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知床遊覧船の報告書の会合が開かれた。
北海道・知床半島沖で昨年4月に観光船「KAZUT(カズワン)」が沈没した事故の原因を調べている国の運輸安全委員会は26日、最終報告書に向けた「意見聴取会」を開いた。
( → 悪天候のなか出航、観光船沈没は「人災」 国の意見聴取で指摘相次ぐ:朝日新聞 )
ここでは「人災に近い」という指摘が出そうだ。
「失敗学」の観点で意見を述べた東京大大学院工学系研究科の中尾政之教授は、経験の浅い船長らが周囲から「午後から波が荒れる」と警告されながら出航したことなどを踏まえ、「(事故は)人災に近い」と述べた。
では、これが「人災」と言えるのは、どうしてか? そのわけを考えよう。
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この件については、前に原因分析をしたことがある。「コンサルによる利益至上主義が原因だ」と。
「船舶に無知な素人経営者が、金儲けのために船舶を購入して事業を始めたあと、経営コンサルタントの意見を聞いて、徹底的に人件費や経費を削っていった。そのせいで、なすべき安全対策がおろそかになり、安全無視となった。そのあげく、嵐の中に突っ込んで、すべてを失った」
結局、すべては経営者と経営コンサルタントの「利益最優先」という方針が、「安全性の軽視」という形を取った。
( → 知床遊覧船事故と規制緩和: Open ブログ )
知床の遊覧船事故は、起こるべくして起こった事故である。まわりのベテラン船長が「危険だから船を絶対に出すな」と警告していたのに、利益至上主義により、あえて警告を無視して出航するように、経営者が仕向けた。また、それまでの安全重視のベテラン船長を解雇して、あえて安全意識のない初心者船長を採用した。そして、そのすべては、「人件費を下げて利益を上げる」という、利益至上主義のコンサルの指導によるものだった。
( → 静岡のバス事故の対策: Open ブログ )
そもそも、海は危険だ。海を航行するには、海を熟知した専門家による運行が必要だ。それが海の常識というものだ。
ところが海の常識を知らない素人が、金目当てで船舶事業に乗り出した。無知なコンサルが推奨して、無知な社長が船舶会社を購入した。そのあとは、コンサルが「徹底的なコスト削減」という方針で、高給の優秀な船長を解雇して、無能な初心者を薄給で船長にした。
「安全対策のコストを徹底的にカットすれば、コストカットによる利益が出る」
というコンサルの方針の下で、安全対策を徹底的に排除した。また、目先の金(乗船料)を欲しがって、嵐の中でも無理に出航した。かくて、起こるべくして、事故が起こった。
ここでは、金だけが目的という利益至上主義のせいで、安全対策の重要性というものが無視された。
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さて。これに似ている別の事件が思い浮かぶ。それはビッグモーターだ。二つの事件はよく似ている。
ビッグモーターでは、コンサルに当たるものは、会社社長だ。この人もまた、事業には無知で、自社がどんな事業をしているのかもよくわからなかったようだ。それでいて、ノルマをかけることだけは強力だった。非現実的なほどの高額なノルマを強要して、それの実現を否応なしに社員に強いた。実現できない社員は次々と降格になり、大幅減給となった。こうなると、社員としても、無理をしてノルマの達成をしようとした。その結果、犯罪に手を染めるようになった。
そのすべては、過剰なノルマを強要するという、利益至上主義によるものだった。この点では、知床遊覧船事故と共通する。
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二つの事件を見て、その共通性を見るといい。すると、この二つの事件が同根のものであるとわかる。
知床の問題でも、ビッグモーターの問題でも、素人経営と利益至上主義が原因となっている。だから、対策をするのなら、そこを是正するべきだ。
一方、これらの事件を「悪意による不正」と見なして、「悪意を処罰しよう」としても、ろくに意味がない。なぜなら、これらの事件は、利口な悪人が悪意でやって起こったのではないからだ。かわりに、無知な素人が自分が何をしているかも理解できないままやって起こったのだ。こういう場合には、悪意への罰則をいくら高めても、ろくに意味がない。つまり、不正に重罰化の対処をしても意味がない。
では、どうするべきか? 重罰とは別の対策が必要だ。つまり、無知な素人に対して、馬鹿なことをしないように教える対策が必要だ。それは、すべての面で「手取り足取り」というわけではないのだが、最低限の範囲では正しいふるまいを守らせることが必要だ。「ルールの遵守」という形で。
一般にはそれは「規制」と呼ばれる。つまり、正しい規制こそが、問題の解決策だ。
ところが現実には、政府はその方針に逆行して、「規制緩和」という方針を取るばかりだ。ここに根本的な問題がある。
「規制緩和」が競争原理でうまく機能するのは、参加者が有能で善意を持つ場合だ。一方、参加者が素人で無能ばかりだと、状況は暴走状態になる。……その結果が、知床遊覧船の事故や、ビッグモーターの不正修理だ。
比喩的に言えば、不良学生の集団が喧嘩と犯罪ばかりをしているときに、「自由にすれば最適化する」というふうに主張するようなものだ。優良学生に当てはまる原理を、不良学生に適用するようなものだ。馬鹿げている。
だからこそ、不良な参加者への対策としては、まともな規制が必要なのだ。
このような「規制の必要性」については、軽井沢のスキーバス事故の件で懲りたはずだ。(やたらとバス事業で規制を緩和したせいで、安全性無視となって、スキーバス事故が起こった。)
なのに、この件で懲りても、対策はバス業界だけに限られて、他の分野には波及しない。他の分野では、規制の手抜きが横行している。だからこそ、知床遊覧船やビッグモーターといういう不祥事が続出するのだ。
二つの事件は同根のものだ、と理解することが必要だ。
※ 同趣旨のことは、前にも述べたことがある。1番目の引用部の記事の、すぐ続きの部分に、次の記述がある。
だが、これはこの経営者と経営コンサルタントの個別的な特異な事情だ、と見なすわけには行かない。もっと日本全体に はびこっている体質だ、と言えそうだ。その概念は、一言で言える。「規制緩和」だ。
かつて小泉政権で竹中平蔵が「規制緩和」を突き進めようとした。そのあと、あちこちで規制緩和が進んだ。そのせいで、必要な安全対策の規制が、次々と骨抜きにされていった。だから、必然的に、事故が次々と起こるようになったのだ。
その典型が、かつてのスキーバス事故だ。バスの運営がどんどん規制緩和されたあげく、賃下げと長時間労働が推進されて、安全対策はないがしろになった。そのあげく、スキーバス事故が起こった。
知床遊覧船事故も同様で、やはり安全規制の不足で、事故が起こった。
いずれも、事故後に、安全規制が大幅に強化されるようになった。換言すれば、それまでの制度は規制緩和で安全対策がまったく骨抜きになっていた、ということだ。
( → 知床遊覧船事故と規制緩和: Open ブログ )
[ 付記 ]
安全性無視の規制緩和という方針は、新たに別の事例で取られそうだ。その件は、次項を参照。
→ 万博の工事で安全性無視: Open ブログ
えーっ。ホント? 事実は小説よりも奇なり、みたいだ。偶然の一致というだけでは済まないみたいだ。