2023年09月28日

◆ 年収の壁(106万円) .2

 年収の壁 106万円 に対する政府方針が正式に決まった。企業に助成金(補助金)を出す方針だという。
  【 意外な真実 あり 】

 ──

 この問題については、前にも論じた。
  → 年収の壁(106万円) .1 : Open ブログ
 そこでは、こう解説した。
 年収 106万円を越えると、社会保険料の負担が発生するので、手取り所得はかえって減ってしまう。それではイヤだ、という理屈で、パート労働力の女性たちが、勤務日数を増やそうとしない。「それ以上働くのはイヤなので、あとは休みます」というわけだ。これでは労働力が無駄になる。国全体の経済力も落ちてしまう。まずい。では、どうすればいいか? 
 この問題を解消するために、政府は「補助金を出す」という方針を打ち出した。

 ここで記したことが正式に決まった。
  → 「年収の壁」対応策 106万円…企業に助成金 130万円…扶養継続措置:朝日新聞
  → 「年収の壁」問題、支援強化パッケージの対象は?効果はどこまで?:朝日新聞
  → 「年収の壁」対策どうなる 106万円 130万円…支援強化パッケージは | NHK

 記事にも指摘されているが、いろいろと問題があるようだ。特に疑問となるのが、実効性が疑わしいということだ。
 「2025年度までの暫定的な措置」
( → 「年収の壁」対応策 106万円…企業に助成金 130万円…扶養継続措置:朝日新聞

 という点もそうだ。やるのは2025年度までだけ。「2026年以後は元の木阿弥になります」と言っているのも同然だ。こんな暫定的な措置では、2026年以後の効果が見込めない。意味のない政策だと言える。
 また、「従業員1人最大50万円を支給」というのも額が過大で、メチャクチャすぎる。年収 106万円を越えたぐらいの低所得者に、どうしてそんなに多額の金を給付するのか? バランスを欠いていると言えるだろう。

 ──

 では、どうすればいいのか? 先に別項で示したのは、次の方法だった。
 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
 「パート労働者を雇用する企業には、補助金を出すのでなく、逆に、課税する。106万円〜125万円のパート労働者で、社会保険料の負担が増えてしまうので、この範囲内では、社会保険料の負担を、労使折半でなく、全額を会社負担にする

 これで問題がうまく解決する、ということは、別項で示した通りだ。具体的には、106万円〜125万円の労働者では、会社負担が増えてしまうので、会社側がこの範囲になるのを嫌がる。そこで、パート労働者は労働時間を増やして働くようになり、結果的には 150〜200万円 ぐらいの年収の労働者が増える。そうなれば、もはや少額の負担金についてはあまり気にしなくなる……というわけだ。

 ただし、この方法だと、名目上では「企業の負担が増える」という形になる。現実にはそうなることはほとんどないのだが、少なくとも名目上では、そうなることになる。となると、朝三暮四の猿みたいな企業は、「損する、損する」とわめきたてて、上記の方針に反発するだろう。
 「現実には、106万円〜125万円の範囲を企業が避けるので、そうなることはありませんよ」
 と説明しても、
 「でも制度はそうなっているじゃないか。キーキー」
 と企業はわめきたてる。猿のように。
 そして、猿の意見に従う自民党もまた、その声に従うだろう。

 かくて、どれほど名案があっても、猿には名案が理解できないのだ。

 ──

 そこで、「うまい案」とは別に、「物事の核心を示す」という新たな原理を示そう。これはかっこいい「真実の指摘」だ。
 真実とは何か? 下記のグラフだ。(前にも何度か示した。)


hutanritu.jpg
出典:Twitter


 このグラフを見れば一目瞭然だ。つまり、こうだ。
 「低所得者の社会保険料が高すぎる」
 「低所得者ほど社会保険料が高くなるという逆累進制になっている」


 これこそが、核心的な真実だ。そのわけは、次の通り。

 本来ならば、低所得者が社会保険料の負担をするとしても、そんな負担は問題にならないはずだ。なぜなら、低所得者は、社会保険料の負担もまた、少なくなるはずだからだ。
  ・ 低所得者は低負担
  ・ 高所得者は高負担
 という累進制が、負担としては、あるべき姿だ。
 仮に、そうなっていれば、106万円〜125万円のパート労働者で、社会保険料の負担が増えてしまうとしても、新たに負担となる額は少額なので、たいして問題にならないはずだ。

 ところが、現実は違う。106万円を越えたとたんに、一挙に大幅に負担金が増えてしまう。次のグラフのように。


106man-kabe.gif
出典:NHK


 このようなことが起こるのはなぜか?
 人々はそれを「当たり前のこと」と思っているが、そうではない。ここでは、「社会保険料では累進制という原理が働いていない」ということがある。それどころか、累進制とは逆の「逆累進制」が働いている。つまり、「低所得者ほど負担率が高い」という制度だ。そのことは、上の引用グラフでも明らかだろう。
 そして、このことゆえに、「106万円を越えたとたんに、一挙に大幅に負担金が増えてしまう」ということが起こるのだ。

 このような制度があることを、人々は暗黙裏に受け入れている。「もともとそういう制度だから、それを受け入れるしかない」と思っている。愚かな奴隷のように、与えられた制度を受け入れることしかできない。
 しかしまずはその与えられた制度を疑うべきだ。人々の信じる原理を疑うべきだ。そうすれば、「逆累進制という制度そのものをぶっ壊すべきだ」と理解できるだろう。
 そして、その制度をぶっ壊しさえすれば、問題の解決ははるかに容易になるのである。

