2023年07月12日

◆ ダムの事前放流の普及

 大雨の前にあらかじめダムの水を放流しておく「事前放流」が、普及しつつあるそうだ。

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 朝日新聞が報じている。
 治水ダムは本来、大雨が降った時に大量の水をためられるよう、水位を低くして容量を十分空けておく必要がある。一方、発電に使うダムは、水が落下する高低差を利用して効率よく発電機を回すために、なるべく水位を高く保つ必要がある。正反対の運用が必要なため、これまで治水ダムと発電用のダムは、原則として区分されてきた。
 しかし、同省河川計画課の吉井拓也さんは「政府が掲げる2050年のカーボンニュートラルに向けて、治水にも発電にも最大限活用する『ハイブリッドダム』を目指した運用見直しが始まっています」と話す。
     *
 ダムの運用を柔軟に見直す取り組みは、実は防災面で先行して始まっている。18年に大きな被害をもたらした西日本豪雨などを受け、大雨が予想される場合、普段は発電などに使う利水ダムの貯水量を事前に減らし、治水にも使うようになった。
 治水ダムの発電利用は、この逆の取り組みだ。従来は、大雨でダムに水がたまったら次の大雨に備えてすぐ放流したが、しばらくは上がった水位を活用して発電する。雨が少なそうな時期も、水位を高く保つ。昨年度は六つのダムで試行し、一般家庭約500世帯の年間消費電力にあたる、215万キロワット時を発電した。今年度は湯西川など3ダムで本格的な発電機の設置を検討。さらに72カ所で運用を見直し、前年度と比べて約10倍の2千万キロワット時ほどの発電量アップを見込む。
 治水と発電。異なる目的へのダムの柔軟運用が可能になったのは、精密な降雨予測が可能になったからだ。京都大学の角哲也教授(河川工学)によると「従来のダム運用は、先行き1〜3日ほどの短期の降雨予測に基づいていたが、複数の降雨予測とAI(人工知能)による解析を交え、向こう半月ほどの長期予測が出来るようになった」という。
 それにより、雨が見込まれない時期は水位を高く保って発電し、大雨が近づいたら早めに放流して水位を下げておく、といった柔軟な対応がしやすくなった。
( → (現場へ!)水力発電の底力:3 「二刀流」ダム、柔軟に活用:朝日新聞

 現状が改善しつつあることは好ましいことだ。ただし、このような方針は、本サイトでは昔からずっと提唱してきたことだ。
  → サイト内の項目一覧

 本サイトでは「事前放流」という用語で、「大雨の前にダムの水を放流すること」を提唱してきた。上記の項目一覧を見ればわかるように、一番早いのは 2013年の項目だ。
  → 桂川 氾濫 とダム制御: Open ブログ(2013年09月16日)
  → 豪雨時のダムの事前放流: Open ブログ(2013年09月17日)
  → サイバネティックスとダム制御: Open ブログ(2013年09月17日)
  → 豪雨対策は事前に取れ: Open ブログ(2013年10月19日)
  → 台風と事前準備: Open ブログ(2013年10月24日)

 これを手始めに、ほぼ毎年のように、この件を論じてきた。(上記の一覧)
 そのあげく、2018年ごろから、事前放流が実施されてきたそうだ。記事を再掲しよう。
 18年に大きな被害をもたらした西日本豪雨などを受け、大雨が予想される場合、普段は発電などに使う利水ダムの貯水量を事前に減らし、治水にも使うようになった。

 このような方針転換があったことは、2020年の項目でも紹介してきた。
 台風が来る前にダムの水を放流する(そのことでダムの空き容量を増やす)……という事前放流が実現することになった。

 私が前から提唱してきた事前放流が、とうとう政府の肝いりで大々的に実現することになった。

 実際、私は 2013年から何度も提唱してきた。
 それがなかなか進まなかったのは、縦割り行政のせいだ。(これも私が前から指摘しておいたとおり。)

