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8月中は降水量が少なくて、ダムの水量がどんどん減少する。利根川水系では、下記のようになる。
今年は赤線だ。
7月1日には満杯だったが、その後、どんどん減っていった。しかし8月7日ごろから貯水量が減るどころか上昇していった。これは台風7号のおかげだ。8月下旬には貯水量が不足しがちだ。昨日の段階では茶色の線と並んだ。つまりこの8年で第3位に並んだ。翌日には追い越すと見込まれるので、この8年で3位の水準にあると言える。例年に比べて多めの水量だと言えるだろう。水不足になる心配はないようだ。(9月10日ごろまでは十分にもつ。)
その意味で、水不足について問題視するわけではないのだが、だとしても、「余裕しゃくしゃく」というほどでもない。できれば「余裕しゃくしゃく」というふうにしたい。
換言すれば、今年は台風7号のおかげで何とかなったが、台風7号が来ないような年でも、不安にならないようにしたい。万が一にも水不足にならないようにしたい。
では、そのためには、どうすればいいか?
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これについては、先に提案したことがある。
6月下旬にはダムの水を大量に捨てているようだ。(下図)
※ ならば、7月上旬には、ダムの最大貯水量の計画値(制限容量)を、引き上げた方がいい。そうすれば、6月の下旬に、ダムの水を大量に捨てる、という無駄をなくせる。(水を捨てるのはもったいない。)それでいて八ツ場ダムを建設するのだから、馬鹿げている。水を貯めると同時に水を捨てているわけだ。馬鹿丸出し。
( 何で馬鹿なことをやっているかというと、昔はこんなに雨水が貯まることはなかったからだ。制限容量まで水が大量に貯まることなどはなかった。だから制限容量を低めにしていた。……ところが近年は6月に豪雨が続くので、水を捨てないと、7月上旬には制限容量を超えてしまう。それではまずいので、6月下旬には、せっせと水を捨てているのである。……結局、地球温暖化への対策ができていないわけだ。)
( → 八ツ場ダムの効果: Open ブログ )
昔は6月の雨量が多くなかった。ダムの水量が満杯になることなどはなかった。だから、それを前提として、7月の上限値(天井)を低めに見積もっておいても、問題なかった。どうせその天井には達しないからだ。
しかし近年では6月の雨量が多い。ダムの水量が満杯になることがある。すると、7月の上限値(天井)にぶつかることがある。ぶつかるせいで、6月下旬にはどんどん水を捨てている。こうして水を捨てたあとで、8月になって「水が足りない」と騒いでいるのだ。
馬鹿丸出しだ。6月に水を捨てなければ、こんな馬鹿騒ぎをしないで済んだのだが。
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さて。以上はすでに上記項目で示したことだ。
しかるに、「ではどうすればいいか?」という点で、疑問が生じる。
「7月上旬の上限値(天井)を引き上げる」
というのが、一応の対策となる。
だが、そうすると、「今度は台風への対策」という問題が生じる。7月上旬に貯水量を多くしたら、8月の水不足には対処できるが、7月上旬に台風が来たときに、余裕がなくなる。それは問題だ。
これに対しては、
「八ツ場ダムがあるから大丈夫」
という声も上がりそうだが、八ツ場ダムの分は、もともと上のグラフに込みになっている。八ツ場ダムができたことで、状況はいくらか改善したが、それで解決というわけではないのだ。(後述)
実は、現状では、八ツ場ダムは治水のためにはまったく役立たない。なぜなら、現時点でさえ、貯水量は満杯(基準値に対して 107%)に達しているからだ。
八ツ場ダムはすでに満杯以上になっている。これ以上の貯水はできない。洪水が押し寄せても、それを受け入れることはできない。寄せてきた水を、単に吐き出すだけだ。治水ダムとしての能力はゼロに等しいのだ。
こういう状況では、「水を捨てないでおく」(上限を高めにする)というふうにすると、台風についての心配が生じる。つまり、「水を捨てないでおく」というふうに新方式を取ることができない。
あちらが立てば、こちらが立たず。困った。どうする?
