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一挙に 30万件の犯罪をなした犯罪者がいる。一人でやったのではなく、二人で共謀してやったのだが、それでも頭割りにして、一人あたり 15万件だ。
これほどにも大量の犯罪をなしたのなら、刑罰も 15万倍ぐらいになってもおかしくないだろう。だが、現実には、1件だけの犯罪とほとんど変わらないのだ。犯行の件数は、1件でも 15万件でも、刑罰の量はほとんど変わらないのだ。
これは法制度の欠陥だろう。そう指摘したい。それが本項の趣旨だ。
詳細は、以下の通り。
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コンピュータによる大量発信機能を利用して、30万件もの脅迫をなした犯罪者がいる。
全国の大学や高校などに1月、爆破や殺害を予告するファクスが送られた事件に関与したとして、警視庁が8月、20代の男2人を威力業務妨害の疑いで逮捕したことが捜査関係者への取材で分かった。1〜5月に学校や自治体、企業などに延べ30万件以上が同様の手口で送信されたといい、過去最悪の被害とみられる。
今回の事件にはネット経由でファクスを大量送信するサービスが使われ、2人は申込時に発信元を匿名化するシステム「Tor(トーア)」を経由してアクセスしていた。トーア使用の事件が立件されるのは異例。
( → 脅迫ファクス事件で男2人を逮捕 送信30万件超 「恒心教」を自称:朝日新聞 )
佐藤直容疑者(22)は2021年度、サイバーセキュリティー人材育成を目的とした国立法人主催のプログラムに参加していた。容疑者は選考を突破し、国費でコンピューターの知識や技術を習得していた。
「SecHack365」と呼ばれ、総務省所管の国立研究開発法人「情報通信研究機構」が主催し、17年から毎年開催されている。
サイバー攻撃の多様化、悪質化を背景にサイバーセキュリティーの研究・開発人材の育成が目的だ。総務省の予算が充てられ、参加者は20人以上の専門家による講義や指導を無料で受けることができる。
参加条件は25歳以下。
( → 脅迫ファクス送信容疑の大学院生 国費でサイバー防衛を学んでいた:朝日新聞 )
国費でサイバーセキュリティー人材を育成したら、そいつが凶悪犯罪をなしていたわけだ。しかも、せっかく学んだ高度な技術で、匿名化することで姿を隠して、なかなか見つからないようにした。そのせいで、犯行が発覚しても、なかなか犯人が見つからず、時間が経過するうちに、30万件もの被害が生じた。
こういう高度な凶悪犯については、「一罰百戒」の形で、重罰を科するべきだろう。そのことで高度な凶悪犯を抑制するわけだ。
ところが現実は、その正反対である。高度な凶悪犯について、大甘な刑罰を科する。つまり、こうだ。
「 30万件の犯罪をなした凶悪犯も、1件だけの犯罪をなした素人犯罪者も、ほぼ同等の刑罰を科する」
こういうふうに制度が決まっている。だから、今回の 30万件の犯罪をなした凶悪犯は、たいして大きな刑罰は科されないのだ。
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具体的な法律で示そう。
爆破予告のような脅迫をした場合の罪名は、次の通り。
・ 威力業務妨害罪
・ 脅迫罪
・ 強要罪・恐喝罪
最高刑はそれぞれ、懲役3年、懲役2年、懲役3年となる。
→ 爆破予告で問われる罪は? 科される可能性がある刑罰と逮捕の可能性
一方、複数の犯罪をなした場合には、そのすべてがまとめて扱われ、刑罰は「最も重い罪の刑罰の 1.5倍を上限とする」と決められている。
※ 法律用語で「併合罪」という。
上の事例では、「最も重い罪の刑罰」は懲役3年だから、その 1.5倍の懲役4年6カ月が最高刑だ、ということになる。これ以上は重くならないのだ。
30万件もやった凶悪犯に対して、これはあまりにも大甘だ、と言えるだろう。
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そもそも、「併合罪」という概念は、普通の人間的な行動についての概念だ。一人の人間がいくつかの犯罪をするとしても、せいぜい三つぐらいだろうし、多くても五つぐらいだろう、というふうに考えられていた。あるいは、泥棒の常習犯が、逮捕をされる前に数十件の泥棒を続けていた、というような事例を念頭に置いていた。
しかるに、今はネット時代だ。こうなると、機械の力を借りることで、犯罪の数が爆発的に増える。30万件にも増える。こういう状況では、従来の「併合罪」という概念が、もはや時代に即していないのだ。
そこで、私としては、次のように提案しよう。
「電子的な併合罪については、1.5倍という制約を取っ払う。犯行の件数が極端に多い場合には、最大刑を無期懲役または有期懲役 20年とする」
これならば、今回の犯罪者のような凶悪犯を、うまく処罰できる。一罰百戒の効果が生じる。
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なお、同様のことを、「特殊詐欺」(オレオレ詐欺・親だまし詐欺)にも、適用するといいだろう。
特殊詐欺は、たいていは末端の小物が逮捕されるだけだが、稀に親玉が逮捕されることもある。実はこのたび初めて、首謀者が逮捕された。
→ 広域強盗 特殊詐欺グループの首謀者ら4人逮捕 実行役に指示か | NHK
特殊詐欺もまた、被害者が百人以上になることが多くて、多数の犯行がなされている。こういう事例にも、併合罪としての罪を大幅に重くするべきだろう。現状の 1.5倍では甘すぎる。
[ 付記 ]
その一方で、子供じみたいたずらについては、凶悪事件のように扱って、非常に重い刑罰を科することもある。一連の事件の初期にあった、小女子(こうなご)事件がそうだ。
「小女子を焼き殺して食べちゃいます」
と掲示板にいたずらで書き込みをしたら、「問題だ」と指摘されたので、「ごめんなさい。本気じゃないです」と1時間後に謝った。だから誰も本気だとは思わなかった。なのに警察が逮捕して、懲役1年6カ月(執行猶予あり)という重い刑罰。(なのにもっとひどいことを書いた橋下徹は免罪。)
→ 橋下市長を逮捕せよ: Open ブログ
そもそも、こんないたずら書きは、見る人もほとんどいないし、ほったらかしていいだろう。なのに、いちいち騒いで裁判にする。まったく、税金がもったいないね。
こんなのを取り締まるために公金をたっぷり支出するが、その一方で、30万件の脅迫をした凶悪犯については、ろくに罰しない。2件分ぐらいは罰するのだろうが、3件目以後のほとんどすべては免罪になるのも同然だ。(1.5倍にしかならないからだ。)
凶悪犯にばかりやたらと大甘になる、日本の法制度。ひどいものだ。メチャクチャだ。呆れる。
※ そう言えば、チャップリンが言っていた。「一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だ」と。それとちょっと、似たところがあるかもね。ちょっとだけは。