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この問題は、あちこちで記事に取り上げられている。たとえば、下記だ。
→ 日本の自動車の電動(EV)化、なぜ進まない - Madenokoujiのブログ
いろいろと情報をまとめているようだが、核心や真相をつかめていないようだ。そこで、私が正解を示そう。次の三点だ。
・ ハイブリッドで勝利したこと(成功体験)
・ 燃料電池車に賭けたこと(賭けの大失敗)
・ EV 開発費をケチったこと(投資不足)
以下では順に示そう。
ハイブリッドで勝利したこと(成功体験)
日本の自動車会社は、ハイブリッドで勝利した。トヨタ・日産・ホンダのいずれも、独自のハイブリッド技術を投入して、欧州や米国で成功した。欧州車や米国車に、エンジン技術や燃費技術で圧勝した。このことは、成功体験なって、身にしみついた。「自分たちは勝利している」と楽観した。「このまま成功した道を進めばいい」と思い込んだ。……成功体験のせいで、自惚れていた。
欧米の自動車会社(というか政府)は、逆だった。「ハイブリッドでは日本の会社に完敗した。このままガソリン車を維持していると、日本の会社に対して圧倒的に不利だ。ならば、一挙に、ガソリン車から EV に大転換すればいい。そうすれば、これまでの不利な状況を脱して、日本車に勝てる。そのためには、ガラガラポンで、ガソリン車を基本とする現状をすべて解消してしまえばいい。ガソリン車には高額の税金をかけて、EV には減税すればいい。こうすれば、ハイブリッドで日本車に負けたという状況を、一挙に転換できる」
こういう発想で、欧米は一挙に「ガソリン車から EV へ」という産業構造の転換を進めた。しかるに日本の自動車会社はその流れを読めなかった。「現状では EV もけっこう炭酸ガス排出量が多いぞ」(火力発電の炭酸ガスの排出が多いぞ)などと述べて、科学的に論破したつもりになっていた。頭が悪い。「はい論破」と言って勝ったつもりになるのは、橋下徹だけにしておけ。
欧米が EV に注力する目的は、炭酸ガスの排出量減少ではない。それはただの口実だ。本心は、「日本のハイブリッド車をたたきつぶすこと」だ。自国の自動車産業を守りたいから、「ハイブリッド車をつぶして、EV 車を守る」というふうに方針転換しようとするのだ。そこを見抜けないで、いつまでもハイブリッド車にこだわって、「はい論破」なんて言っているから、トヨタは流れに取り残されてしまったのだ。
かつてソニーはベータマックスにこだわって、VHS という共同陣営に敗れ去った。技術の優劣が勝敗を決めるのではない。陣営の構築が勝敗を決めるのだ。欧米が EV 連合を構築しているときに、その流れに逆らって独自方式を守ろうとすれば、その方針自体が、流れに取り残されることになる。流れに乗り遅れたベータマックスがやがては滅びたように、ハイブリッドにこだわるトヨタは滅びても不思議はないのだ。(まあ、滅びる前に、かろうじて方針転換をしたようだが。あまりにも遅かったね。)
※ ホンダも同様である。日産は、事情が異なるので、後述する。
燃料電池車に賭けたこと(賭けの大失敗)
トヨタとホンダは、ハイブリッドのあとに来る次世代技術として、燃料電池車に賭けた。電気自動車でなく、燃料電池車に賭けたのだ。これが大ハズレだった。賭けの大失敗と言える。
当時(1990年代の末ごろ)、賭けの対象は、電気自動車と燃料電池車の双方があった。どちらかと言えば、後者の方が有望だと思えた。だから、朝日新聞が「燃料電池車を推進せよ」と大キャンペーンを張って、通産省(当時)が「燃料電池車の推進」という旗を振って、トヨタとホンダもその旗に従った。かくて日本では「燃料電池車の推進」という方針が取られた。
これに従わなかったのは、テスラと日産自動車だ。この両者は、電気自動車に賭けた。
その後、2002年ごろになると、「燃料電池車がすぐに実用化される」という見通しは、とうてい無理、とわかるようになった。そこで 2002年以後、私は「燃料電池車はもはや駄目だ」という主張をして、何度も論陣を張ってきた。
→ 燃料電池車の過去記事: Open ブログ
2006年ごろからは、本ブログを開設したのにともなって、本ブログで燃料電池車に言及するようになった。そこでも「燃料電池車はもはや死んだ」(おまえはもう死んでいる)という主張を繰り返した。
→ サイト内検索
しかし、これらの声は、時代よりも早すぎたようだ。2020年ごろになっても、いまだにトヨタは EV よりも燃料電池車にこだわって、「水素社会」などと唱えていた。
そして、2023年になってようやく、EV 重視に変更したが、そのためには、従来路線を固持していた前社長が辞任する必要があった。
逆に言えば、前社長がいつまでも辞任しないで独裁政治を執っていたことが、トヨタが時代に取り残された理由だったとも言える。
※ だから私は何度も「トヨタは社長が辞任しろ。さもなくが会社が滅びる」と言っていたんだけどね。
EV 開発費をケチったこと(投資不足)
トヨタとホンダは、経営者が根本的に方針を間違えた。( EV でなく燃料電池車に賭けたことだ。その開発費は途方もない巨額だったが、すべては無駄になった。)
一方、日産自動車は燃料電池車でなく、EV に社運を賭けた。そして、その方針はまさしく正しかった。世界ではテスラに続いて日産だけが EV 開発をリードしていた。EV の量産会社はテスラと日産だけだ、という状況が長く続いた。
ではなぜ、最後の最後になって、日産は落後してしまったのか? ここ数年間に、テスラは途方もない急成長をなし遂げたのに、日産は一挙に没落した。長年の EV のリードをすべて失い、ひたすら低迷していただけだった。その間に、中国の EV 会社が日産を大きく飛び越えていった。この数年の間に日産が出遅れた技術的停滞は、あまりにも大きい。もはや取り返しの付かないほどの大差ができてしまっている。
では、どうしてこうなったのか?
