2023年10月01日

◆ 日本の生産性低迷の理由

 日本の生産性が低迷している。それはどうしてか? 

 ──

 日本の生産性が低迷しているそうだ。(労働生産性)
 厚生労働省は29日、2023年の労働経済の分析(労働経済白書)を公表した。日本の1人あたりの労働生産性は1996年以降ほぼ横ばいで、他国に比べて伸び悩んでいると指摘した。


seisansei3b.jpg


 国内総生産(GDP)を就業者数で割った1人あたりの「名目労働生産性」は96年を100とすると2021年に101.6だった。米国は241.0、英国は200.3と2倍以上に膨らんでいる。
 労働生産性は1970年代から90年代前半まで一貫して上昇していたが、バブル崩壊など経済環境の悪化で伸びが止まった。
 物価を加味した1人あたりの賃金は102.4だった。賃金も25年間でほとんど伸びていない。名目賃金では96.0と減少した。
 賃金が伸び悩んだ要因について、白書では企業の労働分配率の低下と労働時間の減少をあげた。厚労省がGDPなどから算出した日本の労働分配率は96〜2000年に63%と米国(60%)や英国(53%)を上回っていたが、16〜20年では57%に低下。一方英国は58%に上昇した。
 企業の内部留保は2021年度に516兆円と、1996年度の3.6倍に膨らんでいる。
( → 日本の生産性、25年間ほぼ伸びず 労働経済白書 - 日本経済新聞

 ちなみに、労働経済白書はこちら。
  → 「令和5年版 労働経済の分析」を公表します|厚生労働省

 ここには、興味深い点がいくつか記してある。
 (1) 日本では(他国と比べて)労働生産性の伸びが低い。
 (2) 労働生産性が上昇しても、賃金は上昇しない。(低下する)
 (3) そのこと[両者の乖離]は、大企業ほど程度がひどい。
 (4) そのこと[両者の乖離]は、1990年代から起こっている。


 以上のように事実を(分析して)列挙したあとで、最後のあたりでこう結論する。
 (5) 日本の労働者の賃金を上げるためには、まずは労働生産性を上げることが必要だ。


 ──

 これを読んで、唖然としたね。呆れてものが言えない、というありさまだ。これを書いた人は頭がおかしいのではないか? 
 「労働生産性が上昇しても、賃金は上昇しないし、むしろ下がるばかりだ」
 と指摘しておきながら、
 「賃金を上げるためには、労働生産性を上げることが大切だ」
 と結論する。支離滅裂どころではない。まったく逆のことを述べている。自分の分析したことを前提とすれば、むしろ、こう述べるべきだろう。
 「賃金を上げるためには、労働生産性をいくら上げても、まったく無駄である。労働生産性を上げることとは別のことをしなくてはならない」

 では、別のこととは何か? それも、この白書で示唆されている。それは、「労働分配率を上げること」だ。つまり、「利益を企業が独り占めするのをやめること」だ。特に、そのことは大企業で当てはまる。大企業ほど、労働分配率が低くて、企業の側が利益を独り占めしているからだ。そして、その結果として、企業の内部利益が異常に拡大している。大企業ほど、その傾向がある。
 なのに、そのこと(労働分配率を上げること)を提言しないで、「労働生産性を上げればいい」と(無効なことを)提言する。この白書を書いた人は、頭がイカレているとしか思えない。

 ──

 さて。以上は、白書についての話題だった。白書では「賃金と労働生産性」ということを話題にしていたので、それについて言及した。
 一方、それとは別に、もっと大事なことを考えよう。それは、次のことだ。
 「日本の生産性が(世界各国と比べて)低迷しているのは、どうしてか?」 この問題に、回答を与える必要がある。

 その回答は、白書にあるか? ざっと見た限りでは、どうも、ないらしい。生産性については、「生産性向上のために、デジタル化の推進が必要だ」というような話はあるが、そんなことは世界各国に当てはまる話だ。とくに日本だけで生産性が低迷していることの分析は、何も記していないようだ。
 つまり、白書を見ても、何もわからない。困った。どうする?

 そこで、困ったときの Openブログ。その回答を与えよう。以下の通り。

 ──

 世界のなかで日本だけ、生産性が低迷している。その理由は何か? その理由は、「日本だけが生産性の低下をめざしているから」である。
 こう聞くと、「そんなバカな。生産性の低下をめざすはずがないだろう」と思う人が多そうだ。しかし、それは、自分で自分のやっていることを気づかないからだ。

 比喩的に言えば、自分で自分の首を絞めながら、「苦しい、苦しい、どうして苦しいのだろう、わけがわからない」と嘆いているようなものだ。
 「おれは助かろうと思って、上からぶら下がっている綱を引いているだけだ。綱を引いているだけなのに、どうしてこんなに苦しいんだ」
 と嘆く。
 しかし、その綱は、手元から上に伸びたあとで、滑車で転じて、下向きにぶら下がっている。そして、ぶら下がった綱の末端は、自分の首に巻き付いている。だから、綱を引けば引くほど、自分で自分の首を絞めることになる。しかし本人は、そのことに気づかないまま、せっせと綱を引く。かくて、自分で自分の首を絞めることになる。そうとは気づかずに。

 日本経済もまた同様である。
 日本企業は、利益を上げようとする。「利益を上げることこそ、企業にとって何よりも大切なことだ」と思う。そして、利益を上げるために、どうするか? ここで、方針が分かれる。
  ・ 企業の質を向上させて、ナンバー1企業をめざす。
  ・ とにかくコストカットする。特に、社員の賃金を下げる。


