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最近では豪雨や水害が続いていて、治水のことがときどき話題になる。そこで、八ツ場ダムのことを思い出したので、久々に調べ直してみた。
ググると、八ツ場ダムの効果を謳う、群馬県のサイトが見つかる。
八ッ場ダムは大雨などによって川の水が増大したときに大量の水をダムに貯水し、放流量を調節して下流へ少しずつ水を流すことにより洪水の発生を防ぐ洪水調節機能があります。この洪水調節により、吾妻川流域はもちろん群馬県内の利根川流域のほか、利根川下流部の埼玉県・東京都・千葉県・茨城県・栃木県など広域にわたり洪水被害が軽減されます。
( → 八ッ場ダムの必要性 - 群馬県ホームページ(河川課) )
立派な効果がある、という説明である。
一方、私は前に、2019年の豪雨のときに、こう論じたことがある。
「今回、空っぽだった八ツ場ダムが、大量の水を貯め込んだので、ダムは有益だった、という意見があるが、妥当ではない。空っぽだったというのは初回限りのことで、今後は成立しない。また、貯め込んだ水量もたいしたことはない」
これは 2019年10月13日 の記事だった。
→ 八ツ場ダムと台風(2019): Open ブログ
一方、その後に詳しい解説記事が出た。(★)
→ 論座「八ツ場ダムは本当に利根川の氾濫を防いだのか?」(嶋津暉之)
ここではかなり専門的な分析がなされているが、私の見解と同様である。
・ 今回の効果は初回限りのものだ。
・ 貯め込んだ水量も限定的だ。
ということであって、私の見解と同様である。つまり、私の先の見解が、この後出し記事によって裏付けられた、とも言える。
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「貯め込んだ水量もたいしたことはない」
という点については、ずっと前の本サイト記事で解説したことがある。
→ 八ツ場ダムの是非: Open ブログ(2012年01月13日)
一部抜粋しよう。
八ツ場ダムのある位置は、本州のほぼ中央である。川の上流と言ってもいい。川の長さが 10割あるとして、そのうちの最初の1割ぐらいだけだ。面積で言えば、10%の二乗で、1%ぐらいか。そして、それ以外の 99%の領域は、八ツ場ダムの対象外である。
わかりやすく言おう。今、台風が来て、関東全域に大雨を降らせた。そのうち、上流にあたる1%の流域については、雨水が八ツ場ダムに集まる。一方、残りの99%については、もっと下流にあたるので、雨水は八ツ場ダムよりも下流を流れる。これらの雨水が八ツ場ダムに貯まることはない。(水は高きから低きに流れるからだ。低い平野部に降った雨が八ツ場ダムに貯まることはない。)
結局、関東の治水のためには、八ツ場ダムは何の効果もない。そもそも、治水のために必要なのは、洪水の起こりやすい平野部での対策だ。流れが急で水が貯まることのない上流部(山岳部)では、治水のためにダムを造ることの意味はない。
治水をするならば、平野部で、洪水防止の遊水池を作ったり、わざと農地に氾濫させる仕組みなどを作ったりすればいい。これならば、平野部における市街地の被害を確実に減らせる。一方、山岳部にダムを造っても、治水のためには何の意味もない。
いや、効果がゼロだというのは言いすぎだ。1%ぐらいは効果がある、と言える。しかし、たった1%のために莫大な費用をかけるくらいなら、平野部で治水のために金をかければいい。江戸の敵を長崎で取るような、見当違いのことをしても、金が無駄になるだけだ。
こんな馬鹿げたことをやると、「金をドブに捨てる」という慣用句が、「金をダムに捨てる」というふうになってしまう。
これと表現は違うが、おおむね同趣旨のことが、(★)の記事にも記されている。
八ツ場ダムの洪水調節効果は下流に行くほど小さくなる。
国交省の計算では下流部の取手地点(茨城県)での八ツ場ダムの洪水最大流量の削減率は1%程度であり、最下流の銚子ではもっと小さくなる。
東京都は利根川中流から分岐した江戸川の下流にあるので、八ツ場ダムの治水効果はほとんど受けない場所に位置している。
ダムの洪水調節効果はダムから下流へ流れるにつれて次第に小さくなる。他の支川から洪水が流入し、河道で洪水が貯留されることにより、ダムによる洪水ピーク削減効果は次第に減衰していく。
このようにダムの洪水調節効果は下流に行くほど減衰していくものであるから、ダムでは中下流域の住民の安全を守ることができないのである。
では、かわりにどうすればいいか? 記事はこう書く。