 ともあれ、私の提唱していたことが、ようやく実現する運びとなった。悪いニュースが続いている日々だが、干天の慈雨みたいな良いニュースだと言えよう。
 
( ※ 私の提案から7年かかったわけだが、この7年というのは、まあ、標準的な感じだ。私の提案は5〜 10年間、社会に先行していることが多いからだ。)
( → ダムの事前放流が実現へ: Open ブログ

 そして今では、事前放流はごく普通のこととしてなされるようになったようだ。しばしば新聞記事でも報道されている。普通のニュースの一環で。

 ──

 なお、冒頭記事には、こうある。
 異なる目的へのダムの柔軟運用が可能になったのは、精密な降雨予測が可能になったからだ。<

 これはまあ、技術的にはそうなのだが、その前に、「柔軟に運用しよう」というふうに、発想を切り替えたことの方が大きい。なぜならそれまでは、「最適制御をしよう」という発想がなかったからだ。むしろ、それとは正反対の方針(最悪制御)を取ろうとしてきた。つまり、被害を最大化しようとする方針を取ってきた。(狂気的だ。)
  → ダム操作のミスで氾濫: Open ブログ

 なぜそういう馬鹿げたことをやって来たかと言えば、彼等は自分が何をやっているかを理解できなかったからだ。「こうすればこうなる」という発想を取らずに、単に「マニュアルによる運用」をしてきたからだ。自分が何をやっているかわからないまま、ダムを操作してきたのである。それが従前の方針だった。(だから本サイトでは厳しく批判してきた。上記項目のように。)

 ──

 そしてまた、どういう発想を取れば正しいのかも、最初のころの項目で指摘してきた。つまり、「最適制御」「サイバネティックス」という発想だ。それは、
 「自分にとって操作可能な変数を、最大限に調整することで、被害を最小化すること」
 である。
 これと対極的な運用が、マニュアル的な運用だ。つまり、こうだ。
 「状況の変化をまったく無視して、自分の取る方針をあらかじめ予定で決めておく。降水量がいつ増えようと、どのくらい増えようと、そんなことは無視して、こちらの方針を固定的に決めておく」
 その一環として、「被害の最大化」という方針も取られる。
 「洪水の被害については無視して、ダムによる発電収益の最大化だけを目的とする。下流の住民にどれほど巨額の洪水被害が生じようとも、増水による発電収益をちょっとばかり最大化することだけを目的とする」
 これが従来の方針だった。

 記事にはこうある。
 治水にも発電にも最大限活用する『ハイブリッドダム』を目指した運用見直し

 このような方針転換こそが、行動の変化した最大の理由だと言える。体が動いたことの理由は、頭の向きが変わったからなのだ。
 それまでは「治水で被害を最小化する」という発想はなかった。「気象データを受けてダムの放水量を調整する」という発想がなかった。それが、近年になって、ようやく転換しつつあるということらしい。
 とりあえずは、歓迎すべき事態だと言える。本サイトでの提言から、10年もかかってしまったが。



 [ 付記 ]
 「気象のデータを受けて、気象の専門家が分析するべきだ」というのが、本サイトの提言でもあった。
 これが今では実現しているかどうかは不明だ。専門家でもない役人が素人判断をしているという可能性もある。違うかもしれないが。
 


 【 関連サイト 】
 令和2年6月4日、利水ダムの洪水調節機能の強化のために、治水協定が締結され、既存の利水ダムの「事前放流」が可能になりました。
( → 藤井ひさゆき国会質問|利水ダムの「事前放流」について(2020/02/18予算委員会) | ひさゆきCHANNEL | 藤井ひさゆき

 令和2年(2020)になってようやく、事前放流が可能になったらしい。それまでは、やらなかったというより、できなかったらしい。ひどいものだ。



 【 関連動画 】









posted by 管理人 at 23:37 | Comment(0) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
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