メタネーション(炭酸ガスに水素を付加してメタンを作ること)について、さらに考える。特に、重油の改質について。
──
水素との比較 2
水素との比較では、メタンは「液化しやすい」という利点がある。
メタンの液化の温度は、常圧では -162℃ である。圧力を十分に高めたときには -82.5℃ となる。液体窒素の温度は -196℃ なので、それよりも高い温度であり、扱いやすい範囲だ。
一方、水素の液化の温度は -253℃ であり、きわめて低い。ここまで低温にするには、かなりコストがかかる。実用が容易であるとは言えない。そのせいで、燃料電池車も、液体水素を使うことはなく、高圧の水素ガスを使うのが普通だ。
要するに、メタンは液化しやすいが、水素は液化しにくい。その点で、運送のしやすさに差が生じる。
海外の LNG(メタンが主体)を運搬することは、専用の LNG船を使えば問題なく可能だ。一方、海外の水素を運搬することは、液体水素にしても、高圧ガスにしても、容易ではなさそうだ。
国内の輸送だけなら、高圧ガスを専用のトラック(トレーラー)で輸送することもできる。トラック自体が巨大なガスボンベになっているようなものだ。とはいえ、これと同じことを船でやるわけには行かないだろう。
※ 参考資料:下記の 25頁。
→ 水素の製造、輸送・貯蔵について 資源エネルギー庁(2014年)
こういうことがあるので、「たとえエネルギー効率が劣っても、水素よりはメタンの方が使いやすい(輸送しやすい)」という観点から、水素よりもメタンを選択する……という発想も成立しそうだ。
とはいえ、輸送の観点から言うなら、メタンや水素よりも、もっといい方法がある。それを以下で示そう。
重油の改質 1
重油の改質という方法がある。炭素の多い重油に、水素を添加することで、重質油から軽質油を生み出す、という方法だ。「水素化分解」とも言う。
これは、「水素を添加して水素を燃やす」ということがなされるので、実質的には、水素を燃焼しているのと同等の効果が生じる。いっしょに炭素を燃やすという点では、メタンを燃やすのにも似ている。
ただし、メタネーションのメタンは、CO2 から生み出したものなので、実質的には炭酸ガスを出さない。一方、重油の改質は、CO2 から生み出したものではないので、実質的に炭酸ガスを出す。……では、それでは意味がないかというと、そうでもない。半分ぐらいは、炭酸ガスを減らす効果があるのだ。
現状では、ガソリンや灯油などの軽質油はすでに使われている。使いたくないと思っても、使わざるを得ない。その際、原油から軽質油を取り出したあとには、重油が残る。これはいわば副産物である。余ったからといって、捨てるわけにも行かない。そこで、値段を安くして提供してから、安上がりの燃料として重油を燃やす。船舶・火力発電・ボイラーなどが使途だ。
このような使途は、本来ならば廃止されるべきだ。船舶・火力発電・ボイラーなどのエネルギー源は、いずれも太陽光や風力による電力で代替することができる。そういうふうにすれば、脱炭素化が推進されるだろう。なのに、重油が余って安価だからという理由で、使用されている。そうするべきではないのに。
ここで、「重油の改質」という手法が役立つ。余った重油があれば、これを改質して軽質油にするといい。そうすれば、重油はなくなるので、重油が船舶・火力発電・ボイラーなどで使われることもなくなる。するとその分、石油の消費量(総量)が減る。
モデル的に例を示そう。
現在 …… 石油使用の総量は 100。
(内訳:軽質油が 50、重質油が 50 )
将来 …… 石油使用の総量は 50。
(内訳:軽質油が 25、重質油が 25 )
(改質で軽質油が 50、重質油が 0 )
重質油の 25 を改質すると、軽質油 25 ができる。
元々ある 25 に、改質分の 25 を足すと、50 に。
──
上のモデルのようにすれば、石油使用の総量は 100 から 50 に半減する。その分、炭酸ガスの発生量は半減する。一方で、軽質油の使用量は変わらない。そのかわり、重質油の使用量がゼロになる。その分は、太陽光発電などで代替すればいい。
重油の改質 2
重油の改質という方法は、上記のように、炭酸ガスの発生を抑制する効果がある。「ゼロにする」というわけではなく、「半減する」というわけなので、効果が小さいように見えるだろう。しかし、規模が大きいので、炭酸ガスを減らす効果の絶対量は大きい。
たとえ話で言うと、1億円の半分は、1000万円の全額よりも多い。前者は大きなバッグ(1億円用)に半分入っているだけで、後者は小さなバッグ( 1000万円用)に満杯となっている。「前者は半分で、後者は満杯か。ならば、後者の方が多いぞ」と思うとしたら、計算違いというものだ。