 前者をめざしたのが、世界の優良企業だ。アップル、Google、テスラ、マイクロソフトなどだ。いずれも企業の質を向上させて、莫大な利益を得ようとした。そのために、社員にはすごい高給を払って、世界でも最優秀の人員を雇用しようとした。
 逆に、後者をめざしたのが、日本企業だ。「企業の質を向上させて、ナンバー1企業をめざす」という発想はまったくなかった。かわりに「利益重視」と考えた。「何よりも目先の利益を上げることが大切だ。それも手っ取り早く、短期的に、すぐに」と考えた。そこで、「まずはとにかくコストカットする」という方針を取った。特に手っ取り早い方針として、「社員の賃金を下げる」という方針を選んだ。とはいっても、賃下げすると、評判が悪くなる。そこで、「正社員をどんどん解雇して、非正規労働者に切り替える」という方針を取った。そのせいで、非正規労働者が増えたが、彼らは従来の正社員のような高技能はない。低技能ゆえに、低賃金であるにすぎない。結果的に、日本の労働者の性質は、次のように変わった。
  ・ 従来 …… 正社員 / 高技能 / 高賃金
  ・ 新規 …… 非正規 / 低技能 / 低賃金

 このような形で、「高技能・高賃金」の正社員から、「低技能・低賃金」の社員へと切り替えられた。
 このとき同時に、会社もまた、同じように切り替えられた。「高技術・高品質の品を売る超一流会社」から、「低技術・低価格の品を売る安売り会社」へと。
 これはつまり、日本の会社全体が、途上国化していった、ということだ。「高品質・高賃金」という先進国企業から、「低品質・低賃金」という途上国企業へと切り替えられていった、ということだ。
 そして、そのことで「企業の利益が増える」という狙いは、まさしく達成された。彼らが望んでいるとおり、企業の利益はどんどん増加していった。狙いはまさしく達成されたのだ。
 しかし同時に、企業そのものが途上国化していった。低賃金労働者によって低価格商品を作り出す、というふうに。そして、そのとき同時に、日本企業の生産性も低下していったのだ。(低賃金労働者によって低品質商品を作るのだから、当然だが。)

 要するに、すべては狙い通りだったのだ。日本企業は、「何よりも利益の拡大」をめざした。そのとき、「コストカット」という方針を選んだので、「労働コストの低下」つまり「賃下げ」という方針を取った。結果的に、低品質・低賃金という道を取った。それはすなわち、「生産性の低下」を意味した。
 一方、世界各国は、逆の道を選んだ。「国全体を途上国化する」かわりに、「国全体を先進国化する」ことを選んだ。米国も、欧州も、中国も、給料をどんどん上げて、世界中の優秀な技術者を招きながら、企業を進化させていった。なのに、その間、日本企業は「賃上げ抑止によるコストカット」や「非正規労働者の拡大による賃下げ」などばかりをめざしていた。つまり、生産性の低下ばかりをめざしていた。
 かくて、日本企業は、「企業利益の増加」と「生産性の低下」を、同時に達成したのである。それはまさしく、狙い通りのことだったのだ。

 ところが、今になって、「どうしてこうなったのか、わけがわからない」などと言い出している。自分で自分の首を絞めておきながら、「どうして自分がこんなに苦しいのかわからない」と言い出している。
 馬鹿丸出しとは、このことだ。

 こういうときには、「おまえが自分で自分の首を絞めているからだろ」と教えて上げればいい。そして、そうしている(教えている)のが、本項だ。


posted by 管理人 at 23:43 | Comment(4) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「低品質・低賃金という途上国企業を目指した」
 その通りと思います。日本社会の指導層がもともと勉強していない上にデジタル化に弱く、英語交渉力もないために先進企業路線が取れなかったためです。
 でももうそんなことを言っても仕方ありません。せめてデジタルを(いろいろな雑音をものともせず)強力に推進しましょう。それでいまだに力を持っているバカ指導者層を振り落しましょう。
Posted by ひまなので at 2023年10月02日 09:15
これは素晴らしい着眼点だと思います。
言われてみればその通りですが、賃金を上げることと生産性を上げることが直結しているからこうなるんですね。
すごい指摘です。
Posted by SM at 2023年10月02日 21:33
1990年代からということは企業が中国に出ていったころと思いますが中国から劇的に安く作り日本に持ってくるということが最大の要因ではないだろうか?
デフレになったのは中国のお陰と思っています。
私などは個人年金に入っており当時の感触としてははたして貰う時もしかしたらパンひと切れしか買えないぐらいになっているのではないか?と少し危惧していました。
現在はデフレになった恩恵を受けている訳ですが中国に工場を持っていったお陰ではないかと思っています。
企業の体質と言われますがそれはつまり日本人の体質な訳です。企業の体質、政治の有り様、すべて日本人の体質です。
口には出せませんがコーカソイドと比べるとモンゴロイドは基本猿に近いと思う今日このごろです。
つい余計なことを書いてしまい失礼しました。
Posted by やぁ at 2023年10月02日 22:09
> 中国から劇的に安く作り日本に持ってくるということが最大の要因

 それは物価下落の要因にはなりますが、日本経済の生産性低迷の要因にはなりません。世界各国で中国製品は輸入されています。日本だけではない。
 中国の安い商品の影響は、世界各国がすべて受けていますが、生産性の低迷が起こっているのは、日本だけです。
Posted by 管理人 at 2023年10月02日 22:39
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