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日産自動車のゴーン社長(当時)は、脱税で逮捕されたことで大いに話題になった。
→ 日産ゴーンの不正: Open ブログ
これが本サイトでは最初の項目で、以後は散発的にいくつかの項目が書かれた。今さら読み返す必要はなさそうだが、一つだけ、重要な項目がある。
→ ゴーン社長と日本経済: Open ブログ
一部抜粋しよう。
ゴーン社長は「コストカッター」の異名を持つ。徹底的にコストを切り詰めることを目的とした。かくて日産の自動車は、
低コスト・低品質・低価格
を特徴とするものばかりとなった。
これに続いて、日本経済についても論評している。
このひどい経営方針を真似したのが、他社の経営者だった。ゴーンのコストカットを見て、「ではわが社も」とばかり、コストカットに励んだ。そのせいで、技能の低い非正規雇用の社員ばかりとなって、生産性も低下した。かつての「高賃金・高生産性」から、「低賃金・低生産性」へと変化した。
それというのも、ゴーン社長の影響が大きかったかもしれない。(断言はできないまでも。)
それでも、日産自動車は、生き残っただけ、まだ良かった。(自動車産業全体は高賃金だったので、有能な人材が来たからだろう。)
日産を真似した他の工業会社は悲惨だった。自動車産業と違って、賃金の低い産業も多かった。それらの産業が「低賃金・低生産性」という方針を取ったあとは、もはや世界の市場で競争力をなくした。かくて、次々と撤退や倒産が起こった。家電産業を見れば、その跡形がわかる。
夏草や つわものどもが 夢のあと
ひどいものだ。
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思えば、日本企業は、かつてのゴーン経営を神のごとく崇め祀った。経営悪化で破綻しかけた日産自動車を、一挙に立て直して、黒字転換させ、優良企業にまで再建させた。その素晴らしい手腕を見習おう、という経営者が多かった。
実は、ゴーン経営には、「権限委譲」や「現場の活性化」など、見るべきところも多かった。特に初期には、ゴーンも若くて、現場に出向いて、従業員の声を聞きながら、精力的に活動していた。
しかしゴーンも老いてくると、帳簿の操作だけで黒字を出すことばかりを考えるようになった。
もっとひどいのは、日本の経営者だ。ゴーン経営を「コストカット」とあけとらえて、「コストカットさえすれば利益を上げられる」と信じた。ただし、コストカットといっても、魔法のような方法があるわけではない。生産性を向上させる劇的な新技術があるわけでもない。結局、企業がやったのは、次の二点だけだった。
・ 賃金の引き下げ (賃下げ・解雇・非正規雇用・偽装派遣)
・ 下請け企業への単価引き下げ
このうち、後者は、「下請け企業の労働者の賃下げ」によってなし遂げられた。
結局、本社でも、下請け企業でも、どちらでも賃下げがなされた。そういう形で、コストカットがなされた。
「賃下げによるコストカット」
これが、日本企業がゴーン経営に学んだことだ。
とすれば、前項で示した「日本経済の生産性の低迷」は、ゴーン経営から学んだ結果だ、と言えることになる。
日本のバカ経営者が、バカ教師であるゴーンに学んだ。その責任は、ゴーン先生にあるというよりは、バカ生徒であるバカ経営者の方にある。このことでゴーン先生を詰るのは筋違いだ。
とはいえ、バカ生徒がバカ教師にせっせと学んだせいで、全員そろって地獄に突き進みつつある……という構造は、きちんと理解しておくといいだろう。
日本は決して、ただの不運によって「生産性の低下」が起こったのではない。人々はせっせと努力して、その方向に邁進したのである。それはいわば、統一教会の信者が、破滅に向かって集団行動を取るのと同様だ。それが日本経済が進んだ道だったのである。
[ 付記 ]
思えば、日産自動車は、昔はともかく、近年はひどいありさまだった。
2018年、2019年には、業績の悪化を本サイトでも指摘した。(予言ふう)
→ 日産自動車の没落: Open ブログ(2018年)
→ 日産自動車の業績が破綻的: Open ブログ(2019年)
その大赤字が、2020年には現実化した。
→ 日産、6千億円超の赤字に転落:朝日新聞
ゴーン時代には、かなりの黒字を出していたのだが、それは「研究開発費を削る」という形で、モデルチェンジもしないで、無理に絞り出した黒字だった。タコが自分の足を食うような形で絞り出した黒字だった。しかも、そうして無理に絞り出した黒字は、利益を配当金の形で絞り出すことで、株主(その4割はルノー)に献上することになった。
利益のうち、99%以上を配当に回してしまうのだ!
