、どうなっていたか? 投手も野手も、現在の半分の人員だったら(たとえば人件費が半額になって、高額の選手を他チームに放出していたら)、どうなっていたか? もちろん、優勝はできない。
( ※ 米国球団を見ても、それがわかる。藤浪のいたアスレチックスは、球団の金がないので、高額の選手を雇うことができなくて、薄給の選手ばかりだ。選手層が薄い。だから優勝できない。)
 ともあれ、人材が不足すれば、戦力は激減する。それが常識だ。

 日本という国は、もともと米国の半分の人口だった。2.5億人に対して、1.2億人ぐらいの人口だった。ところがその後、少子化が進んで、若者の人口は半減してしまった。ざっと見て、半分の半分で、米国の4分の1という状況になった。これではどうしても戦力不足となる。たとえば、優秀な技術者を集めたくても、元々の人口が少なければ、優秀な技術者を集めることもできない。
 そこで、少子化を補うために、外国からの移民を招こうとしても、移民の制限がある。また、(英語を使えないという)言語のハンディもある。こうなると、移民で少子化を補うこともできない。
 かくて、少子化が直撃して、知的な技術者の戦力不足を招いて、日本経済は没落する一途となった。

 《 加筆 》 
 ※ 欧州との対比でも同様である。日本の人口はもともと欧州全体の半分ぐらいの人口があった。英国・ドイツ・フランスなどの各国を大幅に上回る人口があった。ところがその効果も、少子化の時代にはなくなっていった。今の日本企業は、高齢のヨボヨボの技術者の集団となった。それで若手の多い米国や欧州の企業と競いあっている。とても勝ち目はない。その上、若手の技術者がいても、薄給で冷遇するばかりだ。優秀な若手は、海外に逃げていく。
 ※ 中国企業や韓国企業は、退職間際の高齢の技術者を招いて、日本の優秀な技術を次々と吸い取っていった。こうして中国や韓国は急成長していった。



 [ 付記1 ]
 「兵は一流、将は三流」と言われるが、それがここでも成立したようだ。優秀な工場労働者がいたので、兵は一流だった。なのに、優秀な労働者のおかげという点を無視して、「日本人が優秀だからだ」「日本企業が優秀だからだ」と自惚れた。その錯覚が、日本の没落という真実を見失うように仕向けた。

 [ 付記2 ]
 トヨタは多額の利益を上げた。だが、それは、トヨタが優秀だったらではない。トヨタの労組が弱くて、経営者にべったりだったからだ。無能な労組のおかげで、トヨタは莫大な利益を上げただけだ。
 その間、米国の自動車産業の労働者はすごく高賃金となった。それでも米国の自動車会社は大丈夫だった。GM もフォードも、かつては日本企業に大きく遅れていたが、今では EV でも自動運転でも日本企業をしのぐ。
 その理由は? 高賃金で、世界中の優秀な技術者を招いたからだ。
 特に、その典型はテスラだ。もともと何もなかったのに、超高賃金を払って、世界中の優秀な技術者を次々と引き抜いた。かくて、何もないところから、あっという間に世界最高レベルの自動車会社になった。ギガキャストやオクトバルブなどの、革新的な画期的な新技術を開発するほどになった。
 賃上げを望まない(奴隷根性の)トヨタの労組とは、まったく異なる方向性だ。
  → トヨタの御用組合: Open ブログ
 
posted by 管理人 at 23:24 | Comment(4) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 「 第3に、中国が世界の工場になったことだ。」
 という章(段落)を、加筆しました。
Posted by 管理人 at 2023年10月04日 08:16
 [ 付記1 ]の直前に、  《 加筆 》 の箇所を挿入しました。
 「 欧州との対比でも同様である。」というような話。
Posted by 管理人 at 2023年10月04日 08:29
個々に書かれていることにすべて賛成です。ただそれらはもう20年前から言われていた事であり、当然予想できたことです。人口減少や高齢化がその最たる例です。どうして事前に手が打てなかったのかが問題と思います。それは本文項目2に関係しています。
 大学(院)卒業生を採用後、優秀な人とそうでない人を区別せず最初作業員として働かせ、徐々に抜きんで居た人、あるいは上司と折り合いの良い人を重用していくシステムでした。そのため仰せの通り工場レベルの能率や製品の品質は良くなりました。しかしこのシステムでは社会の流れを見て将来の大方針を考えるエリートは育たず、むしろ育てないようになっています。デミングさんのような指針を与えてくれる人がいると良いのですが、デミングになる人は育ちません。
 欧米と中国の社会はこの点ではよく似ています。どちらもエリートが社会を引っ張っています。なぜゴーンに来てもらわざるを得なかったという事を考えるべきです。
Posted by ひまなので at 2023年10月04日 09:59
トヨタが儲かれば日本貧する。

トヨタが失せれば日本黄金期来たる。
Posted by 通りすがり at 2023年10月12日 18:46
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