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「6月下旬には水を捨てないでおく。つまり、7月上旬の上限値を高めにしておく。ただし、台風が来るかもしれない。そこで、台風が来そうになったら、台風が来そうだということを確認してから、水を捨てる」
これは簡単に言えば、次のことを意味する。
「台風の前の事前放流を制度化する」
実を言うと、「台風の前の事前放流」という方針は、すでにできている。この件は、前に述べたとおり。(私が十年ほど前から提唱してきたことが、ようやく実現しつつある。)
→ ダムの事前放流の普及: Open ブログ
とはいえ、この「事前放流」という方針は、貯水量とは結びつけられていない。換言すれば、こうだ。
「せっかく事前放流というシステムが導入されたのに、7月の貯水量の上限値(天井)は、相も変わらず、昔のままである」
こういう難点がある。そこで、この難点を改めればいい。つまり、こうする。
「せっかく事前放流というシステムが導入されたのだから、それにあわせて、7月の貯水量の上限値(天井)を、変動させればいい。昔の値よりも、高めればいい」
その意味は、こうだ。
「上限値(天井)を高くすると、台風が来たときへの余裕がなくなって、不都合だ、と思われた。しかし、台風が来たときには、それを見計らって、あらかじめ事前放流をすることで、新たに余裕を増やすことができる。臨機応変で余裕を増やすことができる。逆に言えば、そうすることができるからこそ、普段は余裕を減らすことができる。つまり、貯水量を高めることができる」
このような発想は、「サイバネティックス」と言われる。前に解説したことがある。
→ サイバネティックスとダム制御: Open ブログ
ダムの放水量の制御については、サイバネティックスの発想を取る必要がある。事前放流もまた、そうだ。なのに、貯水量の制御については、サイバネティックスの発想が取られていない。
せっかく貯水量の制御について、事前放流については新たな方式を導入できたのに、上限値については、新たな方式を導入できていない。従来方式のままで運用している。これでは片手落ちというものだ。
どうせ「事前放流」という方式を導入したのであれば、(貯水量の)上限値についても、「事前放流」に対応した新方式を導入するべきだった。それができないところが、物足りないというか、画竜点睛を欠くというか、間抜けというか。……要するに、「抜けている」のである。抜け作だね。
[ 付記 ]
「現状では、八ツ場ダムは治水のためにはまったく役立たない」
と述べたが、これは不正確な表現だった。詳しく調べると、次の事実がわかった。
「八ツ場ダムの最大貯水量は、現状では 2500 だが、これは夏季の上限値(天井)である。夏季以外では 9000 になる。差の 6500 は、洪水を収めるための余裕だ」
というわけで、実は八ツ場ダムは治水のためにしっかり役立っている。5300億円をかけただけのことはあって、ちゃんと治水ができるのだ。
ただし、本項の方法を使えば、八ツ場ダムと同等以上の効果を出すことができる。
・ 八ツ場ダムがないと、上限値は 37000 から 35000 に減る。
・ 普段の貯水量を 35000 から 45000 に引き上げることができる。(方針転換で)
・ 洪水時には事前放流をすることで、上限値を 35000 に戻すことができる。
こうすることで、八ツ場ダムの 9000 に近い 8000 の水を有効利用できるようになる。( 45000−37000=8000 )
かくて、八ツ場ダムを建設しなくても、ただの机上の操作一つで、ほぼ同等の効果を出すことができるわけだ。(貯水できる最大値は、八ツ場ダム1個分だけ減ってしまうが、治水のための余裕となる量は、同等の量を確保できる。)
(とはいえ、八ツ場ダムがあれば、本項の方式に上乗せすることができる。併用すれば、いっそう大きな効果が出る。だから、八ツ場ダムの存在意義が全くないわけではない。必要性という意味ではたいして必要性はないのだが、あればあるで越したことはないので、無駄に近いながらも、いくらかは意義があると言える。)
※ 数値の単位は「万m3」である。
《 加筆 》
「近年では6月の雨量が多い」と述べたが、これは不正確だったようだ。正しくは、こうだ。
「近年では八ツ場ダムが稼働したので、その水量が算入されるようになった。その分、水量が増えている。(昨年と今年)。同時に、6月の最大貯水量も 9000 だけ増えている」
こういう事情にある。グラフでは「9ダムの場合」と「8ダムの場合」とで、直線が別になっている。(前者は実線、後者は破線。)
※ この件は、本項の話の内容には、影響しない。
※ 以下は読まなくてもいい。
[ 補足 ]
ついでだが、本サイトの方針はどうだったか? それは、ただの「八ツ場ダムの建設中止」ではなくて、「かわりとなる代案を取れ」だった。その代案とは? 「遊水地を下流に建設せよ」だった。遊水地ならば、治水についてはコスパがとてもいいからだ。
一方、八ツ場ダムは、すごくコスパが悪い。せっかく 9000 の貯水量があっても、治水のための効果は少ない。なぜなら、上流の洪水が下流に届くまでには、数日間のタイムラグがあるからだ。はるかな上流で貯水してもしなくても、下流の洪水にはあまり影響しないのだ。特に、中流や下流で大雨があった場合には、上流の八ツ場ダムはまったく役に立たない。
ただし遊水地は、治水のためにはとても効果的だが、貯水の効果はない。その点では、八ツ場ダムの方が有利に見える。だが、八ツ場ダムの夏季貯水量は 2500 しかない。これでは量が少なすぎる。そもそも、貯水量の点では、本項で述べた方式を用いれば、それで十分な量が確保できるので、もともと八ツ場ダムの必要性はないのだ。
また、最悪の場合でも、「農業用水を止めて、人間用に回す」という方針を取れば、致命的な被害は生じない。(金で賠償するだけで足りる。)だから、特に不安になる必要はないのだ。そして、「農業用水を止めるほどのひどい干魃」は、戦後一度も日本では起こっていない。歴史的にも、そんな心配をする必要はない。
貯水の点でも、八ツ場ダムに 5300億円もの金をかける価値はないと言える。それよりは「干魃保険」にでも加入する方がマシだ。来るはずのない干魃への保険代なら、年間数十億円で足りるだろう。
( ※ 「そんな保険を引き受ける会社あるのか?」という心配をする人もいそうだが、国が自分で自分に保険をかければ、問題ない。これなら保険手数料はゼロで済む。……というか、そもそも、「保険をかける方がマシだ」というだけでであって、実際には保険をかけるべきではない。本項の方針を取れば、貯水量の不足が起こるはずはないからだ。ありえないことのために備えて、保険をかける必要はない。 )
過去10年分のグラフではなく、
今年、昨年、平均値、渇水になった8年のグラフです。
確かに、
>>「台風の前の事前放流を制度化する」
がベストですね。
次善の策として、
夏季制限期間の制限量を一定の数値にするのではなく、
時間を変数にした関数で決めるという方法もあります。
https://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000113.html
Openブログ様の案が、台風予報を見て柔軟に即興的に対応できるので、より優れていますね。
(誤)10年間
(正)8年
八ツ場ダムの効果はあったか、という話。