2023年09月18日

◆ メタネーションの意義は .4

 (前項 の続き)
 炭酸ガスの排出を削減することと、空気中の炭酸ガスを減らすこととは、別である。区別するべきだ。

 ── 

 排出削減の意味


 メタネーションは、空気中の炭酸ガスをメタンにするので、その時点では炭酸ガスを減らすが、メタンを燃やせば、そこで炭酸ガスを発生する。だから、差し引きすれば、炭酸ガス削減の効果はない。
 水素は、炭酸ガスをまったく発生しない。とはいえ、空気中の炭酸ガスを減らすわけでもない。
 メタネーションや水素は、化石燃料とは違って、炭酸ガスを発生することはないのだが、それ自体には炭酸ガスを減少させる効果はない。
 メタネーションや水素が、化石燃料の取って代わることで、炭酸ガスの排出を抑制できる。そういう効果はあるが、プラス量を小さくするという意味だけがあって、量をマイナスに転じるわけではない。

 炭酸ガスの固定化


 一方、空気中の炭酸ガスを減少させる効果をもつものがある。
 代表的なのは、森林だ。森林は、空気中の炭酸ガスを吸収して、葉や枝や幹に転じる。このうち、葉は比較的早く腐って二酸化炭素に戻りがちだが、枝や幹は長年にわたって維持される。通常、地中に埋もれて、そのうちのかなりの部分は長期的に地中に蓄えられる。一部は石炭と化して、何億年も地中に留まる。
 一方、草はそうではない。草は、森林の葉と同様で、比較的早く腐って二酸化炭素に戻りがちだ。
 農産物は、もっと悪い。農産物は、空気中の二酸化炭素を吸収するが、結局は人間や家畜の口に入って、すべてが二酸化炭素に戻ってしまう。結局は、炭酸ガス吸収の効果はない。
 農産物の一部は、バイオ燃料となるので、その分、化石燃料の使用量を減らす効果がある。これはいくらか意味がある。

 他には、炭酸ガスをドライアイスや液体にして地中に固定する、というアイデアもある。だが、今のところはアイデア止まりであって、実用化の段階にはない。

 ※ 以上で述べたことは、広く知られたことばかりで、特に目新しい話はない。大事なのは、このあとの話だ。


 木材の燃焼


 木材チップを燃焼することは、化石燃料を使わずにエネルギーを得るので、炭酸ガスを排出しない。だから好ましい……と言われる。
 しかし、これは馬鹿げている。せっかく木材として固定したものを、また空中に放出してしまうからだ。いったんプラスからマイナスに転じたものを、またプラスに戻してしまう。これでは逆効果だ。
 木材でなく草を燃やすのであれば、草はどっちみち炭酸ガスになってしまうので、草を燃やすことの意義はある。草を燃やして熱エネルギーを取るというのは、それなりに意義がある。
 しかし木材チップを燃焼することは、固定した炭酸ガスを解き放つことになるので、炭酸ガスを増加させる効果があるのだ。そんなことをするくらいなら、木材チップのまま放置しておいた方がずっといい。
 その意味で、木材チップを使って燃料にすることを、国が補助金で優遇することは、ナンセンスだ。なのに、現実には、そういう補助金制度がある。
  → 木質バイオマスの豊富な補助金事情まとめ

 木材の維持


 上の問題を考え直すと、なすべき方策もわかる。木材チップや不要木材は、なるべく燃やさずに維持するべきなのだ。それが炭酸ガス固定化のために役立つ。
 使い道がないような廃材は、地上に置いてもいいし、地中に埋めてしまうのでもいい。それでも朽ちて炭酸ガスになるまでには、長い時間がかかるだろう。寒冷地に持って行けば、石炭に化することもあるかもしれない。
 使い道のある木材は、きちんと使えばいい。建材や家具に使うのでもいい。そうして木材として使っている間は、炭酸ガスが木材の形で固定化されているので、炭酸ガス削減の効果がある。
 逆に、廃材だからといって無闇に燃やしてしまうのは、炭酸ガスが出るので、よろしくないと言えるだろう。
 とはいえ、温暖な地で木材を簡単に腐らせてしまうと、エネルギーを取り出すことなく炭酸ガスの排出があるので、これは最も無駄だ。無駄に腐らせるのに比べれば、いったんは燃やす方がマシだと言えるだろう。(化石燃料の使用量を減らす効果があるからだ。)

 不耕起栽培


 「不耕起栽培」という手法もある。農地は、耕すのが普通だが、耕すのをやめることで、二酸化炭素の排出を大幅に削減できる。
 土壌は炭素の巨大な「貯蔵庫」だ。二酸化炭素換算で5.5兆〜8.8兆トンが貯留されていると見られ、大気の約3兆トンや森林などの約2兆トンをはるかに上回る。
 農地を耕さずに土壌の炭素量を0.4%ずつ増やすことができれば、人間活動による温室効果ガスの排出を帳消しにできるという。
( → (現場へ!)気候変動と農業:5 耕さない土、秘めた可能性:朝日新聞