その理由は一つしか考えられない。EV 開発費をケチったこと(投資不足)だ。
そもそも日産のリーフは、コストダウンを最優先した、安普請の車だ。電池の温度調節機構もないという点で、世界の EV でも最も低品質で、低級品だ。「高級品を高価格で売る」という戦略を取ったテスラは、高級品の販売でボロ儲けしたが、「コストカットで原価を下げる」というゴーン戦略を取った日産は、下げたコスト以上に販売価格が下がって低収益だ。かくてテスラはボロ儲けで多大な開発資金を入手したが、日産は低収益でまともに開発費を出せない。それでもかろうじて、少しずつ生産してきたが、最後の数年間になって、積年の低収益体質とコロナのダブルパンチで、大赤字を出すに至った。

日産は長年、リーフのモデルチェンジもままならないまま、古いリーフ(2010年版)をずっと売るだけにした。その後、2017年に、ビッグマイナーチェンジをして、フルチェンジと称したが、しかしその内実は、2010年のリーフの改良版であるにすぎなかった。かくて、2023年になっても、基本は 2010年のリーフの改良版にすぎないので、最新型の中国製 EV にはとうてい太刀打ちできないでいる。
貧すれば鈍す。それを如実に体現したのが日産だった。(それというのも、ゴーンがケチすぎたからだが。コストを削ることしか能がなかった。)
※ 「アリアがあるだろ」という声もありそうだが、アリアはいまだにまともに生産できていない。まともに生産できているのは、リーフとサクラだけだ。……それでもまあ、ホンダやトヨタに比べれば、圧倒的に上だが。(世界の中の落ちこぼれ同士で、ブービー争い。)
[ 付記 ]
今後の見通しはどうか?
トヨタについては、前項で述べたとおり。ギガプレスを採用することで、正しい方向に向かっているようだ。
ホンダについては、GM と協業することで、GM の技術をもらうことにして、何とかなるようだ。昔は GM に教えて上げる立場だったが、今ではすっかり技術的に遅れてしまって、GM の教えを請うばかり。EV でも、自動運転でも。また、車載の電子システムでは、ソニーにおんぶで抱っこらしい。まともに開発する能力もないようだ。それでもまあ、日産よりは企業規模はずっと上だ。(二輪車のおかげだが。)
日産はどうするつもりか? 将来の方針がまったく定まらないようだ。二年ほど前に「英国で EV 生産の予定」とアナウンスしたが、そのあとは何も言わない。方針がまったく定まらないようだ。だが、それもやむをえない。
(1) すでにアリアの最新工場を建設して、稼働中。だが、うまく生産できないままだ。予定台数よりもはるかに少ない。計画通りに行かない。
(2) アリアの最新工場と同じものを英国に作る予定だったらしいが、アリアの最新工場がまるで駄目なので、予定が立たない。
(3) 今後の工場でギガプレスを採用するかどうかが決まらない。トヨタが採用を決めたので、日産も採用するしかないだろうが、今から決めても、2026年には間に合いそうにない。工場設計にも時間がかかるし、一新されたプラットフォームの開発にも時間がかかる。そもそもギガプレスの機械を購入できるかどうかもわからない。
(4) 結局、どうにも決められないまま、時間ばかりが無駄に流れていく。どんどん出遅れるばかり。
で、どうなるか? 私の予想では、日産がギガプレスの新工場を稼働させるのは、早くて 2027年。実際には 2028年。それまでは大きく出遅れっぱなしとなる。で、それまでの4年間は、どうするんだろう? 次の新型 EV を販売する予定も立っていない。チルアウトという変な名前の EV を開発したようだが、開発したのはいいが、生産する見通しがまったく立っていない。やるとしたら、従来方式でやるしかないけどね。アリアに似た感じで。……でも、それも結構難しそうだ。
チルアウトは名前からして、「散る」しかないし、結果は「アウト」になりそうだ。はい、お慰み。
今のうちに、お墓でも用意しておくか。
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チルアウトの墓
【 関連項目 】
→ 今年の最大事件(2018年): Open ブログ
※ ゴーン逮捕の話。