2023年09月19日

◆ NHK のユーグレナ番組

 NHK のサイエンスゼロで、ユーグレナを紹介する特集番組があった。案の定、ひどいものだった。

 ──

 番組は下記。9月10日放送。
  → NHKオンデマンド | サイエンスZERO 期待の次世代エネルギー!“藻類オイル”最前線
 テーマは「微細藻類」であり、特にユーグレナに絞っているわけではないのだが、微細藻類の一種としてユーグレナも紹介されている。
 話の趣旨は、「ユーグレナのような微細藻類が、バイオエネルギーとして、エネルギー生産に寄与する」というもの。

 番組を見始めたときには、「単なるユーグレナ礼賛かな」と思ったが、意外なことに、ユーグレナの欠点をきちんと指摘している。
 「油を生産しても、その油を精製するのに多大なエネルギーが必要なので、エネルギー収支では割が合わない」
 という点だ。この点は、世間で話題になるのに先駆けて、私がずっと前に指摘した。
  → ユーグレナは詐欺か?: Open ブログ (2016年09月22日)
 その後の続報もある。
  → https://x.gd/oYTJ6 (サイト内検索)

 さて。こういう難点を、NHK の番組はきちんと指摘した。この点は偉い。
 ただ、この難点があると、ユーグレナ(および微細藻類)によるバイオエネルギー生産という夢はついえてしまう。それでは夢も希望もない。そこで番組では、夢をもたらすように、新たな研究成果をいくつか紹介している。

 遺伝子操作


 微細藻類にはユーグレナ以外のものもあるが、いずれにしても、オイルの生産量が少ないという問題がある。現状程度のオイル生産では全然足りないのだ。
 特に、「細胞の増殖と、オイルの生産とが、二律背反であって、両立しない」という問題があるそうだ。あちらが立てば、こちらが立たず。困った。どうする?

 そこで、困ったときの Openブログ……というわけではなくて、研究者が独自に解決案を出した。遺伝子操作によって遺伝子を改変して、「増殖」と「オイル生産」をうまく両立させるようにしたそうだ。(双方の遺伝子をつまみ食いしたらしい。)
 すると、どうなったか? うまく成功して、オイル生産量が 56倍になったそうだ。めでたし、めでたし。これでうまく研究成果が出て、論文を書けることになった。

( ※ ただし論文は書けたとしても、実用化には程遠い。56倍ぐらいでは、全然、実用化段階に達しないからだ。この件は後述する。)

 オイル回収方式


 ユーグレナなどの微細藻類がオイルを生産しても、そのオイルは細胞内に留まっているので、そのオイルを取り出すことが難しい。普通の農産物ならば、種子を絞るだけでオイルを取り出せるのだが、微細藻類を絞っても、オイルは出てこない。(柔らかすぎるからだ。)
 そこで微細藻類を有機溶媒に溶かして、有機溶媒に溶け込んだオイルを抽出する。しかし、そんなことをしていると、抽出の方に莫大なエネルギーを必要とするので、エネルギー収支が割に合わない。「1ccのオイルを得るために、1ccのオイルを燃やして精製のエネルギーを得る」というふうになりがちだ。実際、こういうことをして、「バイオエネルギーを取り出しました」という論文を書く人もいる。本サイトでもそのばからしさを紹介したことがある。
 たったのこれっぽっちのカロリーを得るために、水を高温で加熱殺菌したり、遠心分離にかけたりする。さらには、モモを運搬して投入するためのエネルギーが別途かかる。
 ま、ざっと見て、得られるエネルギーに比べて、投入するエネルギーは 5〜10倍ぐらいになるだろう。つまり、リサイクルをすればするほど、莫大なエネルギーが浪費される。リサイクルという名の浪費。
( → モモでバイオディーゼル: Open ブログ

 なお、精製の面倒さについては、下記でも解説した。
  → ユーグレナは詐欺か?: Open ブログ (2016年09月22日)

 ともあれ、こういう問題がある。そのことは、NHK の番組でも紹介された。
 その上で、この問題を解決する新手法が紹介された。
 「細胞が精製したオイルを、細胞内に溜めるのではなく、細胞外に排出する。排出されたオイルと細胞を分離したあとで、オイルだけを取り出して、細胞は元に戻す。元に戻した細胞は、そのまま循環させて、繰り返し使う」

 この方法だと、有機溶媒を使うことなく、オイルだけ容易に取り出せる。また、細胞をつぶすことなく、微細藻類を繰り返し使えるので、無駄がない。……かくて、「生成エネルギーが多大である」という最大の問題が回避される見込みが立ったそうだ。すばらしい!

( ※ ただし、精製の問題は解決したとしても、実用化には程遠い。そもそものオイル生産量が、全然、不足しているからだ。この件は後述する。)

 毛を短く


 すぐ上の方法と似た狙いの研究がある。
 ある種の微細藻類では、細胞と細胞の間にオイルが溜まる。そのオイルを取り出すのには、有機溶媒を使う。だが、有機溶媒にオイルが溶けるのには時間がかかるので、その間に、有機溶媒に触れている微細藻類が死んでしまう。それはまずい。
 そこで、この時間を短縮化する方法を考えた。それは「塩水にひたす」という方法である。こうすると、細胞の表面の毛が短くなるので、オイルが有機溶媒に溶けやすくなる。おかげで短時間でオイルが有機溶媒に溶けるようになる。こうして効率を高めることができる。効率2倍をめざしているそうだ。
 番組では「有望かも」という評価だ。
 だが、私の評価は厳しい。この方法は、可能性はあるにしても、今年になって研究が進んでいるだけだ。研究期間(実績)が短すぎる。また、多くの藻類に同様に適用できそうだと楽観しているが、未確認だ。
 まあ、可能性はあるし、夢を持つのは勝手だが、夢というよりは妄想に近い。科学的な裏付けは皆無という段階だ。そもそも、いまだに初歩的な基礎研究の段階であって、この先どうなるかはまったく見通しが立っていない。
 さらに言えば、「効率2倍」をめざすというのは、あまりにも目標が低すぎて、お話にならない。そんな低い目標は、たとえ実現しても、意味がない。比喩的に言えば、高さ2メートルのジャンプを実現したことで、「月面旅行を目指します」というようなものだ。レベルが違いすぎている。ナンセンスだ。