 ──

 グラフを再掲しよう。


hutanritu.jpg
出典:Twitter


 この図では、低所得者から年収 1000万円ぐらいまで、「税 + 社会保険料」の負担率は、約 28% で一定である。ここでは累進制がまったく働いていない。あまりにもひどい、と言える。
 さらには、社会保険料に至っては、ひどい逆進性がある。このひどい逆進性こそが、106万円の壁の本質なのだ。
 この本質を見失ったまま、「企業に 50万円の助成金を出すことで対策とする」という政府の方針は、あまりにも見当違いの方針だと言うしかない。あっち向いてホイ、みたいに見当違いだ。



 [ 付記 ]
 この問題を解決するには、どうすればいいか? もちろん、普通に負担率を是正すればいい。
  ・ 低所得者の社会保険料率を大幅に引き下げる。
  ・ 中所得者の所得税を引き上げる。
  ・ 超高所得者の所得税を大幅に引き上げる。


 このようにすると、低所得者の生活水準が向上するので、若手の非正規労働者は優遇される。非婚率が高い問題も、いくらか改善されるだろう。
 

 ※ なお、別案もある。制度は現状のままにして、別途、「一律給付金」を給付することだ。たとえば、「1人あたり年額 20万円を給付する」なら、年収 100万円の人は、負担額が 27万円から7万円に減少するので、実質的な負担率が 27%から7%に低下する。これは頭のいい方法だ。(困ったときの Openブログ。うまい案を出す。)

 ※ さらに、別案もある。(企業向けに)「 106万円以上に助成金を出す」かわりに、「 106万円未満に課徴金を課す」ことだ。(企業向けに)金を与えるかわりに、金を奪うことだ。これなら、国の負担はなく、むしろ歳入が増える。しかも、同様の効果がある。106万円の前後で、段差がなくなるからだ。「壁がなくなる」とも言える。……同じ効果を、国の負担なしで実現できる。これも頭のいい方法だ。(しかし、企業べったりの自民党はイヤがる。)



 【 関連項目 】
 (低所得の)非正規雇用と社会保険料……というテーマで、前に論じたこともある。そちらの項目も参照。かなり重要な話もある。
  → 少子化の対策 .2(企業責任): Open ブログ
  → 少子化の対策 .5(補足): Open ブログ

 ※ 参考:
  → 非正規社員の失業問題: Open ブログ

posted by 管理人 at 23:16 | Comment(5) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 [ 付記 ] と  【 関連項目 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2023年09月29日 10:38
 文中に記載ミスがあったので、訂正しました。

 (誤)かわりに、「 106万円以上に課徴金を課す」ことだ。
 (正)かわりに、「 106万円未満に課徴金を課す」ことだ。
Posted by 管理人 at 2023年09月29日 15:39
このツイッターのグラフですが、本当にあっているのでしょうか?
1000万から1500万のグラフと給与所得者の額面1100万の自分の場合と当てはめると社会保険料が大幅に低いです。
2022年の源泉徴収票から比率を出すと、所得税7.5%住民税5.9%ですが、社会保険料は14%です。
子供2名扶養控除があるので所得税、住民税分控除があるのでグラフより私は低くなりますが、社会保険料は8.9%のグラフと大幅に異なります。
しかも給与所得者は労使折半ですがら、国民年金の方に対して、会社が同額払っているのですがら負担率は大幅に高いです。
社会保険料を実際は2倍払い、年収に社会保険料を足した額で計算すると実質24.6%になります。
出所の怪しいグラフをうかつに信じてはいけませんよ。

Posted by メーオ at 2023年10月02日 09:10
> このツイッターのグラフ

 2年前にネットで大いに話題になったグラフです。もし間違いなら、その時点で批判されたはずなので、間違いではないでしょう。そもそも、こんな面倒なグラフを捏造するわけがない。本人のツイートを見ても、経済統計マニアなので、素人のミスとも思えない。

 1100万円に、子供二人の扶養控除を適用すると、1000万年以下になるので、その場合は 10.9% になります。(グラフでは。)

 また、社会保険料は、2023年4月に大幅値上げとなっているので、その分が影響した可能性もある。2022年も、値上げがあった。

 → 2022年4月から雇用保険料率が引き上げられます
https://www.all-smiles.jp/news/20220228/

 これも。
https://www.ieyasu.co/media/unemployment-insurance-premium-rate-increase/

 他にもあるかも。
  https://x.gd/ekiQE

 健保の値上げ
  https://study.fp-univ.net/blog/167


> 社会保険料を実際は2倍払い

 企業負担分は、企業が払っているのであって、労働者が払っているわけではありません。話の筋が違う。
Posted by 管理人 at 2023年10月02日 09:41
消費税の軽減税率とか、それを捕捉し、しっかりと徴収するためにそれ以上のコストをかけるインボイス制度とか、○○万円の壁とか、○○手当の所得制限だとか、日本の税や社会保険料などは単独で成り立つようにと複雑怪奇なものになっている。軽減税率も○○万円の壁も全部取っ払い、全国民に一律の定額を給付すればよい。
Posted by のび at 2023年10月02日 09:46
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