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北総線の運賃は日本一高い。こんなに馬鹿高いのはどうしてか……という話題で論じたことがある。
→ 北総鉄道の運賃の謎: Open ブログ
→ 北総鉄道をどう解決するか?: Open ブログ
これらの記事では、鉄道料金 単体で分析していた。そのせいで、うまく核心を探り当てたとは言えなかったようだ。
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このたび新たに別の問題を考えた。
「江戸ランドを千葉県に作るとしたら、どのへんがいいかな?」
という問題だ。そこで航空写真を見る。
すると、東松戸のあたり(葛飾区の東側のあたり)に、広大な未開発地があるのがわかる。
ここは、葛飾区のすぐ東だし、東京にはかなり近い。神奈川で言えば、川崎に当たるような地域だ。なのに、そこにはビルが林立するかわりに、ただの畑地ばかりが広がる。
これはいったいどういうことか? いかにも不思議である。
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そこで理由を考えた。
「これはたぶん鉄道のせいではないか? 鉄道が不便なので沿線が発達しないのでは?」
そう思って、そばの鉄道を調べたら、案の定、そばを通る鉄道は北総線である。ここは日本で一番、運賃が高い。これでは沿線が発達するわけがない。
この件については、次の記事が参考になる。
千葉ニュータウン(NT)の通勤の足として1979年に小室―北初富駅間で開業して以来、「日本一運賃が高い」とも言われ、沿線住民に批判されてきた。
北総線は、千葉NTの通勤電車として開業したが、NT開発の遅れや計画の縮小、京成高砂駅まで延伸して都心直結(91年)するまで時間がかかったことなどから、利用客が伸びなかった。線路建設の債務もあって、累積赤字が2000年3月期には447億円に膨らんだ。
高額運賃は、赤字解消を最優先としたためだ。
( → 「日本一運賃が高い」と言われた北総線、初めての値下げ…初乗り190円に : 読売新聞 )
赤字が高額なので、赤字解消のために、馬鹿高い運賃を設定した。すると、運賃が高すぎるので、沿線の開発が遅れて、ますます乗客増が見込めなくなった。ケチればケチるほど、貧しくなった。「貧すれば鈍す」の見本だ。
その逆が東急線だ。こちらは逆に、運賃を低くして、かわりに沿線で土地開発をした。「沿線を開発すれば、人口が増えるので、乗客が増える。乗客が増えれば、沿線の土地価格が上がるので、土地開発でも利益が上がる」
こうして「鉄道会社によるデベロッパー」という方式で、東急は沿線開発と鉄道の黒字化を同時に達成した。
こういう頭のいい方法が取られたが、その起点となったのは、NHK でも有名になった渋沢栄一だ。
日本資本主義の父・渋沢栄一が中心となって1918年に発足した「田園都市株式会社」が、この新しい街づくりを手掛けたのだ。なんと斬新なことか、今でも驚かされる大事業だったと言える。
今から約100年前、日本は、明治維新後の近代化で、欧米列強に近づこうと大きく飛躍していた。だが、その急速な近代化によるひずみもまた、大きくなっていた。すでに江戸時代から世界有数の大都市だった首都・東京では、人口過密による住宅の供給不足などが深刻化していた。その社会問題に、高い理想を掲げて取り組んだのが、田園都市株式会社だった。
( → 100年前から環境先進 東急不動産ホールディングスグループの挑戦の歴史 )
この起点のあとで、東急が沿線開発をどんどんなし遂げていった。関西では阪急が宝塚大劇場を作ったのが有名だ。西武は所沢球場を作った。阪神は甲子園球場を作った。こうしてそれぞれの鉄道会社は沿線を発展させていった。
では、北総鉄道は? 運賃を値上げした。
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というわけで、次の二点が説明される。
・ 北総鉄道の運賃は日本一高い。
・ 北総鉄道の沿線は、未開発だ。
この二つは、関係がある。因果関係だ。前者が原因となって、後者の結果となった。
ではなぜ、前者の方針が取られたか? 「沿線開発で金儲け」という発想を取れなかったからだ。目先の金のことしか考えられなかったからだ。「金を出して何かを育てる」というような発想を取ることはできず、単に目先の金勘定のことしかできなかったからだ。
ほかの鉄道会社がせっせと沿線を発達させようと努力していたときに、北総鉄道だけは(沿線開発はそっちのけで)運賃値上げに励んだ。……これこそが、北総鉄道の運賃が高いことの理由だ。

結局、高い運賃の真相は、鉄道事業そのものに何らかの理由があったのではなく、鉄道会社の経営者の頭に理由があったのだ。貧すれば鈍す。そういうことだ。
[ 蛇足 ]
ここで話を終えれば、切れのいい結末で、うまく話は終わる。だが、ついでに、余計な蛇足を加えておこう。
肝心の話はすでに終えている。上の話をすべて読めば、話の趣旨はわかるだろう。
だが、一部の人は話を誤読して、こう思う。
「また Openブログが千葉県の悪口を言っている。いつもいつも悪口を言う人だな」
と。
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ちょいちょい。話を間違えては困る。たしかに話の表面では、北総鉄道の悪口を書いている。それで話を終えているから、悪口しか言っていない、というふうにも思える。
だが、語っていることは悪口ではあるが、同時に、正解が何であるかも示しているのだ。暗示的に。
「北総鉄道はこれこれのことをするべきだ。そうすれば状況を改善できる」
ということは、本文中では示していない。しかし、それが何であるかは、誰でもすぐにわかるはずだ。考える頭をもっているのであれば。
本項では渋沢栄一の名を出したり、「沿線開発」という言葉も出している。とすれば、北総鉄道が何をすればいいかもわかるはずだし、そうすればどうなるかもわかるはずだ。……ただ、そのことは、あまりにも簡単なことなので、本文中ではいちいち書かなかった。(誰でもすぐにわかるからだ。)
しかし、話の表面を見る限りは、悪口しか書いていない。そこで「また千葉の悪口を書いている」というふうに曲解する人がいるのだ。
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そう言えば、似た例もあった。下記のような批判だ。
・ 日産 の悪口ばかり書いている
・ トヨタ の悪口ばかり書いている
・ 三菱重工 の悪口ばかり書いている
そりゃまあ、悪口を書いているのは事実だが、別に、けなすために書いているわけじゃない。「正しくはこうなのだから、こうするべし」というふうに正解を教えているのだ。親切極まりない、と言える。
人がこんなに親切にして上げているのに、文句を言われるのだから、損な性格だな。(日ごろの行いが悪いせい。)
なるほど。それは名案ですね。
わざわざ北総線沿線を取り上げてディスった人のおかげですね。それがなければ名案も出なかった。
物事の本質となる欠点を見出すことで、その欠点を解消することができる。これは医者が病気を治療するのと同じです。
「わざわざ病気を探り当てて病人をディスるのはけしからん。病気については無視しろ。病気でなく健康だと褒めろ」
なんて言っていたら、医者は治療ができません。
医者が患者の欠点(病気の原因)を見つけようとするのは、患者が嫌いだからじゃなくて、患者のために奉仕しようと思っているからです。お間違えなく。