 この農法については、前に述べたことがある。上の引用部がそっくりそのまま、記載されている。
  → 土壌に炭素を貯め込む: Open ブログ
  ※ つまり、上の引用部は、過去記事の使い回しだ。自社記事の転載とも言える。転載や再掲と記さないが。

 ともあれ、不耕起栽培を採用するだけで、空気中の二酸化炭素をどんどん吸収できて、炭酸ガスの増加という問題を一挙に解決できる。これが最も賢明な方法だと言えるだろう。
 逆に言えば、EV や太陽光発電によって、炭酸ガスの排出ガスをいくら減らしても、それだけでは足りないのだ。たとえ炭酸ガスの排出をゼロにしても、すでに空気中にある炭酸ガスを減らすことはできないからだ。
 炭酸ガスを減らすためには、EV や太陽光発電とは異なる手法が必要なのである。そして、その手法は、メタネーションや水素生産ではない。これらは炭酸ガスを減らす効果はないからだ。

 ※ メタネーションでは炭酸ガスをいったん吸収するが、メタンを燃やしてしまえば、元の木阿弥となる。

 現実は最悪


 以上の説明で、原理的になすべきことは判明したことになる。
 一方、現実にやっている政策は何かと言えば、下記で示した通りだ。
  → 製鉄の脱炭素化: Open ブログ
  → https://x.gd/O9DB2

 政府の方策は、「アンモニアによる石炭発電や、水素還元による製鉄のために、 GX経済移行債で 20兆円を浪費する」というものだ。つまり、ただの無駄事業のために、20兆円を無駄に浪費するわけだ。
 で、その 20兆円で、製鉄業界や石炭発電業界がボロ儲けしようとする。国民はそのために 20兆円を巻き上げられる。彼らは国民をカモネギだと思っている。(自民党と結託して。)

 国が 20兆円を無駄に浪費するという政策を見ると、狂気の沙汰だと見える。しかし実は、狂気の沙汰ではない。 20兆円を損するのは国民であるが、その 20兆円でボロ儲けするのは石炭発電業界と製鉄業界である。彼らはウハウハだ。そして、そのために、彼らは自民党に献金するのだ。

 これが日本における「脱炭素化」の政策の本質だ。つまり、「炭酸ガスの削減にはろくに効果のないことをやって、しかも効果がありますと見せかけることで、国民の金を大量に私物化すること」である。
 ひとことで言えば、詐欺である。

 本サイトではこれまでしばしば、社会における悪党の詐欺を指摘してきた。だが、日本史上最大規模の詐欺は、「脱炭素化」の名目で行われる。それによって 20兆円以上の金を一挙にだまし取るのだ。
 国民はカモネギになるしかない。



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 [ 補記 ]
 文中では「草を燃やすことの意義はある」と述べた。
 この発想で発電するのが、バイオマス発電だ。稲藁などを燃やして発電する、という事業は実用化されている。
 しかし稲藁などのバイオマスは広範囲に散在しているので、集める(運搬する)ために多大なエネルギーを必要とする。そのため、エネルギー収支としては、あまり効果的ではない。バイオマス発電は、理屈としては成立するのだが、現実には意味がないようだ。
 むしろ、稲藁の大部分は、地中にすき込むことで、肥料として再利用されている。こちらの方が主用途となるようだ。仮に、これをやめると、肥料としてのリンが不足してしまう。リンのほとんどは中国から輸入しているので、中国しだいで日本の農業が左右されてしまうことになる。これはきわめてまずい。
 なお、日本の土地は、(腐葉土の多い世界各地と違って)火山灰台地であるせいで、リンが大幅に不足する。これは火山灰台地である日本の宿命だ。関東平野も、濃尾平野も、九州各地も、ほとんどは火山灰台地となっている。日本はもともとバイオマス発電には適していない。
 ※ 外国ならばそうではないので、外国ならばバイオマス発電は可能だ。例。ベトナムでバイオマス発電。
   → 稲わら、麦わら、籾殻について | 一般財団法人 新エネルギー財団

 ※ なお、日本の平野と火山灰の関係については、下記で論じた。
   → 関東平野と火山灰層: Open ブログ




 ※ シリーズはこれで終了です。全4回。(その前に別途1回あり。)

 
posted by 管理人 at 23:19 | Comment(2) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に [ 補記 ] を加筆しました。
 草を燃やすバイオマス発電の話。
Posted by 管理人 at 2023年09月19日 08:28
バイオマスも70年代から言われていることです。サトウキビが最も成長が早い=1年あたりの炭酸ガス吸収量が多い植物だったと思います。樹木も成長期の方が吸収量が多いので老年期の森よりは適当に伐採した方がよさそうです。
 話は飛びますが日本の住宅の寿命が短すぎるのが問題です。50年も待たず古材を燃やして立て替えています。もっと太い木でしっかり作って200年持つようにすれば懐にも環境にも良いのですが、だれも言い出しませんね。
Posted by ひまなので at 2023年09月19日 09:30
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