八ツ場ダムは治水効果が小さく、利根川の治水対策として意味を持たなかった。利根川の治水対策として必要なことは河床掘削を随時行って河道の維持に努めること、堤防高不足箇所の堤防整備を着実に実施することである。
河床掘削と堤防整備が大事だ、と記している。
一方、私は「遊水地を整備するべきだ」と主張した。
この両者は、対立するものではなく、どちらも兄弟のような関係にある。並ぶ順序が違うだけで、どっちも大切だ、という点では、論者に共通した発想だ。
このことは、(上流のダム建設に対比して、)下流の「流域治水」という用語で規定される。近年はこの発想が主流になった。この件は、前に別項でも紹介した。
→ ダムに頼らない治水: Open ブログ
今は「流域治水」という発想が主流になっているので、八ツ場ダムのような「巨大ダム」という発想は時代遅れになりつつあるのだ。八ツ場ダムは、(古い発想で建設された)最後の巨大遺物という形だろうか。
[ 付記 ]
「八ツ場ダムはもともと不要だった。なぜならそこには、もともと自然のダムがあったからだ」
という説がある。5320億円もかけて人工のダムを作らなくても、無料で天然のダムができていたのだ。それは「狭い渓谷」という形であった。「狭い渓谷」は、もともと多くの水量が流れることはできないので、自然に水量が絞られる。だから、八ツ場ダムがあってもなくても、もともと川の上流には多大な水量が流れるはずがなかったのだ。八ツ場ダムがあってもなくても、洪水予防の効果はほぼ同じだったのである。
一部抜粋しよう。
下記の写真は八ッ場ダムの下流の鹿飛橋の写真ですが、切り立った崖に囲まれた川幅は非常に狭く、このような切り立った崖も自然の堤防の役割を果たすため、2,500m3/sの水が流れるのか疑問です。
出典:画像
( → 台風19号で八ッ場ダムは利根川の洪水をすくったのか? | 小平から世界へ )
こんな狭い渓谷では、ろくに水が流れないから、この狭い通路それ自体が、ダムと同様の効果をもっていた、というわけだ。
[ 余談 ]
水害に遭った土地が、水害対策で土地を1〜2メートルもかさ上げしたそうだが、またも水害で床上浸水したそうだ。せっかくのかさ上げも、ろくに効果が出ない。単に税金の無駄遣いになっただけだ。
福岡県朝倉市では、6年がかりで宅地のかさ上げなどの復旧・復興工事が進んだが、そこに今年再建した家々も被災。住民も市もショックを隠せないでいる。
市が住宅用地を1〜2メートルかさ上げしたが、10日の大雨で再び川が氾濫した。かさ上げした宅地や道路を厚さ数十センチ前後の土砂が埋め、人が抱えられないほどの大きさの石も無数に散らばった。
真新しい家は床下浸水し、車も土砂に埋もれた。「家があるだけ6年前よりいい。もうこれで最後になればいい。けど……」
隣の伊藤茂文さん(60)の家も床下浸水した。住んでまだ3カ月。「まさかもう、あげなことはねえと思いよった」
( → 「建てちょったら死んどる」 豪雨後かさ上げした宅地にまた土砂:朝日新聞 )
どうしてこうなったか? もともと山奥の狭い谷間なのだから、水害になれば、水かさが増すのは当然だ。
凶暴な自然に対して、たかが人間が1〜2メートルのかさ上げで対抗しよう、というのが、驕った発想だと言えるだろう。もっと自然に謙虚になるべきだ。そうすれば、こんな山間の土地に無理に過ごそう、という発想をしなくなるはずだ。
まして、個人住宅のために莫大な公費を投入するというのが、公金の使い方として根本的に狂っていると言えるだろう。そんなことをするくらいなら、オレオレ詐欺の被害者に補償する方が、よほどマシだ。(こっちは、政府が犯人を逮捕しないでいる、という瑕疵がある。)
【 追記 】
「八ツ場ダムは関東平野の外側の山間部にある。だから、多数の降水量があって、たくさんの水を貯める。平野部にある場合よりもずっと効果が高いんだ」(¶)
という見解もある。
なるほど、それは正しい。実際、過去記事でこう述べた。
「湿り気の多い南風が大量に吹き寄せたので、それが関東平野の北部で山脈にぶつかったときに、大量の積乱雲を発生させて、そこで大量の雨を降らせた」
こういう事情であれば、「平地では晴れなのに、山地では大雨」ということが説明できる。
( → 7月の気温と水不足?(2023年): Open ブログ )
このことは、通常の時期にはうまく当てはまる。このことゆえに、「(平野部では)ろくに雨が降らないのに(ダムでは)貯水量は多い」ということが説明される。
しかし台風の時期には話が別だ。台風の時期には、山間部だけに雨が降るのではなく、平野部を含めてに広域に大量の雨が降る。特に山間部だけに多く降るわけではないのだ。だから、台風の時期について言えば、上のこと(¶)は成立しない。山間部にダムがあるからといって、特に有利だ、ということにはならないのだ。(治水の点では。)
