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(五輪選手村の跡地にできるマンションの)晴海フラッグは価格が安い、という評判だ。どうして安く売るのか、不思議に思う人が多いだろう。そこで朝日新聞が取材して、インタビューした。
「晴海フラッグ」(東京都中央区)は、高倍率の抽選になるほどの人気です。都市部を中心にマンション価格が高騰するなかで、3LDKで6千万円台の物件があるなど割安とされています。その理由を藤岡千春常務に聞きました。
――周辺の相場よりも格安と言われています。その価格で売り出している理由を教えてください。
「駅からの距離も考慮して適正な価格で出したつもりですが、結果的にはちょっと安かったと思います」
「駅から遠い立地で、4145戸を売るというのは過去にもないプロジェクトでした。市場が良くなっているときに売り出したので高倍率になりましたが、『安い』と思ってあの値段にしたわけではないんです」
( → (Leader's View インタビュー)三井不動産・藤岡千春常務:朝日新聞 )
安くしたつもりではなかったが、計画を決めたあとで、周辺相場が急上昇したので、結果的には安くなった……ということであるらしい。つまりは「見込み違い」ということになる。
しかしこれでは道理が通らない。2022年以前の分についてはそれでもいいが、2023年7月の分(今回)は事情が違うからだ。
→ 各回の販売個数
これまでは人気の程度が不明だったから価格は低めでも良かったが、今回は事情が違う。周辺価格は急上昇していたし、前回分での人気急騰もわかっていた。価格は大幅に上げてもよかった。「見通しの失敗」とも言える。
とはいえ、「だから価格を上げればよかった」ということにはならない。価格を上げれば会社は儲かるが、買い手(客)は損するからだ。どっちがいいかは、判定しづらい。
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一方、別の点で「大失敗だった」と言えることがある。それは、駐車場があまりにも少ないことだ。
駅徒歩20分にもかかわらず、駐車場容量の少なさにも不満の声が挙がる。駐車場台数は1900台程度であり、分譲住戸数4145戸に対する駐車場台数の比率(駐車場設置率)は約45%。これを上回る利用者がいた場合は抽選になり、仮に漏れれば駐車場を使えない。
( → 選手村マンション「晴海フラッグ」に渦巻く賛否 モデルルーム潜入!本当の価格とリスクは? | 不動産 | 東洋経済オンライン )
駐車場設置率は約45%だ。これは、駅近のマンションとしては十分な値だが、駅から遠いマンションとしては不十分だ。しかも、今回はさらに、「東京駅や銀座に近い」という特殊事情がある。これは次のことを意味する。
「都心に自動車で通勤する場合には、あっという間に到達できるので、天国のように便利な場所だ。一方、自動車なしで、バスと鉄道を利用する場合には、ものすごく不便であり、地獄のような場所だ」
つまり、自動車を利用するかどうかで、「天国と地獄」と言えるほどの差が付く。とすれば、「自動車を利用できる権利」は絶対に必要だ。
だから、ネット上では、次のような意見があふれている。
「 Q マンション購入後に、駐車場の権利の抽選があるそうですが、当選しなかったら、どうすればいいでしょう?
A 駐車場の権利にハズレたら、即、転売するしかないですね」
要するに、晴海フラッグは、都心に職場がある人にとっては、天国のように便利な場所だが、「自動車を利用すれば」という条件が付く。したがって、「駐車場の抽選に当たったら」という条件を満たせば大丈夫だが、その条件を満たさなければ、即、転売するしかないようだ。(売れるかどうか、知らんけど。)
以上のことから、次のように結論できる。
(1) 晴海フラッグは、駐車場の量が決定的に足りない。もっと大幅に駐車場を増やすべきだった。(今からでは手遅れに見えるが、そうでもない。たとえば、隣に小中学校があるので、その校庭の地下を使って、駐車場を設置するべし。)
(2) 販売計画では、「駐車場付きの1戸」と「駐車場なしの1戸」とに分けて販売するべきだった。前者の価格は、駐車場の利用権(50年)を込みにして、高額販売するべきだった。後者は、大幅に安く販売するべきだった。
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なお、(2) のようにした場合、後者は通勤の利用が少ない人(フリーランサーなど)が購入するようになるので、販売の分布(購入者の分布)が最適化されることになる。価格調整によって、社会的な配分が最適化されることになる。社会的にも効率が最適化される。……これこそが、「社会的に無駄をなくす」という、効率改善の効果を持つのだ。
※ 現状では、「どうしても駐車場が欲しい」という人が「駐車場なし」を購入せざるを得ないこともあり、「駐車場なんかほしくない」という人が、とりあえずは駐車場を使う権利を抽選で購入することもある。最適配分ができないので、非効率ですね。
※ ただし、これを解決する方法もある。駐車場の権利を売買するブラック・マーケットを開くことだ。当選の権利が 5000万円ぐらいで売買される可能性もある。それはつまり、マンション販売会社の販売方法が不適正である、ということを意味するが。
[ 付記 ]
晴海フラッグから東京駅や銀座駅までは、徒歩とバス利用で 30分程度。他の駅に行くには、そこからさらに電車利用の時間がかかる。渋谷や新宿までは、計 50〜55分ぐらいだ。
東横線の新綱島から東京駅までは、電車利用で 40分程度。新幹線ならば 30分。他の駅に行くには、同様の時間で済む。新宿駅には 40分、渋谷駅には 25分。
ゆえに、電車利用で新宿・渋谷に向かうなら、晴海フラッグよりも新綱島駅の方が圧倒的に便利だ。
※ 新綱島のマンションは、駅にくっついている駅ナカみたいなマンションだから、徒歩1分みたいなものだ。東京駅から徒歩1時間もかかる晴海フラッグとは全然違う。晴海フラッグが便利なのは、あくまで自動車利用で都心に通勤することが前提なのだ。自動車を使えなければ、ゴミに近い。(昼間ならばバスを使ってもいいが、通勤時間帯にはバスに乗るのも大変だ。すし詰めで、地獄になるね。)