それでも(研究開発費を増やしながら)金を配当に回すのなら、赤字覚悟で、金を借りるしかない。しかし、「赤字覚悟で金を借りてまで、配当をする」というのでは、まさしく、タコが自分の足を食っているのも同然だ。あるいは、「自転車操業」と言ってもいい。投資詐欺の会社が、あえて高額の配当を出してまで、金を集めるのと同様だ。
はっきり言って、日産がやろうとしているのは、それと同様だ。日産はもはや、詐欺会社も同然である。実質的に倒産しつつあると見なしてもいいだろう。
( → 日産自動車の業績が破綻的: Open ブログ )
2019年には、本サイトで上のように指摘してきた。
この日産のひどい状況は、日本経済の行く末を暗示している、とも言えそうだ。
[ 付記2 ]
日産自動車がコストカットのせいでダメになった……という話は、上記の紹介記事と前項の話だけで示したわけではない。もっと前から指摘していた。
一部抜粋しよう。
ゴーン社長はやたらとコストカットばかりを狙うので、技術的には劣ったものを選択してしまう。「安かろう、悪かろう」ということだ。それが日産の方針だ。
…(中略)…
これらの項目ですでに何度か述べたように、日産のゴーン社長はコストカットを最優先にして、技術を軽視する。
部品の品質を見ても、「日産車はコストダウンばかりを優先して、品質がひどく悪い」と言える。
なお、日産はこれほどにもコストカットをしているが、それによって利益がどれほど増えたかというと、実は、まったく増えていない。「日産車は低品質だ」という世評が立ったので、大幅値引きをしないと売れなくなっており、値引きのせいで利益が激減しているのだ。
( → 日産が駄目になったわけ: Open ブログ )
日産の「コストカット最優先」という方針のダメさについては、上記項目で示していた。それが 2017年のことだ。
[ 付記3 ]
日産はダメだったが、日産と同様のダメさが、日本経済全体を覆い尽くすようになっていた。
このことを(日産とは別に)単独で指摘したのが、前項だ。ただし、前項と似た趣旨の話は、もっと前にも述べたことがある。(2021年10月)
「生産性を上げよう」と狙っている会社は、いずれも「労働者の賃金を上げる」という結果をともなっている。アップル、テスラ、グーグルは、いずれも高い生産性を誇っているが、同時に、いずれも高い賃金を誇っている。
これらの会社では、高い成長を狙うために、高い賃金を払って、高度な人材を獲得しているのである。高い成長を実現するためには、高い賃金を払うことが必要だ、ともわきまえていた。……これが、有能な経営者のなすことだ。
ところが、それと逆のことをやったのが、日本の経営者だった。「高い賃金を払って、高い生産性を実現する」という方針とは、真逆の方針を取った。彼らは「低い賃金を払って、低い生産性を実現する」という方針を取った。
つまり、世界中の各国が「生産性の向上」をめざしていったときに、日本だけは「生産性の低下」をめざしていったのである。
その結果が、今の日本である。
高賃金 低賃金
高技能 低技能
( → 日本はなぜ没落したか?: Open ブログ )
この話は、前項の趣旨とほぼ同様である。(説明は短いが。)
※ 本項では、いくつかの項目から、再掲載する形で文章を引用している。より詳しい話は、それぞれ、元の項目の話を読んでほしい。
( 本項は、それらの項目を紹介する、リンク集みたいなものだ。)
・ 下請け企業への単価引き下げ
やったのは上記だけではありません。
もっと本質的なことをやっています。労働者のコストカットをした。日本企業は労使一体、一つの船に乗り合わせた家族だった。百田の『海賊といわれた男』(出光)を読めばわかる。労働者が泣くなら管理職も共に泣いた。やむを得ないんだ。許してくれ、俺たちも泣く・・。この精神が日本企業の持ち味だった。
ゴーンは労働者のコストカットをした。その代わりに何をやったか?
管理職の給料を上げ、株主の配当を上げたのです。労使はお互い相容れない敵になった。日本の伝統的な家族経営に、西欧の階級を持ち込んだのです。これがゴーンがやったことです。
賃下げのことならすでに書いてありますよ……と書こうかと思ったが、そちらの言う意味は、労働者のコストカットではなく、労働者のカットですね。つまり、解雇のこと。
たしかに、それもあります。解雇について書き落としたことは私も気になっていました。
ただ、本項のテーマ(コストカット)とはちょっと違うので、言及しませんでした。「ゴーンの罪」というテーマではないので。