※ ただし、治水の点では八ツ場ダムは意味がないとしても、貯水池としての点では八ツ場ダムには意味があると言える。洪水予防にはまったく役立たない八ツ場ダムだが、貯水池としてならば大いに意味があると言える。
※ とはいえ八ツ場ダムは規模が小さいので、首都圏の水ガメとしてはろくに役立たない。利根川水系の7%ぐらいの効果しかない。他の水系も考えると、首都圏全体の2〜3%ぐらいだろうか。まあ、ないよりはマシという程度だ。
※ 水不足の対策としては、ダムを作るよりも、圧倒的に効果の高い方法方がある。「農業用水の取水をやめること」だ。これによって、(民生用には)大幅な節水ができる。……その分、農家に対する補償金の支払いが必要となるが、それは金で済む問題だ。仮に 100億円の損害が 100年にいっぺん起こるとしたら、年額で1億円で済む。
※ 地球温暖化が心配だ、という声もあるだろう。だが、地球温暖化で起こっているのは、降水量の増加による水害だ。水不足よりも、水過剰が問題となっている。だからこそ、近年はダムの貯水量も増えているのだろう。
※ 近年は、6月ごろに大雨が降ることが多いので、水不足にはなりにくい。どちらかと言えば、6月下旬にはダムの水を大量に捨てているようだ。(下図)
※ ならば、7月上旬には、ダムの最大貯水量の計画値(制限容量)を、引き上げた方がいい。そうすれば、6月の下旬に、ダムの水を大量に捨てる、という無駄をなくせる。(水を捨てるのはもったいない。)それでいて八ツ場ダムを建設するのだから、馬鹿げている。水を貯めると同時に水を捨てているわけだ。馬鹿丸出し。
( 何で馬鹿なことをやっているかというと、昔はこんなに雨水が貯まることはなかったからだ。制限容量まで水が大量に貯まることなどはなかった。だから制限容量を低めにしていた。……ところが近年は6月に豪雨が続くので、水を捨てないと、7月上旬には制限容量を超えてしまう。それではまずいので、6月下旬には、せっせと水を捨てているのである。……結局、地球温暖化への対策ができていないわけだ。)
八ッ場ダムは大変役に立っている。
余り報道されないのが変。
データは下記。
https://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000111.html
8月10日頃に、台風7号が近づいたことで、関東にも雨雲がいっぱい来て、大量の降水がありました。おかげで水量の現象が緩和されています。ここ 10年間では4番目に多い。たぶんもうすぐ3番目になる。つまり、「利根川水系は水不足で大変」といことは、まったくない。例年よりは水は多い。
では、それは八ツ場ダムのおかげか? 数値を見るとわかる。(上記リンク)
八ッ場ダムの貯水量は 2,687 で。全体の 11% ほどだ。そこそこ有効だとは言える。しかし、それがなくても、平年並みだ。特に平年比で足りないということはない。
8月後半にダムの水量が減るのは、当たり前のことだ。この変動を緩和するためにダムがあるのだから、ダムで水量の変動があるのは当り前だ。何の不思議もない。そのまま受け止めればいい。
問題は別のところにある。「このくらいの水量の減少は問題ない」と思うどころか、「余裕しゃくしゃくだから、もっと減らしても大丈夫。どんどん水を捨ててしまえ」という方針を取って、6月下旬に大量の水を捨てたことだ。そのことはグラフからわかる。本項の最後にも記したとおり。
数量で見ると、6月下旬に捨てた水量はおよそ 3000〜6000 であり、八ツ場ダム1〜2個分だ。これほどにも大量の水を捨てた。そういう馬鹿げた運用をやめることの方が先決だ。
地球温暖化で天候が変化しているのに、それに追いつかずに、従来通りの方針で運用している。そのせいで、6月下旬に大量の水を捨てるという馬鹿げたことをやっている。
当局は「水は余裕しゃくしゃくだ」と思って、そうしているのだろうが、実際にはそれほど安心できるほどではない。実際、上の名無しさんのように、「水は不足している」と心配する人まで出てくる。
現状では、水は不足するとは言えないが、余裕しゃくしゃくとまでは言えない。当局は6月下旬に水を捨てるという運用を改めるべきだ。つまり、7月上旬における「上限量」という天井値を引き上げるべきだ。
単に机上の数値を書き換えるだけで、八ツ場ダム2個分の水量を確保できる。机上で指をひとひねりするだけで、5000億円のダム二つ分の水量を確保できるのだ。