1億円×0.5 > 1000万円 × 1.0
という不等式が成立するのだ。
それと同様のことが、重油の改質にも当てはまる。これによる炭酸ガス抑制効果は半分でしかないが、その総量が大きければ、現実に減らせる炭酸ガスの量は圧倒的に巨大な量となるのだ。
──
しかも、別の効果もある。
・ 重油の改質は、コストが低い。
・ 重油の改質は、商売になる。(重油よりも軽質油の方が高値だ。)
・ 重油の改質は、技術的に容易である。(すでに実現されている。)
・ 重油の改質は、液化が容易である。
特に、最後の点は重要だ。メタンや水素は、液化の温度がとても低いが、重油の改質では、できた軽質油は、液化の温度がかなり高い。軽油の沸点は240℃〜350℃、ガソリンの沸点は35℃〜180℃ である。つまり、常温ですでに液体である。だから、特別に高圧ボンベなどは必要ないのだ。
この意味で、重油の改質は、圧倒的に有利であると言えるだろう。
重油の改質 3
重油の改質には、別の利点もある。こうだ。
「砂漠の太陽光発電で発電した電気エネルギーは、そのままでは他国に運べない。通常、水素やメタンに転じてから、液体の形で他国に運ぶことになるが、それだと効率が悪い。(液化のときに大量のエネルギーを浪費する。)
一方、砂漠の太陽光発電で発電した電気エネルギーを、現地で原油を精製したあとの重油に施して、重油の改質をすることができる。こうすれば、水素やメタンに転じることなく、軽質油という液体の形で他国に運ぶことができる。それだと効率が良い。(液化のときに大量のエネルギーを浪費しないからだ。)
つまり、重油の改質を、消費国において行うのではなく、中東の産油国において行えば、現地の太陽光エネルギーを世界各国に運搬するという効果が生じるのだ。これこそ、圧倒的に優れた利点だと言えるだろう。
──
なるほど、「重油の改質」という方法では、どうしても炭素を排出する。そこで、「理想的な脱炭素化にはならない」という観点からして、評価が低くなりがちだ。
しかしながら、現実には、ガソリンや軽油や灯油の使用量を一挙にゼロにすることはできない。ならば、最終的な「石油使用量ゼロ」が達成されるまでの暫定的な過程として、「重油の改質」という手法を採用するべきだろう。
このことで、低いコストによって、大規模な炭酸ガスの排出削減が可能となるからだ。
これを私の推奨策として提言しておきたい。
※ 納得しにくい人も多いだろうが、「重油の改質」では、まさしく水素の添加をしているのだから、水素を利用する効果は発揮されているのである。そして、そのエネルギーは、中東の砂漠の太陽光エネルギーなのだ。これを上手に利用する(うまく液化をなす)という点に、「重油の改質」のメリットはある。
※ 現状では、重油をそのまま燃やしている。この重油に水素を添加すれば、実質的には水素を燃やすのと同じ結果になる。つまり、メタネーションや水素燃焼と同じことになる。しかも(液化の温度が高いので)圧倒的に運搬効率が高い。運搬の際に、(液化や圧縮で)エネルギーを無駄に消費しないで済む。こういう利点があるのだ。
[ 付記 ]
重油の改質には、単なる熱分解(流動接触分解 FCC )と、水素を添加する「水素化分解」とがある。本項で推奨しているのは、後者だ。
ただし、事業として実用化されるには至っていないようだ。それも当然で、超安価な水素生産が実用化されていないからだ。水素化分解は、技術的な点では問題は少ないようだが、肝心の原料である「安価な水素」が生産されていないせいで、実用化に至っていない。
なお、技術的には、「ナフサや重質軽油からの水素化分解」は容易にできているが、「重質油からの水素化分解」はまだ難しいようだ。重質油はドロドロで粘度が高いので、重質油になる前の原油の段階で処理した方がいいのかもしれない。( ※ この件、専門的知識が必要となりそうだ。)
参考資料:
→ 重質油の水素化分解 ( 1987 )
1987年というかなり古い文献。
→ 重質油の水素化分解技術
→ 資源エネルギー庁による研究開発・補助事業(2022)
最近ではかなり研究が進んでいるようだが、まだ課題が残る。
※ 次項に続きます。
環境問題でいつも思うのは、感覚的な文系人間の発言力が世界的に強すぎて、本当に有用な対策が行われていないことだと思います。ゼロエミッションとかレジ袋やストローとかです。PHVなんかもっともっと擁護すべきでした。日本の政治家や会社の人達が英語に弱くて、世界への発信力が小さいのが原因と思います。