 根本的問題


 NHK は「微細藻類によるバイオエネルギーの生産」というものに期待しているようだが、あまりにもナンセンスである。見当違いと言ってもいい。こんな分野で研究しているバイオ研究は、すべて無駄であると指摘するべきだ。
 なぜか? そもそも原理的に、植物によるエネルギー変換効率が低いからだ。
 植物がオイルを生産するとき、その元になるのは、太陽光エネルギーである。太陽光エネルギーを得て、そのエネルギーを変換して、オイルに転化する。では、そのエネルギー変換効率はどのくらいか? それは、光合成のエネルギー変換効率であって、1% 以下である。下記項目で説明したとおり。
  → ユーグレナは詐欺か?: Open ブログ (2016年09月22日)
 ここで、こう記してある。
  太陽光発電のエネルギー変換効率は10〜20%が目標とされているのに対し、 光合成微細藻類を利用した効率の目標が1〜2%というのは、低すぎると感じる向きもあるかと思います。 しかし、エネルギー変換効率が1〜2%でも、経済性の確保は不可能ではありません。
 たとえば、トウモロコシ光合成のエネルギー変換効率は植物全体で約1%、穀粒は0.3%程度と見積もられます。
( → 太陽光エネルギー経済性の確保

 ユーグレナから取り出せるオイルの量も、せいぜい 0.3% ぐらいだろう。太陽光エネルギーのうち、たったのそれっぽっちしか取り出せないのだ。
 しかも、これは最大値(上限)である。実際には、オイルを取り出すために精製エネルギーを消費するので、その上限値よりもずっと低い量しか取り出せない。
 そこで、この無駄をなくすために、あれやこれやと研究している……というのが、NHK の番組で紹介した手法だ。しかし、その手法が最大限に成功したとしても、上限値の 0.3% に到達するだけなのだ。この値はあまりにも低い。

 一方、工業的にエネルギーを取り出す方法もある。太陽光パネルのエネルギー変換効率は(市販品で) 20%程度だ。研究室段階では 40% にも達する。これに比べると、ユーグレナのエネルギー変換効率は百分の1にしかならない。桁違いに少なすぎる。

 また、バイオエネルギーで得たオイルで発電するとしても、そのときの発電のエネルギー変換効率は、せいぜい 50% ぐらいにしかならない。ここでも効率の悪さが起こる。一方、太陽光エネルギーを蓄電するならば、エネルギー変換効率は 90%以上を達成する。この点でも、太陽光エネルギーに負けている。

 バイオエネルギーで得たオイルが、太陽光エネルギーに勝る点は、「長期貯蔵ができる」という点だけだ。しかしその点も、メタネーションや水素による手法で、ある程度は解決が付く。(前項までの話で示した通り。)
 とすれば、「(ユーグレナのような)微細藻類でバイオエネルギーを生産する」という手法は、あまりにも効率が悪くて、とうてい実現の可能性がない、とわかるはずだ。

 こんなゴミ研究の推進のために番組を作る NHK は、詐欺師の片棒をかついでいるのも同然だ。




 【 関連動画 】

 サイエンスZero



 




 ※ 次項 に続きます。
 
 
posted by 管理人 at 23:27 | Comment(3) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
晩気味を見ていませんが、細胞内からオイルを取り出す方法を2つ紹介します。
 有機溶媒による抽出では溶媒(エーテルなど)は回収できるのでそれほどコストはかからないと思います。
 フレンチプレス法というのがあります。細胞を含んだ水にゆっくりと圧力をかけていき、ある圧力に達したら急に「ポン!」と圧力を抜きます。すると細胞内部に残った水圧で細胞が破裂してオイルを取り出すことができます。この方法ならそれほどエネルギーは要らないのではないでしょうか。コーヒーを低温で州出するのにも使っていると聞きましたが、残念ながら飲んだことはありません。
 植物の光合成はすごく効率が高いです。取り込んだ光子は90%以上反応=電子移動に使っています。ただし1分子の炭酸ガスを還元するのに4回の電子移動が必要なので、それを考えると20%位という事になります。問題は葉っぱの葉緑体が光子をどれだけ吸収できるかです。
 すみませんがこの辺りうろ覚えなので必要なら再調査してください。
Posted by ひまなので at 2023年09月20日 11:03
> 回収できるのでそれほどコストはかからない

 無駄に捨てるからコストがかかるのではなく、(不純なものを純粋にする)精製のためにコストがかかるんです。エントロピー減少のコスト。このコストが莫大になる。リンク先に記してある通り。

>  植物の光合成はすごく効率が高いです。

 いくら効率が高くても、それで得たエネルギーの大部分は、自己形成のために使われてしまって、オイル生産のためには使われない。
 初期投資が必要なのは太陽光パネルも同様だが、太陽光パネルは 10年以上の寿命がある。植物はたいていが使い捨てで、1回限りだ。番組では循環する方法が紹介されていたが、それは変換効率が低い。変換効率を高めれば、使い捨て。両立はできそうにない。
Posted by 管理人 at 2023年09月20日 11:33
 「毛を短く」の章で、冒頭部分の説明を詳しく書き直しました。舌足らずだったので。
Posted by 管理人 at 2023年09月20日 22:23
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